「放送を語るつどい」に参加
8月26日(土)、NHKの職員OBらの集りである「放送を語る会」主催の「第17回放送を語るつどい」(於:渋谷勤労福祉会館)に報告者の一人として参加した。今年のつどいのテーマは「みんなで語ろう“理想のNHK”」。午後2時から8時半までの長丁場の集会だったが、84名の参加者の真剣なまなざしが印象に残った。
以下は、つどいの全般にわたる丹念なレポートではなく、私の問題意識に沿ったまとめである。
4つのNHK改革案の批判的検討を報告
私に与えられたテーマは「出そろったNHK改革案の比較検討」。そこで、竹中総務大臣の諮問で設置された懇談会、規制改革・民間開放推進会議、自民党電気通信調査会内の小委員会、そしてNHKが設置した「デジタル時代のNHK懇談会」が、この6~7月にかけてまとめたNHK改革案を、次の6つの項目を切り口にして整理し、批判的に検討した。①公共放送の理念、②現状認識、③NHKと政治との距離、④NHKの業務範囲の見直し、⑤国際放送、⑥経営統治、⑦視聴者参加、⑧受信料制度。詳しくは、当日配布した次の資料を参照いただきたい。
<出そろったNHK改革案の比較検討>
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhkkaikakuannohikakukentou.pdf
<NHK改革をめぐる各報告書の主要論点別の比較表>
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhkkaikakuhikakuhyou.pdf
<参考資料>
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sankousiryou_nhkkaikaku.pdf
NHKの職員OBからの提言
また、この集会では、「放送を語る会」が作業チームを作って検討してきた独自のNHK改革案「“可能性としてのNHK”へ向かって(案)」も発表された。
<放送を語る会「“可能性としてのNHK”へ向かって(案)>
http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/teian.html
番組取材・制作現場に通じたNHKの職員OBがこうした改革案を提言することは画期的なことである。提言のなかでは、メディアで働くスタッフの「内部的自由」の必要性とそれを保障する仕組みとして、NHKと民放連(日本民間放送連盟)が設立した第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)内のBRC(放送と人権等に関する委員会)に、放送メディア内部の人権侵害、放送法違反の事案について、訴えを受け付ける窓口を設けることが提案されている。こうした制度論にまで踏み込んで具体的な提言がされたことに私は賛意を表したいと思う。
NHKのOB職員の提言に関する私のコメント
私はこの提言文書を事前に知らされていたので、討論の一助にと思い、コメントをまとめてプリントにして参加者に配布してもらった。
<放送を語る会「“可能性としてのNHK”へ向かって(案)」への私の感想>
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/katarukaiteigenhenokomento.pdf
このなかで、私は、次の3点について、この提言に強く賛同することを記した。
①メディア内部で働く人びとの「内部的自由」(企画・制作過程、放送結果などについて自分の意見を内外に公表する権利が保障されるべきこと、それを理由にいかなる不利益待遇も受けないことなど)を保障する制度の提言がされたこと
②受信契約のなかで、受信料を支払った視聴者の権利を明記するよう、提言されたこと
③視聴者に開かれたNHKの経営・番組作りを促す具体策として、番組審議会委員の選任にあたり、公募枠を設けること、この審議会への諮問を義務付け、審議会の権限と機能を強化するよう提言されたこと
その上で、私は、NHKの職員OBの提言に関し、内部的自由を、有効に機能する公益通報者保護制度のNHK版となるよう、提言を肉付けする要望を付け加えた。具体的には、
①提言も指摘しているように訴え(通報)の受付窓口をNHKから独立した外部機関にするとともに、内部通報前置主義を取らないよう 明記すること、
②通報の理由を放送法違反に限定せず、新放送ガイドライン、国内・国際番組基準、NHK倫理・行動憲章、業務委託基準、関連団体運営基準、公正なる会計慣行、NHK経理規程への違反も含めること、
③訴えの適格者をNHK職員に限定せず、番組委託先の役職員、フリーの契約者等も含めること、保護の内容として、通報者が法律上、契約上、守秘義務を負う場合であっても、「通報が真実であると真じるにたるものであった場合」(通報の真実相当性)は保護の対象とすること)
さらに、私は、政治からのNHKの独立を揺るぎないものとする制度面の改革として、NHK事業計画、予算、人事の国会承認制も廃止すべきと考えている。その理由は上記の<私の感想>で記したので、ご覧いただけると幸いである。
視聴者はNHKのお客様?
討論では、司会者が「今まではNHKに対して批判を主にしてきたが、ここでは、私たちが考える理想のNHKを語ってほしい」と促した。しかし、参加者からはNHKに対する批判の発言が相次いだ。
「私は川越で一人で受信料を拒否する運動をやっている。なんだかんだ言っても、こういう強い運動をしないとNHKは変わらないという思いがしている。」
「NHK視聴者センターでは、同じ意見が3件来たら、上司に報告することになっていると聞いたが本当か?」
「京都では、最近NHKは結構いい番組を作っているやんか、と仲間と話している。しかし、NHK問題京都連絡会が京都支局に話し合いを申し込むと、1人1人と別々になら会う。複数の人とは会わないという返事。そこで、ふれあいミーティングでは大勢と話しているやないかと言ったら、ふれあいミーティングはNHKが呼びかけて開くもので、皆さんの要望に応じたものではない、と言われた。こういう対応は以前より悪くなっている。」
こうした発言は、私たち「NHK受信料支払い停止運動の会」の窓口に日頃寄せられている声でもある。このようにNHKが視聴者からの批判に対して冷淡なのは、視聴者を「サービスの消費者」と見なし、公共放送の主権者と捉える意識が希薄だからではないかと思われる。現に、NHKのホームページを辿っていくと、「視聴者・お客様のご満足のために」(http://www.nhk.or.jp/css) というサイトが見つかる。CSSとは、Customer Satisfaction Service の略で、「顧客満足サービス」と訳されている民間企業のマ-ケティング戦略上の用語である。このように視聴者を「お客様」と呼んで憚らない意識から抜け出さない限り、視聴者への細切れのサービス改善(そのこと自体は歓迎できるが)は実現しても、NHKの経営、人事、番組編成に関する視聴者からの耳の痛い意見・批判は聞き流すか、木で鼻をくくったような答で黙殺するNHKの体質は変わらないだろう。
視聴者に開かれた番組編成に向けてーー私の提言ーー
とはいえ、NHKに対する視聴者運動は批判で終わってはならないことも確かである。そこで私は、NHKに対して上の資料のなかで次のような提言を記し、「つどい」の討論のなかで、その一部を発言した。
①現代史を題材にした大河ドラマを 以前から私は、NHKの大河ドラマの題材が武家社会もの、戦国武将ものに偏っているのを不可解に思っていた。そこで、報告資料を準備するにあたり、大河ドラマのタイトルをWEBで調べ、その結果を上記の<資料>で示した。これを見ても近・現代史を題材にしたものでも、明治維新の時期までで、戦争の時代、戦後史を題材にしたものは皆無である。若者世代をはじめ、日本人の歴史認識が問われる場面が多い昨今、NHKの大河ドラマもこうした時代の要請に応える番組制作を手掛けるよう望みたい。
②コメンテーターの人選の再考を 討論のなかでは長野県から来たという参加者から、「NHKはよく不偏不党、公平・中立というが、その意味がよくわからない」という発言があった。これについて他の参加者からも意見があったが、私は次のように発言した。「NHKスペシャルやクローズアップ現代などで、よくコメンテーターとして識者が出演する。しかし、その多くは、対立する意見のどちらにも与しない中間的立場の人物である。しかし、メディアに求められる「公平」とは、対立する意見を足して2で割った見解を伝えることではなく、対立する意見を分け隔てなく伝え、視聴者市民に判断の材料を提供することにある。そのためには、中間的立場の識者を1人だけ出演させて対立する議論をまるめるのではなく、異なる見解を代表する識者を複数出演させ、対論の形式で番組を編集するのが望ましいのではないか?」
自分の意見と異なる「他者の思考に触れ、それによって現代の思考習慣が動揺するとき、私たちの思考は始まる」(斉藤純一『公共性』岩波書店、2000年、26ページ)のであるから、こうした異なる思考が交わる公共空間を創設することこそ、公共放送NHKの基幹的な使命であると思われる。
③視聴者・市民提案型の番組枠の確保 歌謡番組等では、NHKは「あなたがもう一度観たい、聞きたい名曲場面」を募ることはある。しかし、それだけが視聴者に開かれた番組作りではない。韓国の公共放送KBSは、2000年の放送法改正を機に、毎週金曜日の夜25分間、「開かれたチャンネル」と題する番組枠を新設し、市民団体が制作した番組のなかから選ばれた社会性豊かな番組などを放送している。その際、番組の選考は大学教員、弁護士、視聴者代表などから選ばれたKBSの外部の機関に委ねられている。わが国でも「民間開放」をいうなら、それは営利企業への市場(チャンネル)の開放ではなく、視聴者への番組枠の開放を検討するのが公共放送の本来の姿である。
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