沖縄愛楽園で見たこと、知ったこと (上)

2017221

ハンセン病隔離収容所の史跡と資料館を訪ねて
 24日から3泊で沖縄へ出かけた。5日午後に那覇市内で開かれる歌人の集いに参加する連れ合いに同伴する形だったが、その前後、どこへ出かけるか、沖縄の地図と時刻表をにらみながら、いろいろ思案した。早い時期に決まったのは連れ合いが所望した名護市の屋我地にある愛楽園だ。
 19381110日、国頭(くにがみ)愛楽園として開園されたが、194171日には国に移管され、国立療養所となった。戦時中は米空軍の激しい爆撃に遭い、施設はほぼ全滅した。1952年、琉球政府が誕生したのに伴い、同政府の所管となり、沖縄愛楽園と改称された。さらに、1972年に沖縄の本土復帰に伴い、厚生省の所属となり、国立療養所となって現在に至っている。
 しかし、1938年の開園当初から、ハンセン病患者の療養所というより「隔離所」で、戦後も長く「らい予防法」によって、ハンセン病患者を隔離収容した「絶望の島」だった。
 
 24日、定刻の1325分に那覇空港に到着、空港のバスターミナルから高速バスに乗り継いで名護市へ。終点の名護バスターミナルで下車して予約していたタクシーに乗車。すく近くのホテルに荷物を預けてそのままタクシーで愛楽園へ向かうというあわただしい日程になった。
 といっても、愛楽園交流会館(ハンセン病問題の歴史を記す資料を所蔵・展示する施設)17時で閉館なので、館内の展示の閲覧は明日に回し、この日は夕暮れが迫った園内の史跡を道に迷いながら巡った。結局、廊下ですれ違った職員に教わって、沖縄戦の時に当時の早田園長が入所者に強権的に命じて掘らせた壕(早田壕)の跡地にたどり着くだけで日没となった。 

 翌5日は7時半にホテルを出発して貸し切りタクシーで桜が開花した今帰仁(なきじん)城址へ出かけた(詳しくは別の記事で書きたい)。1時間ほど懇切にガイドをしていただいたYさんにお礼を言って城址を出発、9時過ぎに愛楽園交流会館に到着した。2015年に開館したばかりの、ハンセン病問題の資料館だ。前もって連絡をしていた学芸員のAさんに玄関でお目にかかり、挨拶をして1階の資料展示室へ。

60
 ハンセン病を医学的に説明した資料から始まり、愛楽園の開園当初の状況、入所者の手記などが展示されていた。

60_2
 最初に私の目にとまったのは開園式の模様を撮った写真の下に展示された、愛楽園創設の功労者・青木恵哉が入所者を代表して述べたあいさつ文だった。

 「私等の真の悲しみと言うのは、そして最大の不幸と言うのは・・・癩者と名前を付けられると共に、望みを失う、理想と言う世界から絶縁される、其処にあるのです。」 

 参列者が次々と祝辞を述べる開園式で、その後、60年以上にわたって、ハンセン病患者、元患者が味わった苦難と絶望の歴史を予知するかのような言葉ではないか。あるいは、開園に至るまで、施設開設に猛反対の運動に遭遇し、水もない無人の小島に追いやられ、そこで孤独な生活を続けた青木恵哉ならではの言葉というべきか。 

私は動物以下なのか! 
 日中戦争が勃発した翌年1938年に設置された厚生省は戦争遂行のための「健民健兵」の名のもとに国民の体力向上を謳った。その流れのなかで、ハンセン病は近視、花柳病とともに兵力を削ぐ「三大国辱病」とみなされ、「撲滅」「駆除」すべきものとされた。そのために採られたのが武力を背景にした日本軍による「強制収容」だった。その時の模様を記した次のようなパネルがあった。当時19歳、沖縄島中部生まれの女性の手記である。

 「私は動物以下か  今すぐ来なさいって何も用意なかったよ。洗面道具と着替え12枚持って。大通りに行ったらね、トラックがあって待っていた。1人来てない人がいて待っていたから人がたくさん見に来てるんだ。『私見せ物か、追っ払え。私は帰る』言うたよ、『帰らせん』言うていたけどね。トラックの荷台にもうそのままよ。上もないしね。あちこち寄って、人乗せて。15名、・・・途中で雨降って。『傘ください』言うたら傘ないって。『バショウの葉っぱでも取っておきなさい』と言うからよ、『私は動物ですか。動物でもカバーかぶせるんだよ、雨濡らしたり、動物以下か。あんなのあるか』って怒ったよ。」

 その横には、乳飲み子と引き離され、車に乗せられて園に連れて来られたという当時34歳の女性の手記が展示されていた。

銃剣で威嚇して親族から引きはがし
 軍部による強制収容の中でも最大規模のものは、沖縄に配置された第9師団の軍医・日戸修一が中心になって19449月に行われた「日戸収容」だった。この時は当時の園長・早田や県衛生課、警察、保健婦も動員された。展示は、その時の模様をこう記している。

 「住民と将兵が地域で混在する中、日本軍はハンセン病患者に注意を向け始めた。住民と接触する機会が増えた将兵にハンセン病がうつることを恐れたのである。患者は家の裏座や離れ、家畜小屋の屋根裏などでひっそりと暮らしていたが、日本軍は武力を背景に、患者を愛楽園へ強権的に収容していった。」

 「日本刀や銃剣で威嚇し、農作業中の者を着の身着のままトラックに詰め込んだり、親族から無理やり引きはがしたりするなど有無をいわせぬものであった。」

60_4
すべての夢を捨てないと暮らしていけない
 ではこうして家族から強制的に絶縁させられ、愛楽園に隔離された人々の「壁の中の暮らし」はどのようなものだったか?

 「壁の中の暮らし 療養所の壁の中に入ると、壁の向こうを『社会』と呼ぶようになる。ここで生きるしかないと思っても、家族への断ち難い思いがある。
 対岸の国頭(くにがみ)を望む東の浜は、鳥の卵を取る子どもたちの活躍の場になり、夕暮れともなれば、昼間は患者作業で働く若い男女の語らいの場になる。
 夕暮れ時、向こう岸を走る車の付いたり消えたりする灯りを一人浜に座って眺める少年は『ここから出て家に帰ることができるのだろうか』と涙を流す。
 東の浜は、家族と断たれた人々が岩場に身を投げ、松の枝に体を下げ、自らの命を絶った場所でもある。そして、堕胎された胎児が埋葬されたのも東の浜である。」

60_3
 こうした当時の療養所の様子を収容された1人の男性(推定年齢20歳代前半)は次のように語っている。

 「夢を捨てて 社会にいることは許されなかったし、家に帰れば、家全体に迷惑もかかるし、どちらを向いても自分たちの出ていく場所はなかったわけです。
 もちろん、こういう解放される時代もあるといえば、出ていくための準備もしていたでしょうが、どうしても療養所で一生を終えるんだという気持ちで過ごしてきたんですから。私たちが社会で家庭をつくるということはもうまったくの夢の夢でね。夢の中でもない。全ての思いを、すべての思いを捨て去っていく。そうしなければ暮らしていけないという、そういう当時の現実ですから。」


| | コメント (0)

「和解」という名の歴史の抹消に抗って

20171月2日

新年のごあいさつを申し上げます。
今年も交誼のほど、よろしくお願いいたします。

  年は改まっても現実に切れ目はない。私にとって印象深かったのは、安倍首相が真珠湾訪問にあたって日米間の戦争責任問題の幕引きに「和解」というフレーズを使ったこと、このフレーズは「従軍慰安婦」問題をめぐる日韓「合意」の伏線となった朴裕河氏の言説のキーワードと奇しくも一致したということである。
  ベルラーシのノーベル文学賞作家でジャーナリストのスベトラーナ・アレクシュエービッチは昨年11月に来日し、東京外語大で学生と対話した。その時、彼女は「福島を訪ねて何を思ったか」と尋ねられ、「日本社会にはロシアと同様、抵抗という文化がないように感じる」と語った(『東京新聞』(20161129日)。

「抵抗の文化」の日韓落差
  私には比較文化論を語る素養はないが、この「和解」というフレーズは、日本における「抵抗の文化」の脆弱さと大変親和的である。個別の政策では政権が目指す方向に反対の意見が過半であるにも関わらず、安倍内閣支持率が横ばいか、上向く傾向さえある有力な理由として、現政権に代わる受け皿が有権者に見えてこないという政治状況がある。
  それとともに、安倍首相が巧みに駆使する情緒的話法―――「和解」、「寛容」、「将来の世代にまで過去の罪を背負わせてはならない」、「未来志向で世界の平和を語るべき」といった情緒的な語りかけ―――に漠然と共感し、歴史を直視する理性がへたれてしまう日本国民の心性が安倍政権への支持を繋ぎとめる一因になっているように思える。

  これに対し、韓国では、日韓「合意」から1年経った今でも、「合意」の破棄を求める意見が59.0%を占め、「維持すべきだ」(25.5%)の倍以上になっている(韓国世論調査会社・リアルメーターが昨年1228日に行った調査結果。『ソウル聯合ニュース』20161229日) 合意直後の一昨年1230日の調査では、合意は「韓国政府の誤りだ」とする回答が50.7%、「評価する」という回答が43.2%だったことと比べると、昨年1年間で日韓「合意」に対する否定的意見が増えたことになる。
 
  このような世論に押されてか、与党セリヌ党内の非朴派29人が同党から離党したことに伴い、第1党に浮上した最大野党「共に民主党」の禹相虎(ウ・サンホ)院内代表は、日韓慰安婦合意は屈辱的だとして、「政権交代後、(日韓合意を)必ず無効にするよう努力する」と発言している(『ソウル聯合ニュース』20161228日)。
  さらに、日韓「合意」の破棄を求める市民団体や地元大学生らは、昨年大晦日、プサン(釜山)の日本総領事館前に「慰安婦」問題を象徴する少女像を設置し、除幕式を行った。地元区長は、いったんは像の設置を許可せず強制撤去したものの、市民から抗議が殺到、「この問題をめぐる世論の反発に地方自治体が耐えるのは難しい」として、一転、少女像の設置を容認した。

「リベラル有識者」にまで浸透した「和解」というマジック・ワード
  ところが日本では、右派だけでなく全国紙も、安倍首相の歴史認識には一定の批判を加えるものの、日韓関係、「慰安婦」問題となると、社説で、「合意の着実な実行」を促す状況である。
  NHKは韓国側の世論の動向など意に介さないかのように、「慰安婦問題での合意を契機に日韓関係は去年、大きく改善しました」と伝え、その例として、安全保障上の機密情報を共有・保護するための協定=GSOMIAが締結されたことを挙げた(NHK NEWS WEB, 201711日、404)。
    「慰安婦」問題での「合意」の成果として、教科書での「慰安婦」問題の記憶と継承などには一切触れず、異次元の安全保障に関する協定の成立を挙げるとはどういう心算なのか? 

  さらに、市民団体や通称「リベラル有識者」の間でも、「和解」論を唱えられると、腰が引ける状況が続いている。それどころか、「和解の力」を信奉し、説法 する人物さえ現れている。朴裕河『和解のために――教科書・慰安婦・靖国・独島』2006年、平凡社、の帯に付けられた上野千鶴子氏の次のような跋は、その典型である。

  「朴さんは、和解があるとすれば、それは被害者の側の赦しから始まる、という。それを言える特権は『被害者』の側にしかない。わたしたち日本の読者はそれにつけこんではならない。彼女の次の言葉をメッセ-ジとして受け取る、日本の読者の責任は重いだろう。 『被害者の示すべき度量と、加害者の身につけるべき慎みが出会うとき、はじめて和解は可能になるはずである。」

  突っ込みどころ満載の短文である。

  「和解があるとすれば、それは被害者の側の赦しから始まる」?! 被害者が赦しの態度を示さなければ、和解は進まない、とはどういう意味か? 韓国人としての度量を示したかったのか? 歴史認識が問われる場で、そんな度量は必要ないばかりか、歴史修正主義をはびこらせ、過去を忘れさせたい加害者を喜ばせるだけの情緒的愚論である。
 
   「わたしたち日本の読者はそれにつけこんではならない。」?! つけこんでいるのは、ほかならぬ上野千鶴子氏ではないか。被害者の赦しから和解が始まるという朴裕河氏の言葉に飛びつき、「被害者の度量と加害者の慎み」を天秤にかける上野氏の言葉こそ、被害者の「度量」につけこむ悪質で低俗な発想である。

  日韓「合意」をめぐって、この1年間、韓国内で起こった出来事と日本国内で起こった言説を対比すると、「抵抗の文化」の彼我の落差を痛感させられる。数少ない救いはというと、昨年、わが国で『忘却のための「和解」-「帝国の慰安婦」と日本の責任』(世織書房)という鋭い書名の書物が出版されたことである。著者は鄭栄桓氏である。この記事のタイトルも、鄭氏の書物の書名をヒントにしたものである。

  安倍政権の「棄民政治」と対峙し、退場させるには、安倍政権の個別の主要な政策に過半の有権者が反対している民意の受け皿を作ることが緊急の課題である。目下、野党各党が唱えている「野党と市民の共闘」がそれに応えるものか、私は懐疑的であるが、懐疑しているだけでは現実は動かない。今の政権がダメというなら、それに代わる政権構想とそれを担う主体作りの形を指し示す必要がある。
   一介の研究者に何ができるかと言われるとそれまでだが、論壇をハシゴする口まかせの「著名人」に任せては市民の災禍は加重しかねない。「有識者」などという官製用語、マスコミ愛用の呼称を跳ねつける気概を持って、一人一人の市民が「主人なし」の自律した立場に徹して、意見を発信し、行動を起こす以外ない。
 その際には、「アベ政治を許すな」と唱和するだけでなく、自分たちも情緒的安倍話法に
毅然と対峙できる理性と知力を研ぎ澄まし、安倍話法に染まりがちな世論を対話の中で変えていく努力が不可欠である。

領事機関の威厳を害するのは誰か?
  プサンの日本総領事館前に「少女像」が設置されたことについて、1230日、外務省の杉山事務次官は「少女像の設置は去年12月の日韓合意の精神に反するもので極めて遺憾だ。領事機関の安寧を妨害し威厳を侵害するもので、問題だ」と韓国のイ・ジュンギュ駐日大使に電話で伝えたという(NHK NEWS WEB, 2016.12.30,19:00)。
 
 領事機関の安寧を妨害する? どういう安寧がどう妨害されるのか? 残忍な加害の歴史を抹消し、次世代にその責任を負わせず、日本の誇りを高からしめたいと願望する安倍首相の心情の安寧は害されるかもしれないが、戦時にアジア諸国の女性の人権と尊厳を蹂躙する行為を犯した日本人兵士も同じ思いなのか? 何よりも安倍氏の心の安寧と元「慰安婦」の人間としての尊厳とどちらが重いのか?

  領事機関の威厳を侵害する? どういう威厳がどう侵害されるのか? 被害国のアジア諸国の政府、市民からばかりか、アメリカからさえも明確な反省を求められている「慰安婦」問題について、一片の手紙を外務大臣に託すのみで、謝罪の手紙を直接、元「慰安婦」に届けるよう求められると、「毛頭そのつもりはない」と言い放つ安倍首相の傲慢な態度こそ、日本の品格と威厳を損なう世界的羞恥である。

ドイツのナチス戦争犯罪記憶の碑を見よ
 〔ユダヤ人のための記念碑〕
 領事館の近くに、自国が犯した戦争犯罪の記憶をとどめる像を設置されること国会の威厳に係わる行為とみなすこと自体、国際比較では特異な発想である。ドイツにおける戦争犯罪の記憶と継承の試みは、それを悟るための好例である。
 ベルリンを訪ねた人なら誰でも、ポツダム広場からブランデンブルグ門に向かって進むと間もなく、広大な無記名の石碑に出くわす。ホロコーストで「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための
記念碑」である。

40_1_2
                            2008年8月25日撮影

   建設計画は東西ドイツの統一前の1988年に提起されたが、慰霊の対象をユダヤ人だけにするのか、規模はどれくらいにするのかなどをめぐって議論が続いた末、1999年連邦議会の決定で建設が本決まりになった。完成したのは2005年である。
  ここで留意したいのは、①発議から完成までの間にドイツ国内でさまざまな議論があったが、「国の威厳を害する」などといった反対は問題にならなかったこと、②被害国に要求されてではなく、自国の連邦議会の決定として建設されたこと、③ベルリン屈指の観光地、ブランデンブルグの近くに設置されたこと、である。

 〔シンティ・ロマの記念碑〕
  上で、ユダヤ人のための記念碑の建設に長い年月を要した大きな理由の一つは慰霊の対象をユダヤ人に限るのか、ナチスによるその他の迫害・虐殺の犠牲者――シンティ・ロマ(通称、ジプシ-と呼ばれたが、ナチスが用いた差別的用語であるとして、現在は使われていない)や障害者なども含めるのかをめぐって激しい議論が続いたことにある。
  結局、2005年にブランデンブルグ門の南に設置されたホロコースト記念碑は対象をヨーロッパのユダヤ人に限ることで決着した。20088月に私が連れ合いとベルリンを訪ね、ポツダム広場からブランデンブルグ門まで歩いた時に出あったのもこの石碑だった。
  ところが、201410月にベルリンを再訪し、連邦議会議事堂へ向かう歩道を通り過ぎようとすると、道路わきにアーチ型の入り口があり、広場の中を覗くと円形の池とそのまわりにまだ日も経たない花が地面に置かれているのが見えてきた。「何だろう、確か、2008年に来た時にはこんな広場はなかったはずだが」と戸惑いながら、広場の池に近づくと、「EU COMISSION」と記名された帯が添えられた花が目にとまった。

40_3             2014年10月26日撮影

  池をゆっくり一周してなにやら碑文が刻まれた塀に近づくと、「Chronologie des Volkermordes an den Sinti und Roma」というタイトルが付いた説明版があった。予備知識がなかったので詳しい意味は分からなかったが、”Roma”という用語から、どうやら「ジプシー」の慰霊の碑らしいとわかってきた。
  後で調べると、”Sinti und Roma”もナチス・ドイツの時代に劣等人種と決めつけられ、強制収用所(「ジプシー収容所」と呼ばれた)に送り込まれるなど残酷な迫害を受けていたこと、そのため、ユダヤ人だけでなく、彼ら彼女らの迫害の歴史も後世に伝える記念碑を残すべきだという議論が続いていたことが分かった。
  この「シンティ・ロマの記念碑」が建設されたのは201210月。私たちが最初にベルリンを訪ねてから4年後のことだった。その場所は、連邦議会議事堂とブランデンブルグ門に挟まれたベルリンでも有数の観光地である。道路を隔てた向かいは広大なティアガルテンである。
  本国のこうした場所に自国が犯した戦争犯罪・民族迫害の歴史を記す建造物を自らの意思で設置したドイツと、海外の大使館、領事館のそばに、自国の戦争犯罪の歴史を記す像を被害国の市民の意思で設置されたことを「自国の威厳を犯すものと」と抗議し、撤去を要求する国と、どちらが国家としての品格を備えているか、わずかな理性があれば、答えは明らかである。



| | コメント (0)

「政治部話法」を根絶することが改革の第一歩 ~年末のNHK「解説スタジアム」を視て~

20161230
 
   29日、440分ごろまで4時間にわたって2017世界と日本 安心・安全は」と題した
「解説スタジアム・スペシャル」が放送された。今回は1年の締めくくりという意味からか、「スペシャル」と付け加えられたが、3ヶ月に1度の間隔で、さまざまな専門分野を担当するNHKの解説委員同士が時のテーマを多角的に徹底討論すえるという触れ込みの番組である。
   今回は、
1部 激論!国際社会と安全保障、第2部 暮らしの安心・安全は、第3部 “ゆたかな未来”にむけて、というように3部構成で行われた。時間が時間だけに私が視たのは第2部の中の「防災、原発、エネルギー問題」が議論された部分だけである。出演者は次のとおりだった。
   司 会:鎌田靖、アシスタント:岩渕梢
   討論者:板垣信幸・太田真嗣・後藤千恵・関口博之・竹田忠・
       早川信夫・増田剛・水野倫 之 各解説委員

多角的に論点を解説することが期待できる企画だが
   このような討論番組は、各出演者がそれと意図しなくても、各自が忌憚なく持論を語り合うことで、「予定調和的に」、視聴者に焦眉の問題について多角的に論点を解説するという結果をもたらすことを期待できる有意義な番組だと思っている。

   今回も、私が視た範囲でも、傾聴に値する意見がいくつか見受けられた。
 *「除染の費用は原発のコストに入っていない。その一方で、除染し
  ないと国土を失うことになる」(板垣)
 *「廃炉や賠償の費用を全国民の負担に転嫁しようとするのは、
   〔銃後の〕戦争被害への補償を受忍論で放棄させようとするのと
  同じだ」(早川)
 *「原発の再稼働をいかに守っていくかが最初からありきの政策
  で、もんじゅをやめても使用済み核燃料をどうするかが決まって
  いない。
  原発推進だけでやっているのでこういう決め方になる。第三者委
  員会を立ててエネルギー政策の徹底的な見直しをしなければな
  らない。」(水野)

「政治の代弁をする必要はない!」
     討論の中でこんな一幕があった。
 *「(政府が廃炉費用を電気料に課することへの批判については)
   政治担当としては、ぐうの音も出ない」(太田)
 *「政治の代弁をする必要は全然ないですよ」(司会/鎌田)

   太田氏はその前の発言でも、「政府としては・・・」と、まるで政府の報道官のようなセリフを2回、使っていて、私も視ていて、これが「NHKの政治部話法」かと思った矢先だった。解説委員同士がこんなふうに緊張感のあるやりとりをする気風が育つことはいいことだ。

   ただ、原発問題をめぐる討論は全体として、○○担当の解説委員の徹底討論というにしては、密度の薄い討論と思えた。

シャープに意見をかみ合わすには至らなかった
  この種の討論番組の成否は、ファクトベースの議論と鋭い持論がバランスよく展開されるかどうかにかかっている。この点で、私が視た範囲では、今回の「解説スタジアム」はファクトベースの議論が乏しかった。そのため、各委員の持論も雑駁で説得力に欠け、噛み合った討論にはなっていなかった。1つだけ例を挙げて、この点を説明しておきたい。

   終始、「当面原発必要論」を唱えた関口氏が、「自給率が低い日本にとって原子力は維持すべき国産エネルギーだ」と発言したが、これに対し、再稼働反対論者からの正面切った反論はなく、「原発維持政策の下では他のエネルギー開発が育たない。日頃びくびくした状態で暮らすのか、国土を失う危機を避けるのか、大きなテーマの中でエネルギー問題を考えるべき。〔その意味からは〕原発はたたむべき」(板垣)といった、雑駁な反論が出るにとどまった。
   しかし、日本は原子力の原料を自給できているわけではなく、核燃料のリサイクルで得られるウラン、プリトニウムを再利用することを指して「自給」とみなしているに過ぎない。この意味から、原子力は「準国産」などと称されている。
   問題は、そのリサイクルが破たんし、稼働の目途が立たないまま、閉鎖を余儀なくされているという現実である。
   再稼働批判論者が核燃料リサイクルの破綻を強調するなら、それと「原子力=準国産エネルギー」論をリンクさせ、「原子力=準国産」論は、核燃料リサイクルの破綻で夢想に終わろうとしている現実を指摘する意見がなぜ出なかったのか?

   こうした不満が残るが、ネット上では概ね好評で、「もっと昼間にやるべきだ」という意見がたくさん書き込まれた。同感だ。

自律的に「NHK政治部話法」の根絶を
   解説委員同士が「同僚意識」を捨てて、視聴者の前で、真剣勝負で意見をぶつけ合う中で、「NHK政治部話法」を自力で根絶できるかどうかは、NHKの報道番組にジャーナリズム精神を吹き込めるかどうかの試金石といっても過言ではない。


| | コメント (0)

国民に「伝える義務」を果たすNHKにするために

20161228日 

  「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」の運営委員会は1226日、「籾井会長退任後の当会の運動の進め方」と題する文書をまとめ、同日、会員に通知するとともに、会のHPにアップした。
  http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/ 

 また、翌27日には、この文書を次期NHK会長に就任することが決まった上田良一氏宛に発送した。
 今回の文書は、
  *籾井氏不再任に伴う受信料凍結運動の解除
  *上田新体制のNHKに対する当会の基本的立場
 という構成になっている。

 文書の後半に書かれているように、「当会は従来から、NHKの政府広報化、国策放送化は会長の資質に還元して済む問題ではなく、政治部による報道番組のコントロール、番組制作現場の職員のジャーナリズム精神の劣化といった要因によるところが大きいと考えてき」た。
  そこから、「会長が交代したことによって、NHKの『政府広報』体質が改まるのかどうか、・・・・『会長が籾井氏だから、どうにもならない』といった言い訳が通らなくなったこれからが、NHK職員の矜持と力量が問われる時だと言っても過言ではない」と考えている。
  また、これに続けて書いているように、「目下、日本では数の力に頼んだ愚劣な政治が横行し、憲法『改正』、海外での武力行使、沖縄での米軍の基地機能の拡大強化、本土へのオスプレイ配備、原発再稼働、世代を超えた貧困の深刻化など、悪政の犠牲が広がっている。このような悪政を国民の意思で一掃するには、多くの国民が『事実を知ること』、『参政に当たって十分な判断材料を持つこと』が不可欠であり、そのためにメディア、とりわけNHKが担うべき役割は非常に大きい。」

  この1年を振り返ると、安倍政権の反理性・棄民の政治が対震災被害者、対韓国(「慰安婦」問題に関する日韓「合意」)、対沖縄(基地機能の強化の問題)で際立った年だった。
 と同時に、韓国市民、沖縄県民の権力を振りかざした不条理との非妥協的な運動と比べて、私たち(「本土」の)日本人11人、さらには日本の市民運動の地力の脆弱さ、「情と和の精神が理性を覆う」政治意識のひ弱さを実感させられた1年だった。

 その背景には、1人の有権者として「知っておかなければならない事実」を知らない実態、知らされない実態がある。これからNHKにどう向き合うかを考える時、政府に不都合な事実を「知らせないNHK」を、政府に不都合であればなおさら「知らせるNHK」に変えていく運動を、さまざまな方法、創意で強めることが重要になっていると痛感している。

 ------------------------------------------------------------------------------------

                                                                
  20161226日 
     
       
 籾井会長退任後の当会の運動の進め方

         NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                       運営委員会

 籾井氏不再任に伴う受信料凍結運動の解除
 NHK経営委員会は12月6日の会合で籾井現会長を再任せず、現経営委員で監査委員を兼務した上田良一氏を新しい会長に選出した。NHKの政治権力からの自立と独自の取材にもとづく調査報道の意義をまったく理解しない妄言を繰り返してきた籾井氏の資質に照らせば当然の判断である。というより、資質の点でも品性の点でも、公共放送のトップと真逆の籾井氏を名ばかりの注意で放免し、任期を全うさせた経営委員会の無責任が厳しく問われなければならない。

 籾井氏を退任させたのは、多くの視聴者が粘り強くかつ継続的に籾井氏の言動に厳しい批判を向け、籾井氏が「非行・悪行」を行う度に即刻の罷免を要求して来たことが最大の要因である。各地で開かれた「視聴者と経営委員が語る会」で籾井氏の言動に手厳しい批判が相次いだことも、経営委員会の任命責任の重さを自覚させる大きな力になったのは間違いない。

 と同時に、各地の市民団体が3年近くにわたって続けた罷免要求の署名運動が8万筆を超えたこと、さらに、籾井氏の任期切れ半年前から、21の市民団体が共同で取り組んだ籾井氏不再任の要求署名が4か月足らずで35千筆を超えたことも、籾井会長の退場を促すダメ押しの力となった。

 当会は会長就任会見で籾井氏が「政府が右と言う時、左と言うわけにはいかない」などと発言したことを重大視し、201451日から、籾井会長の辞任を求めて半年間の受信料凍結運動を呼びかけた。残念ながら、それから半年が経過した10月末日に至っても籾井氏は会長職にとどまった。そこで、当会としては当初の呼びかけ通り、その時点で受信料凍結運動の解除をやむなきことと判断し、1117日付でその旨の見解を発表した。
 ただし、当時、籾井氏が会長職にとどまり、NHKの国策報道化が顕著になっていたことから、会員が自らの意思で受信料の凍結を続けるなら、その意思を尊重するという判断も明らかにした。

 今回、会長職への不再任という形ではあるが、籾井氏の退場が確定したことで、受信料凍結運動の所期の目的は達成された。そこで、当会は、会員ならびに当会の呼びかけに応えて受信料凍結運動を続けて来られた方々に凍結の解除、受信料の支払い再開を呼びかける。

上田新体制のNHKに対する当会の基本的立場
 次期会長に上田良一氏が選任されたことについて、「4代続けて財界出身の会長」、「経営委員から会長を選ぶのは異常」といった指摘がある。確かに、財界人の出身母体に由来する利害と公共放送のトップに求められる使命には無視できない利益相反がある。これまで経営委員として同僚だった上田氏と経営委員会が緊張関係を保ちながら各々の職務に専念するかどうかも注視しなければならない。他方、上田氏は今年の5月に函館市で開かれた視聴者と語る会で、

 「受信料は、契約を締結する義務は法律で定められていますが、支払い義務は負っていません。支払いを義務化するということは、『支払いの義務を負わせて、支払わない人に対して罰則を設ける』ということであり、国の力で受信料を徴収するということになりますので、国の影響が及んでくるという懸念があります。」
 「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではありません。」


と発言したことは注目に値する(
NHKホームページ・「『視聴者のみなさまと語る会』in函館」より)。当会は、上田次期会長が今後、こうしたジャーナリズム精神を貫いて職務にまい進するのかどうか、注意深く見守り、是々非々の立場で新執行部と向き合っていく。

 その際、重要なのは会長が交代したことによって、NHKの「政府広報」体質が改まるのかどうかである。当会は従来から、NHKの政府広報化、国策放送化は会長の資質に還元して済む問題ではなく、政治部による報道番組のコントロール、番組制作現場の職員のジャーナリズム精神の劣化といった要因によるところが大きいと考えてきた。「会長が籾井氏だから、どうにもならない」といった言い訳が通らなくなったこれからが、NHK職員の矜持と力量が問われる時だと言っても過言ではない。

 目下、日本では数の力に頼んだ愚劣な政治が横行し、憲法「改正」、海外での武力行使、沖縄での米軍の基地機能の拡大強化、本土へのオスプレイ配備、原発再稼働、世代を超えた貧困の深刻化など、悪政の犠牲が広がっている。
 このような悪政を国民の意思で一掃するには、多くの国民が「事実を知ること」、「参政に当たって十分な判断材料を持つこと」が不可欠であり、そのためにメディア、とりわけNHKが担うべき役割は非常に大きい。

 当会は今後も、予断をまじえず、NHKの番組をウオッチし、良質の報道・ドキュメンタリィ番組、豊かな文化と教養を育む番組には激励を送り、国策を援護したり、視聴者の知る権利に背いたりするような番組には厳しく批判を続けていく。また、NHKの番組に対し、政治権力の介入や圧力があった場合は報道の自由を守るために毅然と抗議していく。

 当会はNHKの報道の自由を守り、NHKのガバナンス改革を進めていくうえで経営委員会が果たす役割が大きいことを踏まえ、経営委員の選考過程の透明化、選任基準の明確化を求めると同時に、他の市民団体と共同して公募・推薦制を含む経営委員の選考制度の抜本改革を目指す運動に取り組んでいく。
 と同時に、さしあたっては、経営委員会の会議の公開(傍聴)、「視聴者と語る会」の充実(回数を増やすこと、語る会の模様をNHKの番組として放送することなど)を要望していく。

                              以上

 

| | コメント (3)

「会長が籾井さんだから」の言い訳が利かなくなった時

201612月6日

昨夜のNHKニュース7~
政府広報報道の長期保存版~
 昨夜NHKニュース7をご覧になっただろうか? リアルタイムで視てあ然とし予約で撮った録画を、改めてメモを取りながら視た。NHK報道の政府広報ぶりを示す典型例として長期保存版になりそうな録画だった。放送項目、時間配分は次のとおり。

    2016125日 NHKニュース7 ウオッチ・メモ

 1.  安倍首相、真珠湾訪問 犠牲者慰霊の意向   551
 
2.  イタリア国民投票、首相が辞任表明      619
 
3.  ブレーキ作動などデータ分析、福岡3人死亡事故 338
 
4.  まとめ記事、掲載中止相次ぐ         302
 
5.  超高層ビルに雷 破片落下の危険       341
 
6.  参院TPP特別委 安倍首相、自由貿易の重要性示す 
                         1
25
 
7.  大谷、来期は27000万円   
                      128
 
8. 安倍首相、真珠湾訪問 犠牲者慰霊の意向   234
 
9.  天気予報                    43秒 
 
 

コメント
 1. 安倍首相の真珠湾訪問の意向発表を緊急重大ニュースかのように番組内で2度、延べ825秒を充てた。放送内容も安倍首相の独演、岩田明子記者の協演解説といえるものだった。
 さらに、オバマ氏の広島訪問の返礼といった「強いられた訪問であってはならない」というオバマ大統領の気配りを伝え、「安倍首相独自の判断による訪問である」と字幕付きで伝える念の入れようは尋常ではない。

 2.③は続報。一瞬にして両親を亡くした子供のことを聞くと心が痛む。しかし、「ブレーキ作動などデータ分析」という情報を3番目に338秒を充てて伝える話題とは思えない。

 3  ④⑤は今日7時のニュースで伝えるほどのニュース価値があるとは思えない。もっと時間枠のある「おはよう日本」で取り上げればよいのではないか。

 4. ⑥の扱いに大きな疑問。「国のかたちを変える」とまで言われるTPP協定案。大詰めを迎えた国会審議というのに、質問に立った与野党8人のうち、放送されたのは公明党の議員と安倍首相との一往復の質疑のみ。時間にして125秒。⑦の「大谷、来期27,000万円」という話題よりも短かった。なぜ公明党議員の質問だけなのか? この1点だけでも大問題と思えた。

「会長が籾井さんだから」の言い訳が外れた時

 籾井現会長の不再任が濃厚になったと各紙が伝えている。当然のことというより、今まで罷免もされず、会長職にとどまり続けさせた経営委員会の体たらくが情けない。
 そんな中、今夜のニュース7を視て考えた。今日に始まった感想ではないが。

   籾井氏が会長職を退いたとして、今日のようなあからさまな政府広報はNHKの報道番組から姿を消すのか?

   「会長が籾井さんだから」という言い訳が、「政治部には、上司の指示には逆らえない」という言い訳にとって代わることはないのか?
 
 NHK
の番組制作スタッフの個としてのジャーナリズム精神の真価が問われ、NHKの報道番組の真贋を見極める視聴者の眼力、醜悪な番組を正す行動力が試される時である。

言論の自由を実践する場はメディアの外ではなく、内にある
  「J氏は新聞社に身を置きながら、『世界』に書いているようなことを組織内で堂々と主張し、上司と闘っているのだろうか。新聞労連の委員長氏は出身母体に戻ったとき、数々の正論をその通りに主張し、堂々と社内で上司と議論しているのだろうか。」

  「『言論の自由』は、対権力との関係において語られるが、しかし、言論の自由を実践する場所は『対権力=メディア企業の外側』ではなく、メディア企業の内部にこそある。」

(高田昌幸「北海道新聞を去るにあたって 『組織』ジャーナリズムとジャーナリスト『個人』の狭間で」『マスコミ市民』20119月)


| | コメント (1)

TPPバスから下車することが唯一・最善の道~12月2日、参議院TPP特別委で意見公述~

2016124

  今月2日、急きょ、参議院TPP特別委員会に参考人として出席して意見を公述した。私の他、遠藤久夫氏(学習院大学教授)、西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)が冒頭15分ずつ意見を述べ、その後、7会派の委員と各20分、質疑を交わした。以下はその録画である。

醍醐の冒頭の意見陳述の録画 (約16分)
https://www.youtube.com/watch?v=tf7DV5eTtP0&feature=youtu.be
 

公聴会全体(7会派の議員との質疑を含む)の録画 
https://www.youtube.com/watch?v=P0DSFaZh9-w&feature=youtu.be
 

なお、NHKが夕方のニュースで公聴会の模様を短く伝えたことを一昨日、帰宅して知った。

TPP参院特別委で参考人質疑 医療分野で意見NHK 122 1618分)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161202/k10010792771000.html
 

 なお、ネットを検索するうちに、「ももな」というニックネームの方が私の冒頭意見陳述を文字におこしてくださっていることを知った。
http://ameblo.jp/sumirefuu/entry-12225264393.html

ご尽力に感謝しながら、拡散可という趣旨の添え書きがされているので、以下、転載させていただく。なお、私の不明瞭な発言のため、聞き取りづらかったことから表記の正確を期すため、数か所、訂正と加筆をさせていただいた。また、このブログに掲載するにあたって小見出しを付けた。なお、参議院としての議事録が追って作成される。それが公式の記録である。

------------------------------------------------

               醍醐聰 冒頭意見陳述

 醍醐と申します。こういう機会を頂きましてありがとうございます。

国会承認は譲歩の国際公約となる
 私が申し上げたい事は、大きく二つでございます。もはや発効が見込めなくなったTPP協定。それでも国会で承認するという事は、ただ無意味であると言うにとどまらず、危険な行為だと言う事をお話ししたい。
 では、どこが危険なのか。協定案をスタートラインとして、二国間協議に入って行く事がどうして危険なのか?その事を少しお話しします。その場合、本日の主なテーマである医療、薬価問題を中心にお話ししたいと思っております。

 TPP協議に参加入りを決めた時に、全国の大学教員が非常に将来を危惧しまして、約850人の様々な分野の大学教員、私の様な名誉教授も含めまして、TPP参加交渉からの脱退を求めようという会を作りました。
 今回、1128日に緊急声明を発表しました。今日の私の話と関わる所を少し読み上げさせて頂きます。

 「死に体のTPP協定をわが国が国会で承認しようとするのは、無意味であるというにとどまらず、危険な行為である。協定文書を国内で承認すれば、仮にTPPが発効に至らないとしても、日本はここまで譲歩する覚悟を固めたという、不可逆的な公約と受け止られ、日米二国間協議の場で協議のスタートラインとされる恐れが多分にある。」
 この点を私は強調したいと思っております。

 これは実は大学教授の会だけが言ったのではなくて、安倍首相ご自身が国会で実はおっしゃっている訳です。28日、昨日、私もテレビで見ましたが、この特別委員会の場で安倍首相はこういう答弁をされています。

 協定案が国会で承認されるならば、「日本がTPP並のレベルの高いルールをいつでも締結する用意があるという国家の意志を示す事になる」、こういうことを明言されています。解釈は全く逆ですけれども、将来の見通しについては奇しくも同じになっている様な気がしました。
 しかし、その解釈の違いなのですが、つまりTPPバスの行き先が全く違うと言う事ですね。協定案は、それほど、安倍首相がおっしゃるほど胸を張れる内容なのか?  バスの行き先は、墓場から至福へといつ変わったのか? 私は変わったとは思っていません。むしろTPPの原理主義で例外無き関税撤廃に向かってひたすら走り続けるという事だと思っております。

国会決議に背く協定案
 そのようなTPP協定を国会が承認すると言う事は、そもそもなぜ危険なのかというと、危険に警鐘を鳴らした国会決議に背いていると言う事です。これにつきまして、ある議員が「日本は他国に比べて多くの例外を確保した」とおっしゃっていました。昨日、TPP特別委員会をテレビで見ておりまして、その録画をとってお配りしている〔パワポバージョンの〕資料に貼付けました。これは、よく頑張ったというおっしゃり方でした。しかし、この他国に比べてと言う時に、日本は他国がほぼ100%関税を撤廃したのに対して、日本は全品目では95%農林水産品では82%という数字をパネルで紹介されました。問題は、この82%から外れたのは一体なんなのだと。その事を触れられなかったのを私は奇異に思いました。
 重要5品目が594ラインです。そのうちの28.5170品目で関税を撤廃しております。また、269品目45.3%で税率削減か新たな関税割当をしております。このような内容抜きに、よくやった!ととても言えるものではないと思っております。

 しかも強調したい事は、この協定案がファイナルではないと言う事です。これからがむしろ、どんどんとTPPバスが先へまっしぐらに走り続けると。その事が、皆様には言うまでもない事ですが、協定案の附属書をご覧になればもう随所に協議、協議と言う言葉が登場します。しかもまた、セーフガードにつきましても牛肉は16年目以降4年間連続で発動されなければ廃止。豚肉は12年目で廃止。と軒並み廃止です。

片道切符の継続協議の約束に触れないのは欺瞞
 次のページです。安倍首相は再協議には応じないってことを繰り返しおっしゃっています。私はこの言葉がすり替えだと言うふうに思う訳です。
 そもそもTPP協定案で明記されているのは再協議と言う事ではなくて、協議、協議、つまり継続協議を約束すると言う事が、TPP協定の根幹だと思っているわけです。
 「協議を継続する」と協定案の中に明記されている事を、あたかも任意でやったりやらなかったりできるかのような「再協議」と言うふうに呼び方を変えると言うことはすり替えだと思います。
 しかも、この継続協議といいますけれども、逆戻りが出来るのかどうなのかです。

 

片道切符のバスと書きましたが、例えば第241では、「いずれの締約国も現行の関税引き上げ又は新たな関税を採用してはならない」となっている訳ですから、もう逆戻りは出来ないということです。これは、もう好き嫌いではなくて約束している訳ですね。これは安倍首相といえども変える事は、離脱しない限り、出来ない訳です。
 それから、同条の2で「漸進的に関税を撤廃する」ということも明記しています。
 また、同条3では、「関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため、協議を継続する」と言う事も明記しております。
 さらに、「附属書2D 日本国の関税率表 一般解釈の9a)では、「オーストラリア、ニュージーランド又はアメリカ合衆国の要請に基づき、原産品の待遇についての約束、これにはセーフガードも含むとあります、について検討するため、この協定が効力を生じる日の後7年を経過する日以降に協議する」となっています。協議と言いましても、どちらにも向けるのでは無くて、関税を下げる、撤廃の方向にひたすら走る協議だということは、もうこれは動かせない事実となっております。
 この後は少し、医療をめぐって、意見を述べさせて頂きたいと思います。

医療の分野にも組み込まれた継続協議の約束
 協定の第26章、このあたりは時間が無いのでやめますが、その中の第5条で
 「各締約国はこの附属書に関連する事項について協議を求める他の締約国の要請に好意的な考慮を払い、協議のための適当な機会を与える」と言っています。つまりTPP協定全般ではなくて、医療でもこのような約束が明記されています。

 また、この協議に関して、日米両国間が交わした書簡が含まれています。今年の24日に日米がかわした書簡で、フロマン氏からこういう書簡が出されています。

 「日本国及び合衆国は、附属書26A5に規定する協議制度の枠組みの下で、附属書に関するあらゆる事項、この中には保健医療制度を含むとあります、について協議する用意があることを確認する。本代表は貴国政府がこの了解を共有する事を確認されれば幸いであります」と書かれています。これに対し、同じ日に高鳥修一副大臣名で、
 「本官は、更に、日本国政府がこの了解を共有していることを確認する光栄を有します。」
と述べています。
 つまり、この書簡で医療をめぐって協議を入る事を約束している、TPPの中に二国間協議の入り口がリンクされている訳ですね。ですから、TPPと二国間協議はもう連動している訳です。TPPを承認すると言う事は、このような協議に入る事を約束すると言う事になる訳です。
 あるいは、TPPが発効しなくても安倍首相の言葉を借りれば、それを国際公約として胸を張って約束するということをおっしゃっている訳ですね。

二国間協議で薬価の高止まりを要求する米国
 そのことが、どういう懸念があるのかと言う事ですが、20112月に発表されました日米経済調和対話の中の米国側関心事項と言うのがあります。
 その中で、先程からちょっと出ました、新薬創出加算を恒久化する。加算率の上限を廃止すると記しています。それから、オブジーボの件でこの後、出てくる市場拡大再算定ルールが、企業のもっとも成功した価値を損なわない様、これを廃止もしくは改正すると。こういう事を米国は要望事項として出しています。
 その市場拡大再算定ルールを前倒しで使って半額にしたのがご承知のオブジーボです。詳しい事は時間が無くて触れられません。これが前倒しした事でオブジーボは緊急でしたが半分に下がった訳です。
 因にこれオブジーボだけでは無いということを申し上げたいので、(お配りしました)高額新薬品データー一覧をご覧ください。例えば、一瓶あたりとか、あるいは一日薬価とか、12週間とか。軒並みこれが一日薬価でも万単位はざらに出て参ります。このようなものが軒並みある訳ですね。これらをどうするのかと言う時に、予想よりも市場が拡大した、あるいは効能が拡大した、そのことをもって、それに市場が拡大したものに見合うだけ薬価を下げると言う仕組みが、今後の薬価の高止まりを抑える決め手になると私は思う訳ですが、アメリカはそれをやると成功した医薬品の価値を損なうといって廃止を求めてきている訳です。これはものすごく脅威だと私は考えております。

あり余る余剰資金~開発費の回収は薬価加算の理由にならない~
 私がこういうことを言うと、それをやると新薬開発のインセンティブを損なうのではないかという指摘がございます。しかし私、会計学を専攻している者として、これにはどうしても一言二言申し上げたいと思う訳です。
 「開発費の回収は薬価加算の理由にならない」と書きましたスライド原稿のところです。今回、意見陳述の準備をする過程で20052014年度の売上高営業利益率調べました。売上高を100とした時に営業利益としていくら残ったかの割合です。製造業の加重平均は3.4%でした。それに対し、東証一部上場27社の製薬企業は16.3%、製造業平均の約5倍弱でした。
 大事な事は、この営業利益というのは試験研究費を費用として差し引いた後の数字だと言う事を是非ご理解頂きたいと思います。
 次に、今度は製薬企業上位16社の財政状況です。製薬工業会が出しているデーターですが、20103月期から20163月期の6年間で見ますと、留保利益は7.5兆円から8.7兆円に1.2兆円増えています。では留保利益全部を設備投資等に使ったのか? そうじゃない。この間、現金預金は1.6兆円から2.7兆円。つまり留保利益が増えたのとほぼ同じ額だけ、手もとの現金預金として持っている訳です。
 もっと薬価上げて欲しいと言う前に、これなぜ使わないのですか?こんな状態で、お金が足りない、インセンティブが損なわれます、なんて言って社会的に通用するのかということを、ぜひとも申し上げたい訳です。

国民皆保険を未来の世代に引き継ぐ政治の責任が問われている
 最後に私が感銘を持ったのは、201374日、自民党長老の尾辻秀久議員が選挙の出陣式でおっしゃったことです。YouTubeで聞きました。こういう場で画像まで取り出すのはいかがかと思ったのですが、貼り付けました。
 「米では4000万人が医療保険に加入していない。」
 「WTOは世界の医療保険制度で文句なしに日本が一番と太鼓判を押した。」
 「なんで15番の国、米から世界一の日本が偉そうに言われるんですか?」
続きまして、
 「私たちの宝を、米の保険会社の儲けの走狗にするためになくすなどという愚かな事を絶対にしてはいけない。」

 私はこの言葉を聞いて本当に感銘を覚えました。そこでこれを受けまして、最後に。

・多国籍製薬資本の営利に国民皆保険制度を浸食されて良いのか?
・国民皆保険制度を財政面から揺るがさないためには、TPPバスから
 下車するのが唯一最善の道だと私は考えます。
・結局、今、国会議員の皆さま、あるいは国民一人一人、有権者一人
 一人に問われているのは、未来の世代に尾辻さんのおっしゃる貴
 重な財産、宝物を未来の世代にしっかりと引き継ぐ事ができるのか
 どうなのか。それを引き継ぐ責任が問われている、

と言うふうに申し上げて終わらせて頂きます。

 



 

| | コメント (0)

TPPからの離脱を~大学教員の会:緊急声明を発表~

 20161128
 
 TPPの国会承認手続きが緊迫した状況になっている折、「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」は17名の呼びかけ人が協議した結果、本日、次のような緊急声明をとりまとめ、報道関係者にリリースするとともに、TPPに関わりが深い団体、個人に広報した。(以下、文中で赤字にしたのは筆者の編集である。)

 -----------------------------------------------------------------

                   20161128

緊急声明
  TPPの国会承認手続きを中止し、TPP協定からの離脱
           を要求する

     TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会

 日本政府はトランプ・米次期大統領がTPPからの離脱を明言した今もなお、日本主導でTPPの発効にこぎつけると公言し、国会承認手続きを強行しようとしている。
 当会は、以下の理由から、政府与党のこうした動きに強く抗議し、TPP協定の国内承認手続きを直ちに中止するとともに、日本がTPP協定からすみやかに離脱することを要求する。

 1.目下、国会で承認を求められているTPP協定には、わが国がTPP交渉に参加するにあたって衆参農林水産委員会で決議された事項に反する内容が随所に含まれている。そのような協定文書を国会が承認することは国権の最高機関として自殺行為に等しい。また、TPP反対を公約に掲げて当選した国会議員がTPP協定の承認を強行する「数の力」に加担するのは国民に対する重大な背信行為であり、とうてい許されない。

 2.目下、国会で審議されているTPPのテキストだけでは不明な懸念事項が山積している。
 協定文書には、「物品の貿易に関する小委員会」、「農業貿易に関する小委員会」、「政府調達に関する小委員会」などの設置が明記され、多くの分野で追加協議が行われることになっている。政府は再協議には応じないと語っているが、かりにTPPが発効した場合、これら小委員会の場で日本に対し、目下の最終テキストを上回る市場開放要求ならびに規制・制度の改変・撤廃の要求を突きつけられる公算が大である。
 そのように不透明な要素をはらむTPPを前のめりに承認することは、わが国の国民益をグローバル企業に売り渡す危険を顧みない暴挙であり、許されない。

 3.とはいえ、米国の離脱が確定的になったことから、TPPの発効はもはや不可能となった。そのような死に体のTPP協定をわが国が国会で承認しようとするのは無意味というにとどまらず、危険で愚かな行為である。
 なぜなら、トランプ次期米国大統領はTPPに代えて、今後はアメリカ第一主義の立場に立った二国間協議に注力すると明言している。日本がこの二国間協議の最大のターゲットになることは明らかである。となると、日本が各国の動向を顧みず、協定文書を国内で承認すれば、たとえ、TPPが発効に至らないとしても、各国から「日本はここまで譲歩する覚悟を固めた」という不可逆的な国際公約と受け取られ、日米二国間協議の場で、協議のスタートラインとされる恐れが多分にある。このような懸念は以下の事項で特に大である。
 
 ➀ すでに日本はTPP協定交渉に参加するにあたって「入場料」としてBSEの輸入制限を30か月齢以下まで緩めた。この先、米国は「科学的根拠を示せない輸入制限は撤廃すべき」と迫ってくることは必至である。遺伝子組み換え食品の表示やポスト・ハーベストの規制についても同様の論法で撤廃を迫られる恐れが強い。TPP協定文書では、農業・畜産の分野で関税ゼロに向けた片道切符の市場開放の協議を約束させられている。
 TPPの発効を待たず、「自主的に」米国の理不尽な要求に屈して市場を「開放」してしまった汚点は消えないが、TPP協定の国会承認を思いとどまることは、これ以上、米国の要求を飲まされる「アリ地獄」にはまらないための歯止めとしての意義がある。と同時に、国会決議に反して約束させられた市場開放を無効化し、今後の日米二国間協議で理不尽な市場開放・規制撤廃要求を拒む足場となる。

 ② もう一点は医療の分野での懸念事項である。わが国では超高額医薬品の登場が大きな社会問題(限度を超える患者負担、医療保険財政への過重負担)となっている。過日、市場拡大再算定制度を発動して緊急の値下げが図られた事例があるが、米国は日米経済調和対話の場で、「成功した製品の価値を損なう」として、この薬価再算定ルールの撤廃を要求してきた。
 わが国が「自由貿易主義の旗手」を気取って国民のいのちと健康を守る規制の撤廃を受け入れる意思を表明したり、国内の審議機関への外国資本の参加に道を開いたりすることは、米国第一主義の餌食となる恐れが強い。

 当会は、対等平等、互恵の精神に立った国際的な経済連携の実現を期待する立場から、それとは相容れない、食の安全と自給、国民のいのちと健康、国と地方自治体の経済主権を多国籍資本の営利に明け渡すTPPの国会承認の中止、TPP協定からの離脱を政府と国会に要求する。

                           以上

 ------------------------------------------------------------------

 
なお、大学教員の会の呼びかけ人(17名)は以下のとおりである。
  磯田 宏(九州大学准教授/農業政策論・アメリカ農業論)
  伊藤 誠(東京大学名誉教授/理論経済学)
  大西 広(慶応義塾大学教授/理論経済学)
  岡田知弘(京都大学教授/地域経済学)
  金子 勝(慶応義塾大学教授/財政学・地方財政論)
  楜澤能生(早稲田大学教授/法社会学・農業法学)
  志水紀代子(追手門学院大学名誉教授/哲学)
  白藤博行(専修大学法学部教授/行政法学)
  進藤栄一(筑波大学名誉教授/国際政治学)
  鈴木宣弘(東京大学教授/農業経済学)
  醍醐 聰(東京大学名誉教授/財務会計論)
  田代洋一(横浜国立大学名誉教授/農業政策論)
  萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授/アメリカ経済論)
  日野秀逸(東北大学名誉教授/福祉経済論・医療政策論)
  廣渡清吾(東京大学名誉教授/ドイツ法)
  山口二郎(法政大学教授/行政学)
  渡辺 治(一橋大学名誉教授/政治学・憲法学)




| | コメント (1)

「国家の干渉からの自由」を超えて「国家への干渉の自由」を

20161110

 私も共同代表の末席に加わっている「東京・教育の自由裁判をすすめる会」から昨日、第12回定期総会の案内状が届いた。その中で出席がかなわない場合はメッセージを、と書かれていたので、欠席の通知と併せ、次のようなメッセージを送った。小見出しはこのブログに転載するにあたって追加したものである。

  ----------------------------------------------------------------

                      20161110
東京・教育の自由裁判をすすめる会
12回定期総会へのメッセージ

                      醍醐 聰

「内心の自由」は個人の尊厳を守る最後の砦
 長らく名ばかりの共同代表となっていることを申し訳なく思っています。
 「絶望の裁判所」ともいわれる司法の扉を一歩ずつ開かせ始めた皆様の長期にわたる粘り強い運動に心より敬意を表します。

 私は日の丸、君が代の強制に反対する運動に関わって以来、「内心の自由」は人間の尊厳を守る最後の砦と考えてきました。
 と同時に、私は「内心の自由」とそれを表現する「外的行為の自由」を
切断する論法にも大いなる異議を感じてきました。
 なぜなら、言論の自由が奪われた極限的状況のもとでは「沈黙する自由」は人間としての尊厳を守る最後の砦と言えますが、言論の自由が強権的に封じ込められたわけではない今日、言論・表現の自由とは個人の興味にふける自由でもなければ、「
国家の干渉からの自由」だけでもなく、「国家への自由」、つまり、主権者たる国民に国家を奉仕させる能動的自由でなければならないと考えるからです。

意見の違いは「認め合う」だけでよいのか?
 
今回、お送りいただいた案内封筒に「この国をいろいろな意見の違いを認め合う寛容な社会に」というタイトルが付けられたパンフレットが同封されていました。日の丸、君が代の強制に反対する運動の啓蒙的な文書としてはもっともです。
 ただ、言論、表現の自由のそもそも論から言えば、意見の違いを認め合うことが究極の目的ではないと私は考えています。各々の意見、思想を尊重し合いながら、ぶつけ合うことによって、互いに自省し、啓発し合って、各人の理性を磨き、高め合うことこそ、言論の自由の究極の価値であり、目的であると思うからです。

 上記のパンフレットで使われた例えでいえば、「原発は安全だと主張する自由」も「原発は危ないと主張する自由」も認め合うことが言論、思想の自由の本意ではなく、真理に近づくために不可欠な、「思いの通りに物を言う」自由のことだと思うのです。

 日の丸、君が代にしても、教職員の方々自身の人権、尊厳という面からは別の議論があり得ると思いますが、教育という観点からは、「起立する自由」と「起立しない自由」、「歌う自由」と「歌わない自由」を認め合うことが究極の目標ではないと考えています。そうではなくて、日の丸、君が代の成り立ち、使われ方を共同で考え、討論すること通じて、日本の歴史、とりわけ近・現代史の真実を、世界史の中で、学ぶ機会にするという能動的な位置づけが重要ではないかと感じています。
 両方の自由を認め合うということは、意見の違いを「脇に置く」、「棚に上げる」ことでも、日の丸、君が代を「タブーにする」ことでもないと思うのです。

「日の丸・君が代」強制に対する「攻めの運動」を
 昨今、国家の統治権と人権を逆転させる動きが強まっています。しかし、本来、国家は人権の保障のために形成された機構であり、国家の統治権は人権の保障という目的に沿ってのみ行使されうるものです。

 天皇の生前退位、天皇の「公務」の範囲に関して議論が集まっています。しかし、それ以前に、私は、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」という日本国憲法の第1条で言われる「統合」とはいかなる行為、表象的効果を意図するのかに関心を向けています。

 「主権の存する日本国民の総意に基く」と断りながら、天皇の名において意図される「国民統合」とは何を意味するのか、象徴に過ぎない人物、造物が主権者を統合するとは、いかなる意味なのか、日の丸、君が代はそうした「国民統合」のツールとは無縁なのかどうなのか、という疑問です。

 過日のリオ・オリンピックでは、「国威発揚」を掲げ、国家が国旗・国歌というシンボルを用いて国民、世論を束ねようとする動きが顕著でした。東京五輪・パラリンピック組織委会長の森喜朗元首相は「どうしてみんなそろって国歌を歌わないのか。国歌も歌えないような選手は日本の代表ではない」と公言しました。

 机上の理想論と言われることを承知のうえで、私は前記のような問いかけを掲げた「攻めの運動」を皆様に期待したいと思います。
 私も、この十数年、関わっているNHKの報道を正す市民運動の中で、また、ささやかな自分のライフワークの中で、言論、報道の自由を「国家からの干渉を拒む自由」にとどめず、国民の知る権利に応える「国家への自由」に近づける運動に微力ながら、参加したいと考えています。




| | コメント (0)

3万筆まであと1,000筆~次期NHK会長選考への要望署名~

2016114

〔続報/11月5日、1時34分追記〕 累計3万筆突破
 11月4日24時現在の集約で累計署名数は3万1,503筆となった。
 11月4日の増加署名数: 用紙署名2,379筆 ネット署名96筆
                 計2,475筆

 今日にも3万筆突破
 8
11日以降、全国27の市民団体は連名で次期会長選考に向けた3項目の要望の賛同署名は目下、第三次の呼びかけ中(集約日114日、最終締め切り116日)であるが、昨日(113日)現在で用紙署名到着分とネット署名を合わせ、累計で29千筆を超え、3万筆まであと一歩になった。今日、明日にも3万筆を超える見込みである。

  万単位の署名を積み上げることが、経営委員会に視聴者の声を届ける力の一つになると考えている。それだけに、残る期間内に市民団体の自力と多くの方々のご協力で、ぜひとも3万筆に少しでも上積みする署名を達成したい。

 署名呼びかけの詳細は次をご覧いただきたい。ネット署名の入力フォーマットも入っていて、そのままで送信できます。署名用紙のダウンロードもできます。ご協力をお願いします。
 署名用紙のダウンロード  
   http://bit.ly/2aVfpfH


 
ネット署名の入力フォーム   
  https://goo.gl/forms/G43HP83SSgPIcFyO2
 
ネット署名に添えられたメッセージはNHK改革の宝の山
 今回の次期NHK会長人事に関する要望署名運動は数を追求するだけの運動ではない。ネット署名に添えられたメッセージを読んでいくと、NHKを視聴者本位の公共放送に改革していくための宝の山という気がしてくる。と同時に、NHK問題に関わってきた自分の感性を洗い直す数多くの材料を得た思いがしている。

 メッセージの中のいくつかを、このブログでこれまでに6回にわたって紹介してきたが、以下では、この6日間に届いたメッセージの中から4つを紹介しておきたい。
 すべてのメッセージは、個人情報を伏せて、次のサイトで公開している。
 https://goo.gl/GWGnYc


以下、冒頭に付けるのは通しの番号である。

 --------------------------------------------------------

2021

NHK番組でフリーランスとして、時折仕事をします。今のNHK体制だと恥ずかしくて、胸を張って自分の仕事を知人に紹介できません。現状の体制を改善するためにも、籾井現会長の再任に強く反対します。」
 
1029 フリーランス 映像関係)

4038
NHKのニュースと論説などは、ほとんどみません。以前のNHKを思うとまったくの、政権のプロパガンダ機関です。とくに、私たち沖縄に住む者にとっては、最悪の『公共』です。ほとんど、沖縄民衆の敵対者といってもいいものです。職員のなかには良心的で、現状を憂えている者も多数いるはずです。このままではのちのち大変なことになります。」

 (1031日/沖縄県)

4645

「国民の知る権利を奪うNHKの在り方、特にニュース報道に抗議します。私は、1956年生まれ、ちょうど中学生の頃、公害訴訟で負けっぱなしの原告側に物申すNHKの報道(朝ドラが始まる前7:458:15)を毎朝見て、歩いて3分の中学校に通ってました。私にとって国とは弱いもの、国民の見方ではないことをこの時代のNHKの報道から学び、憲法を教えたく教員の道を歩んできました。中立とは、日本国憲法が基準ではないのですか?」

111日/東京都)

4682
「偏向報道にうんざりしています。事実関係を淡々と伝えてほしいと思います。ささやかな、私なりの抗議として受信料契約を拒否し続けてきましたが勧誘員玄関ドアを激しく叩くという脅しについに屈し、今年になって契約してしまいました。大男が大声で呼びながらドアをたたくので恐怖を覚えました。所謂お笑い芸人が相方をひっぱたくような番組制作にも受信料が使われているのだと思うと怒りを覚えます。情けないことに、もっぱら衛星放送で映画を視聴して、元を取ったと思い込もうと努力しております『安倍放送局』は早急にやめていただきたいです。」

111日/岐阜県)

4886
「政府が隠し続ける事実を隠す手伝いをするのが、公共放送の役割ではないはずです。

国民の不利益を報じないのは報道機関としての役割放棄です。報道機関自らの報道規制は、先の戦前と変わらぬ事態です。国民に誤った歴史認識を植え付けたりしないで!

国民の目となり耳となり、事実を報道する勇気を持ち続けてください。権力に迎合するのは、容易いことですが、国民の立場に立つことは生半可ではできないこと。しかし、どんな困難な時代でも人間的であり続ける勇気を持ってください。報道の果たすべき役割はとてつもなく大きく、時代を変える力を持っています。それだけに、責任も重大です。報道機関としての誇りをどうかかなぐり捨てないでください。権力に自分を売り飛ばすな!人間であり続けて!」

113日/埼玉県)

 

| | コメント (1)

TPP国会審議~数による意思決定の場に堕落してよいのか

20161030

 『農業協同組合新聞』電子版が連載している<シリーズ:TPP阻止へ! 現場から怒りの声>の本日付紙面に以下のような筆者の談話が掲載された。1028日に取材を受けて話した内容を編集部がまとめたものである。
 TPPがろくに審議もされないまま、週明けにも採決されようとする現実を目の当たりにして、日本の議会制民主主義が「数だけがものをいう」野卑な多数決主義に堕落していることを告発しようとしたものである。
 審議事項に関して識者の知見を聴き、審議の参考に供するのが本旨のはずの「公聴会」が採決のための単なる通過儀式に成り下がっている姿はその象徴である。以下、全文を転載する。

 
 -------------------------------------------------

 
国民への忠誠忘れた与党 民主主義は完全にマヒ
 
【醍醐聡・TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会呼びかけ人(東京大学名誉教授)】
(『農業協同組合新聞』電子版 20161030日)
 http://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2016/10/161029-31231.php 

 私はこれからの大事なキーワードは「地方」であり、地方が主体だと思いますが、TPP協定による農業への打撃は地方を衰退させると思っています。
 農業はもちろん食料の供給源であり、TPPによって食料自給率がさらに低下し危機的になる恐れがありますが、農業が衰退するということは地方の人口減、農業関連産業も含めた産業の衰退による就業機会の減少などでさらに人口減に拍車をかけることも心配されます。
 それは地域の医療機関を成り立たなくさせて医療機関の統合などとなれば住民の医療機関へのアクセスが悪くなる。それがまた人口減につながり学校も廃れていってしまう。
 TPP協定では公共事業調達で地元調達をしようとすると内外無差別の原則に反するということですから、学校給食での地産地消も、韓米FTAの例を見ても明らかなように脅威にさらされてしまう懸念があります。
               ◇    ◇
 医療や薬価の問題では、ガン治療薬のオプジーポなど良く効くけれども、非常に高額で患者負担も大変です。これをかりに高額療養費制度で負担を抑えたとしても、それは結局、保険財政に回っていくことになります。無くては困りますが、年間1人3000万円もかかってしまう。抜本的に薬価の決め方を変える必要がある状況に至っています。
 しかし、こうした医薬品は米国企業やその子会社のものです。これから外資が入ってくるというのではなく、すでに外資が上位を占めている。TPP交渉と並行して行われた日米並行協議では、外資が薬価決定にわれわれも参画させろといっている。薬価を引き下げるような決定をしようとすればISDS条項などを使って脅しがかけられる懸念もあります。日本の保険財政の立て直しに対して横やりが入ってくる可能性があるのです。
 こうしたことについて何の議論もせず、国民皆保険制度は交渉のテーブルに乗っていないから心配ありません、という言い方で批准しようとしている。
               ◇    ◇
 国会審議を見ていると結局、政治の質が問われていると思います。これまで国会決議には与党も賛成してきました。もちろん選挙のときの公約もありました。
 それにも関わらず、ここに及んで与党のなかから何ら異論がまったくない。本当に一色に染まっている。
 これを見ていると、日本では自分が属している集団や組織への忠誠は強いが、自分たちの集団外や組織外、とくに今回の場合は国民への忠誠ということですが、それはまったくどこかに行ってしまうということが、今回如実に表れているのではないか。自分が属している政党への忠誠はあっても、国民への忠誠というものは消えてしまう。
 TPPに限らずいろいろな問題でこうした体質が表れてしまうと日本の民主主義というのが完全にマヒしてしまい、政治とはただ数による意思決定の場でしかなくなってしまう。審議など非常に無意味なものになっているのではないか、それを露骨に現しているのではないか。単なる多数決主義に民主主義が堕落してしまった姿を痛感します。非常に重大な問題です。



| | コメント (0)

«上村達男氏のNHKガバナンス論の真贋                ~赤旗編集局への書簡(7/7)