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空疎な意気込みと的外れな指摘の合成ーーNHKの次期計画を差し戻した経営委員会の見解についてーー

経営委員会の自主自立は大歓迎だが

 NHK経営委員会は、9月25日に開催された委員会でNHK執行部がまとめた次期5ヵ年の経営計画の議決を見送った。いくつかのマスコミは、経営委員会がNHK執行部の重要提案を差し戻すのは異例のことと大きく報道している。しかし、放送法でNHKの最高意思決定機関と位置づけられている経営委員会が、業務執行機関であるNHK理事会の提案を是々非々の姿勢で審議し、NHKに対してストレートに物申すのは当然のことである。今回の議決見送りを「異例」と報道されるのは、これまでの経営委員会がNHK執行部の意思決定の追認機関にすぎなかった実態を反証するものといえる。

 しかし、問題は、経営委員会が次期経営計画のどこを、どういう理由で不十分と判断して議決を見送ったのかである。これについて経営委員会は同日のうちに「5ヵ年経営計画(執行部案)についての経営委員会の見解」を発表し、委員会のサイトに掲載した。
  http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/new/keiei070925.html

 これを読んで私は、見かけとは裏腹に、経営委員会の議決見送りを、NHKに対し強い姿勢で改革を迫った勇断と評価することはできないと判断した。それどころか、経営委員会の見解には公共放送としてのNHKの進むべき道を誤らせかねない危険な内容が少なからず含まれていると感じた。以下、そうした私の判断を説明しておきたい。

 その前に、議論の前提として改めてNHKの次期経営計画と、それに対して湯山哲守氏と私が共同代表を務める「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が提出した意見を再掲しておく。

 NHK次期経営計画(2008~2012)の考え方
  http://www.nhk.or.jp/css/keiei/print.pdf

 NHK次期経営計画(2008~2012)の考え方に対する視聴者コミュニティの意見
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhk_keieikeikaku_nitaisuru_iken_community20090830.pdf

放送サービスの内容を素通りした空疎な見解

 経営委員会の見解を読んで、まず感じるのは、公共放送としてのNHKの核にある放送サービスに関する議論が素通りされ、不祥事の再発防止を目指すコンプライアンス体制の確立、関連団体の整理統合、受信料の値下げに多くのスペースが費やされている点である。経営委員会が重点的に取り上げたこれらの問題はNHK内外で話題に上った社会的関心事であることは確かである。

 このうち、コンプライアンスについていえば、受信料の横領が絡む不祥事はあってはならないし、業務時間内外を問わず、職員の非行が許されないことは自明である。しかし、これについては様々な場で議論が繰り返されてきた。これ以上、抽象的な精神論を重ねないためには、経営委員会自からが、「より効果的なコンプライアンス体制を確立するため、より実効性のある施策を示すべきである」といった無内容な議論に輪をかけるのではなく、一つでも具体的な施策を提示すべきである。
 
 とはいえ、NHKに対する視聴者の信頼回復の原点はあくまでも放送番組への信頼であり、権力を監視するという放送メディアの使命をよりよく果たすことを置いてほかにない。これについていうと、NHK執行部がまとめた次期経営計画案では、①信頼に応える報道の充実、②質の高い大型企画・見ごたえのあるドラマ、③“地域の応援団”として地域社会の発展に貢献、④日本の未来を担う若い世代に向けた放送の充実、⑤視聴者との回路を広げ、視聴者とともに作る番組の開発、という5つの重点課題を掲げている。 

 これについて、視聴者コミュニティは上記の意見の中で、随所にわたって厳しい批判を加えるとともに、逐条的で具体的な代案、要望を提出した。経営委員会もNHK執行部の経営計画案を指して「NHKの将来ビジョンが十分示されていない」というなら、何よりもまず、上記の重点課題のどこがどう不十分なのかをわかりやすく説明する必要がある。でないと、議論は空回りの禅問答で終わる。

 例えば、経営委員会は若者のテレビ離れを力説している。この状況認識に異論はない。大事なことは、誰も異論を唱えないような状況をなぞることではなく、経営計画案で示された上記の重点課題の④のどこがどう足りないのか(足りているのか)を具体的に指摘すること、どうすればよいのかという代案を示すことである。

  これに関連して私は、NHKが携帯端末向けサイト「がんばれルーキー 大人のジョ-シキ大学」を9月15日にスタートさせたことを最近知った。その案内ページを見ると、郷土料理レシピ、日めくり英会話、有働アナのNY取材日記、あなたのジョーシキ力検定試験など、工夫の跡が窺える企画のように思えた。
 http://cgi2.nhk.or.jp/cgibin/qr/ajpro.cgi?d=741&f=friend
 
 制作現場でこのような地味ではあるが、創意を傾けた企画が試みられている実態を経営委員会も把握して、もっと具体的で建設的な議論を深めるよう望みたい。

関連団体の組織改革は受信料の値下げ原資を捻出するためではない

 会計検査院がNHKの関連団体に多額の利益剰余金が留保されている実態の改善を求める検査結果を発表したのをきっかけに、NHKと関連団体との取引の透明化を促す声が高まるとともに、関連団体に蓄積された利益の一部をNHK本体へ還元(配当)するよう促す指摘が出ている。経営委員会も同じ趣旨の意見をNHK執行部に提起している。

 私も大筋において、会計検査院の指摘に同感である。また、NHKのOBの再就職先となっている関連団体とNHK本体の取引に監視の目を光らせる必要があるのも確かである。関連団体に留保された多額の利益剰余金を適正にNHK本体に還元させ、NHKの財政に貢献させることも必要である。

 しかし、そうした組織改革や財務は営利企業のようにコスト削減や増益を至上命題としたものではないし、受信料値下げの原資捻出を意図したものでもないはずである。関連団体の構造改革といっても随意契約を一律に悪と決めつけ、競争入札の比率を高めてコストダウンを図ることが改革努力の証であるわけではない。良質の番組作りという見地から、番組制作のための優れたノウハウ、人材が関連団体に蓄積されているなら、随意契約によって、それを継続的に活用することは視聴者利益にかなうはずである。

受信料の値下げ幅がNHKの改革努力のバロメーターではない

 このところ、マスコミは受信料の値下げ幅をめぐるNHK執行部と経営委員会の綱引きにスポットを当てた報道に傾斜している。しかし、受信料の値下げを歓迎しない視聴者はいないからといって、次期経営計画をめぐる論点をこれに収斂させる論調には危うさがつきまとう。経営委員会は見解の中で、「受信料の値下げは、最初に数字ありきの問題ではない」と記しているが、次期経営計画をめぐって、経営委員会が受信料の値下げ幅に眼目を置き、NHKにさらなる値下げを迫ってきたのは間違いのない事実である。
 
 しかし、受信料値下げ論はもともと、視聴者の間から自発的に生まれたわけでなく、菅前総務大臣が受信料義務化とセットで2割程度の値下げを唱え出したのがきっかけである。経営委員会は今回の見解の中で受信料義務化を積極的に求めているわけではないが、視聴者間の不公平感を解決する選択肢の一つとして受信料の義務化を挙げている。経営委員会が受信料の収納率の向上による増収を原資に受信料のさらなる値下げが可能と主張していることからいえば、収納率向上の決め手として受信料の義務化が選択肢に入れられるのは自然な筋書きといえる。
  
 しかし、NHKと視聴者の双務契約に照らし、経営や人事、番組編成への参加権を与えられていない視聴者に、受信料の義務化だけを求めるのはありうべきことなのか、公権力を後ろ盾にして受信料を強制徴収できる支払い義務制を採用したとき、視聴者の意向に対するNHKの感度が今以上に鈍ることはないのか、ーーーこうした本質論を経営委員会はなにほど検討したのだろうか? 次元を異にする受信料の値下げと義務化をセットにして、値下げ原資の捻出というふれ込みで受信料の義務化=収納率の向上を無批判に容認するのは、わが国の受信料制度が契約義務制に止まり(これ自体、憲法論争に発展する可能性があるが)、支払い義務制を見合せた歴史的沿革に関する無理解を意味している。

 視聴者への還元というなら、受信料の一律の値下げよりも、①障害者や母子家庭等の低所得層を対象にして受信料の減免枠を拡大すること、②テレビ難民を生まないよう、デジタル化にあたって難視聴地域の視聴者や経済的困窮者に無償または安価にチューナーを配布すること、③NHKアーカイブスに所蔵される番組を無償または安価な料金で開放することなど、格差社会において、より大きな社会的効用を期待できる還元方法を優先的に検討すべきであろう。この点で私は、NHK執行部が昨日、経営委員会に示した経営計画案の中に、障害者等への受信料減免枠の拡大を盛り込んだことは、部分的な施策にとどまるとはいえ、評価に値すると考えている。

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