« 「放送法制定をめぐる国会審議録集成」を左サイドバーの「資料集成」に掲載 | トップページ | 地価動向の判断にみる「平均値」の危うさ »

「従軍慰安婦」問題再論:日本政府に必要なのは身勝手な「証拠」ではなく、史実と被害者の叫びを直視する「理性」である

NHKは日本政府の北朝鮮政策のスポークスマンなのか?


 「従軍慰安婦」問題をめぐって安倍首相は持論を封印したり、開封したり、右往左往している。途中から河野談話を受け継ぐといい、一度は元慰安婦に「お詫び」を強調するなど持論を封印する姿勢を見せた。しかし、その後も強制連行という「狭義」の強制を裏付ける証拠はないと蒸し返し、16日に政府は「発見した資料の中には、軍や官憲による強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」という答弁書を提出した。


 こうした日本政府の発言に対する米国議会や各国政府・世論の批判の広がりは各紙でそれなりに報道された。しかし、不思議なことにNHK、特に夜7時のニュースはこうした動きを全くといってよいほど伝えていない。その一方で、北朝鮮の核開発問題をめぐる6カ国協議の報道を定番のように大きく報道し、北朝鮮への経済支援と絡めて日本人拉致問題を議題に乗せようと苦心する日本代表の姿を連日クローズアップしている。


日本政府は日本人拉致被害者に向けるのと同じ正義と人道を、なぜ他国の元慰安婦にも向けられないのか?


 北朝鮮による日本人拉致が極悪非道の行為であること、経済支援を引き出す交渉のカードのように拉致被害者を扱う北朝鮮政府の姿勢が常軌を逸していることは論を待たない。そして、年少期に家族から引き離され、人生を狂わされてしまった拉致被害者の一刻も早い帰国を果たすよう、日本政府が外交交渉を続けるのは当然のことである。しかし、それなら、日本政府は日本人拉致被害者に向けるのと同じ正義と人道の精神をなぜ、他国の元慰安婦にも手向けることができないのか?


 アジアをはじめとする諸国の多数の女性たちは、青春期に甘言や強制で慰安所に連れ込まれ、事実上の軟禁状態のもとで幾人もの元日本人兵士の性的処理の相手をさせられた。自分の一生を根こそぎ台無しにされ、生死をさまよい、その後の人生に深い傷を背負った点では日本人拉致被害者とどう違うのか?

 NHKも、「視聴者にできる限り幅広い視点から、情報を提供する」(新放送ガイドライン)というなら、従軍慰安婦問題に関する安倍発言に対して、米国下院外交委員会の公聴会で元慰安婦がどのような証言をしたかをなぜ伝えないのか? また、その証言を受けて、シエーファー駐日米大使が「私は元慰安婦の証言を信じる。元慰安婦は旧日本軍に強姦されたということだ」と語ったことをなぜ伝えないのか? オランダ外相がオランダ駐在の日本大使を呼んで「強制連行はなかった」という安倍発言に対し強い憂慮と不快感を伝えたことをなぜ報道しないのか? 先日来日したオーストラリアのハワード首相が訪問中に日本政府に対して「つまらない言い訳をするな」と警告したことをなぜ伝えないのか? 


 これでは、いかに「自主的な編集判断」と言っても、自国政府にとって追い風となる事実の報道には熱心な反面、自国政府に「耳の痛い」「不都合な」事実の報道には消極的だと推測されてもやむを得ない。自主自立は言葉でではなく、日ごろ「何を」「どのように」報道したかで具体的に試されるものである。

「家に乗り込んでいって強引に連れていったのでなければ強制にはあたらない、したがって謝罪する必要はない」と言っているに等しい安倍首相の、世界の物笑いになるような発言を垂れ流すだけでは、ジャ-ナリズムではない。

日本のメディアは「従軍慰安婦」、「日韓併合」をめぐる東国原知事の歴史認識をなぜ伝えないのか?

 さる3月15日、東国原宮崎県知事は東京有楽町の外国特派員協会で記者会見を行った。これについてはいくつかの民放が報道をしていた。しかし、その内容は、同知事が英語でジョークを混じえてスピーチをした模様を面白しろおかしく伝えたものだった。


 これに対して、The Japan Times HIROKO NAKATA 記者名の“Gov. Sonomanma: What sex slaves?” という見出しの次のような記事を掲載した(抜粋)。

 My position is that it is hard to make a comment (on the issue) unless the history is verified, “ he said. “Both cases of existence and nonexistence (of coercion) should be verified objectively. ”


  「(この問題については)歴史が証明するまではコメントするのはむずかしいというのが私の見解です。」「強制があったという主張も、なかったという主張も、どちらも事実にもとづいて立証されなければなりません」と彼は語った。

Aside from the question of whether there was coercion to get the sex slaves into the trothels, Higashikokubaru said he believes there was nothing wrong with Japanese engaging in the sex trade in pre-1945 Korea, because under a “bilateral accord” in 1910, the Korea Penisula became part of Japan, where the sex business had been allowed under certain regulations.
 

  東国原氏は次のように発言した。「性的奴隷を慰安所に集めるにあたって強制があったかどうかは別にして、朝鮮半島が“双方合意のうえで”日本に併合された1910年から1945年当時は、売春は合法だったから、朝鮮半島から売春婦が日本へ来て性的な商売をするのはなんら問題なかった。」

 この報道から判断する限り、東国原氏は従軍慰安婦を慰安所に徴集する際に強制があったかどうか、不明と解釈していることになる。そればかりか、彼は従軍慰安婦を売春婦と同列に置くかのように認識していること、さらに日韓併合が両国「合意」の統治であったかのように受け止めていることがわかる。宮崎県知事がこうした歴史認識の持ち主であることをわが国の有権者に伝えることと、大リーグのキャンプ地での日本人選手の一挙一動を伝えることと、どちらを優先すべきなのか―――日本のメディアにはこのことが問われているのである。

|

« 「放送法制定をめぐる国会審議録集成」を左サイドバーの「資料集成」に掲載 | トップページ | 地価動向の判断にみる「平均値」の危うさ »

「メディア」カテゴリの記事

「歴史」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「放送法制定をめぐる国会審議録集成」を左サイドバーの「資料集成」に掲載 | トップページ | 地価動向の判断にみる「平均値」の危うさ »