平均値で隠された賃上げ格差の実態~安倍首相の自画自賛を検証する (その4)~

 20151月13日

 1つ前の記事では安倍首相が使う「過去15年間で最高の賃上げ率2.07%」という数字は全雇用者の5%程度をカバーするに過ぎない連合傘下の大企業の賃上げ率を指すことを指摘した。この記事では平均値で示された賃上げ率によって隠された格差の実態をもう少し掘り下げて確かめることにしたい。

従業員1,000人以下の企業の約4割は賃上げ率1.4%以下
 
1は従業員規模を4つの階級に分け、階級ごとに賃金改定率の分布を示したものである。

 
1 企業規模別に見た1人平均賃金の改定率の分布
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kigyokibo_betu_chinage_kaiteiritu_no_bunpu.pdf
   (出所)厚労省「平成26年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」付表
     4より作成 

 上の表を見ると、従業員1,000人以上の企業では賃上げ率の最頻値は2.02.9%で、4550%の企業が2.0%以上の賃上げ率を達成している。
 これに対し、従業員999人以下の企業では賃上げ率0.11.4%が最頻値で、約40%が賃上げ率1.4%以下に属している。また、従業員999人以下の企業の60%以上は賃上げ率が1.9%以下となっている。
 
 全規模の賃金改定率の分布をグラフにすると正規分布とならず、0.11.4%と2.02.9%に2つのヤマができる。これは、規模別の賃金格差が存在していることを表している

 ところで、上の厚労省の集計では、企業規模が常用雇用者数に応じて4つに区分され、規模ごとの1人当たり賃金改定率が示されている。しかし、集計対象に就いては、「民営企業で、製造業及び卸売業,小売業については常用労働者30人以上、その他の産業については常用労働者100人以上を雇用する企業のうちから産業別及び企業規模別に抽出した 約3500企業を対象とした」、「平成26年調査の回答企業は 2,044社で、有効回答率は 57.8%であった」と記されているだけで、2,044社の規模ごとの分布は示されていない。
 企業規模ごとに賃金改定率にバラつきがあるにもかかわらず、集計対象の規模ごとの分布が示されず、各調査項目に対する回答も百分比のみで実数が示さていないのは統計調査の結果の公表の仕方として不可解である。

集計対象の割合を直近の実態に合わせて組み替えると加重平均賃上げ率は1.5%を割り込む
 連合201473日に発表した2014年春季生活闘争 第8回(最終)回答集計」(平均賃金方式)では、従業員規模ごとに賃上げ回答があった組合、人員数、加重平均賃上げ率が示されている。そこで、連合が集計した人員(常用雇用者)の企業規模ごとの割合を「平成24年経済センサス-活動調査」に収録された常用雇用者(国内)の規模ごとの分布と突き合わせると次のとおりである。

 
2 連合の集計対象を組み替えた上での賃上げ率の加重平均の再計算
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/rengo_no_chinageritu_no_kumikaekeisan.pdf


 そのうえで、連合が集計した常用雇用者の企業規模ごとの割合(分布)を「平成24年経済センサス」で集計された常用雇用者数の企業規模別百分比に合わせて組み替え、それをもとに全規模の賃上げ率の加重平均を計算し直すと1.87%となり、連合が発表した2.07%より0.2ポイントだけ低くなる
 さらに、より最近の実態を集計した国税庁「民間給与実態統計調査」(平成25年分)に収められた「事業所規模別の給与所得者数の構成割合」に準じて連合の集計組合割合を組み替えて賃上げ率の加重平均を再計算すると、上の表で示したように、全規模の賃上げ率の加重平均は1.43%となり、連合が発表した数値より0.64ポイントだけ低くなる

 そうなるわけは、表2の対比表からわかるように、実際には全常用雇用者の32.7%を雇用するにとどまる1,000人以上の規模の企業に属する常用雇用者が連合の集計においては全体の68.7%を占めるという集計対象の偏りに起因して、これら大企業の相対的に高い賃上げ率が全規模の賃上げ率の加重平均値を押し上げたからである。

 また、連合の集計では常用雇用者99人以下の中小・零細企業は全集計対象の常用雇用者の3.9%を占めるにとどまっているが、「平成24年経済センサス」では全規模の常用雇用者の37.8%がこの規模の企業に属し、国税庁「民間給与実態統計調査」(平成25年分)では全規模の常用雇用者の47.1%がこの規模の企業に属している。

 しかも、経産省2014815日に公表した「中小企業の雇用状況に関する調査 集計結果の概要」によると、常用雇用者100人以下の企業(集計数では6,981社)のうち定期昇給制度を含む賃金制度を持たない企業が4,108社(58.8%)を占め、そのうちの61.7%(2,535社。集計された常用雇用者100人以下の企業の24.4%)は2014年度中に月給の引き上げを実施しなかったと回答している。連合の集計では、このように賃上げを見送った中小・零細企業のウェイトが実態よりも極端に低かった。このことからも連合が発表した2014年春闘における平均賃上げ率2.07%という数字は実態よりも相当高めの数字だったことは明らかである。

 

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自分の外に主人(あるじ)を持たない一市民として ~新年のご挨拶に代えて~

201511

               迎 春


平凡な年越しだったが
 
 荒れ模様の天候の地も多いと伝えられていますが、皆さま、穏やかな新年をお迎えのことと思います。私は年々、「新年」を迎えるという感慨が薄れ、いつもと変わらない年越しの時間を過ごしました。
 昨年はこのブログに初めて訪ねていただいた方々、更新が途絶えがちなこのブログへ根気よく訪ねていただいた方々に厚くお礼を申し上げます。

 暮れから連載を始めた「安倍首相の自画自賛を検証する」を年内に終えるつもりでしたが、4回目を書く途上で、調査不足を思い知らされる資料に出くわし、データをあれこれいじるうちに、新年に持ち越す羽目になりました。あと2回(5まで)書いて終える予定です。

以下、新年のご挨拶に代えまして。

昨年1年間のアクセス・ベスト10
 1年の締めくくりのつもりで年末にブログのアクセス解析で去年1年間のアクセス件数(トップ・ページへのアクセスを除く)の上位記事を調べたところ、次のとおりだった。

 第1位 受信料支払い義務が放送法ではなく受信規約で定められている理 
    由を説明できないNHK 〔掲載日2014827日〕
 第2位 衛星映画評「ジュリア」――反戦の知性に裏打ちされた2人の女
    優の演技に魅せられる―― 〔2008221日〕
 第3位 宇都宮健児氏を支持する前にやるべきことがある(1) 〔2014
    年14日〕
 第4位 安倍首相の資金管理団体を虚偽記載で告発 〔2014819日〕
 第5位 受信料凍結運動で籾井NHK会長の辞任を求める包囲網を! 
    〔201451日〕
 第6位 宇都宮健児氏を支持する前にやるべきことがある(3) 〔2014
    年14日〕
 第7位 護憲を掲げる団体が自由な言論を抑圧するおぞましい現実(2
    〔201419日〕
 第8位 宇都宮健児氏を支持する前にやるべきことがある(2:前篇) 
    〔201414日〕
 第9位 医薬品メーカーを独り勝ちさせている高薬価の是正が急務 
    〔2012421日〕
 第10位 「クローズアップ現代」がおかしい 〔201473日〕

摩擦を避けるNHK
 1は掲載日以降、コンスタントにアクセスが続いた記事だったが、私にとってはこれがトップとは意外だった。訳ありで受信料を止めている人の中には、NHKから定期的に「受信料お支払いのお願い」文書が届くが、今のNHKでは払う気になれない、どう抗弁したものかと思案する人が少なくないと思われる。そのような方の目にとまり、一読いただけたのなら、ありがたいと思う。

 昨年12月の衆議院総選挙にあたって自民党からはNHKや在京テレビ・キー局に対して、選挙報道についてこと細かな「要請」が出されたと伝えられている。これについてNHKは、余計なおせっかいと拒否なり抗議なりをしたのかというと、「そのような要請文書を受け取ったかどうか自体を答えない」という対応だった。

「自民党からテレビ局各社への放送法違反の「要請」に関する質問状」およびこの質問状をめぐるNHK視聴者部との応答メモ」
2014
126日、NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」HPより)

http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-c3ed.html

 「摩擦を避けるNHK」(ベンジャミン・クリフォード『日本のマスコミ臆病の構造』2005年、宝島社)を地で行く様である。

 しかし、受信料支払い義務が放送法でではなく、視聴者とNHKとの双務契約である受信規約で定められているということは、受信料は、無条件の義務ではなく、NHKが放送法等で定められた自主自立、不偏不党、民主主義の発達に資する放送を提供しているという視聴者の信頼を見合いとして成り立つものである。
 そうなら、昨今のNHKの番組、とりわけ、ニュース報道は視聴者の参政権行使に資する情報を自主自立の立場で編集し、伝えていると言えるのか。私は国策放送に急旋回していると感じている。(この点は今月中旬に刊行される雑誌『季論』No.27, 2015年冬号、に「国策放送に急旋回するNHKというタイトルで寄稿した。)
 自民党による選挙報道への干渉に対してNHKがだんまり戦術を押し通す様は、政権からの自立がNHKの内部に「組織の文化」として、いかに根付いていないかの証しと言ってよいだろう。

異論と真摯に向き合わない「革新陣営」への警鐘として
 昨年1月に投開票された東京都知事選に宇都宮健児氏が立候補したことに端を発して書いた記事のうちの4つがアクセス・ベスト10に入ったことは印象深かった。私としては、異論と真摯に向き合わない、組織内で自律した意見を発信せず、付和雷同する「革新陣営」の体質について日頃から(今も)感じている疑問、異論に対して、そうした体質が露見したと思えた具体的な事実をとらえて、警鐘を鳴らすつもりで書いた記事だった。1年前の新年早々だったが、自分なりに準備し思案の上で書いたつもりだ。それだけに、これらの記事に多くのアクセスがあったのは、私の見解への賛否は別にして、ありがたかった。
 しかし、私がその中で書いた次の指摘は、例えば昨年末の衆院選の結果をめぐる議論や昨今の政党・市民運動の状況を見るにつけても、意義を失っていないと思える。(以下、下線は今回追加。)

 「特定の主義・信条で集まった政党、団体であっても、個人の間であっても、さまざまな問題をめぐって、初めから常に意見が一致しているということは、よほどマインドコントロールが強固で自立した個人の存在が不可能な組織でないかぎりあり得ない。むしろ、異なる意見を相めぐり合わせて、各人が知見を広げ、自分の思考力、判断力を磨き、鍛錬することが、政党なり団体なりの構成員の意欲、組織外の人々への信頼と影響力を広げる基礎になるはずである。少なくとも私は、自分の判断なり意見表明をするにあたって、耳を傾ける先達、友人はたくさんいるが、自分をコントロールする『主人』なり『宗主』は持ち合わせていない。そういう『主人』持ちの人間を私は尊敬する気になれない。」

 「『身内のごたごたや弱点を組織外に広めるのは支持者を離反させ、対立する陣営に塩を送るようなものだ』という意見をよく聞く。確かに、問題によっては――個人のプライバシーが絡む問題など――団体なり組織の内で議論をし、解決するのが適切なこともある。また、異論を提起する場合もその方法に配慮が必要である。しかし、内々で議論をするのが既成のマナーかのようにみなす考えは誤りである。むしろ、組織内の意見の不一致、批判を内々にとどめ、仲間内で解決しようとする慣習や組織風土が、反民主主義的体質、個の自立の軽視、身内の弱点を自浄する相互批判を育ちにくくする体質を温存してきたのではないか。」

 「往々、日本社会では同じ組織メンバー間の争論を『もめごと』とか『内ゲバ』とか、野次馬的に評論する向きが少なくない。しかし、『もめごと』と言われる状況の中には上記のとおり、組織(革新陣営を自認する政党や団体も例外ではない)が抱える体質的な弱点――少数意見の遇し方の稚拙さ、反民主主義的な議論の抑制や打ち切り等――が露見した場合が少なくない。・・・・あるいは、組織外から寄せられた賛同や激励の意見は組織内外に大々的に宣伝するが、苦言や批判は敵陣営を利するとか、組織内に動揺を生む恐れがあるという理由で、組織外はもとより、組織内でさえ広めようとしない傾向が見受けられる。これは大本営発表と同質の情報操作であり、組織内外の個人に自立した判断の基礎を与えないという意味では近代民主主義の根本原理に反するものである。」

 「この世には全能の組織も全能の個人も存在しない。自らに向けられた異論や批判にどう向き合うか、それをどう遇するかはその組織にどれだけ民主主義的理性が根付いているかを測るバロメーターである。その意味では、組織内外から寄せられた異論、批判、それに当該組織はどう対応したかを公にすることは、その組織に対する信頼を多くの国民の間に広げるのに貢献するはずであり、相手陣営を利することにはならない。また、異なる意見、少数意見も尊重し、真摯な議論に委ねる組織風土を根付かせることこそ、『自由』に高い価値を置く多くの国民の共感を呼ぶと同時に、組織構成員の対話力を鍛え、組織の影響力を高めるのに貢献するはずである。」

衆院選の結果をどう受け止めるべきか
 昨年1214日に私は「本土の有権者・政党はオール沖縄の選挙態勢から何を学ぶべきか(2)」というタイトルの記事を書いた。その中で記した次の一文は、1年前に東京都知事選をめぐって書いた上記の考えの延長線にある。

 「選挙後に予想される衆議院の議席分布から見ても、政策面で自民党と対峙する野党とはいえない政党を除くすべての野党が連合したとしても、自公政権と伯仲する勢力とはなり得ない。
 このような政治状況のもとで『自党が伸びることが自民党政治の転換につながる』と訴えるだけでよいのか? そのような訴えが果たして与野党伯仲を期待する有権者の願いに沿うリアリティを持つのか? 今、野党各党はもちろん、政治の革新を求める有権者が熟慮すべきはこの点である。」 

 「・・・・有権者や各界の団体には、自分がどの党を支持するかは別に、自分が第一義的には支持しない政党、意見に隔たりがある有権者や団体であっても、目下の喫緊の課題――憲法改悪を阻止し、憲法を生活の様々な局目に活かす課題、集団的自衛権の法制化を阻止する課題、原発再稼働を阻止し、原発に依存しない社会を目指す課題、特定秘密保護法による知る権利の侵害を排除し、同法の廃案を目指す課題等――での共同を追求し、共同の輪を広げ、組織化するために、政党の動き待ちではなく、政党の呼びかけに受け身的に応えるだけもなく、自らが政治の主人公らしく、望ましい政治勢力の結成のために何をなすべきかを主体的に熟慮し、行動を起こすことが求められる。
 こうした行動は、節度を保ちさえすれば、自分が支持する政党の伸長のために行動することと二者択一ではなく、両立するはずである。そのために強く求められるのは『異なる意見と真摯に向き合い、対話する理性』である。ここでは、気心の知れた仲間の間でしか通用しない『身内言葉』、『われこそ正論』と構える独善的な態度は最悪の風潮である。」

 政党で言えば、選挙で自党(ここでは反自民の野党)に一票を投じた有権者の中には、自党の理念なり政策、体質なりを全面的に支持したわけではなく、選挙区では他に選択肢がない状況で棄権するかどうか迷った末に、反自民の意思を優先して、セカンドベスト、サードベストで自党に投じ、比例区では別の野党に投じた有権者が少なくないという事実を直視する必要がある。
 また、それ以前に、自民・公明与党と対抗しうる大きな枠組み(既存の野党間での候補者調整に限る必要はない)が選択肢として作られることを願った有権者が少なくなかったと思われる。
 自党に投票した有権者の中にも少なくない、このような意識を冷静に見極め、それに謙虚に向き合い、今後の政党活動のあるべき形を検討することが重要と思える。

 また、政党がどうか以前に、有権者自身、自らが支持する政党の伸長のために尽くすだけでなく、自・公両党が衆議院で3分の2を超える議席を占めた現実を直視し、日本の政治の行方を危惧する多くの国民との共同を広げ、強めるために何をなすべきかという大局的な見地から、自分と大なり小なり意見が異なる人々との対話を強め、広げる努力が強く求められている。

「自分の外に主人(あるじ)を持たない」の矜持を貫いて
 大げさな言い方かも知れないが、私は一人の自立した人間としての尊厳を守りつつ生きている証しとして、「自分の外に主人(あるじ)を持つ」ような宗派的言動とは一線を画したい、「自分の理性が自分の思考の主人」という、言葉としては当たり前だが、いざという時に頓挫してしまいがちな矜持
をこれまで以上に毅然と貫いていきたいと考えている。

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賃金統計をつまみ食いした「賃上げ成果」論のまやかし ~安倍首相の自画自賛を検証する (その3)~

  20141226

賃上げ率2.07%」の出所は?
 
 安倍首相は先の衆院選のさなか、特に後半、アベノミクスの成果のひとつとして、「賃上げ率は、過去15年間で最高(2.07%)」という数字を何度も挙げた。多くのマスコミも安倍首相のこのセリフをそのまま右から左へ伝えた。
 しかし、この「2.07%賃上げ率」の出所を知っている人、この数値がどのように抽出されたかを知っている人はどれくらいいるのだろうか? 出所は、連合が発表した今年の春闘の最終回答の集計資料である。

連合「2014年春季生活闘争 第8回(最終)回答集計結果について」
http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/shuntou/2014/yokyu_kaito/kaito_no8_pressrelease20140703.pdf?07031415

 この資料の2目の最上段の表を見ると、平均賃金方式で計算した集計組合数5,442、集計組合員数2,689,495人の平均賃金の引上げ率は確かに2.07%と記されている。

全体の5%を反映したに過ぎない「平均値」
 しかし、この数字はよくよく注意して読む必要がある。
 上の2014年春闘での賃上げ率は加入組合員674万人の連合傘下の組合員1人当たりの賃上げ率の加重平均である。この674万人は201410月時点の全雇用者(5,279万人)の12%に過ぎない。かつ集計されたのは連合傘下の組合のうちで回答を引き出した5,443の組合、組合員数でいうと約269万人だから、全雇用者の5.1%にすぎない。しかも、回答を引き出した組合とは連合内で中核組合とか先行組合とか呼ばれている自動車、電機・金属、情報、交通・ガス、自治労といった大手企業が多数を占めており、平均より相当高い率の賃上げ回答を得た組合が多いと考えられる。
 このように、全雇用者に占める割合が5%程度にとどまり、かつ、高めの賃上げ回答を得た組合員の加重平均の賃上げ率がどこまで全雇用者の賃上げ状況を反映しているのか、慎重な検証が必要である。
 そこで、厚労省「毎月勤労統計調査」平成2610月分結果確報」に収められた「時系列第1 賃金指数」(調査産業計)にもとづいて、平成22年平均=100とした時のこの1年間の各月の「所定内給与」の指数、および、対前年同月比の推移を示すと次のとおりである。なお、ここで「所定内給与」を採ったのは賞与や残業代など一時的な業績変動に左右される給与を除外し、持続性のある給与引き上げに限定するためである。

  一般労働者の「所定内給与」の推移
 
  ――事業所規模5人以上/調査産業計――

           賃金指数       実質賃金
 
        指数   対前年同月比  対前年同月比  
 2010年     100.0    0.6        1.3
 2011年              99.8    -0.2                   0.1
 2012年      99.9     0.1       -0.7
 2013
年      99.9           0.0                    -0.5
 2014
年1月      99.4           0.1       -1.8
        2月    99.7           -0.2        -2.0  
      3月   100.2    -0.1       -1.3 
      4月   101.0     0.1        -3.4
      5月      99.0           0.4                    -3.8
      6月   100.4     0.5        -3.2
        7月    100.2          0.6       -1.7 
      
8月   100.1      0.5                    -3.1
      9月   100.7     0.8       -3.0
   
 10月   100.7           0.6       -3.0
   (出所)「毎月勤労統計調査」201410月分 

 このように5人以上の事業所規模にまで調査対象を広げると対象となる常用労働者数は201410月時点では4,710万人となり、全雇用者の89.2%となる。
 そして、このように対象を広げると、第二次安倍政権発足後(2013年以降)の賃金水準の変化は上の表にあるとおり、ほぼ2010年の水準のままで推移している。また、前年同月比でいうと、今年の5月以降、微増傾向にあるが、プラス1%未満で安倍首相が使った2.07%とは大きく乖離している。
 一国の内閣総理大臣たる安倍首相にして、全雇用者の約90%の賃金動向を集約した政府統計データがあるにもかかわらず、なぜ、わざわざ、全雇用者の5%程度をカバーしたにすぎない連合の賃上げ集計結果を使って、賃上げの成果を喧伝するのか? ごく限られた大手企業の賃上げ実績をつまみ食いして自画自賛に夢中になる安倍首相の眼中には、景気回復の実感から程遠い中小零細企業の実態は入らないのか?

12%の企業は賃下げか、据え置き
 安倍首相が使った連合の集計資料は今年の春闘における「賃上げ率」を示したデータである。しかし、厚労省大臣官房統計情報部 雇用・賃金福祉統計課賃金福祉統計室がまとめた次の資料(5ページの第1表)によると、賃金を引き下げた企業や賃金の改定をしなかった企業が少なくないことが示されている。

 厚労省「平成26年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
 http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/14/dl/10.pdf

 企業規模別に見た賃金改定の実施状況(割合)
  
 
 
企業規模   1人当たり賃金  1人当たり賃金  改定しない
      
    を引き上げる   を引き上げる 
 
  総計         83.6%     2.1%     9.7%
5,000
人以上      95.4%        0.7%            3.9%
1,000
4,999人   94.3      0.4%       4.3%
300
999人    89.3%     2.0%     6.4%
100
299人    80.9%       2.3%     11.2% 
 
(行ごとのパーセントの合計が100にならないのは「未定」(計では4.6%)があるため。)

 これを見ると、集計企業全体では約10%の企業が賃金引下げか据え置きを実施したか、予定している。特に、この中では最小規模の企業では約2割が賃金引き下げか、据え置きとなっている。「賃金引上げ率」を集計した資料では、こうした「賃金引下げ」、「据え置き」のケースも通算して平均値を出せば、引き上げ率は幾分なりとも下がるはずである。
 また、平均値以前に全体の約1割の企業、常用労働者300人未満の企業の約2割が賃金引き下げか改定なしだった事実も注視する必要がある。この点では、「賃上げをした企業」だけに焦点を当て、「賃上げ幅の率」だけを問題にするのは一種のバイアスである。

実質賃金は下げ幅が拡大している
 上の表を見ると、物価水準の変動を織り込んで名目賃金を改訂した実質賃金は2011年当時から対前年同月比でマイナスに転じていた。第2次安倍政権が発足(201212月)して翌2013年から今年の3月までマイナスが続いたが、4月以降は下げ幅が3%台へと上昇している。これは同月から始まった消費税率の8%への引き上げとそれに伴う物価上昇に賃上げが追いついていないことを意味していると考えられる。
 日銀と連携して脱デフレをうたい文句に物価上昇を誘導する傍らで、賃金については物価水準の動向が反映しない名目賃金を使うとは、どういう経済感覚なのか?

経済政策の「起点」と「結果」を逆立ちさせたアベノミクス
 「経済の好循環を生み出す」が安倍首相の常用句であるが、消費税率引き上げ後の実態はどうか?
 次表は、2010年以降の企業の設備投資(有形固定資産残高)と家計の可処分所得・消費支出の推移を指数(201013月期=100)で示したものである。

 「企業と家計の経済諸指標の推移」
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kigyo_to_kakei_no_keizaishoshihyo_no_suii.pdf

 この表から毎年の79期と今年の四半期ごとの数値を抽出して示すと次のとおりである。

        企業
の設備投資      家  計  
 
       (有形固定資産残高) 可処分所得  消費支出 
2010
13月    100.0       100.0     100.0
2010
79月      97.9             98.6     100.4
2011
79月     96.5          98.8      97.8
2012
79月     94.6        98.4      98.1
2013
79月         90.0        97.9      98.7
2014
13月     91.3        98.2     103.4
   4~6月     91.2           95.7      94.0 
   7~9月    92.1               93.9      94.1

 これを見ると、アベノミクスが経済の好循環を生み出すための起点(牽引要素)とみなした設備投資(有形固定資産残高)は増加どころか、微減となっている。そうなったのは企業の労働分配の低さ、消費税増税等による家計の可処分所得の減少から、GDPの約6割を占める個人消費が低迷したためである。
 つまり、供給サイドに「稼ぐ力」を付けることを経済循環の起点においた安倍政権の経済政策は消費税増税の影響もあって需要サイド(家計)の可処分所得が縮小する状況では、消費の低迷→設備投資の低迷→雇用の低迷→家計の可処分所得の縮小→消費の低迷、という悪循環を招いているのである。
 そうなったのは、本来、「結果」であるはずの「デフレからの脱却」を経済政策の目標に据え、本来、「起点」に据えるべき個人消費の底上げ、そのために必要な正規雇用の拡大、賃上げ等による家計の可処分所得の増加を、経済の好循環の「結果」であるかのように錯覚したからである。
 このように目的-手段の関係をわきまえない無謀な経済政策の帰結を冷静に観察し、自省するどころか、統計数値を身勝手につまみ食いして自画自賛しているのが今の安倍首相の姿である。

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就業者数が100万人増えたというけれど ~安倍首相の自画自賛を検証する (その2)~

  20141222

 この記事では、安倍首相がアベノミクスの成果として挙げる就業者数の増加が安倍政権の経済政策の成果というに値するのかどうかを検証したい。

 自民党が12月の衆院総選挙にあたって発表した「重点政策集2014 景気回復、この道しかない」の中に「アベノミクスで、ここまできています」というページがある。そこではアベノミクスの成果の一つとして、就業者数が現安倍政権発足時(201212月)の6,257万人から今年の9月時点の6,366万人へ約100万人増加したことが挙げられている。
 このような雇用統計値の評価の仕方が妥当かどうかをデータに基づいて確かめるのがこの記事の目的である。

雇用者総数は確かに増えたが
 自民党の重要政策集や安倍首相は「就業者数」が増えたと言っているが、「就業者数」と「雇用者数」の違いを確かめておく必要がある。
 「就業者数」とは「自営業主・家族従業者数」と「雇用者数」を合わせた数値である。近年、わが国では「自営業主・家族従業者数」の減少と「雇用者数」の増加が並行して進行してきたが(内閣府『平成23年度年次経済財政報告』の210215ページで、その背景と要因が検討されている)、雇用者数が就業者数の87%前後を占める点に大きな変化はない。ただし、就業者関連の統計データには、その性格上、正規・非正規と言った雇用形態別のデータがないのに対して、雇用者関連の統計データにはそれが詳しく示されている。

 そこで、まず、総務省統計局「労働力調査(基本集計)」に収録されている長期時系列データに基づいて、安倍政権発足を挟んだ過去7年間の就業者数および雇用形態別の雇用者数の推移に確かめてみた。なお、雇用動向が季節的要因の影響を受けることを勘案して、ここでは直近に公表された四半期データ(79月期の月平均)と季節を揃えるため、ひとまず、20082014年の79月期の月平均の推移を調べた。結果は次のとおりである。

 「就業者数と雇用形態別の雇用者数の推移」
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/shugyoshasu_koyokeitaibetu_koyoshasu_suii.pdf

 これを見ると、現安倍政権発足直前の20127月~9月期から今年の7月~9月期にかけて就業者は71万人増加したことになる。自民党や安倍氏が約100万人の増加というのと約30万人のずれがある。これは自民党・安倍氏が就業者増減の基準値として安倍政権が発足した201212月単月の数値を用いたのに対し、ここでは現時点と季節的に、より比較可能性が高く、平滑化した7月~9月の四半期の月平均で比較したためである。
 ちなみに、安倍政権発足前の就業者数を201210月~12月の月平均(6,282万人)とし、それと今年の10月時点の就業者数(6,390万人)と比較すると108万人の増加となる。また、上の表から、安倍政権発足時から現在までの間に就業者の大半を占める雇用者も101万人増加(5,156万人→5,257万人)したことがわかる。
 では、安倍首相が自画自賛するとおり、「雇用者約100万人増加」は額面通りに評価できるのだろうか?

増えたのは非正規雇用、正規雇用は減っている
 ここで注視したいのは、雇用者数の増加を雇用形態別に示したデータである。上の表でいうと、20127月~9月期から今年の7月~9月期にかけて雇用者が総計で101万人増加したといっても、雇用形態別の内訳でいうと増えたのは非正規雇用(123万人)で、正規雇用は22万人減少しているのである。正規・非正規の割合で言うと、この間に正規雇用者数の割合は64.5%から62.9%へ下がっている。
 また、比較の2時点を自民党・安倍首相のやり方に近づけて201210月~12月(表の②)と最新の201410月(表の④)を比べると、次の通り、雇用者数は総計で106万人増加したことになるが、内訳では正規は32万人の減少、非正規は137万人の増加となり、大勢は変わらない。

        安倍政権発足時  201410月現在  増 減 
 雇用者数総計  5,173万人     5,279万人    106万人
 正規雇用者   3,330万人     3,298万人   ▲32万人
 非正規雇用者  1,843万人     1,980万人    137万人 

 つまり、総計で約100万人の増加といっても、そのすべてが非正規雇用の増加であり、正規雇用はむしろ減っているのである。
 こうした内実を顧慮せず、全数ベースの増減だけを取り上げて、雇用者数あるいは就業者数が増加したことを成果と言ってよいのか、大いに疑問である。

 というのも、非正規雇用の増加がわが国の賃金水準を押し下げ、雇用の不安定性、長時間労働の温床になっていることはしばしば指摘されてきた。ここでは、非正規雇用の増加がわが国の賃金水準を押し下げる主な要因になっていることを厚労省「平成25年賃金構造基本調査(全国)」にもとづいて示しておきたい。
 以下は上の厚労省資料で示された正規・非正規雇用間の賃金格差(正規社員・職員=100とした時の非正規の社員・職員の賃金の指数)を年齢階級別(男女計)に見たものである(単位:千円)。

   年齢階級別の正規・非正規の雇用者の賃金格差
  年齢階級   正規雇用者  非正規雇用者  格差指数
  2024    200.9    168.2     84    
  2529    235.1      188.0     80
  3034    270.4    197.8     73
  3539    306.0     198.6      65
  4044    342.1    195.8     57
   45~49    378.3
    192.4     51
  5054    394.7    193.8     49    
  55~59    380.3    191.5     50

  6064    300.8    215.6     72
  6569    296.4    195.3     66
   年代計    314.7    195.3     62

 これを見ると、年齢が上がるにつれ、格差は拡大し、4559歳の年代では非正規雇用者の賃金は正規雇用者のほぼ半分となっている。

非正規雇用を増やして人件費を削減することで企業業績を底上げできたとしても家計への所得分配は細り、GDPの約6割を占める個人消費を低迷させる要因となる。その結果、行き場のない企業利益が250兆円に達する内部留保として溜め込まれるとともに、手持ちの現金預金が70兆円にもなったのである(いずれも20146月末現在。資本金1億円以上の企業合計)。これを「好循環」と呼ぶのは無理な話である。

就職件数は増加ではなく減少している
 以上の数値はすべて累計値である。では、フロー(新規)ベースの雇用動向はどうなっているのだろうか?
 次の表は厚労省職業安定局雇用政策課が発表している「一般職業紹介状況」で示された月ごとの雇用形態別の就職件数を四半期単位で集計し、それを月平均に換算したものである。

 「雇用形態別の就職件数の推移」
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/shushokukensu_suii_koyokeitaibetu.pdf

ハイライトの箇所を抽出すると次のとおりである。

           雇用者数の増減

      安倍政権発足時      現  在
    (20121012月) (20148月~10月) 増 減
        月平均         月平均
 全 数   170,037       164,230     6,507  
 正社員    72,175        72,643       468
 パート    63,850        60,701     3,149 

 つまり、フローベースの就職件数で見ると、安倍政権発足時から現在までの間に正社員は微増となっているが、パートの就職件数が減少したため、雇用者総計では月平均で6千人強の減少となっている。
 このような結果は、非正規の雇用者が景気低迷時の調節弁として雇い止めされるケースが増えたことを意味するという解釈もあり得る。しかし、同じ期間にパートの有効求人数(月平均)は760,498人から877,859人へと117,361人増加している。この点から言うと、企業の側でパートの採用の手控えとか雇い止めが増えたことが非正規の雇用が減少した主な理由とは考えにくい。
 むしろ、注目すべきなのは、この間、有効求職者数(月平均)が637,809人から632,158人へ5,651人減っていることである。これはパート就労を希望しながらも、条件に適う求人がなかなか見つからない、面接以前に年齢基準で就職がかなわないたなどのため、求職活動を行わない非労働力人口が増加していることを意味するのではないかと考えられる。
 こうした推論はさらに詳しく検討される必要があるが、足元の就職件数が絶対数で減少しているという事実は非正規雇用の問題と並んで、見えにくい雇用問題として早急に実態の解明と対策が求められる。時の政権担当者たるものは雇用統計の表層をつまみ食いして自画自賛している状況でないことは確かだ。


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有効求人倍率は雇用の実態を反映していない ~安倍首相の自画自賛を検証する (その1)~

  20141221

有権者はアベノミクスを信任したのか?
 衆議院総選挙の投開票日の直後、安倍首相は「アベノミクスをさらに前進させよ、という国民の声をいただいた」(1215日、NHKニュース)と胸を張った。そうなのか?

 「毎日新聞」が12910日に行った世論調査のなかに、「アベノミクスによって景気がよくなったと思うか」という質問項目がある。回答結果は次のとおりだった(「毎日新聞」1211日)。
           総 計   男 性   女 性
  思う       21%    24%    19
  思わない     70%    67%    72

 選挙後はどうか。「共同通信」が121516日に行った世論調査で質問した「アベノミクスで今後景気がよくなると思うか」への回答は次のとおりだった。
  思う 27.3%   思わない 62.8%   分からない 9.9%  

 このような数字を見て、なお「わが政権の経済政策は信任を得た」と胸を張るのだとしたら、安倍首相の自己愛が異常か、安倍首相には不快な民意をふさぐフィルターが備わっているのか、どちらかだろう。どちらであれ、国民にとって不幸なことである。

確かに「有効求人倍率」は1を超えたが
 衆院選の終盤から選挙後、安倍首相はアベノミクスの成果として繰り返し、3つの点を挙げた。
 ①就業者数が政権交代後、100万人増えた。
 ②有効求人倍率がようやく1を超えた。
 ③賃上げは過去15年間で最高になった。従業員100人以上の企業では平均月額5,254円(昨年比1.8%アップ)になった。

 このような経済指標の使い方、読み取り方が実態に照らして妥当なのかどうかを順次、検証していきたい。まず、この記事では②を検証する。
 はじめに、厚生労働省職業安定局の解説を使って用語の意味を確認しておきたい。「求人倍率」には2種類ある。一般に「有効求人倍率」と呼ばれるのは月間有効求職数に対する月間有効求人数の比率のことをいう。これに対して、「新規有効求人倍率」とは文字通り、新規求職数に対する新規求人数の比率のことをいう。
 そこで、この倍率が近年、どのように推移してきたかを厚労省職業安定局雇用政策課が月別に公表している「一般職業紹介状況について」で確かめると次のとおりである。

「有効求人倍率・就職率・充足率の就業形態別の推移」 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/rodozyukyu_3shihyo_no_suii.pdf

 これをみると、パートの有効求人倍率は3年前の201110月当時から1を超え、その後もおおむね上昇を続けて、今年の10月時点では1.62となっている。これに対し、パートを除く職種の有効求人倍率は201010月当時0.5で、その後も1以下が続いたが、今年の9月に1.0となり、10月には1.02となった。この点は安倍首相の指摘のとおりである。
 では、「有効求人倍率」が1を超えたとはどういうことなのか? 求人数が求職数を超えているのだから、直感的には、「好き嫌いを言わなければ、職を探している人は誰も職に就ける状況」と考えがちである。労働需給の状況から言えば、確かにそう解釈できそうである。しかし、私が問題にしたいのはここから先である。

実際に職に就けたのは求職者の1割!
 くどいようだが、「有効求人倍率」とはあくまでも労働の「需給」状況を示す指標であって、求人を出した企業がそれと同じ数だけ実際に採用するかどうか、したかどうかは別の話である。同様に、「有効求人倍率」が1を超えたからといって、職を求めた人がすべて職に就いたかどうか、就けたかどうかも別の話である。
 この点では、求職者にとって重要なのは「求人数」ではなく、実際に職に就けたかどうか、求人をした企業が実際どれだけ「採用」をしたのかである。
 実は、このような実績値も、厚労省職業安定局雇用政策課が公表している前掲の「一般職業紹介状況について」になかで示されている。「就職率」、「充足率」という指標がそれである。このうち、「就職率」とは求職数に対する実際の就職件数の割合をいい、「充足率」とは求人数に対する実際の就職(採用)件数のことをいう。前掲の表にはこれら2つの指標の推移も示している。
 ここで、過去4か年の10月時点の3つの指標を抽出して示しておく。いずれもパートを除く数値である。

          有効求人倍率 就職率   充足率
  201110月    0.64           6.6%  10.3%
    2012年10月    0.75           7.0%      9.4%
  2013年10月    0.91           7.5%    8.3%
  2014年10月
   1.02    7.7%    7.5% 

 これを見ると、就職率は微増の傾向にあるとはいえ、それ自体(絶対水準)は今なお7%台である。求職者のうち、実際に職に就けたのは100人に8人未満ということだ。
 さらに、充足率は4年前の時点でも10%強という低い水準だったが、近年はそこからさらに下がり、今年の10月時点では7.5%となっている。
 このような「実績」を省みず、求人と求職の比率だけを取り上げて雇用状況が改善した、上向いたと喧伝するのは実態を大きく見誤るものである。
 

「有効求人倍率」と「就職率」「充足率」が乖離する要因の検討

では、なぜこれほどまで「有効求人倍率」と「就職率」、「充足率」が乖離するのか、その要因を検討することこそ、雇用政策の最重要課題である。私には、この問題を究明するのに十分な知見、資料を持ち合わせていないが、ここでは総務省統計局が定期的に公表している「労働力調査」の期別詳細集計に収録されている、
 (A)現職の雇用形態についた主な理由別の非正規の職員・従業員の内訳
 (B)これら非正規職員・従業員が現職の雇用形態についた主な理由別にみた転職希望者の割合
 (C)完全失業者が仕事に就けない理由
の調査結果を手掛かりに上記の乖離が生まれる理由を推理してみたい。以下では(C)を除いて実数は省き、百分比のみを示すことにする。すべて201479期平均。

 
まず、(A)のデータ(上位の理由の抽出)を示すと次のとおりである。
    (非正規の職に就いた理由)     男女計   男性   女性
  自分の都合のよい時間に働きたいから   25.4%  24.1%    26.0%
 家計の補助・学費等を得たいから       20.6%    12.1%     24.4% 
 家事・育児・介護等と両立しやすいから  12.2%    0.9%     17.4% 
 正規の仕事がないから          17.1%  25.8%     13.1%

 次に(B)のデータを示すと次のとおりである。(原表の実数から計算)
  (非正規の職に就いた理由)  (転職を希望する非正規職員等の割合)
                                                         男女計    男性      女性
 自分の都合のよい時間に働きたいから   19.7%   23.0%    18.1%
  家計の補助・学費等を得たいから     20.2%   17.1%    20.9% 
  家事・育児・介護等と両立しやすいから    20.6%   40.0%    20.2% 
  正規の仕事がないから          47.3%   47.7%    47.0%

 最後に(C) データを示すと次のとおりである。
 仕事に就けない理由別に見た完全失業者の割合 
  希望する種類・内容の仕事がない      67万人(28.2%)
  求人の年齢と自分の年齢とがあわない      36  (15.1%)
   勤務時間・休日などが希望とあわない      28  (11.8%)
    賃金・給料が希望とあわない        21  (  8.8%)
   自分の技術や技能が求人要件に満たない    16  (  6.7%)
  条件にこだわらないが仕事がない        15  (  6.3%)
  その他                    51  (21.4%)

 これら3つのデータから「有効求人倍率」と「就職率」、「充足率」が乖離する理由を以下のように推理できる。
 1つは、これまでから常識的に指摘されてきたことではあるが、求人側が求めるニーズと求職側の希望条件ないしは就労可能条件に大きなギャップがあるということである。特にはっきりしているのは求人に年齢要件が付けられている場合である。データ(C)から、求職しながら就職できない高齢者にはこれに該当するケースが少なくないことが窺える。また、データ(C)にある「自分の技術や技能が求人要件に満たない」という理由もこれに近いと考えられる。

 第2は、正規雇用がなかったために非正規の職に就いている人の割合が高く(データ(A))、なおかつ、そうした人々の中で正規雇用への転職を希望する人の割合が男女を問わず47%に達している(データ(B))にもかかわらず、正規雇用の求人が少ないというミスマッチである。正規・非正規別の雇用動向はこのあとの記事で触れるが、一口に求人といっても正規雇用の求人か、非正規雇用の求人かで、求職とのミスマッチが起こることは当然予見されるし、この点こそ、現在のわが国の雇用政策で是正が求められている最重要問題である。この意味で、求人の中に非正規の求人がどれほどか考慮せず、正規・非正規の求人をどんぶり勘定した「有効求人倍率」だけを取り出し、これが1を超えたことを時の首相が誇らしげに語るのは無知か、愚かか、いずれか、または両方である。

「多様な働き方に見合った柔軟な雇用形態」の欺瞞性
 第3に指摘しなければならないのは、政府が労働法制の規制緩和の理由としてことあるごとに唱える「多様な働き方に見合った柔軟な雇用形態」という物言いと現実の乖離である。
 データ(A)で挙げられた非正規の職に就いた理由は一見、「多様な働き方」というニーズを表しているかに見える。確かに、そうした理由で非正規の職を選んだ人々も少なくないだろう。しかし、データ(B)を見ると、「自分の都合のよい時間に働きたい」という理由で非正規の職に就いた人の約20%が正規雇用への転職を希望している。同様に、「家事・育児・介護等と両立しやすい」という理由で非正規の職に就いた人の約21%(男性の場合は実数が5万人と少ないが、そのうちの40%に当たる2万人)が正規雇用への転職を希望している。そして、非正規の職に就いた人の17%(313万人)は「多様な働き方」からなどというきれいごとからではなく、「正規雇用がなかったから」という理由で非正規の職を選ばざるを得なかったことが示されている。

このような現実を直視せず、「多様な働き方に見合った柔軟な雇用形態」などという机上のうわごとを唱えるのは、自分の生活条件を二の次にしてでも必死に正規雇用を求める人々、あるいは「柔軟」云々ではなく、育児、介護といった死活的な生活条件から非正規の職を求める人々が少なくない実態を無視するものである。

 最後に指摘しておきたいのは、これまで使ったデータには含まれていない非労働人口、具体的には「就業を希望しながら求職活動をしていない人々」が今年の79月期の平均で406万人もいるという事実である。この中には就業を希望しながらも、目下、病気療養等のため、求職活動をできない人(192万人)が含まれている点を留意することは必要だ。
 しかし、それでも、①残り214万人のうちの117万人は「適当な仕事がありそうにない」とう理由で求職活動をしていないこと、②非労働人口でかつ就業を希望している406万人のうちの315万人、率にして77.6%が15歳~54歳の年代の人々であることを深刻に受け止め、実効性のある対策を講じる必要がある。そうした対策を講じることなく、「女性が輝く社会」などと唱えるのは悪い冗談で済まない空言である。

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安倍首相の資金管理団体告発の件:その後

2014年12月19日

 本年
818日、私を含む4名は安倍晋三氏の資金管理団体「晋和会」を政治資金収支報告書(2011年分、2012年分)の虚偽記載で東京地検に告発しました。

 「安倍首相の資金管理団体を虚偽記載で告発」
 
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-f628.html

 「この件はその後、どうなったのか」という質問がネット上で寄せられていますので、この場をかりて状況をお伝えします。
 といっても、近々に告発人代理人弁護士を通じて、東京地検に告発受理のいかんを問いあわせてもらうことになっているというのが現状です。

 そもそも論に戻りますと、地検はいったん告発を受理しますと、捜査・検討の結果、不起訴と判断しても、告発人は検察審査会に異議を申し立て、不起訴が相当かどうかの審査を求めることができる仕組みになっています。

 「検察審査会の概要」
     http://www.courts.go.jp/kensin/seido_gaiyo/index.html

 そして、上の記事にあるように検察審査会が審査の結果、不起訴不当または起訴相当と議決した場合、検察官は検討のやり直しを求められることになっています。こうした検察審査会の議決を経て検察官が検討のやり直しをした件数はこれまでに約1,500件に上っています。

 ここから、検察庁は、いったん告発を受理すると、かりに事案を不起訴と判断しても、告発人に検察審査会へ異議申し立てをする権利を与えることになるため、なかなか告発を受理しない、あるいは受理するかどうかの判断をなかなか下さない傾向があるとされています。
 このような現状を多くの方々に知っていただき、かつ、検察庁の受理、不受理、受理後の事案の検討が種々の政治判断で歪められることがないよう、監視していくことが重要です。
 その意味から、私どもの告発の行方について、引き続き、多くの方々に関心を向けていただくよう、お願いします。

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本土の有権者・政党はオール沖縄の選挙態勢から何を学ぶべきか(2)

20141214

沖縄の特殊事情?
 今日、投票日となった衆議院総選挙。翁長知事、城間那覇市長を誕生させたオール沖縄が14区で擁立した共同候補が全員当選を目指して運動を続けてきた。全員当選が実現すると自民党は沖縄の小選挙区では議席ゼロという厳しい審判を突きつけられることになる。
 しかし、どの報道機関の世論調査も、本土では自民単独で300議席を超え、自公あわせて3分の2に迫る勢いと伝えている。まだ、態度を決めていない有権者が少なくないことから、なお流動的な要素もあるが、こうした議席予想が広がるなか、この先、本土の政党、有権者には選挙後の諸課題(集団的自衛権、原発再稼働、秘密保護法、消費税増税、TPP、社会保障や税制改革など)の取り組み、さらには来年以降の地方選挙、総選挙に向けてどのような対応が求められるのか、熟慮を迫られている。

 先日、労働組合の某ナショナルセンターの幹部に「オール沖縄の選挙態勢を本土も教訓にすべきでは」と話しかけると、即座に「沖縄の特殊事情ですよ」という答えが返ってきた。そう言って済ませてよいのか?
 確かに沖縄で知事選、那覇市長選に続いて国政選挙でも保革を超えたオール沖縄の共同候補を擁立するに至った背景には、普天間基地の危険除去、辺野古での新基地建設をめぐって自民党が分裂し、保革を超えた県下の自治体首長の賛同で新基地建設反対、沖縄の自治権貫徹を謳った建白書が採択されたという新しい状況があった。「保守は保守でも私は沖縄の保守」と語る翁長知事の言葉は沖縄の自民党に重大な地殻変動が起こった証しである。
 他方、本土の自民党には目下のところ、そうした地殻変動の兆しはない。だから、本土では保革を超えた護憲、脱原発、反TPP、企業優遇から国民生活第一等を掲げる共同行動を生み出す可能性は見えてこない。その限りでは、沖縄の経験をただちに本土でも、といっても現実味が乏しいのは確かだ。

自党の伸長を目指すだけでよいのか

 では、本土ではどうすればよいのか?「多弱」と称される野党内の再編、第三極の結成という政党間の合従連衡は、マスコミに話題を提供はしたが、結局は、議会政治に健全な緊張感を生む保革伯仲ではなく、野党内に政権すり寄り競争、自民党補完勢力を再生産させるだけだった。そういう帰結を省みることなく、野党再編論を繰り返したのでは有権者の政治不信を増幅させるだけである。
 では、自民党の悪政からの転換を願う国民は、強弱はあれ、自分が支持する政党の勢力拡張を期待するほかないのか? あるいは自分が支持する政党の伸長を支援する行動に努めるだけでよいのか?
 どの党も立党の目標、自らが掲げる政策の実現を可能にするよう党勢拡大に腐心するのは当然である。また、有権者としては、自分が支持する政党の伸長を支援するのは政治的自由、参政権行使の一環である。問題は有権者にしても政党にしても、それだけでよいのかということである。
 1つ前の記事で紹介したように、今の自民党一強体制のもとで、与野党伯仲を期待する国民が全体の過半を占めている。重要な政策課題ごとの民意をみても、安倍政権が目指す政治の方向には過半に近い国民が不支持を表明している。その意味では政治の転換を求める民意は間違いなく本土にも存在している。要はその受け皿となるべき政治勢力がいっこうに現れないということである。
 多くの国民は、自民党政権との違いが見えない政権交代や第三極には辟易としている。今回の衆院選ではこれらの野党勢力と一線を画し、自共対決を前面に押し出す日本共産党が議席倍増の勢いと予想されている。同党の長年にわたるぶれない主張と政策が次第に評価されてきた証しと思われる。
 しかし、その共産党にしても、予想通りに議席を倍増したとしても、自公両党で3分の2の議席を確保するという予想が行きかう中での倍増である。大勢としては自公両党の支持基盤に食い込む議席増ではなく、民主党や第三極に失望し、漂流した票、党の存立が危ぶまれる野党から離れた有権者を取り込んだ結果と見るのが正解だろう。

 選挙後に予想される衆議院の議席分布から見ても、政策面で自民党と対峙する野党とはいえない政党を除くすべての野党が連合したとしても、自公政権と伯仲する勢力とはなり得ない。
 このような政治状況のもとで「自党が伸びることが自民党政治の転換につながる」と訴えるだけでよいのか? そのような訴えが果たして与野党伯仲を期待する有権者の願いに沿うリアリティを持つのか? 今、野党各党はもちろん、政治の革新を求める有権者が熟慮すべきはこの点である。  

注目すべきは「支持する政党なし」層の動向

しかし、自民党あるいは自公政権と拮抗する、あるいはそれに代わる新しい政治勢力と言っても、言うは易く、どのようにそれを組織していくのか? こんな大それた問題に一介の市民が何を言っても空しいで済ませたのでは、今の政党政治に失望して選挙を棄権するのと大差ない。むしろ、近頃、私は「棄権は白紙委任に等しい」という呼びかけにも虚しさを感じる。そう言うなら、ただ、黙々と1票を投じるだけでなく、意味のある一票を投じる対象(受け皿)を作る努力をすることこそ重要ではないか? では、言うところの受け皿とは何か、それをどう作るのか?
 選挙後も続くと予想される自民一強、多弱野党の議会状況の下で、個別の重要課題に示された民意を政治に反映させるとともに、次の総選挙、地方選挙で一強多弱の議会状況そのものを変えるには、多弱の野党の共同を呼びかけるだけでは力不足なことは明らかである。

 ここで着目すべきは、「支持する政党なし」層である。
 この層の割合は各種世論調査でかなりバラツキがみられる(以下、カッコ内は調査時点)。もっとも低いのはNHKの調査で26.3%(1257日)、もっとも高いのは『時事通信』の調査で56.8%(1258日)。2倍以上の開きがあるのは腑に落ちないが、『毎日新聞』(12910日)30.0%、『朝日新聞』(12月6~9日)38%となっている。このような調査結果を要約すると、有権者の30%台が支持する政党なし層と考えられる。その割合は最高の自民党支持率(これも各種調査によってバラツキがあるが、2538%の範囲に収まっている)に匹敵する大きさである。しかも、この層が選挙にあたって1票を投じるか、棄権するか、選挙外の日常生活において焦眉の政治テーマに沈黙するのか、声を上げるのか、どのような主張に共鳴するのかは、今後の民意の趨勢に大きな影響を及ぼす。
 しかも、一つ前の記事で紹介したように、安倍政権が進めようとする憲法「改正」、集団的自衛権の行使容認、原発再稼働、特定秘密保護法の施行、消費税増税、企業優遇に傾斜した税制改革等に関して、おおむね過半の有権者が不支持を表明している。ということは、「支持する政党なし」層の中に、反安倍政権あるいは非安倍政権の民意が潜在していることを意味している。今、求められるのはそうした民意を顕在化させ、国政に反映させる現実的な受け皿を誕生させることである。


有権者が主役となって反自民の大同結集を
 
このように考えると、野党各党が「わが党の伸長こそ政治をよくする」という自党中軸主義を固持する(各政党が自党の綱領、主張の実現を可能にする議席の獲得を目指して日常の政治活動や選挙活動を行うこと自体は当然であるが)だけでは足りないのは明らかである。なぜなら、今回の衆院選挙後も強まりこそすれ、弱まる可能性が低い自民1強の議会状況のもとでは、野党の政党間組み合わせを追求したり、特定の政党が議席を増加させたりするだけでは、自民党政治にストップをかけ、悪政の転換を図るのに力不足なことは明白だからである。
 こうした議会状況ならびに各野党が自党中軸主義を固持する状況においては、可能性のある小選挙区での無所属の統一候補の擁立も含め、反自民の大同結集を実現するには有権者が主役となって政治勢力の結集を図る以外に道はない。

 私が京都で過ごした大学生時代、大学院生時代は地域によって時期的な前後はあるが、蜷川京都府政、美濃部東京都政、黒田大阪府政、飛鳥田横浜市政など革新自治体が大都市に誕生した時期だった。今、思い起こしたいのは、こうした革新自治体を誕生させた原動力は政党間の組み合わせでいえば、社会党、共産党の統一行動だったが、それを可能にしたのは両党関係者の努力もさることながら、文化人、研究者、労働組合、医療、法曹、消費者など各界の市民・有権者団体が主役になって選挙母体を結成したことだった。社共両党の統一もこうした市民・有権者の媒介があって初めて実現したと言っても過言ではない。当時も政党間の協議だけに委ねていたら、革新自治体を誕生させた選挙母体も革新自治体を実現させた有権者のエネルギーも生まれなかったと思われる。
 翁長知事、城間幹子那覇市長を誕生させた沖縄の政治状況もこれに似ている。保守か革新かという従来の支持政党の違いを超えた各界の市民団体や財界人が主役になった「ひやみかち うまんちゅの会」が接着剤になり、主役になって候補者選考・一本化を協議したからこそ、国政選挙でも4つの小選挙区すべてで共同候補を擁立できたのである。政党間の協議だけに委ねられていたら、そのような結果を生み出すのは極めて困難だったと思われる。

 これとの対比でいうと現在(の本土で)は、選挙母体というと、多くの場合、政党が主役で、労組など各界の団体は政党の動き待ち、政党の呼びかけに呼応するという受け身の姿が大勢と思える。こうした傾向は、もともと、政治的に自由な立場で発言し、それを通じて世論に影響を及ぼすことが期待される文化人、知識人にも見受けられる。政治的「中立」の殻に籠って沈黙を守るか、さもなければ、特定の政党支持を打ち出す文化人や研究者が散見される。どのような職域にいようとも、自らの見識に従って政治的見解を表明するのは、保身のために沈黙を守るよりも、はるかに真摯な態度である。しかし、それだけでよいのか?

 自民党支持者ならともかく、そうでない有権者や各界の団体には、自分がどの党を支持するかは別に、自分が第一義的には支持しない政党、意見に隔たりがある有権者や団体であっても、目下の喫緊の課題―ー―憲法改悪を阻止し、憲法を生活の様々な局目に活かす課題、集団的自衛権の法制化を阻止する課題、原発再稼働を阻止し、原発に依存しない社会を目指す課題、特定秘密保護法による知る権利の侵害を排除し、同法の廃案を目指す課題等―――での共同を追求し、共同の輪を広げ、組織化するために、政党の動き待ちではなく、政党の呼びかけに受け身的に応えるだけもなく、自らが政治の主人公らしく、望ましい政治勢力の結成のために何をなすべきかを主体的に熟慮し、行動を起こすことが求められる。

 こうした行動は、節度を保ちさえすれば、自分が支持する政党の伸長のために行動することと二者択一ではなく、両立するはずである。そのために強く求められるのは「異なる意見と真摯に向き合い、対話する理性」である。ここでは、気心の知れた仲間の間でしか通用しない「身内言葉」、「われこそ正論」と構える独善的な態度は最悪の風潮である。

 こうした理性、謙虚な資質は個々の有権者や市民団体に求められるだけではなく、政党にも強く求められる。特定の政党をゆえなく忌避する反理性的な先入観はもとより、自党に向けられた市民からの意見・批判に対し、自党の見解と相容れない部分があるというだけで、そうした意見を政党活動への「介入・干渉」と断じて対話を拒否する姿勢は、異なる意見に真摯に向き合う理性の欠如、政党を市民の上に置くに等しい不遜な態度である。

 こうした障害を乗り越えて自民党政治に代わる、憲法を内政・外交、国民生活のすみずみに活かす政治を実現するためには、政党の動き待ちではなく、各自がどの党を支持するかの枠を超えて、有権者が主役になって、反自民の有権者、政党の共同を促し、共同の質を高める運動を起こすことが肝心である。それによって、「支持する政党なし」層も参加する政治勢力の結成を図る展望も開けてくるだろう。

本土で既存の保革の枠を超えた政治勢力を誕生させる道筋
 また、そのような政治状況を生み出すことができれば、沖縄の場合と契機の違いはあっても、本土でも自民党支持層(特にその中で相当数を占めていると思われる消極的支持層)の間にも、自民一強体制への反省が生まれ、自民党政治に代わる保革の枠を超えた新しい政治勢力が誕生する可能性が開けるだろう。

 例えば、従来、自民党の支持基盤とみされてきた農業関係者の間では自民党が先の総選挙の公約を覆してTPP交渉への参加に踏み切り、前のめりの合意にのめり込もうとしている現実に直面して、農業の未来、食料主権への責任を放棄した自民党政治への批判、反発が全国的に広がっている。それでも農業団体の政治連盟である農政連は、かなりの都道府県で今回の
衆院選にあたって地元の小選挙区に立候補した自民党候補の推薦を決定した。しかし、幾つかの地域では自主投票を決定している。また、自民党候補支持を決定した地域の農家の間では自民党の農政への反発が根強く、農政連の決定に応じた投票行動になるのかどうか不確定と見られている。それだけに、自民党政権が安定的基盤を失い、目下の農協改革に対する「重石」が揺らげば、農業関係者の間でも自民党離れがより顕在化する可能性がある。

最後に
 保革の枠を超えた政治勢力の誕生を沖縄の特殊事情と言って済ませてはならない。本土でも、要因、契機は違っても、既存の保革の枠を超える政治勢力を誕生させる有権者主役の対話と行動が望まれる。繰り返しになるが、そのために各界の団体、個人に強く訴えたいのは、自らが支持したり、親密な関係を保ったりする政党との協力、共同だけでは足りないということである。そうした、いうなれば「縦割り」の政治的活動を超えた大同小異、さらには、特定の大異(例えば、消費税増税の「中止」か「凍結」かなど。私見は「延期」でも「凍結」でもなく「中止」だが。)を保留してでも、多くの国民の支持が得られると考えられる重要課題(企業優遇税制の見直し、1年半後の消費税増税をひとまず見送り、それまでの間に、消費税増税に選択肢を限定しない財源の共同提案を市民代表も交えた場で協議するなど)で大同する政治勢力の結成を図ることを強く訴えたい。

20 摩文仁の丘の最南端の高台から。眼下に牛島司令官の自決の地(壕跡)が見える。2014年11月13日撮影

20_2「さとうきび畑」の歌碑(読谷村) 2014年11月12日撮影







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本土の有権者・政党はオール沖縄の選挙態勢から何を学ぶべきか(1)

20141213

オール沖縄を象徴する光景
 沖縄では知事選勝利の流れを引き継ぎ、目下の衆議院選において、14区で保革を超えて新基地建設阻止、建白書推進で一致したオール沖縄の共同候補が擁立されている。そのうち1区、4区は大激戦と伝えられているが、これらの選挙区でもオール沖縄の候補が当選すれば、沖縄県民への公約を反故にし、沖縄の民意を裏切って新しい米軍基地建設を容認した自民党は衆議院で議席ゼロという厳しい審判を突きつけられることになる。

 その激戦の沖縄1区で、1210日、オール沖縄の赤嶺政賢候補の演説会が県庁前で開かれた。そこへ、知事として初登庁を終えたばかりの翁長雄志氏も駆けつけ、応援演説をした(以下のサイトに並んだ動画の最上段、左から2つ目)。

http://video.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&p=%E6%B2%96%E7%B8%84%EF%BC%91%E5%8C%BA%20%20%E7%BF%81%E9%95%B7 

 ご覧のように、翁長知事のほか、城間幹子・那覇市長、金城徹・那覇市議会議員(新風会)、志位和夫共産党委員長、糸数慶子・参議院議員(沖縄社会大衆党)が弁士として登場した。オール沖縄の姿を象徴する光景である。
 ここで、過去3回の衆議院沖縄一区の選挙結果をふり返っておきたい。
 2012
  国場幸之助(自民党:今回も立候補)        65,233
  下地幹也郎(国民新党:今回は維新の党から立候補) 46,865
  赤嶺政賢(共産党)                27,856
 2009
  下地幹郎(国民新党)               77,152

  国場幸之助(自民党)               63,017
      外間久子(共産党)                23,715
 2005
  下地幹郎(無所属)                72,384
  白保台一(公明)                 67,540
  赤嶺政賢(共産党)                23,123

 これを見ると、2~4区も大なり小なり似通った状況と思われるが、特に1区では、保革を超えた共同がなければ赤嶺候補は当選圏に遠く及ばないことは明らかである。現に、今回の選挙で赤嶺候補は終始、「日本共産党の赤嶺」とは言わず、「オール沖縄の候補者」と自称している。立候補の経緯から言えば当然のことではあるが、ここには「自共対決」ではなく、「沖縄の自治権擁護・平和勢力」対「本土政府追随勢力」という構図が出現していることを確認しておきたい。

政党選択意向と課題別民意のねじれ
 ところが、各種報道機関の議席獲得予想によると、全国的には沖縄とは対照的に、自民党単独で300議席を超え、自民・公明両党あわせて3分の2に迫る勢いと伝えられている。「追い込まれ解散」と言われたにしては与党大勝の勢いである。
 しかし、同じ時期に行われた各種世論調査によると、今回の衆院選で争点になっている課題ごとの民意は与党大勝の予想とは大きく乖離している。例えば、『毎日新聞』が12910日に行った世論調査では次のような集計結果になっている。
 ◆消費税率を10%へ引き上げることへの賛否
                  全体   男性  女性
   賛成             41%   50  37
         反対             52%   47% 55
 ◆アベノミクスによって景気がよくなったと思うか
   思う             21 24 19
   思わない           70%  67% 72
 ◆集団的自衛権の行使への賛否
   賛成             35%  50%  25
   反対             49%  52%    47
 ◆特定秘密保護法への賛否     
   賛成             30%  37%  26
    反対             49%  52  47

 また、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が今月67両日に行った合同世論調査によると、アベノミクスについては「成功していると思う」が27.5%だったのに対し、「成功していると思わない」が57.3%で「成功している」の2倍強になっている。
  さらに、『中日新聞』が今月9日にまとめた世論調査によると、安倍政権が進める原発の再稼働について、「反対」が57.5%で「賛成」の26.3%の2倍強になっている。

有権者は与党の大勝ではなく、与野党の拮抗を望んでいる
 さらに、興味深いのは有権者がどのような選挙結果を期待しているかである。NHKが今月5日から3日間行った世論調査によると、次のような結果が出ている。
 ◆自民・公明両党が衆議院の過半数の議席を獲得するのが望ましいと思う
  か
   望ましい             22%  
   どちらかといえば望ましい     29
   どちらかといえば望ましくない   23
   望ましくない           18
 ◆国会の中に自民党に対抗できる勢力を持った野党ができることを期待す
  るか
   大いに期待する          32
   ある程度期待する         37
   あまり期待しない         18
   まったく期待しない         7

 また、前記の産経新聞社とFNNの合同世論調査でも次のような結果になっている。
 ◆衆院選の望ましい結果は
   与野党の勢力が伯仲する形     47.9
   与党が野党を上回る形       35.4

 こうした世論調査の結果は、有権者の政党選択意向と衆議院の勢力分布に関する期待に大きなギャップがあることを示す点で大いに注目すべき傾向と考えられる。

与党大勝は憲法「改正」、集団的自衛権行使が信任されたことを意味しない
 
 言い換えると、各種の世論調査に現れた与党大勝の予測は決して安倍政権・与党に対する積極的な支持を意味するものではないこと、むしろ、自公政権と拮抗する勢力の形成を期待しながらも、いっこうにその姿が実現しないなかで、消極的理由で自民党を選択する層が相当数存在しそうなことを物語っている。

 このことは先に示した課題別の民意の傾向からも窺える。安倍政権・与党が成立させた特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認、あるいは今回の選挙公約に掲げたアベノミクスの継続、1年半後の消費税率の引き上げ等は、それをみても過半の世論の支持を得ているどころか、不支持が相対多数の課題ばかりである。
 そのうえ、自公両党は国民の間に異論が根強い集団的自衛権の行使容認や憲法「改正」を「あえて」といってよいほど争点化せず、「アベノミクスの継続か否か」に焦点を当てる選挙戦術を採用している。(これについては、「改憲意欲しのばせる首相」「争点化せず政権体制固め」「国民投票法改正、土台は着々」(『朝日新聞』2014125日、3面)が参考になる。)
 しかし、かりに自民党ほかの改憲勢力が3分の2の議席を獲得したら、選挙期間中は背後に「しのばせていた」政策まで信任を得たと称し、数の力で憲法「改正」やTPPの妥結などが強行されかねない。
 こうした「争点隠し」と虚構の「信任」宣言を許さないためにも選挙期間中に示された課題ごとの民意をしっかりと記憶にとどめ、有権者は何を白紙委任しなかったかを明確にしておく必要がある。

20  2014年11月13日撮影

20_2   2014年11月13日撮影






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大企業に足りないは投資財源ではなく需要 ~法人税減税は中止すべき(3・完)~

20141125

わが国の大企業は再投資財源を事欠いているのか?
 このテーマの連載記事の1回目で記したように政府は、利益を上げている企業の再投資余力を増大させ、収益力改善に向けた企業の取り組みを後押しすること、を理由の一つに挙げて来年度から数年で国・地方を合わせた法人税の実効税率を現在の約35%から20%台まで引き下げる税制改正の検討を進めている(閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2014について」2014624日;政府税制調査会「法人税の改革について(案)」2014627日)。
 しかし、わが国では法人税率(基本税率)は1990年当時の37.5%からから現在の25.5%まで12%も引き下げられた。その上、なお、国、地方を合わせた実効税率を20%台まで引き下げなければならないほど、わが国企業は再投資(特に設備投資)の余力(原資)に事欠いているのかどうか、あるいはわが国企業には、より多くの原資を必要とするほど投資資金の需要があるのかどうかを確かめておきたい。

 次の表は2008年度末から2014年第1四半期(6月)末までの資本金1億円以上のわが国企業(全産業)の財政状況等の推移を示したものである。

    わが国企業の経営状況の推移(20082014.6年度/期)
 
         ~全産業・資本金1億円以上~
 
  
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kigyo_no_keieizyokyo_no_suii.pdf
  (財務省財務総合政策研究所調査統計部「法人企業統計調査」時系列
   データより作成)

 これを見ると、法人税率が段階的に引き下げられたこの6年間に有形固定資産は横ばいで、近年はわずかながらも2008年度の水準を下回っている。では財源に事欠いたからかというと、課税後の可処分利益を社内に留保した利益剰余金は51兆円増加し、2008年度対比でいうと約26%も増えている。この利益剰余金とは減価償却費に見合う内部留保資金などとともに、企業財務論でいうところの内部金融の主な源泉である。
 では、これほど潤沢な設備投資の財源があったにもかかわらず、それが設備投資に充てられなかったとなれば、どのように運用されてきたのだろうか?
 運用の累積実績からいうと、上の表にあるように資産側で顕著に増加したのは「投資その他の資産」(長期投資目的の有価証券や貸付金、子会社等への出資)で、この6年間の増加額、伸び率は利益剰余金のそれをやや上回る水準となっている。
 このほか、上の表では、原資料(「法人企業統計調査〕に金融・保険業を含む全産業ベースの該当データが収録されていないため、表記していない現金・預金残高の推移を、金融・保険業を除く全産業ベース(資本金1億円以上)で調べると、2008年度末現在で53.7兆円だったのが20143月末現在では70.3兆円へと16.6兆円増加している。

足りないのは財源ではなく需要
 このように見てくると、2008年度以降を見ても、わが国大企業には、法人税のさらなる引き下げで増やさなければならないほど、再投資余力(財源)が不足した状況は全くない。むしろ、逐次の法人税減税で増加した内部留保はほとんどが設備投資の純増には回されず、あるいは賃上げや雇用の拡大にも充てられず、大半は長期投資目的の有価証券や社外出資に充てられ、16兆円余も現金・預金が増加している状況なのである。
 これでどうして、再投資余力の増大を理由に法人税減税を実施する大義が成り立つのか? 欺瞞も甚だしい。
 設備投資が伸びないのは財源が足りないからではない。製・商品に対する需要が伸びない、見込めないためである。法人税率を引き下げ続けたにもかかわらず、わが国企業の生産の海外移転が止まるどころか、増加し続けるのは、前の記事で示したように、移転先の現地で日本国内よりも製品需要が見込まれるからだ。

的はずれの安倍首相、黒田日銀総裁の見識
 であれば、政府が打つべき政策は供給サイドの「稼ぐ力」を付けるための金融緩和や法人税減税ではなく、需要サイド(家計)の購買力を高める政策である。
 安倍首相は企業を強くすることが日本経済の成長を牽引し、それが家計にも恩恵を及ぼす好循環をもたらすという信念にとりつかれているようであるが、きわめて有害な「信念」である。
 日銀、特に黒田総裁は他の委員の異論・反対を押し切る形で、2%の物価上昇率の達成を自己目的かのように唱え、この目的達成のためには今後も追加的な金融緩和を実施すると公言しているが、的はずれも甚だしい。
 縮小した需要をどう底上げするかを省みず、物価上昇を善とみなす「デフレ脱却策」は賃金を上回る物価上昇の実態を一層悪化させ、消費税増税の影響も重なって、景気を低迷させる結果にしかならない。

 次の記事では、250兆円に上る大企業の留保利益をいかに活用すべきかについて考えたい。

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法人税負担率はすでに20%以下 ~法人税減税は中止すべき(2)~

20141123

 政府与党は目下、来年度から数年で国・地方を合わせた法人税の実効税率を現在の約35%から20%台まで引き下げる税制改正の検討を進めている。
 前回の記事では、その根拠の一つに挙げられている「日本の立地競争力の強化」が実態に照らして的外れであることを指摘した。
 しかし、そもそも論を言えば、法人税率引き下げの根拠の適否を議論する前に、わが国の法人税の実効税率の水準を把握する基準を明確にしておく必要がある。
 いうまでもなく、納税者にとっての税負担額は税率×課税ベース(課税対象額)で決まるのであって、税率だけで負担の軽重が測れるわけではない。そして、法人税負担率と言う場合、

 法人税の納税額
 ------------------
  課税対象額 

で測るのが常識である。
 ところが、過年度に欠損を計上した企業の場合、当期の課税対象額は欠損金の繰越控除制度によって過年度の欠損金で相殺された金額、さらにその他種々の所得控除分だけ圧縮されている。同様に、分子は租税特別措置による研究開発費の税額控除等を受けている医薬品業等では当該税額控除分だけ納税額が圧縮されている。
 そこで、これら諸控除を分母、分子に戻し加えた時の法人税負担率(これが企業の実質的な税負担率とみなされる)を財務省自身が示している。次の資料がそれである。

 実際の税負担率
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zei_futanritu.pdf
 (財務省説明資料「法人税課税の在り方」2013122日より作成)

 これを見ると、2011年度の時点で全法人の平均税負担率は21.3%となっている。これは法人税の標準税率30%から欠損金の当期控除分として6%だけ圧縮され、さらに租税特別措置による税額控除の影響で0.8%だけ税負担が引き下げられたことなどによるものである。その結果、電気機械器具(18.2%)、輸送用機械器具(19.7%)は2011年度時点で、すでに実質的な税負担率は20%以下になっている。

 以上は2011年度時点の状況であるが、時系列でみるとどうか?
 次の棒グラフは利益計上法人の益金処分の内訳(百分比)を時系列で表わしたものである。用いた資料は2011年度分までは前記の財務省説明資料であるが、2012年度分は国税庁「会社標本調査」をもとに財務省が採用したのと同じ方法で筆者が計算したものである。

 利益計上法人の益金処分の内訳(推移)
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/ekikinshobun_uchiwake.pdf
 
 この場合の益金はおおむね、課税対象所得と一致するから、そのうちの法人税額の割合は上で示した毎年度の法人税の実質的な税負担率を表している。例えば、このグラフで示された2011年度の21.3%は前掲の表で示された2011年度の全法人の実質的な税負担率の平均値と一致している。
 このグラフから読み取れるポイントは、
 ①2000年度に法人税率が37.5%から34.5%に引き下げられて以降、税負担率が30%台から25%以下に急減する一方、社内留保の割合が40%台後半へ急増したこと、
 ②2012年度には税負担率が17.5%まで下がったこと、
である。
 つまり、全法人の平均値で見ると、わが国企業の実質的な法人税負担率は2012年度には30%を割り込むどころか、漸次の税率引き下げと種々の特別措置の適用によって、20%台を下回る水準まで下がっているのである。
 こうした実態を無視して税率だけに着目して法人税の税負担率がまだ下げ足りないかのような議論をするのは重大な錯誤と言わなければならない。
 さらに、わが国企業は過去20年間の法人税率の引き下げで増加した可処分利益を増配に充てる以外は内部留保に回してきたこと、これが次の記事で取り上げるわが国企業の留保利益の増加につながったことを確認しておく必要がある。
 加えていえば、政府の税率の高低に偏重した税制論議を鵜呑みにして報道するメディアに対しても、調査報道の貧困、それに起因する政府広報化に猛省を促さなければならない。

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