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放送法「改正」法案の実態は「総務大臣の権限拡大」法案

 46日、総務省は「放送法等の一部を改正する法律案」を今国会に提出した。そのうち、NHKに関しては、ガバナンスの強化を謳い文句に掲げて、経営委員会の機能を整理・強化する条項を盛り込んだのが特徴とされている。民放に関しては、①総務大臣が定めた要件を満たすことを条件に、傘下に複数の子会社を持つ放送持株会社を容認し、マスメディア集中排除原則を緩和している点(第52条の2937)、②関西テレビの「あるある大辞典」における番組捏造事件のような事態が起こった場合、総務大臣に「再発防止計画」の提出を命じる権限を新設するとともに、提出された計画について総務大臣に意見を付ける権限を設ける条項が新設されている点(第53条の82)、が特徴である。

 これらを総合すると、今回の放送法「改正」法案は、NHKか民放かを問わず、「総務省の権限拡大法案」と呼ぶにふさわしい――これが私の結論である。以下、この記事では、NHKに関係する法案部分に限定して、この見解を検証しておきたい。

実態は経営委員会の権限強化ではなく、総務省の権限拡大
 
法案は、NHKのガバナンスの強化を謳い文句に経営委員会の決定事項として次のような条項を新設している。
  ・「監査委員会の職務の執行のため必要なものとして総務省令   で定める事項」 (第14条第1項一のロ)
  ・「会長、副会長、理事の職務の執行が法令及び定款に適合す   ることを確保するための体制その他協会の業務の適正を確保      するために必要なものとして総務省令で定める体制の整備」
    (第14条1項のハ)
  ・「経営委員会は、前項に規定する権限の適正な行使に資する    ため、総務省令の定めるところにより、第32条第1項の規定に    より協会とその放送の受信についての契約をしなければなら      ないもの〔受信契約者のこと:醍醐追加〕の意見を聴取するも
    のとする」(第14条第2項)

 また、運営上の規則として、次のような条項を新設している。
  ・「〔経営〕委員長は、総務省令で定めるところにより、定期的に   経営委員会を招集しなければならない。」(第2222項)

 以上、一見してわかるように、新設される経営委員会の権限、運営規則はすべて、今後、総務省が定める省令等で実施の細目が決められる仕組みになっている。言い換えると、監査委員会の職務の執行に必要な事項、会長・副会長、理事の職務の執行状況を経営委員会が監督するのに必要な事項、経営委員会が受信契約者の意見を聴取する権限を行使するにあたっての規則は、外見上、経営委員会の決定事項となっているが、法案をよく読むと、これら規則等はすべて総務省が省令で具体的な運用規則を決めることになっているのである。おまけに、経営委員長が経営委員会をどのように招集するかまで総務省がおせっかいを焼くと名乗りを挙げている。

省令は国会の審議も議決も要しないことを銘記すべき
 さらに、ここで注意しなければならないのは、「省令」の制定の仕方である。大辞泉によると、省令とは、「各省大臣が、主任の事務について発する命令。執行命令と委任命令とがある」と解説されている。このうち、「執行命令」とは「法律の規定を執行するために必要な細則を定める命令」で、「施行令」、「施行規則」などを指す。また、「委任命令」とは、「法律の委任に基づいて発せられる命令」のことで、「政令」、「省令」などがこれにあたる。今回の放送法「改正」法案に頻繁に登場する「省令」とは、この法案の委任に基づいて発せられる命令といえるから、「委任命令」に当たる。

 つまり、法律の委任を受けて所管大臣が発令すれば法的効力を持ち、国会での審議・議決を経る必要はないのである。このように、今回の放送法「改正」法案は、国会の関与なしで決定される省令に実施細則の重要部分(経営委員会の権限の整理・強化に関わる部分)が委任されている点でも、総務省の権限拡大法案という性格が加重される。

法律の重要部分を省令に委ねるとどうなるか
――男女雇用機会均等法における「間接差別」の判定基準を事例にして――

 では、法律の根幹に関わる実施細則を国会での審議・議決を必要としない省令に委ねるとどうなるか――この41日から施行された改正男女雇用機会均等法における「間接差別」の範囲を決定するプロセスを参考事例にして、この点を検討しておきたい。

 2006615日の衆議院本会議で改正男女雇用機会均等法が全会一致で可決・成立した。今回の改正で大きな論点の一つになったのは、性別の中立性を標榜しながら、結果として一方の性に不利になるような「間接差別」の禁止をいかに実効あるものにするかという点だった。これについて法案の第7条は、次のような表現になっていた。

  「事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であって労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。」(下線は醍醐が追加)

 これについては、国会審議の場で「何が間接差別に当たるのか」を省令でどのように定めるのかについて各党から懸念が示され、次のような附帯決議が全会一致で採択された(下線は醍醐が追加)。

  「政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
 1.間接差別の法理・定義についての適正な理解を進めるため、事業主、労働者等に対して周知徹底に努めるとともに、その定着に向けて事業主に対する指導、援助を進めること。また、厚生労働省令において間接差別となるおそれがある措置を定めるに当たっては、国会における審議の内容、関係審議会における更なる検討の結果を十分尊重すること

 2.間接差別は厚生労働省令で規定するもの以外にも存在しうるものであること、及び省令で規定する以外のものでも、司法判断で間接差別法理により違法と判断される可能性があることを広く周知し、厚生労働省令の決定後においても、法律施行の5年後の見直しを待たずに、機動的に対象事項の追加、見直しを図ること。そのため、男女差別の実態把握や要因分析のための検討を進めること。」(以下、省略)

 しかし、20061011日に公表された「労働省令第183号」では、間接差別は、①募集・採用の際に身長・体重・体力を要件とすること、②総合職を募集・採用の際に転居を伴う転勤に応じることを要件とすること、③昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とすること、の3点に限定され、それ以外の間接差別が存在する余地は明文化されなかった。また、5年後の見直し規定も盛り込まれなかった。

スケジュ-ル消化に堕落したパブリック・コメント
 もっとも、国会での審議を要しない代わりに、省令の制定にあたっては、通常、審議会への諮問が義務付けられている。また、最近では、パブリック・コメントが募集されるのが通例になっている。2006年の男女雇用機会均等法に係る省令の制定にあたっても、約1ヶ月間(2006829日~927日)、パブリック・コメントが実施された。では、その実態はどうであったか? 間接差別関係に限定して、それを確かめておきたい。

 厚生労働省雇用均等・児童家庭局雇用均等政策課が発表した意見募集の結果に関する報告によると、計197者から意見が寄せられたが、寄せられた意見に対し、担当部局課は次のような「考え方」を示している。

      (意見の概要)            (意見に対する考え方)
 間接差別の規定について5年    通常、省令に見直し規定をおくこ
 以内見直しを明記することを求  とはない。
 めたもの

 間接差別と考えられるものの   均等法上の間接差別として違法
 例を追加することを求めるもの   とするものについては、労働政策
                     審議会でコンセンサスの得られた
                      3つの措置についてとされたところ
                      であり、その他の例を省令上規定
                      することは適当ではない。

 これを見てもわかるように、寄せられた意見に対する行政側の応答は木で鼻をくくったようなそっけないものである。特に後者のように、間接差別の範囲は前年に提出された審議会の報告(建議)で示された3項目で決まりといって、寄せられた意見を退けてしまうぐらいなら、そもそも意見を募集する以前に「結論ありき」だったことになる。これでは意見募集は「スケジュール消化」の通過儀礼に過ぎず、まじめに意見を寄せた関係者を愚弄するものである。また、これでは、「総務省による総務省のための」放送法「改正」と言ってもなんら過言でない。

視聴者主導の放送法改正論議が求められる
 つまり、外見上、広く市民・利害関係者の意見を聞くデュー・プロセスを踏むかの体裁を整えても、寄せられた意見の扱いは所管庁の判断次第というのが実態である。ことほど左様に所管庁の裁量が幅を利かせる省令に、法案の運用細則を委任する条項が随所に盛り込まれた今回の放送法「改正」案を成立させることは、後々に大きな禍根を残すことを視聴者はくれぐれも銘記しておく必要がある。

 具体的にいうと、第14条第1項一のロを受けて定められる総務省令を通じて、総務大臣は監査委員会の権限の及ぶ範囲を自在にコントロールできる。
 また、第14条1項のハを受けて定められる総務省令を通じて、総務大臣は経営委員会が会長以下NHKの理事の職務執行に対する経営委員会の監視の範囲を自在にコントロールできる。
 さらに、総務大臣は、第14条第2項を受けて自らが定める省令によって、経営委員会と受信契約者の関係を自在に定めることが可能になる。

 しかし、それでも、市民・視聴者の中には、「あるある大辞典」に見られたような番組捏造事件や、低俗なやらせ番組が頻発すると、放送の公共性、番組内容の健全性を維持するには、国会や行政の関与もやむを得ないという意見も少なくない。しかし、本当にそうなのか? この点を考える際には、次の指摘が含蓄に富んでいる。

 「視聴者は有権者と同義なのか。有権者の代表たる衆参両議院の議員は、同時に、税金とは別に受信料を払っている視聴者を代表できるということか。あるいは、NHKは予算等の説明を国会ですれば、視聴者へのアカウンタビリティ-(説明責任)を果たしたことになるというのだろうか。おそらく、そうではない。NHKに限らずマスメディアは、立法・行政・司法の三権から十分な距離をとって存在し、広範な視聴者や読者とのあいだに<直接的>な信頼関係を築くことで、その存在の根拠と正統性を獲得するものである。」(「デジタル時代のNHK懇談会」最終報告書より)

 私もこの指摘に共鳴するところ大であり、公権力を介さない視聴者とNHKの受信料を通じた一種の信託関係(川島武宣)に基づく自律的な放送法改正論議が待たれるところであると痛感している。ただ、これは極めて大きなテーマなので稿を改めて議論することにし、ひとまず、その手がかりになると思われる資料を添付しておきたい。これは、去る421日に開催された「拡大放送フォーラム」(「放送を語る会」主催)で私が担当した報告の際の参考資料として作成・配布したものの一部である。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sankoshiryo_nhk_gyoseifu.pdf



 

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