NHKスペシャル「日本国憲法誕生」を視聴して
昨夜(4月29日、午後9時~10時14分)、NHKスペシャル「日本国憲法 誕生」を視聴した。さきほど、その感想をE・メールでNHKスペシャル担当へ送ったが、600字以内という字数制限のため、用意した原稿を大幅に削らざるを得なかった。そこで、元の原稿をこのブログに掲載することにした。
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予告で番組を知り、視聴しました。全体を通して、豊富な資料を駆使し、関係者の肉声での証言も交えて、新憲法の制定過程を丹念に検証したドキュメンタリー番組であったと感じました。特に、天皇制の護持に執着する日本政府と日本の再軍備の脅威を根絶しようとするGHQの思惑、さらには天皇の戦犯と天皇制そのものの廃止まで迫ろうとした極東委員会の構成国の意思が絡み、戦争放棄と象徴天皇制が抱き合わせで盛り込まれた経緯が克明に描かれたのが印象的でした。
しかし、こうした国際的な交渉の狭間で、日本の民間人あるいは各党代表者からなる憲法研究会、小委員会等の発案で生存権条項の追加、義務教育の年限の延長、戦争放棄の条項の補足等がなされた事実が史実に沿って明らかにされたことは貴重でした。こうした知見を提供するところにドキュメンタリー番組の真髄があると感じました。
個別的なことをいいますと、「至高」か「主権」か、「前掲」か「前項」か、「輔弼」か「助言と同意」かなど、条文の一字一句をめぐる論議にも立ち入った場面は、解釈改憲が叫ばれる今日、示唆に富んだ編集であったと感じました。
総じて、「押し付け」憲法論が喧伝されてきた中で、①日本人が自主的に新設・補足した条項が少なくなかった点を照射したのは貴重な知見の提供であったと思います。②他面、GHQや極東委員会の強い意思で制定された条項が少なくなかったことも事実として直視すべきと感じました。
その上で、極東委員会の強い意向で主権在民が明文化されたこと、当時22歳だったベアテ女史の強い進言と起草で女性の地位向上を定めた条項が盛り込まれたこと等を「押し付け」、「戦後レジームからの脱却」などというレトリックで清算しようとしてよいのかという問いかけが重要と思われました。(ちなみに、安倍首相自身の思考回路について言えば、「戦後レジームからの脱却」ではなく、「戦前レジームからの脱却」が強く求められている。)
「押し付け」を言う前に、市民の総意を集約して自律的に新憲法を創造する基盤が成熟していなかった当時の日本社会における民主主義の成熟度こそ、現在・将来への反省を込めて、問いかけられるべきであった(ある)と思われてなりません。
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コメント
「日本国憲法誕生」を改めて視聴しました。yusakuさんも述べられていましたが、私たちは、憲法制定の歴史を知っておくべきだと感じました。
安倍内閣のときに、「国民投票法」が成立し、憲法改正論議が報じられましたが、国民の大多数は無関心だったように思います。その理由について私は、私たち日本人にとって、「日本国憲法」が実は遠い存在のものだったからだと考えています。日本国の最高法規であるにもかかわらず、憲法に触れる機会がないため、日本人は自分たちの憲法の内容をあまり理解していない。だから「憲法改正」といわれてもピンとこない。この条項を変えることにどのような意味があるのか、変えるとどうなるのか、という論点整理がまったくなされなかったため、「憲法改正」という言葉だけが独り歩きしていたように思います。
憲法を理解していくには、まず、憲法が制定された当時の経緯や歴史を知ることが重要です。そして、当時の国会議員や官僚、GHQ関係者が何を思って「日本国憲法」を生み出したのか。「日本国憲法」の底流にあった考え方は何だったのかということを、私たちはもっと考えるべきだと思いました。
投稿: 埼玉っ子 | 2008年11月 2日 (日) 23時20分
憲法成立の経過が良く分かりましたね、私は75才ですが、知らない話やおぼろげな記憶が明らかになった事が多々あります。
日本の国民も憲法制定の歴史をもっと常識として知る必要が有りますね。
投稿: yusaku | 2007年5月 3日 (木) 10時44分
同感でした。
特に、安倍に「戦前レジームからの脱却」が求められているとされた点と、戦後の自主憲法創造の基盤の未成熟のご指摘は、その通りだと思います。
色川大吉さんが発掘された、明治自主憲法運動の記録を調べていますが、敗戦後の自主憲法運動はそこまで至っていなかったのではないか、との感を強くします。当時の日本共産党の天皇制廃止・人民憲法制定の動きの実情を知りたいと思いました。おそらく「解放軍規定」のために尻すぼみとなってしまったのではないでしょうか。いい資料を探しています。
NHKの良心的番組に注目を喚起して頂いて感謝しています。私も、今年2月に放送された「ETV特集・焼け跡から生まれた憲法」をDVDにコピーし、各方面に配っています。必要ならお送りします。
「ETV2001」改編問題への現場からのリベンジが、同じ番組枠で行われていて愉快なものですから。
投稿: 皆川学 | 2007年4月30日 (月) 20時59分