« 了解にはほど遠い――NHKの自主自立を脅かす放送法改定法案―― | トップページ | 小山内美江子さんから賛同のメッセージ――原寿雄さん、永井多恵子さんをNHK会長候補に―― »

原寿雄さん、永井多恵子さんを次期NHK会長候補に推薦―川口幹夫元NHK会長ら67氏が賛同―

 原寿雄さん、永井多恵子さんをNHK会長候補として推薦

 松田浩、桂敬一、野中章弘の3氏を世話人とする「原さん、永井さんをNHK会長候補に推薦する会」は12月10日、NHK経営委員会委員に宛てて、次期NHK会長候補に原寿雄さん(ジャーナリスト。元共同通信編集主幹)と永井多恵子さん(現NHK副会長)を推薦する、次のような申し入れを提出した。  
 
 「NHK会長候補者の推薦に関する申し入れ」(2007年12月10日)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhk_kaocho_koho_suisen_mosiire.pdf
 (文末に原さん、永井さんの略歴が記されている。)

 この申し入れには、文化人、メデア研究者、ジャーナリストら67氏と3つの市民団体が賛同している(12月9日現在)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/suisensandosha_meibo20071209_1340.pdf

 その後、降旗康男(映画監督)さん、吉原功さん(明治学院大学教授)、吉田俊実さん(東京工科大学教員、メディアの危機を訴える市民ネットワーク事務局員)が賛同の意思を寄せている。

 また、推薦賛同者のなかで山田太一さん(作家、脚本家)、大澤豊さん(映画監督)ら6氏が次のようなメッセージを寄せている。
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/suisen_sandosha_messege.pdf

 私から見た2人の被推薦者

 今回、私は推薦賛同者に加わっていない。推薦候補に異論があるからではもちろんない。今回は文化人、メディア研究者、ジャーナリストの方々が連名でお二人を推薦するという動きである。

 「私はどのカテゴリーにもなじまないので遠慮します。」
というと、世話人の松田浩さんから、
 「いや、文化人でいいじゃないですか。」
と言われた。が、残念ながら私はまだ「文化の香りがする」人間の域には達していないので辞退した。しかし、以下述べるように原さん、永井さんを次期会長候補として推薦することには大いに賛同するので、できる限りのお手伝いはするつもりでいる。

 原寿雄さんとはシンポジウムで1度お目にかかった程度だが、著書は読み、E・メールで何度かやりとりをさせていただいている。ズバリ直言される一面と懐の深いおおらかなお人柄に敬意を抱いてきた。今回は開かれた会長選出の制度づくりに役立つならと推薦を承諾された。日本の言論・報道界の大御所としての面目躍如である。

 永井多恵子さんについては、このブログの2006年9月18日付の記事で触れたことがある。
 「NHK副会長、永井多恵子さんの公共放送像を読んで」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/nhk_2e4c.html

永井さんの「文化ジャーナリズム試論」

 今回、永井さんを推薦するというので、どんな人なのか、もう少し詳しく知りたいと思い、国立国会図書館の文献データベースで永井さんの著作を検索した。その中で、目にとまったのは「文化ジャーナリズム試論」という論説だった。石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞記念講座講義録2『ジャーナリズムの方法』(早稲田大学出版会、2006年)と題する書物に収められた、母校早稲田大学での講演録である。

 まず、私の目を引いたのは冒頭で、いわゆるイラク人質事件を取り上げていることだった。
 「人質」3人が政府や国民に迷惑をかけた――そう思う方は手を挙げてください、と会場に向かって問いかける永井さんの言葉に私は感慨深いものを覚えた。それは、私自身、「人質」となった高遠菜穂子さんら3人をバッシングから擁護する市民運動を呼びかけた一人だったことにもよる。しかし、それ以上に、3人に対し、「政府と世間に迷惑をかけた」という非難が渦巻いていた時期に、公の講演の場で控え目ながら、疑問を呈するのは相当に勇気が要ったに違いない。

 さて、講演の本論であるが、永井さんが一貫して強調しているのは、文化は精神を浄化するアーツだという持論である。

 「今は財政が逼迫しており、社会のなかで位置づけというのが低い、また、日本の社会は歴史的にも文化を社会の装置として明確にしてこなかった」

と永井さんはいう。また、

 「アーツ・文化は無駄である。金ばかり使う、役に立たない、という排斥論が今日でも散見されます。文化はまだ、社会におけるステータスを獲得していないのかもしれません。」

ともいう。しかし、永井さんはこういう。

 「文化ジャーナリズムの効果、それは一つの啓発です。感性を刺激し、啓発し、人々の感じ方を、考え方を変えていく。・・・・・・・美しいものが人々の心を浄化する。そのことこそが、文化には公共性があるといえる一つの根拠であろうと、私は思っています。」

公のことに民が参加するということ

 では、文化を市場経済に任せるとどうなるか? それでは人気のある大衆的なものしか生き残れない、と永井さんはいう。たとえば、ピカソは幸い、自分が生きているうちに評価を得、経済的にも功をなした。しかし、こんな幸せなアーティストはめったにいない。

 モジリアニは評価を得ることなく貧乏のどん底で死んでいく。しかし、彼の絵の価値を見抜いた画商は彼が死ぬと彼の絵を買占めた。すると、この画商の予想どおり、モジリアニの絵は彼の死後、爆発的な人気を得た。つまり、生きているうちに報われることが少ないのが芸術の常である。だからこそ、文化芸術は目先の営利性で動く市場経済にゆだねるわけにはいかず、公的な援助が必要なケースが大多数である――永井さんはこう結論づける。 
 
 では、文化を公的に支援するとは、どういうことなのか? これについて永井さんはメセナ(民間支援)の必要性を次のように記している。

 「結局、何でもかんでも国や自治体、つまり官に頼る必要はないわけですね。公のことは官だけという時代は終わりにして、公のことに民が参加するということは、これからはあっていいのではないでしょうか。」

 ゴチック体は私の追加であるが、大変含蓄に富んでいる。私も最近、公会計や放送の公共性、公的サービスの民営化論などを考える中で、公=官ではないし、民=私でもないことを認識する必要性を痛感している。官が公を独占するのは普遍ではなく、特殊に過ぎない。むしろ、これからは、民が私を超えて公に参加する時代である。この意味で永井さんのメセナ論は誠に卓越した見解である。

見る(息を吸う)ことと表現する(息を吐く)こと

 講演の最後に、永井さんは学生に次のように語りかけている。

 「とにかく私は一貫して、文化というものは大事だと言ってきた。なぜ舞台を見るのか、あるいは映画でもいいのですけれども、それはやはり自分の人生というものを振り返ってみる時間が、人間には日々、必要だということ、そして何かピュアなもので自分の精神が浄化される。そんな時間をもつことが人間には欠かせないと思っているからです。」

 「それともう一つ。これは見るだけではなくて表現をするということも、とても大事だと私は思うのです。・・・・・・皆さん学生の時に何か発表するということは自己表現のチャンスだし、仕事をするということも、私はひとつの自己表現だと思います。吸っては吐いて、それは呼吸なのですね。詩を創ったり、作曲したり。皆さん若いのですから、いろいろなチャンスがありますよね。そういうことを自分の生活のなかに組み入れながら、いい人生を送って欲しいと思っています。」

 私は最近、権力を監視するのがジャーナリズムの使命である、と言い募ってきた。しかし、それと同時に、ジャーナリズムは<魂の洗濯をする>文化の担い手でもある、というのが永井さんの持論のようだ。このような剛と柔を兼ね備えた見識の持ち主こそ、公共放送の顔として待望されているのではないか。

 ともあれ、ジャーナリズムのご意見番としての存在感にあふれる原寿雄さんと、しなやかな知性とジャーナリズムの自主自立にかける芯の強さを兼ね備えた永井多恵子さんをNHKの会長候補として視聴者たる市民が擁立したことは、きわめて賢明な判断であったし、画期的な出来事であったと私は思う。

 

|

« 了解にはほど遠い――NHKの自主自立を脅かす放送法改定法案―― | トップページ | 小山内美江子さんから賛同のメッセージ――原寿雄さん、永井多恵子さんをNHK会長候補に―― »

「NHK問題」カテゴリの記事

コメント

 ウィルヘルミナ様 再度のコメント、ありがとうございます。お話のとおり、人気アイドルに押しのけられる形で真に演技のできる俳優達が、表舞台から消えつつあるのは憂うべきことと思います。ただ、NHKも最近、新設ドラマ枠にジャニーズの新人を起用すると伝えられています。
http://www.asahi.com/culture/nikkan/NIK200712130013.html
 私たちは今年の2月に「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」を立ち上げ、NHKの政治からの距離のとり方を監視・批判すると同時に、すぐれた番組には激励を送る活動をしています。視聴者の良識ある声が今、求められている気がします。
 なお、今回の会長人事をめぐって多くの文化人、メディア研究者、ジャーナリストが声を挙げました。これを一過性の運動で終わらせない知恵が必要だと感じています。

投稿: 醍醐聰 | 2007年12月15日 (土) 10時25分

醍醐様、ウィルヘルミナです。もう一度投稿させてください。
今朝の新聞見てショックでした。会長解任のニュースです。これで、経済界がいかに日本の文化のことを考えていないのか、よくわかりました。
さて、きのうの投稿に付け加えたいことがあるのです。話をわかりやすくするために、芸能部門に限って書いていきます。
今、日本の芸能界は、はっきりいって、ジャニーズと吉本興業に支配されていると思うのです。この二つの芸能事務所に左右されていないのがNHKだと思うのです。
民放のドラマを見てください。なんの苦労もなくジャニーズのタレントが主演にキャスティングされています。その影響で真に演技のできる俳優達が、表舞台から消えつつあります。しかも、そのドラマの内容ときたら子供みたいな内容で見るに耐えないのです。NHKのドラマのように知的で社会性の伴ったものでないのです。また、民放は話題性さえあればいいという安易な作り方をしています。メッセージ性の強いドラマを作れるのはNHKだけしかないと思います。その代表格なのが「ハゲタカ」ですよね。ジャニーズの俳優は一人も出演していませんでした。
また、ヴァラエティー番組も同様です。民放では、吉本興業のタレントが中心になって、いまだに社会的な問題になった「いじめ漫才」をやっています。「いじめ漫才」は、子供たちに悪い影響を与えているというのに、そういう批判には馬耳東風なのです。しかし、NHKのヴァラエティー番組では絶対にそういうことはありません。知的で教養深いヴァラエティー番組作っていると思います。
だから、「NHKの芸能部門の民営化」はやって欲しくないと思います。民営化するとスポンサーからジャニーズと吉本興業のタレントを使えという圧力が、絶対にかかってきますからね。そうして、教養・知性に満ちたドラマ・ヴァラエティー番組が姿を消すのです。
今話題の佐藤優さんがなんかの本に書いてらっしゃたんですけど、日本の外交官は教養を欠いているから社交界で相手にされていないそうですね。日本のエリート達って、仕事やお金ばかりで、教養・知性に疎いのでしょうか?経済界も同様です。そういった人たちにNHKの経営を任せていくことは、日本の文化にとって大きな損失になると思うのです。効率一点張りの経営をするに違いありません。本当に心配ですね。
長くなりましたが、醍醐様、どう思われますか?

投稿: ウィルヘルミナ | 2007年12月14日 (金) 15時56分

 ウィルヘルミナさん、コメントありがとうございます。小泉評、なかなか鋭いですね。大の大人が「チルドレン」などと呼ばれて恥ずかしくないのかとテレビに向かってつぶやくあり様です。

 今のNHK、特に報道番組は腰が引けたところを感じますが、ドキュメンタリーや教養、文化の方面では精魂込めた優れた番組が目白押しと感じています。ちなみに最近、私がよく見るのは「ダーウインが来た」です。生き物の生態を長期に及ぶ取材でよくも克明に制作したものだといつも感心しています。また、名曲アルバムを予約でHDDに録画し、食事の時に視聴するのが日課です。

 最近は放送を産業政策の観点から議論する向きがあります。しかし、有権者としての市民の民度が問われる時代だからこそ、放送が私たち市民の知性を豊かにする文化的役割、異なる意見、思想との出会いの場を作り、自分の思考習慣を見直す理性を育む役割、を担う点を再認識する必要があると感じています。

投稿: 醍醐 聰 | 2007年12月13日 (木) 20時56分

初めまして、ウィルヘルミナと申します。初めて、投稿します。
ところで、NHKが縮小されるのではないか、と危機感を持っています。だから、このブログに書き込みします。
私、NHKはまあ少し問題があるとしても高く評価しているのです。というのも、ニュースを冷静に報道しているし、それを伝えるアナウンサーも知的で教養に満ち溢れています。それに、BSでの海外ニュース番組、海外ドキュメンタリーは、アングロサクソン以外の物の見方も報じています。それに各チャンネルで放送される文化・教養ドキュメンタリーも高い質があります。本当にNHKは教養・知性があります。
また、ジャニーズ・吉本興業抜きのドラマ・ヴァラエティー番組も安心してみることができます。特に、ドラマ、大河・朝ドラ・木曜時代劇・土曜ドラマは本当に大人向けって感じです。スポーツもタレントを出演させず、アナウンサーと解説者だけの静かな中継を楽しむことができます。
NHKは、「ザ・アンカー ピーター・ジェニングス」(平凡社)で明らかになったように、ブッシュ政権批判のドキュメンタリーを、BSで放送してきたし、小泉・安倍両政権のありようを批判し続けた城山三郎さんを二度にわたって特集しました。民放は「城山三郎さん」を語ったかと問いたいのです。NHKはある意味では民放よりリベラルだと思います。
そういうNHKを自民党がつぶすような気がしてならないのです。小泉さんはワンフレーズ政治で日本国民の頭をからっぽにして、知性・教養なんてなくていいという考えでした。その考えを引き継ぐような人たちが「チャンネル数の削減」「NHKの民営化」「スポーツ・芸能部門の民営化」を執拗に言っているのです。
NHKは日本文化の源泉だと思っているし、文化のアーカイブ機能は民放にまねできないと思います。スカパーを持っているフジTVが、日本のリーディング放送局のように振舞っているけど、NHKが日本のリーディング放送局であるべきなのです。
NHKの持つ知性・教養をなくそうという勢力とは、断固闘っていってください。
NHKよ、頑張れ!

投稿: ウィルヘルミナ | 2007年12月13日 (木) 14時33分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 了解にはほど遠い――NHKの自主自立を脅かす放送法改定法案―― | トップページ | 小山内美江子さんから賛同のメッセージ――原寿雄さん、永井多恵子さんをNHK会長候補に―― »