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取材源秘匿をめぐる判決が問いかけるもの

対極的な判決

 新聞記者の取材源秘匿に関して東京地裁と東京高裁が正反対の判決を下したことが大きな話題になっている。

簡略にいうと、東京地裁の判断(314日判決)は、報道機関が公務員から守秘義務違反となるような情報を得た場合、「裁判所が〔取材源の証言〕拒否を認めることは犯罪行為の隠ぺいに加担するに等しい」、守秘義務のかかる情報については「公衆は適法な〔知る〕権利を有していない」というもの。

これに対して、東京高裁の判断(317日判決)は、「取材源に国家公務員法違反の行為を要請する結果になるとしても、ただちに取材活動が違法となることはないし、社会的公共的な価値のために取材源を秘匿する必要が相応に認められる」というもの。

直接には、民事法廷で報道機関が取材源をどこまで秘匿できるかに関する判断の違いであるが、それ以前に、報道機関は公務員から守秘義務がかかった情報を聞き出すことができるかどうかに関する見解の違いが絡んでいることがわかる。

取材源の秘匿で保護しようとする利益は何か?

しかし、私が最も重要と思うのは、どのような利益を保護するために取材源の秘匿を認めるのか認めないのかという点である。これについて、東京地裁判決は、記者が取材源を明かすよう求められることによって取材がしにくくなるとしたら、それは「公務員の守秘義務違反がなくなったことを意味し、法秩序の観点からは歓迎すべき事柄」とみなした。

他方、東京高裁判決は、「保護すべき利益は、証言によって深刻な影響を被り、以降その遂行が困難になる報道機関の取材活動上の利益」であるとみなした。

つまり、東京地裁判決は「法秩序の維持」という利益の保護に重きを置いたのに対して、東京高裁は「取材活動上の利益の保護」を優先する考え方を採用したのである。この違いこそ、今回の2つの判決で注目すべき点である。

取材源秘匿は「安全港」ではなく、権力と対峙する武器

しかし、取材源秘匿は報道機関に報道被害の責任追及を逃れる「安全港」を与えるものでなければ、取材源の利益を保護することを究極の目的にしたものでもない。これについて、東京高裁は、「報道機関の取材活動は、民主主義社会の存立に不可欠な国民の『知る権利』に奉仕する価値ある活動である」と指摘している。つまり、取材源の秘匿をはじめとする取材活動上の利益は、それ自体に守るべき価値があるから保護するのではなく、市民の知る権利に応えるという報道機関の使命を首尾よく遂行するために不可決だからこそ保護されるのである。

この意味では、東京高裁判決は報道機関を免責したというよりも、報道機関に改めて重い使命を自覚するよう促したと受け止めることが肝要である。

報道機関は取材の自由をまっとうに駆使しているか?

2つの判決が出揃った317日、日本新聞協会と民放連は緊急声明を発表した。そのなかで次のように述べている。

  「われわれは、権力の行使者としての公務員から直接、政策の決定過程、事件捜査の状況などに関する『真実』の情報を得る努力を重ねている。それが、権力監視というジャーナリズムの根源的使命と考えるからだ。

  今回の決定で、公務員が記者と接触することに臆病になり、その結果、国民が必要とする情報の流通が阻害され、公益性の高い内部通報なども激減してしまうことを強く懸念する。」

 なかなか格調の高い声明文ではある。しかし、例えば、戦時性暴力(いわゆる「従軍慰安婦」)の問題を取り上げたNHKのETV番組の制作過程に政治が介入した問題について日本の報道機関は「真実の情報を得る努力」をなにほど重ねたというのか?

この問題を報道した『朝日新聞』に対して、政治的圧力をかけたと名指しされた安倍晋三氏や中川昭一氏が逆切れして、朝日新聞社や取材記者に露骨な攻撃を繰り返しても、他の報道機関は独自の調査取材をするではなく、「朝日vsNHK」、「朝日vs安倍・中川」という図式で他人事のような報道を続けた。これでは、臆病なのは取材対象ではなく報道機関自身ではないのか?

また、安倍氏らが朝日新聞社に取材の過程を明かすよう迫ったとき、他の報道機関は「権力監視というジャーナリズムの根源的使命」を掲げて、こうした要求を拒否する共同行動を起こしただろうか?

報道機関にとって「報道の自由」はわが身を守るための盾ではなく、権力の腐敗、横暴に迫るための武器であることを自覚し、行動でそれを示すことができるのかどうか――今回の2つの判決はこのことを問いかけているのである。
 それにしても、報道機関が権力監視というジャ-ナリズムの根源的使命をどこまで果たしているかを市民が監視しなければならない時勢でもあると感じるこのごろである。

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コメント

野島氏から松尾氏に「1月29日は安倍氏に呼びつけられたのではなく,こちらから説明に行ったというゆうに話して欲しい」「よく覚えていないという回答ではどうだろうか」~朝日新聞によると,【NHKの番組が01年、放送直前に改変された問題で、取材対象の市民団体とNHKなどが争っている訴訟の口頭弁論が22日、東京高裁で開かれ、当時のチーフプロデューサー・永田浩三氏が証人として出廷した。朝日新聞の記事などで番組への政治家の関与が指摘された後の昨年1月、NHK幹部らが対応を話し合った際、放送前に安倍晋三衆院議員に会った経緯について「呼びつけられたのでなく、こちらから出向いたことにしよう」とのやりとりがあったと証言した。話し合いに参加した上司から聞いた内容として明らかにした。】…

投稿: ヤメ記者 | 2006年3月23日 (木) 01時19分

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