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NHKは英国の公共放送BBCから何を学ぶべきか(1)

NHKに問われる政治的商業的圧力からの自立
 
NHKは、さる1月24日に発表したむこう3年間の新経営計画の中で「NHKの予算・事業計画の国会承認を得るにあたっても、会長以下全役職員は、放送の自主自律の堅持が、信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき業務にあたります」という規律を新たに明記した。

4年前、ETV番組が政治家の介入で改ざんされたきっかけになったのがNHK予算の事前説明をめぐってNHK幹部と国会議員が接触した場面だった。このことを考えると、新経営計画に明記された上記の規律は注目に値する。しかし、問題はこれがいかに実行されるのかである。

そこで、今回は、『現代思想』20063月号に発表した拙稿「公共放送における受信料制度の意義」の2節に加除・編集をして、英国の公共放送BBCが政治的商業的圧力からの独立のためにいかに腐心してきたかをまとめた。

英国公共放送の財源方式をめぐる議論の歴史
 イギリスの公共放送、英国放送公社(BBC)はテレビ所有者から徴収する受信許可料(licence fee)で全収入の99.2%をまかなっている(BBC Annual Report, 20042005)。しかし、BBCにとって受信許可料制度は常に安定した財源であったわけではない。1927年の設立以来、BBC10年ごとに国王から特許状を受けるという形で放送免許を更新しなければならなかった。そのため、BBCは時の政権のメディア戦略からの牽制・影響を免れなかった。サッチャ-政権時代、「BBC嫌い」で知られた同首相は受信許可料を「刑事罰によって強制された人頭税」と批判し、BBCへの広告料導入論に火をつけた。また、同首相の諮問によって設置されたピ-コック委員会は1986年にまとめた報告書の中でBBCを視聴率競争に追いやるという理由で広告料の導入は退けたが、視聴者が見たい番組だけを個々に対価を払って見る有料契約方式(subscription)が消費者主権に適うとし、しかるべき時期にこの方式に移行するよう提言した。

しかし、こうした時の政権との確執にも拘わらず、受信許可料制度は依然としてBBCの財源調達方式として幅広い支持を得ている。ここでは、その象徴ともいえる20053月に英国文化・メディア・スポ-ツ省が公表したBBCに関する政府提案(グリ-ン・ペ-パ-)『強いBBC:政府からの独立』(1)の中の「財源」の項を見ておきたい。


3つの財源方式の比較検討
 グリ-ン・ペ-パ-は向こう10年間のBBCの財源として3つの選択肢の長短を検討している。
 一つは政府からの交付金(
Government funding)である。この方法であれば、受信許可料の短所とされる逆進性(定額であることから低所得層ほど相対的に負担が重くなる仕組み)が緩和されるというメリットはある。しかし、この場合、BBCは政府に財布の紐(purse strings)を握られ、政府からの独立を脅かされる。また、BBCの予算が2年ごとの政府予算の査定に組み込まれる結果、財政の安定性が損なわれるという根本的な問題を免れない。こうした理由でグリ-ン・ペ-パ-は政府交付金方式を退けた。

 第2の財源調達方式は広告料方式(Advertising and sponsorship)である。この案が浮上したのは上記のとおりサッチャ-政権時代であるが、広告料導入論は同首相の個人的な思いつきかというとそうではなく、1985年にBBCが受信許可料の3度目の値上げを申請したことへの反発が背景にあった。選挙区の有権者の値上げ反対の声に押されて労働党のある議員が国会に提出したBBCへの広告料導入法案は否決されたとはいえ40%を超える賛成票を得た(2)。しかし、グリ-ン・ペ-パ-はこの方式も支持しなかった。その理由を次のように述べている。

  「BBCが広告を採用するのを支持することは困難である。当諮問委員会が行った調査では、BBCへの広告料導入に対しては公衆から極めて激しい反対があった。60%の回答者は、広告は番組を楽しむ上での妨げになると述べた(31%はそれに不同意)。つまり、広告がないということがBBCの根幹的で顕著な特色と知覚されているのである。・・・・・」

  「また、広告料はBBCの動機と摩擦を生み出す。なぜなら、公共目的を満たすという要請が収益を生み出す必要性と比較考量されなければならなくからである。・・・・・我々が集約した52%の回答者は、広告料やスポンサーに依存することになったらBBCは独立性を失うとみなしている。」

 グリ-ン・ペ-パ-が検討した第3の財源調達方式は有料契約方式(Subscription)である。サッチャ-政権時代に設置されたピーコック委員会が、しかるべき時期にBBCがこの方式に移行するよう推奨したことは前記のとおりであるが、グリ-ン・ペ-パ-は以下の理由でこの方式も支持しなかった。

  「有料契約方式は原則上の重大な問題を引き起こす。この財源調達方式に対する主な反対論はユニバーサル・アクセスの原則を損なうということである。〔この方式のもとでは〕BBCの番組はもはや自由に使えるものではなくなる。・・・・・いったん料金を支払えば自由にサービスを得ることができるが、・・・・契約をしないことにした低所得層の視聴覚者はBBCの番組から排除される。もし、番組を誰もが公平に利用できないとしたら、その番組の社会に対する潜在的利益は減じられる。」

 以上3つの財源調達方式を検討した結果、グリ-ン・ペ-パ-は受信許可料制度が逆進性を持つ点、徴収にコストがかかり過ぎている点を問題と指摘しながらも、以下の理由から、向こう10年間、この制度を継続するよう提言した。

  「他の代替的方式と比較した結果、我々は予見可能な将来にわたって受信許可料制度を最善の財源調達方式として継続するのが望ましいと感じる。」「多くの回答者は受信許可料はその貨幣的価値と比べものにならない価値をもたらしていると語った。受信許可料制度の支持者に共通する議論の一つはこの制度がすべての世帯を対等のステークホールダーとして(as equal stakeholdersBBCにつなぎとめるということであった。」


  「視聴者はBBCがユニバーサル・サービスを続けることを望んでいる。彼らはまた、受信許可料の価値はBBCを政府とは一定の距離(at arm’s length)に置き、財源を拠出する公衆とは緊密にさせる点にあるとみなしている。」

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