NHK会長を決定した経営委員会議事録を読んで
一昨日、NHK職員によるインサイダー取引が発覚した。これにについては状況を正確に、詳しく把握したうえで、別途、意見をまとめたいと思っている。
ところで、昨日(1月18日)、福地茂雄氏をNHK会長に決定した昨年12月25日の第1058回NHK経営委員会議事録が公表された。
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/giji_new.html
当日午前中に行われたという福地氏との面通しの会合の模様は公表されず(注)、菅原委員が「備忘録」という形で他の委員の了解を得ず、「不正確な内容を含む」記録を外部へ出したことをめぐるやりとりが長々と公表されている。
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(注)ただし、今回、公表された議事録の中に福地氏をどう評価したかについて、数名の委員が発言した記録がある。そのなかで、
(多賀谷代行)
それから、福地氏が財界で活動されているといっても営利的なものではありません。3つあって、1つは芸術・文化支援として、新国立劇場の理事、企業メセナ協議会、東京芸術劇場等にも関与されている。第2に環境保全として、東京商工会議所の環境委員長を最近まで務められるとともに、環境を考える経済人の会の一員として、全国の大学で講演をしておられました。第3に教育関係として、長崎の県立高校で3年間、人生論を講演したとおっしゃっていました。(下線は醍醐が追加)
という多賀谷氏の発言が印象に残った。福地氏の「非営利」の各種社外活動をあげて福地氏の経済人としての(主たる)活動は営利活動ではなかったかのような言いくるめは尋常ではない。
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さて、今回公表された議事録の中で、菅原委員が不正確な記録を公表したことを謝罪させるやりとりがスペースを割いて記され、小林英明委員などは「私の名誉にかかわる」と言っている。しかし、会長選考の途中経過(福地氏に絞り込まれた経過、市民団体・ジャーナリスト・文化人らが推薦した原俊雄、永井多恵子の両氏について、どのような検討がされたのかなど)、あるいは橋本会長の再任不可の引き金になったNHKの次期5ヵ年計画案を経営委員会が却下した際に同委員会が公表した見解はどのような議論を経てまとめられたのかなどを視聴者は何も知らされていない。自分の名誉は気にかけても、視聴者の名誉(知る権利)を気にかけた発言が菅原委員以外、まるでないのはどうしたことなのか?
私は菅原委員が公表したメモから、これまで知り得なかった経営委員会の議論の一端が公開されたことに重要な意義があったと思っている。もちろん、経営委員会の議論の模様が特定の委員の独自の判断で公表されるというのは正常なやり方でないのは確かである。
しかし、自分の発言が不正確に伝えられたと抗議をするくらいなら、経営委員の総意でなぜ発言者名入りの議事録を公開しなかったのか(選考途上で名前があがった候補者の個人情報を伏せる工夫はいくらでもある)。それがきちんと実行されていれば、菅原委員が独自の議事メモを公表する必要はなかったのである。
経営委員会としてなすべきこと(会長選考経過の議事録公表)をせず、委員長が記者ブリーフィングで外部からの会長選考を全員一致で決定した等、歪曲した発言をしたのをみかねて独自にまとめた議事録を公表した菅原委員の行動を、――一部不正確な記載があったことを謝らせて鬼の首でも取ったかのように――非難し、その部分のやりとりを微に入り細にわたって公表する――この本末転倒、木を見て森を見ない言動をどの経営委員もおかしいと自覚した形跡がないのはどうしたことか?
現に、菅原委員は1つ前の1057回の経営委員会で議事録を公表するよう発言している。
(菅原委員)
議事録に残していただきたい意見があります。それは、現在、指名委員会で次期会長について議論を行っておりますが、経営委員の権限が非常に強化されてきている中で、NHK会長を人選するというのは、歴史的な転換となるような、いい結果をもたらすかもしれませんし、逆になるかもしれません。それはわかりませんが、いずれにしても、経営委員ひとりひとりの意見を議事録として公開していくことが、透明性の確保の観点から、これから非常に大事になってくると考えます。次回の指名委員会からは、ひとりひとりの名前入りで議論の中身が公開されることを切に期待します。このことは、経営委員意見交換(経営委員のみの打ち合わせ)の場で結構ですから、議論していただきたいと思います。
(古森委員長)
はい、ご意見としてお受けいたします。ただし、人事の問題ですから、慎重に取り扱う必要があり、合理的な範囲で検討したいと思います。
1058回経営委員会の冒頭で菅原委員はこの意見の扱いを決めるよう求めているが、古森氏は「ご意見としてお受けいたします」といったまでと聞き流している。
(菅原委員)
緊急動議です。私はその前に、今日から議事録を詳細に取っていただきたいと思います。私が会見で言った中の1つが、議事録をていねいに、記名入りで公開することがとても大事だということですので、まず、そのことをお願いしたいと思います。
(古森委員長)冒頭でそれを確認するというのですか。
(菅原委員)はい、今すぐ。
(古森委員長)前回の経営委員会の最後でもおっしゃいました。私はあの時、意見として受けますと申し上げました。ただし、人事問題を名前入りで公表するのはいかがかと思いますが、いかがでしょう。
(菅原委員)名前はいりません。名前入りっていうのは、ノミネートされている人の名前とか、例えば、発言者の氏名はイニシャルでもいいですから、どんな議論がそこでなされたのか、国民・視聴者は知る権利があるということです。それが透明性だと思います。
これについて多賀谷委員は「後で名前入りで公表されるとなると発言がしにくくなる」などと言って反対している(審議会で議事録の公開を渋る委員の常套句である)。しかし、名前入りで自分の発言が公表されるのが嫌なら公的な委員を引き受けるべきではないというのが私の持論である。
「自分の名誉」は気にしても視聴者の名誉(知る権利)は眼中にない――人権と向き合うべき弁護士でありながら、それに無頓着な発言をする人物が法律専門家と称して経営委員に選ばれているわけである。発言をした他の委員も自分の発言が不正確に伝えられたと抗議はするものの、ならば正規の議事録の公開となると消極論ないしは反対論が大勢である。
視聴者に向けた視線のない内向きの議論に終始した今回の議事録を読んで、NHKとともに、経営委員会を監視する課題の重大さを再認識させられた。
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