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命令による国際放送について電波監理審議会へ申し入れ

  菅総務大臣はNHKに対して北朝鮮による日本人拉致問題に留意した国際放送を行うよう命令する意向を固め、今月8日に開催される電波監理審議会に諮問する予定と伝えられている。
  これについて私は報道機関の表現の自由、番組編集の自立という点から強い危惧を感じ、メディア研究者、ジャーナリスト11名が10月30日付けで発表した「命令による国際放送に反対する緊急アピール」に名前を連ねた。

 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/meireihoso_hantaiapiiru.pdf

  これに続いて11月1日付けで、同じ11名が連名で電波監理審議会委員宛てに後掲の申し入れ書を発送した。私の見解はこの申し入れ文書でおおむね尽きているが、この場でもう少し踏み込んだコメントを付け加えておきたい。

  1.課題の指示は放送への行政介入そのもの
  菅総務相は、今回の命令は安倍政権の重要課題である拉致問題をNHKの国際放送でも重点的に取り上げるよう指示するに止まり、NHKの番組編集に介入するものではないと繰り返し発言している。しかし、限られた放送時間枠のなかで、何を(what)、なぜ(why)放送するかの判断
は、どのように(how)放送するか以前に、メディアの自主的編集の根幹に関わる問題である。この意味で、放送内容に立ち入らないから介入には当たらないなどというのは、報道の自立をわきまえない皮相な物言いである。

  2.「自主編集で命令に従う」というNHKの自己撞着
  今日(11月2日)の『東京新聞』朝刊(3面)は「自主編集で命令従う」という見出しで橋本NHK会長の会見の模様を伝えている。今回の命令放送に対するNHK首脳の対応を一言でいえば、この見出しのとおりだろう。しかし、そもそも論として、「自主的に編集する」ということと、「命令に従う」という言葉を並べるのは自己撞着である。
  
  現行の放送法第33条には、総務大臣は必要な事項を指定してNHKに対し、国際放送を命令できるという定めがある。しかし、これを前提にしても、<様々な報道テーマの一つとして拉致問題をどう扱うかはNHKが自立的に判断するので、政府は表現の自由、報道の自由に配慮して、個別の課題を指示するのは控えてほしい>と
なぜいえないのか? 受信料義務化法案の成立に向け、政府・与党にお世話にならなければならないから、ご機嫌を損ねたくないのか? こうした政治に弱腰な体質がNHKに対する視聴者の不信の根底にあることをNHK首脳は思い知るべきである。

  3.時の政権の重要課題にNHKは寄り添ってよいのか?
    ―-メディアに国籍はない―ー
  菅総務省は、<拉致問題は安倍政権の重要課題なのでNHKにもこの点に留意して欲しいということだ>という趣旨の発言をしている(『東京新聞』2006年10月24日)。しかし、時の政権の重要課題=NHKが取り上げるべき重要課題、という意識にこそ、より本質的な危うさがある。文書による命令は今回が初めてということから議論が高まっているが、総務省(旧郵政省)は従来から口頭で、①時事、②国の重要な政策、③国際問題に関する政府の見解を指定し、これらをNHKが本来業務として行う短波国際放送と一体として放送するよう命令してきた。

  しかし、②や③をNHKの自主編集部分と一体的に放送するとなれば、NHKは国策宣伝機関となる、少なくとも視聴者にそう受け取られるのは必定である。また、たとえ自主放送部分と区別するとしても国策放送にNHKの施設・人材を提供するのではNHKは政府広報に手を貸すことに変わりはない。この意味で、10月30日付けの上記アピールでも提言しているように、今回の事態を教訓として、NHKに国の重要政策の放送を命令できるとした放送法33条、35条の廃止にむけた議論を起こすことが問題の根本的解決に通じると私は考えている。

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電波監理審議会委員 各位
電波監理審議会事務局 御中
                                                            
200611月1日

 
NHKに対する国際放送命令の審議についての申し入れ

 私たちは先に「NHKに対する国際放送命令に反対する緊急アピール」を公表し、菅義偉総務大臣がNHK短波ラジオ国際放送で北朝鮮による拉致問題を重点的に取り上げるよう命令を発することの是非を118日に開かれる電波監理審議会に諮問する方針を明らかにしたことに対して、強く反対するとともに、総務大臣に対し諮問の取り止めを含め命令実施の方針の撤回を要求し、かりに諮問がなされた場合には、電波監理審議会は事案を慎重に吟味し、放送命令を認めない答申を行うよう求めた。

 私たちが今回の放送命令の試みに反対するのは、先の緊急アピールにも記したように、従前からなされてきた一般的、抽象的な放送命令の慣行も疑義が残るのに、今回のような個別具体的な政策課題の放送が時の政府により命じられることになれば、政府の放送介入はいっそう明白となり、憲法が保障する表現・報道の自由の根本原則に反し、放送法に定める放送の自由、番組編集の自由などの基本原則を侵害すると考えるからである。

 私たちはあくまでも今回の放送命令を認めない答申を求めるが、事柄は放送制度の根幹に関わることを考え、審議に際し次のような措置を取るよう申し入れる。

  (1) 事案の重大性に鑑み、諮問の当日に即日答申などという拙速な判断を行うことは到底されず、さまざまな意見に耳を傾け、十分な時間をかけて慎重に審議すること。

 
(2) 市民の知る権利に応え、透明な政策決定プロセスを確保するため、審議の情報公開を徹底し、8日の会合をはじめ、会議について報道機関や市民による取材および傍聴を認めること。

   
(3) 市民の参画と公正な政策決定を確保するため、事案について広く専門家、関係団体、市民などからパブリックコメントを求めるとともに、そうした個人、団体の代表等が参加する公聴会(ヒアリング)を開催すること。

 以上の申し入れに対する回答を、11月7日までに下記に文書で送付するよう求めたい。

 連絡先:岩崎 貞明(メディア総合研究所)
      
東京都新宿区荒木町1-22-203
   
電話 03-3226-0621  FAX 03-3226-0684

梓澤和幸(弁護士)
石川 明(メディア研究者)
岩崎貞明(放送レポート編集長)
桂 敬一(日本ジャーナリスト会議会員)
醍醐 聰(東京大学教授)
田島泰彦(上智大学教授)
津田正夫(立命館大学教授)
野中章弘(アジアプレス代表)
服部孝章(立教大学教授)
原 寿雄(ジャーナリスト)
松田 浩(メディア研究者)

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