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地価動向の判断にみる「平均値」の危うさ

地価は上昇に転じたといううけれど
 去る22日、国土交通省は今年1月時点の公示地価を発表したが、その報道を見て非常に気になる点があったので、ここで書き留めることにした。

 各種報道に共通するトーンは、全国平均(全用途)で16年ぶりに上昇(前年比0.4%)に転じた点を前面に押し出している点である。その要因として、3大都市圏の大幅な回復(住宅地2.8%、商業地8.9%。いずれも前年比)が平均を押し上げたこと、地方圏も下落が続いているものの、下落幅は3年連続で縮小したこと、を挙げている。このこと自体に間違いはない。問題は平均値がややもすると一人歩きして、地価動向の格差の実態が平均値に埋没させられていることである。
 論評の前に国土交通省が発表した総括的データを紹介しておく。

 第2表 圏域別・用途別対前年比変動率
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322g.html
 
 第4表 都道府県別・用途別対前年比変動率http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322i.html

メディアはどう伝えたか?
 これについて、NIKKEI NETは「公示地価、全国平均16年ぶりに上昇」という見出しで次のような記事を掲載した。
  「国土交通省が22日発表した200711日時点の公示地価は全国平均(全用途)で前年に比べ0.4%上昇し、1991年以来、16年ぶりにプラスの転じた。マンションやオフィスの需要が堅調な東京、大阪、名古屋の3大都市圏が地価を押し上げているのが主因。地方圏は下落が続いているものの、仙台や福岡など中核都市には地価反転が波及した。日本経済全体でみると、バブル崩壊後、長らく続いた『土地デフレ』が終わりを迎えた形だ。(以下、省略)」(322日)

 『時事通信』もこれとほとんど同じトーンで次のような記事を配信した。
  「国土交通省は22日、今年11日時点の公示地価を発表した。全国平均で住宅地が前年比0.1%、商業地が2.3%の上昇となり、バブル崩壊の1991年以来16年ぶりの上昇に転じた。3大都市圏では前年の商業地に続いて住宅地でも上昇したほか、地方圏では3年連続で下落幅が縮小。福岡、仙台など地方中核都市を中心に上昇に転じる動きが出てきており、同省は『日本経済が良い方向に転じたことの反映ではないか』と分析している。地価の変動率が前年から上昇した都道府県は、住宅地で東京都のみから9都道府県に、商業地で4都府県から11都道府県に拡大した。下落幅が拡大したのは住宅地が9県から4県に減少し、商業地はゼロとなった」(322日)

都道府県別の変動率データからわかること
 しかし、上の第4表から、住宅地の都道府県別変動率の分布を集計してみると、次のようになる。

  表 都道府県別の前年比変動率の分布(住宅地)
  + 8%台  10)  - 0%台  110
  + 7%台  00)  - 1%台  6 0
  + 6%台  00)  - 2%台  11 5
  + 5%台  00)  - 3%台   11 5
  + 4%台  00)  - 4%台    613
  + 3%台  00)  - 5%台    210
  + 2%台  00)  - 6%台    1 3
  + 1%台  60
  + 0%台  21
   
( )内の数値は平成18年の前年比変動率

 これを見ると、上昇に転じたといっても、8%台の上昇を記録した東京都を除くと、他は12%台にとどまっている。また、地方圏で下落幅が縮小したといっても、過半が-0%~-3%の範囲内にとどまり、平成18年度の変動率との比較でいっても、12%ポイント上方へシフトしたにとどまる。香川、高知、鹿児島の3県は前年比の下落率が拡大している。

市別の変動率データからわかること
 次に、地方圏の地価動向を立ち入って吟味するために、国土交通省が発表した資料の中の第15表を分析してみよう。
 第15表 人口10万以上の市の対前年変動率(住宅地)
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322x.html

 この表から、前年比の変動率の分布を集計すると、マイナス(下落率が拡大)を記録した市が6、プラス0%台の市が43、プラス1%台の市が50であった。つまり、全体の678%(99)の市は依然として住宅地の値下がり幅が拡大しているか、上昇に転じたといっても1%台以下にとどまっていることがわかる。
 なお、地方中核都市といっても、松江市、高松市、高知市、鹿児島市などでは下落幅が拡大している。

関東圏内の市区別の変動率データからわかること
 上記のように、関東圏では東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県で変動率が上昇に転じた。しかし、次の東京圏の市区別のデータを見ると、ここでも平均値に隠れた地価動向の実態が浮かび上がってくる。

 第7表 東京圏の市区の対前年比変動率(住宅地)
http://tochi.mlit.go.jp/chika/kouji/20070322/20070322m.html

 これを見ると、神奈川県の場合、平均で1.7%だけ変動率が上昇したといっても、県内の19市のうち、変動率がプラスを記録したのは3市(横浜市3.2%、川崎市5.3%、大和市0.2%)だけで、残りの16市は依然として値下がりが続いている。

 また、東京都の場合、平均で8.0%の上昇となっているが、都区部、市部別に見ると、港区(27.2%)、渋谷区(24.8%)、中央区(20.9%)で20%を超えるプラスの変動率を記録した反面、市部で8%を超える変動率を記録したのは3市だけで、1市は1%台、別の1市は2%台、3市が2%台にとどまっている。

平均値の陰に隠れた地域間格差の原因分析こそ重要
 地価の動向は上昇傾向であれ、下落傾向であれ、様々な利害関係者に異なった影響を及ぼすから、トレンドだけで価値判断を交えて評価を下すことには慎重でなければならない。しかし、どのような政策的含意を引き出すにせよ、「平均値」の陰に隠れた実態を的確に把握することが大前提である。
 この点でいうと、地方財政、医療を受ける機会(産婦人科を始めとする医師不足など)、教育を受ける機会(地方の大学の経営危機など)などの地域間格差がとみに指摘されるなか、こうした生活、文化、産業をめぐる環境の格差が人口動態や土地の需給の地域間格差を拡大させ、それが地価動向に影響していないかどうかを分析する必要性を強く感じさせられる。

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