新しい視聴者運動体へ
NHK受信料支払い停止運動の会の解散を決定
私が共同代表を務めてきた「NHK受信料支払い停止運動の会」は本日を以て解散することになった。それに伴い、会の賛同者の方々に、支払い停止を呼びかけた2年前にさかのぼって、受信料の支払いを再開するよう呼びかけた。それと同時に、旧停止運動の会の呼びかけ人ほかが中心となって新たに、「NHKを監視・激励する視聴者コニュニティ」を本日、立ち上げた。
賛同者の方々には1月28日にこの件を通知していたが、これまで視聴者運動をともにしてきた団体、個人の方々に昨日、このことを伝え、今日、報道関係者にこの件をE・メールで通知した。
なお、停止運動の会呼びかけ人は会を解散するにあたり、2年間の活動の総まとめとして、橋本NHK会長宛に昨日、次のような文書を送った。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhkkaicho_ate20070208.pdf
なぜ今、支払い再開か?
支払い再開の呼びかけを受けた停止運動の会の賛同者の幾人かからは、さっそく新しい会への入会の申し込みが寄せられている。しかし、中には戸惑いの声や様子見という反応も返ってきている。とはいえ、今回の決定は停止運動の会の呼びかけ人の間での数ヶ月にわたる議論を経てたどり着いた結論である。
その間、NHKによる民事督促の強行、相次ぐ金銭的不祥事の発覚、受信料義務化法案提出の動きなど、NHKをめぐる状況は揺れ動いた。それだけに支払い再開の節目とタイミングの判断は難しかったというのが実感である。また、長期にわたって支払い拒否を続けてきた人々からは「徹底抗戦」を求める声が起こることは当然予想された。
今回の支払い再開の決定は、そうした様々な要因をすべてしん酌して、たどりついた結論である。参考までに、停止運動の会の呼びかけ人名で1月28日に賛同者の方々に送った文書を転載しておきたい。この中で、支払い再開の決定に至った経過と理由がまとめられているので一読いただけると幸いである。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sanndoshanominasamae.pdf
以下、多少私の個人的見解を付け加えておきたい。
1.支払い停止運動の原点とオール・オア・ナッシングではない状況判断
私たちが提起した受信料支払い停止の原点は半恒久的な不払いではなく、NHKが公共放送としての責務―ーとりわけ政治的商業的圧力から自立し、政治権力を監視するジャーナリズムにふさわしい放送を行う責務―ーを履行していないこと(私たちがこうした判断のよりどころにしたのは2001年1月に放送されたETV番組「問われる戦時性暴力」が安倍晋三氏らの政治介入とそれにおもねてNHK上層部が制作現場のスタッフの強い反対を押し切る形で番組内容を大幅に改ざんするよう指示した事件だった)を根拠に一時的に支払い義務の履行を停止するという運動であった。
その際、私たちが1月29日に言い渡されるNHK裁判の控訴審判決を節目にしたのは、この係争事件こそ私たちが政治に弱いNHKの体質を思い知らされ、旧停止運動の会を立ち上げるきかっけになった出来事だったからである。そして、今回の控訴審では、原告、同弁護団の周到な弁論はもとより、長井暁、永田浩三両氏の事件の核心に迫る証言がなされ、番組改ざんの相当部分が法廷でつまびらかにされた。裁判長ほかもこうした証拠資料に真摯に向き合い審理が進められえたことは衆目の一致するところだった。
こうした審理を経て言い渡される判決は、その内容はともかく、この間の私たち視聴者運動の到達点といえるのではないかーーそのような位置づけから、1月29日のNHK裁判控訴審判決を私たちは節目としたわけである。
もっとも、そうはいっても、上記のようなNHKの責務放棄が修復されたかどうかの判断を度外視したわけではない。しかし、公共放送としてのNHKの責務が履行されているかどうかはオール・オア・ナッシングで判断できるものではない。極論すれば、NHKの予算・事業計画が国会での承認を要する現行の法制度のもとで、政治とどう向き合うかは、NHKに課された根源的な宿題といえる。それだけに、支払い停止を提唱した視聴者運動がオール・オア・ナッシングで支払い再開の可否を判断するとすれば、「支払い停止」といいつつ、実態としては、出口の見えない半恒久的な「不払い」運動と差異のないものとなりかねない。
こうした観点から、停止運動の会の呼びかけ人は、昨年3月にNHKが発表した新放送ガイドラインの中に、<NHKの予算・事業計画を国会で承認を得るにあたっても、全役職員が自主自立を堅持することが公共放送の生命線>という規律が明記されたことを旧会を含む視聴者運動の重要な到達点と理解し、今後はこれを単なる字面で終わらせない運動が重要と考えた。
ただ、その時点で支払い再開に踏み切らなかったのは、時を同じくしてNHKが発表した向こう3年間にわたる経営計画の中で、新年度以降、不払い者に対する法的督促手段を検討するとうたったため、その進捗状況を見守り、かりに私たちに対して民事督促が届いたなら、異議申し立てをして法廷でNHKとオープンに論戦を交わす意思を固めていたからである。
2.NHKを挟んで視聴者と政治・行政が対峙する3極構造の中で
支払い停止運動の継続か収束かを検討したときのもう一つの大きな判断要素は、竹中総務相時代以降、日本の公共放送をめぐる状況が、NHK対視聴者という2極構造ではなく、NHKを挟んで視聴者と政治・行政が対峙する3極構造に変貌してきたということ、こうした流れが菅総務相の就任以降、さらに加速されているという点である。
竹中氏が唱え、同氏が設けた懇談会が目指したNHK民営化路線は視聴者、メディア専門家の強い批判はもとより、与党内からの異議も重なって、ひとまず立ち消えになった。しかし、安倍政権下の菅総務相に代わるや今度は、国際放送おいて拉致問題を重点的扱うことを命じたり、受信料の2割値下げと抱き合わせて受信料義務化を盛り込んだ放送法改悪案を今国会に上程する動きを強めるなど、NHKへの最近の行政介入は目に余るものがある。
これに対して、NHKは「自主的放送」というお題目の言葉をあてがって、その実、受信料の義務化や住民基本台帳システム内の除票の利用といった形で、次々と総務省への依存にのめりこみ、結果的に、行政府に「借り」を作る愚策を昂じている。その一方で、橋本会長らは、政治家の言動を忖度するあまりに編集の自由を放棄したとNHK首脳を断罪した東京高裁判決(1月29日言い渡し)に逆切れして、即日上告するという醜態をさらけ出した。
こうしたNHK首脳の姿を目の当たりにすると、「なかなか受信料を払う気になれない」という思いもわからないではない。しかし、だからといって、NHK対視聴者という構図で膠着し、「支払い停止」という手段でNHKとの綱引きを続けることが日本の公共放送をめぐる差し迫った状況への対応として最善かどうかは冷静に検討しなければならない。
むしろ、私は、「受信料を払う人と払わない人との視聴者間の不公平」を大義名分にして、視聴者の声を封殺する受信料義務化法案が行政主導で今国会に提出されようとしている今、視聴者運動が優先すべき大義は、受信料の支払いを再開する人、なお支払いを拒否する人、今までから支払い続けている人ーーーその差異にとらわれず、受信料義務化法案の成立を阻止する運動のために連携することだと痛感している。
なぜなら、受信料の支払いが義務化されるということは、受信料の支払いをNHKと視聴者の双務的契約関係から、視聴者と公権力の片務的関係に置き換えることを意味する。そうなると、視聴者とNHKが自律的緊張関係のもとでNHKを統治する市民的公共性が後退を余儀なくされ、NHKへの行政の干渉・介入をとおして、国家が市民を監視する国家的公共性に変質する危険性が濃厚だからである。
こうしたNHKをめぐる公共性の変質は、受信料を支払っている人にも、払っていない人にも、それこそ分け隔てなく関わる問題である。
このような動きを視聴者の手で阻止し、視聴者主権の公共放送を日本で実現するには、<今、NHKに必要なことは、視聴者の義務の強化ではなく、権利の強化である>という声を全国から盛り上げ、それをNHKはもとより、放送法を所管する総務省ならびに立法府に集中することが緊急の課題であると私は考える。
「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」の立ち上げ
そのような思いを旧停止運動の会のメンバーと交わす中から、これまでの「NHK受信料支払い停止運動の会」に代わって、新たに表記のような会を立ち上げようということになった。 本日、報道関係者や市民団体・個人の方々にお知らせした同会の趣意書をここに転載しておきたい。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/shuisho20070208.pdf
併せて、新しい会の運営委員会で議論してまとめた会則も掲載しておきたい。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kaisoku.pdf
これら趣意書、会則に賛同いただき、年会費1,000円を納めた方はどなたでも―ー受信料の支払いを再開した人、なお支払いを停止している人、これまでから支払いをしてきた人の区別なくーー入会していただける。
入会を希望される方、会の活動状況を知りたいという方は、会のホームページ
http://space.geocities.jp/shichoshacommunity/
のトップページに設定されたE・メールのフォーマットから申し込みをいただくか、
会のE・メールアドレス、
shichoshacommunity@yahoo.co.jp
へ申し込みを送信してくださるようお願いしている。
なお、会の専用電話番号は、停止運動の会のときと同じ、
048-873-3520
である。
すでに、5人の運営委員内では任務分担も決め、ニューズレター(当面、隔月刊行)担当は創刊号の編集計画を立て、原稿依頼を始めている。今月中旬の刊行を目指しているとのこと。
新しい運営委員のよきチームワークで、これまで以上に創意をこらしパワーアップした視聴者運動を展開したいものだと考えている。その第一歩は今国会に上程されようとしている受信料義務化を阻止し、視聴者の義務ではなく権利を強化拡充する取り組みである。
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コメント
<NHK>と<NHKを視聴しない国民>と<醍醐聡教授>との関係は、次のように思えます.
○NHK(北朝鮮)・・・・・
未来永劫生存を主張する他力本願組織
○一部国民(拉致被害者)・・
強引に強制徴集される被害者
○醐聡教授(政府)・・・・
対立関係を持ちつつ甘やかす
つまり、法的手段(核ミサイル)を使って脅かし、強制徴集を企てるNHK(北朝鮮)に対し、受信料支払(生活援助)再開を認め、一方受信料義務化へは反対(北朝鮮非難)という曖昧な態度をとり続けよ~~~うとしている.(6カ国協議の結末を予想して)
そもそも醍醐聡教授は半恒久的な不払いではなく、NHKが公共放送としての責務を全うすることに活動の原点があったといえ・・
今回の支払い再開のタイミングは、どう考えて悪すぎるように感じます.
正直言って期待ハズレとしか言いようがないですね.
投稿: telomere | 2007年2月10日 (土) 11時10分