自主自律の堅持をNHKに迫った経営委員の気概と良識(1)
経営委員会に変化のきざし?
――注目に値する第1040回議事録――
去る4月13日に公開された第1040回NHK経営委員会議事録に目を通して、私はある種の感慨を覚えた。それは、この議事録から、とかく無機能ぶりが指摘されてきた経営委員会に変化のきざしを読み取れたからである。
論評に入る前に議事録全文のURLを紹介しておく。ぜひ、全文をお読みいただきたいと思う。、特に、必読と思えるのは「2.議決事項(1)平成19年度“約束”について」をめぐる議論である。
第1040回NHK経営委員会(2007年3月27日開催)議事録全文
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/giji_new.html
今回の議事録の中で注目に値すると思われたのは次の3点である。
【1】 NHKが準備した「平成19年度“約束”」案に関して、前回の経営委員会で多くの委員が出した改訂の要望が全く反映されていないことに委員がこぞって反発していること、この点の議論を通じて、有名無実化したNHKに対する経営委員の監督機能を実効性のあるものに改めようとする委員の意気込みが示されていること。
【2】 “約束”の中に「自主自律の堅持」を明記するよう、多数の委員がNHKに迫っていること。
【3】 2名の委員が、ETV番組の改編問題をめぐる裁判の場でのNHKの対応に厳しい疑問・批判を投げかけていること。
経営委員会の復権にかける委員の意気込み
今回の議事録全体から伝わってくるのは、「NHKの最高意思決定機関」たる経営委員会が有名無実化している現状をどうにかして改めたいという経営委員の意気込みと、そうした意気込みに支えられた良識ある発言である。私が印象深く思った発言を2,3引用しておきたい。
「(菅原委員) 私は前回、“約束”の中に『報道』という言葉がないことを指摘し、『NHKとして、報道の役割は大きく、視聴者の期待も高いことから、もっとしっかりと踏み込んで取り組んでいただきたい』と発言したのですけれども、全然聞いていただけなかったということですね。」
「(佐々木委員) ・・・・・今、経営委員会の監督機能が非常に弱いと指摘されていますが、私の経験では、経営委員会で意見を申し上げても、執行部の考えが変わらないということが、これまで何度かありました。執行部として、私たちの意見を尊重してくださらなければ、何も改革できないと思います。」
どの発言も、運営財源のほぼ100%を視聴者が拠出する受信料で支えられているNHKを監督する経営委員会の委員としては、当然の発言ではある。まして、自らの報酬も受信料で賄われている経営委員にしてみれば、視聴者の目線で物を言うのは「熱意でも見識」でもなく、当たり前のことと言ってもよい。
翻っていえば、経営委員会のあるべき姿を語り、それと現実の乖離を批判するのはさほど難しいことではない。重要なことは、その乖離を埋めていく道筋を示すことである。そのためには、あるべき姿から見て、小さな変化であっても、それを見逃さず、それを大きな変化に育んでいく視聴者サイドからの(切捨て御免的ではなく)理知的な批判あるいは激励・支援のメッセージが大切である。
現行法の下でも経営委員会はその気になれば重要な権限を行使できる
そこで、上記の議論を現行の放送法が定めた経営委員会の権限と責任に照らして考えてみたい。現行放送法の中で経営委員会の設置及び権限を定めたのは第13条~23条であるが、第13条2項は次のような文言になっている。
「経営委員会は、協会の経営方針その他その業務の運営に関する重要事項を決定する権限と責任を有する。」
続いて、第14条では経営委員会の議決を経なければならない事項として13の事項が列挙されているが、その5項目は次のとおりである。
「5 第3条の3第1項に規定する番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画」
総務省が今国会に提出した「放送法等の一部を改正する法律案」では、経営委員会の権限強化が柱の一つとされている。しかし、事新たに法律を改正するまでもなく、現行の放送法でも、NHKの事業運営の根幹をなす番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画は、経営委員会の議決を経なければ決定できない仕組みになっているのである。
ところで、今回の経営委員会で議題にされたNHKの“約束”は、「NHKの事業運営の目標」といわれていることから判断して、放送法第14条の5でいう「番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画」の一種に該当すると考えられる。この意味で、石原委員長が国会に参考人として出席して不在の間、経営委員会の議事進行役を務めた梅原委員長代行が、
「われわれが指摘したことを“約束”に反映できないというのであれば、経営委員会としても、この場で議決することはできません。」
と発言したのは、放送法の定めに照らせば、まっとうな見識といえる。つまり、経営委員会は現行放送法のもとでも、その気になれば、NHKの経営方針、番組編成の基本方針の決定にあたって、絶大な権限を持っているのである。したがって、これまで経営委員会が機能しなかった理由は制度にあるのではなく、NHKに物申す経営委員会の自律性と委員一人ひとりの気概、物申すことができるだけの公共放送に関する知見の不足にあったというべきなのである。
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