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選ぶ人の見識が問われるNHK会長人事

NHK会長に選ばれる人に求められる見識と手腕

 さる12月13日のNHK経営委員会の会合の模様を伝える情報をWEB上で検索していると、nikkansports.com に次のような記事が掲載されているのがわかった。

 「NHK橋本会長再任せず外部から起用

  <前略>
 後任についてもNHK内部からではなく、外部から起用するという。トップが放送の素人ではいかがなものかという批判もあるが、『内部だと、出身母体、縦割り人事などで、なかなか思い切ったことをやるのは難しい。思い切った改革は外部の人が最適。しがらみのない人がドーンと行くのがいい』と反論した。・・・・・・・

 古森委員長はOBの起用を『二の次』とし、『こういう問題は経済関係の人がいいと思う。経済界のトップは業種が違っても経営できるもの』と語った。自身と同じく、財界トップ経験者を中心に起用を考える意向のようだ。」
ゴチック体は醍醐が追加)
http://www.nikkansports.com/entertainment/p-et-tp0-20071214-295274.html

 はじめに断っておくと、私もNHK会長には経営的手腕が必要ないなどというつもりはない。文化人、メディア研究者、ジャーナリストが67名の推薦を添えて、原寿雄さん、永井多恵子さんをNHK会長候補に推薦することを発表した記者会見の席上で、『放送レポート』編集長の岩崎貞明さんは、こう発言した。

 「NHK会長にも経営的力量が求められる。その点では原さんは共同通信の社長を歴任された。永井さんはNHKの副会長として経営の現場を経験されている。このように、お二人はジャーナリズムの経営を見てきたという意味でも適任だと思う。」

 私も同感である。今回の会長人事をめぐって私の周囲にも知名度の高い、メディアに頻繁に登場する文化人を推す意見があった。しかし私はそのような意見には賛同しなかった。なぜなら、NHK会長は理事会の統括、番組編成、営業、視聴者対応、全国の放送局の事業の掌握といった日々の業務はもとより、予算・事業計画の国会承認にあたっては衆参両院への出席、答弁が求められる。こうした激務を兼業で成し遂げるのはとうてい不可能であるし、一言居士然の振舞いで務まるものでもない。

民間企業と公共放送の経営理念の根本的違い 

 しかし、NHK会長に求められる経営的手腕=民間経営流手腕、と見立てるのは極度に短絡した有害な発想である。一口に経営といっても、営利企業の経営者に求められる手腕と公共放送NHKの会長に求められる手腕には大きな違いがある。

  民間経営者に求められる手腕はつまるところ、企業価値の最大化に貢献する営利の追求という単一の価値であり、他のすべての価値はこの目標達成のための手段的従属的価値にほかならない。そこでは、いかに公益や文化が喧伝されても収益性の向上に寄与しないかぎりは、経営的には評価されない。

 他方、NHKは「皆様のNHK」を標榜するまでもなく、視聴者の多様な価値観、嗜好に配慮しながら、なおかつ、現在・将来の有権者が国政に参加するにあたって必要な、また自分の人生を豊かにする糧にもなるような政治・経済・社会・文化にわたる様々な知見・教養を提供することを期待されている。そこにはすべての視聴者を束ねるような単一の価値は存在しないし、ある価値を他の価値(たとえば国益、国威発揚)のための手段的従属的要素とみなす発想が介在する余地はない(単一の価値で視聴者・市民を染め上げた例といえば、戦時下の大政翼賛報道である)。

 選ぶ人の見識が問われている

 ところが、NHK会長の任命権を持つ経営委員会の長を務める古森重隆氏には民間経営と公共放送の経営の質的な違いを理解する能力・見識が欠けているようだ。上記のnikkansports com が伝えた「経済界のトップは業種が違っても経営できる」という古森氏の発言は、古森氏がNHKも民間産業と業種の違いでしかないと捉えていることをはしなくも露呈したものである。

 このような発想から、経済界の長老ならその経験を活かしてNHKの会長職は務まると決めてかかられてよいのか――今、この点が視聴者はもとより、NHKで働く職員に鋭く問われている。

 NHK職員、特に番組制作部門の職員の間には、会長が誰になっても自分たちは粛々と番組制作に携わるだけ、会長の意向で番組制作が左右されることはない、という自負があるのかも知れない。そうした自負は編集の自立は自分たちで守るという意思の表れとみれば、頼もしいことではある。

 しかし、放送の公共性、番組編集の自立は現場の職員の努力だけで本当に守れるのだろうか? 会長が誰になるか、その会長と経営委員長がタッグを組んで、NHKを民間企業的発想で経営しやすい副会長、理事を選任するとしたら、NHKと政治の距離はどうなるのか? 時の経済界の利害からNHKは本当に自立できるのか? NHKの教養・娯楽番組はリストラ・縮小の対象になる恐れはないのか? 受信料をめぐる不公平感に抜本的に踏み込めという古森氏の発言が次期経営計画の策定を通じて受信料の義務化に向かうようNHK執行部を仕向ける恐れはないのか? ――このような見通しを視野に入れて今回のNHK会長人事に誰よりもNHK職員が声を挙げることを私は願っている。

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