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「ワーキングプアⅡ」NHKふれあいミーティングに参加して

 印象深かった若い世代の参加
 2月3日、NHK放送センターで開かれた「ワーキングプアⅡ」ふれあいミーティングに夫婦で参加した。いきさつは、このブログの本年1月15日付の記事で触れたが、昨年12月10日に放送された「ワーキングプアⅡ」~努力すれば抜け出せますか?~をテーマに視聴者と番組制作者が直接意見交換をするという企画である。パートⅠの後に開かれたふれあいミーティングに応募したものの夫婦そろって抽選に外れたが、今回はどちらにも案内が届いた。

 開始時刻10分まえにNHK放送センターに着き、会場へ案内されると30人分ほど用意された席に20数名がすでに着席していた。
 正面のテーブルにはチーフプロデューサーのSさんほか5名のNHK関係者が着席していた。参加者の席を見渡して気がついたのは、20~30歳代と思われる若い男女が思いの外、多いことだった。もちろん、50~60歳代の男女、とくに男性も多かったが。特に、担当教員といっしょに参加した高校生、台湾出身の留学生が堂々と発言する様子を見ていて頼もしく感じた。
 
 “努力しても貧困から抜け出せない”現実にどう向き合うのか? 
 
参加者の発言で目立ったのは、個人の力では解決しようがない社会の歪みを番組がリアルに伝えたことを高く評価する意見だった。これからも続編を、という要望も多かったが、「努力しても貧困から抜け出せない原因に迫ってほしい」、「解決の道筋も触れてほしい」といった注文も少なくなかった。
 そうした中で議論が集中したのは、努力しても貧困からなかなか抜け出せない社会の現実を教育の現場で生徒にどう伝えるのか、自分はそれにどう向き合うのかということだった。途中で話題が中断したが、この問題について、次のような意見が交わされた。

 中学校教員:「努力しても貧困から抜け出せない社会の現実を生徒たちにどう見せていくのか、なかなか難しい。」

 参加者Aさん:「21世紀のワーキングプアの背中に乗っているのは誰なのか? 働く者の権利について学校で教えてほしい。」

 制作スタッフXさん:「あの番組から、正社員がえらいんだ、正社員にしがみつくんだといったような受け止め方をしてほしくない。」

 参加者Bさん:「私は経理関係の仕事をしているが、決算で忙しいときだけ、派遣の人を雇う。繁忙期が過ぎたらさっと止めさせている。そういう現実を見ていると、自分もワーキングプアの背中に乗っている一人かなと思うことがある。」

問われるべきは<景気回復の原動力は何か>ということ
 「21世紀のワーキングプアの背中に乗っているのは誰なのか?」という言葉でAさんが何を問いかけようとしたのか、私には今ひとつわからなかった。もしかしたら、働いても働いても貧困から抜け出せない大量のワーキングプアを生み出しつつ、「雇用調整」という名の下に人件費削減で業績を回復基調に乗せた大手企業のことを指していたのかも知れない。私自身、この番組に労働経済学の専門家として登場した八代尚宏さんの要旨次のような発言、

  「ワーキングプアが増えている最大の要因は長期の経済停滞にある。もっと高い成長を実現することによって雇用機会を増やすこと、それが何よりのワーキングプア対策である。」

という主張こそ、リアルな現実で検証されなければならない机上の議論だと考えている。そして、ほかでもないこの番組が八代さんの主張のリアリティを検証する場にもなったように感じた。
つまり、問われるべきなのは景気回復が先なのかどうかではなく、何を原動力とした景気回復なのか―ーコスト削減を主因にした景気回復なのか、それとも内需拡大を主因にした景気回復なのか―ーという点である。
 この問題を経済学説に翻訳すると、ケインズ学派と構造改革派の対立に帰着する。これについて私は2005年9月に書いた次の小論で自分の見解を述べた。
 http://www.dhbr.net/booksinreview/bir200509.html

 つまり、日本経済の最近の現実がそうであるように、コスト削減、特に「雇用調整」という名の人件費削減を主因にしたいびつな景気回復であれば、景気回復はワーキングプア対策どころか、ワーキングプアを拡大再生産させる主因ですらあるといえる。ワーキングプアⅡでも取り上げられた外国人留学生・実習生の低賃金雇用が国内の零細事業所内の賃金をさらに押し下げたり、これらの人々を正規から非正規へ、さらには失業へと追い立てる貧困の連鎖はその典型例といえる。
 逆に、家計の購買力の回復→内需拡大→景気回復→雇用の拡大、という循環を主因とするとき初めて、景気回復はワーキングプアの解消と両立することになる。

 正規職員vs非正規職員という構図の危うさ
 NHK側のスタッフXさんの上記の発言、―-制作する側として、非正規より正規職員の方がえらいんだ、といったような固定観念を生むといやだなあという思いがあるーーをめぐって議論が盛り上がった。その中で、自分もワーキングプアの背中に乗っている一人かも知れないという趣旨の発言が出たことに危うさを感じた。非正規職員を見下すような態度を自戒するという趣旨かと思う。

 しかし、ここで重要なことは、正規職員vs非正規職員という構図に分け入ることではなく、両者の垣根は流動的だということである。自分はいつ要介護あるいは認知症の状態になるかもしれない、そのとき自分を介護してくれる人、施設をあてにできるのか? 離婚や夫婦のどちらかが病に臥したら、夫婦双方あるいは、一方の生活は激変するのが通例である。一部の富める世帯は別にして、正規勤務の継続もままならないという場合も少なくないだろう。

 この点では、障害児学級に勤めているというある
参加者が「この世の中には障害者と健常者がいるのではない。誰しも潜在的障害者なのであり、発症の時期に違いがあるだけだ」という意味の発言をされたのが印象深かった。

 貧困を拡大させる原因に迫る企画を
 先に述べたように討論のなかでは、「貧困の原因にまで迫ってほしい」、「今の政治の問題にぶつかるとしてもひるまず伝えてほしい」、「解決の道筋にも触れてほしい」といった発言が少なくなかった。
 これに対して、NHKのスタッフからは、「NHKは政府批判をするつもりはない」、「評論よりも多くの人が知らない現実をあぶりだしていくことを心がけたい」という返答があった。

 私も過剰な主張ではなく、事実に語らせる、その解釈を視聴者に委ねるというスタイルに共鳴する。しかし、ここで重要なことは、「事実」か「評論・主張」かではなく、どのような「事実」をクローズアップするのかということである。この点で私は、生活保護行政を引き合いに出して、「現代日本の貧困の多くは行政被害と呼べるものである。この点で、ワーキングプアの原因と考えられる現実にタブーなく迫ってほしい」と発言した。

 最後になるが、討論の中で、この番組の取材にあたったCさんから、今回の取材の原点は家庭の状況にあるとして、ご自分の家庭内での経験を縷々発言されたのが印象深かった。

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