NHKは英国の公共放送BBCから何を学ぶべきか(2)
視聴者の信頼に支えられた受信許可料制度
こうしたグリ-ン・ペ-パ-の結論はおおむね世論の傾向とも一致しているようである。BBCが2004年12月に行った「支払意思調査」(’willing to pay’ research)によると、回答者の81%がBBCの番組は年間の受信許可料に見合う価値があると評価し、42%が当時の受信許可料の約2倍に当たる20ポンド(月額)を支払う意思があると回答している(3)。また、報道の内容に関する世論の信頼度はどうかというと、例えば、上記のギリガン事件について、「政府とBBCのどちらが真実を語ったか」という世論調査ではBBCを支持すると答えた人の割合は44%で、政府支持の12%を大きく上回った(『共同通信』2006年2月7日配信記事)。BBC自身もグリ-ン・ペ-パ-に対する応答文書のなかで、次のように述べて受信許可料を最善の財源として維持する意思を明確にしている(4)。
「受信許可料の基本的な強みは完全なデジタルの世界にも生き続けるだろう。新しい技術が普及することによって、将来、BBCの財源調達方法は変わり得るが、そうすることが公益にかなうわけではない。有料料金や広告料によって財源を賄うBBCは今のBBCとは全く似て非なるものである。」
「有料放送へ移行することはBBCの公共的価値の主たる源泉の一つである普遍性(universality)の恒久的な喪失をもたらすだろう。BBCが委託した調査結果によると、有料方式の場合、収益最大化のためにBBCは月額13ポンドを請求しなければならなくなるが、それは2004年現在の受信許可料より30%高くなる。その結果、低所得層を含む相当数の視聴者が彼らが価値を認めているBBC放送の市場から排除されるだろう。」
「他の財源調達方法と比べて、受信許可料制度は政治的商業的な影響力に対するBBCの独立性を保証する。BBCの主権者(paymasters)は政府でもなければ市場でもなく、受信許可料支払者なのである。このことは受信許可料制度がBBCと視聴者の直接的なつながりを生み出すことを意味している。」
以上見てきたことから、BBCが政治的商業的圧力からの独立を維持する基盤として受信許可料を堅持してきたこと、視聴者もそうしたBBCに高い信頼を寄せていることが窺える。こうしたBBCに対する視聴者の信頼が、単なる理念として共鳴されたのではなく、政治的商業的圧力との闘いを実践してきたBBCの長い歴史の過程で培われたものであることを知るにつけ、NHKの言う「視聴者第一主義」が空疎なキャッチフレーズでしかないわが国との彼我の差を思い知らされる。
(注)
(1) BBCと政権との摩擦ならびに英国における受信許可
料制度の沿革については、蓑葉信 弘『BBC パブリ
ック・サ-ビス放送の伝統』2002年、東信堂;門奈
直樹「英BBCはいかにして受信料制度を維持したか」
『朝日総研リポート』2005年12月、を参照。
(2) これについては、蓑葉、同上書、108ページ参照。
(3) BBC-Press Office-Measuring the Value of the BBC, 12. 10. 2004.
(4) BBC, Review of the BBC’s Royal Charter, BBC response to a strong BBC, independent of govennment, May 2005, pp.36-38.
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