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受信料の民事督促をめぐる3つの重大な疑問

 10月上旬、NHKは東京都内の受信料不払い者48名に対し、支払い督促の最後の通告を行ったと発表し、それでも支払いに応じない場合は、11月以降、簡易裁判所を通じて民事督促に踏み切ると伝えられている。この報道を受けて、駆け込み的な支払い再開が急増した一方、支払い拒否も急増しているという。しかし、今回の民事督促には重大な疑問が3つある。

 一つ目の疑問は、民事督促という手段に法的根拠が欠けているのではないかという点である。どういうことかと言うと、放送法施行規則第6条7項では、「受信契約の締結を怠つた場合及び受信料の支払を延滞した場合における受信料の追徴方法」を受信契約で定めておかなければならないとしている。しかし、NHKの受信規約をみても、第12条で延滞利息の率が明記されているだけで追徴方法に定めた条項はどこにもない。とすれば、NHKが近く踏み切ると予告している民事督促は放送法施行規則第6条に違反し、法的裏付けのない追徴方法である疑いが濃いのである。

 2つ目の疑問は、受信料請求権の時効についてである。判例はないが一般には最長でも商事債権に準じて5年とする説が有力である(詳細は、阪口徳雄弁護士のブログに掲載された次の記事を参照されたい(http://blogs.yahoo.co.jp/abc5def6/folder/1470093.html)。
 そこで、かりに消滅時効を5年とすれば、過去の滞納分のうち5年を超える分は不払い者が承諾しなければ時効となり消滅することになる。その場合、NHKが2ヶ月ごと、あるいは年1回、支払いの催告や請求を続けていたら時効は中断するのかというと、そうではない。催告等の日から6ヶ月以内にNHKが裁判上の支払い督促の申立て等をしなければ時効を中断する効力は生じないのである(民法153条)。ところが、NHKは、順次、民事督促を拡大していくと発表したものの、消滅時効となる可能性が高い債権について何も言及していない。まして、数百万件といわれる未契約者については、契約を証する書面がなければ5年未満の滞納受信料についても請求権の存在さら疑わしい。 

 3つ目の疑問は、決算処理との整合性である。NHKは下記の表で示したように、毎年度の決算で流動資産の部に「受信料未収金」を計上する一方、その85~95%相当分を「未収受信料欠損引当金」に繰り入れている。NHK決算書に記載された「重要な会計方針」によると、この「未収受信料欠損引当金」とは、「当年度末の受信料未収額のうち、翌年度における収納不能見込額を経験率等により計上」した科目である。帳簿上で償却しても法的に債権が失効するわけではないが、民事督促で回収を図ると言いながら、90%前後の受信料未収金を決算上で徴収不能として償却するのは整合性の欠ける処理といわれてもやむを得ない。
 表 未収受信料の償却割合
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/mishuzyusinryo_shoukyaku.pdf
  (本稿は近く公刊される「日本ジャーナリスト会議」の機関紙に寄稿した小論に一部、加筆をしたものである。)

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