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本多勝一さんとのひととき/個を立てるということ

 支払い拒否40年

 昨日、神田三崎町にある『金曜日』の編集部で『週刊金曜日』の編集委員でもある本多勝一さんと受信料支払い拒否をめぐって対談をした。この企画をコ-ディネ-トされた同誌副編集長の伊田浩之さんが同席され進行役を務められた。

 初対面の本多さんに出会う前、「私は40年前から支払い拒否をしている。あなたとは年季が違う。納得したら支払いを再開するなんて甘い」と言われたら、どう答えようかと少し身構えていた。しかし、お目にかかった本多さんは想像に反して物静かで、私の言うことに聞き入っておられる時間が多かった。

現政権の広報機関

対談の模様は近く『週刊金曜日』に掲載されるそうなので、ここでは触れない。ただ、一つだけ、この日、私が話したことで、忘れないうちに書きとめておきたいと思うことがある。それをここで記しておきたい。それは本多さんがご自身の支払い拒否のいきさつを語られた中で、NHKはいつも現政権の広報機関だと語気を強めて話されたのに応じて話したことだった。

  「私もNHKの夜7時のニュ-スの話題選択の偏向を強く感じています。もともと、7時のニュースは限られた時間枠に入れる話題を選ぶのに苦労しているはずです。にもかかわらず、宮里藍と大リーグは戦績にかかわりなく指定枠かのように放送されます。その結果、視聴者に伝えるべきニュースがどれほど外されているのだろうかと考えることがよくあります。

   その上、先日のWBCの模様を伝えるニュースを見ていたら、小坂文相、小泉首相がマイクに向かって優勝を賞賛する場面が流れました。限られた時間を割いて、スポーツ・ニュースに閣僚を登場させる必要があるのかという思いです。しかも、『今回は多くの国民が日本というものを意識したと思う』と語る小坂文相の発言まで流していました。このあたりは、かりに政治家がそういう発言をしたとしても、番組制作のところで外すぐらいの見識がなぜないのでしょうか?」

 「支払い拒否」と「支払い停止」

 伊田さんから対談の話を聞いたとき、私は「本多さんの『支払い拒否の論理』と私たちの会の『支払い停止運動の論理』はだいぶ中身が違いますが、いいんですね?」と念を押した。時の政権におもねるNHKの体質に厳しい批判を向ける点では私は本多さんと変わりはない。

 しかし、「『公共放送』というアテにならぬ看板で実は時の政権の広報放送にすぎぬNHKなど、受信料拒否で死に体とさせ、真に独立したジャーナリズム精神によるニュース中心の放送局を創るべきだろう」(本多勝一「NHK受信料を拒否して40年」、『NHKの正体 受信料支払い拒否の論理』週刊金曜日別冊ブックレット、200548日号増刊、84ペ-ジ)という本多さんの結論には同意といかない。NHKを解体した後に、どのような公共放送をどういう人的スタッフと財源で創り出せるのか、そのしっかりした展望を描くのは容易なことではないと思うからである。

黄色いノート

 ところで、本多さんはこの日、対談を始めるときから、1冊のノートをテーブルに広げて、たびたびページをめくり、目を通しておられた。そして、私が支払い停止運動の抱負を話し出したとき、うなずきながら、ノートに切り貼りされた文書の一節を読み始められた。驚いたことに、それは私たち「NHK受信料支払い停止運動の会」がこの3月5日に発表した「NHK新経営計画に関する私たちの見解」の一節で、そこには赤字のアンダーラインが引かれていた。

  「NHKが権力を不断に監視し、視聴者の知る権利に応えるとともに、豊かな放送文化を育むという立場から、偏狭な市場主義に抗していくなら、私たちはそれを支援していくことをためらうものではないことを明言します。」

 「これなんですよ」――本多さんのこの一言がこの日の対談で一番私の印象に残った言葉であり、場面だった。いまどき、ノートに新聞記事や文書のコピーを貼りつけたりする人に出会うことはまずない。帰りの電車のなかで、私は黙々とあの黄色く変色したノートに目を通す本多さんの姿を思い浮かべ、「いったい、いつから使っているノートなのだろう」と考え込んだ。そしてまた、本多さんの「支払い拒否」と私たちの「支払い停止」がどれほど隔たっているものなのかということも考えさせられた。

 個を立てるということ

 ただこれだけは確かだと思うのは、今、公共放送のあり方をめぐって問われているのは究極的にはNHKというよりは視聴者自身だということである。「お隣が払っていないから」といって支払いを止めた人は、裁判所の名前を使った支払い督促で牽制されると、「それなら」と支払いを再開する人ではないか? 「個を立てる」という言葉の重みを考えさせられる。この点で、本多勝一さんがNHKの視聴者の中の先駆者であったことは間違いなさそうだ。

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