オバマ氏は何をしたいのか? メディアは何を伝えるべきなのか?
オバマ氏は何をしたいのか?
このところ連日、アメリカ大統領候補の民主党予備選挙の話題で日本のメディアも持ち切りである。これだけ長期間にわたり各候補が数十億円の資金を投入して選挙運動を繰り広げる様は、有権者の直接選挙で大統領を選ぶというアメリカの事情はさておくとしても、日本人にはなじみにくいように思える。
それは別にして、この件の報道を見るたびにもどかしく思うのは「オバマ氏はいったい何をしたいのか?」がなかなか伝わってこないということである。これはオバマ氏と接戦を続けるヒラリー・クリントン氏についてもいえることであるが。
そんな中、2月14日(木)午後7時30分からのNHK総合「クローズアップ現代」が<大逆転? 猛追オバマの舞台裏>と題する番組を放送した。放送時間の大半はオバマ氏の猛追の背景に何があるのか? オバマ氏のどこが有権者、特に若者を惹きつけるのかの解説に割かれた。
番組の中では、その背景を探るために、タイムズ誌の政治アナリスト、マーク・ハルぺリン氏のインタビューを入れていた。同氏によると、「原宿で立候補演説をしたら当選すると想像してほしい」、「政治のイメージを身近かで格好よいものにしたことが若者を惹きつける要因ではないか」と語っていた。
また、番組の中ではオバマ氏の「言葉では言いにくい笑顔やふるまいが人々を感動させる」とも解説していた。
確かに、支持票の騰落のたびに感情の起伏を表に出すクリントン氏と比べて、オバマ氏は終始、クールな身のこなしで「短いフレーズ」を散りばめた演説のスタイルがぶれない。そうした冷静沈着な選挙運動のスタイルにおいては年長のクリントン氏とあべこべとさえ思える。
このようなイメージを流し続ける「クローズアップ現代」にいささかのいらだちを感じていたところ、残り5分ほどになって、前記のマーク・ハルぺリン氏が再び登場し、国谷裕子キャスターと次のようなやりとりをした。
「アメリカは多くの問題を抱えているのに、なぜシンプルな<変革>を訴えるオバマ氏に人々は惹きつけられるのか?」
「それは非常に重要な問題です。アメリカ人はオバマ氏がいう<団結>という言葉に惹かれている。しかし、有権者は若くて経験不足の彼が大統領になることの不安をよく考えていない。」
メディアは何にペンを、マイクを、向けるべきなのか?
私としては、最後の約5分間でやりとりされた問題にこそ、もっと時間が割かれるべきであったと思えた。
オバマ氏にアメリカの有権者の熱い視線が注がれる背景には、国内での経済不況、災害に弱いアメリカをよそ目に、「テロとのたたかい」を標ぼうして、イラクをはじめ、世界各地で武力介入を続け、各国で「アメリカ嫌い」を生みだしたブッシュ政権への不満があると想像できる。
しかし、オバマ氏の言う「変革」が、そうした不満の出口となりうるのかどうか――メディアが伝える彼の演説をいくら聞いても読んでも伝わってこない。今回のアメリカ大統領選挙でオバマ氏についていえば、
①国内の医療制度の危機、貧困に対しオバマ氏はどのような政策を提起しているのか、その点でクリントン氏とどこがどのように違うのか、
②オバマ氏はイラク派兵や対北朝鮮外交について、どのような政策を提唱しているのか?
③オバマ氏はサブプライムローン問題で揺れる国内経済の立て直し、格差是正にどのような政策と実行プランを提唱しているのか?
④オバマ氏は地球温暖化対策としてアメリカは何をすべきと考えているのか?
少なくともこれらのテーマについて、踏み込んだ取材をし情報を提供することこそ、メディアの政治報道に不可決の課題である。こうした地に足のついた調査・取材報道がないまま、耳障りのよいワン・フレーズとスタイルだけを追い続け、垂れ流すのでは政治ジャーナリズムとして失格である。
それは、元小泉首相が呼号した<改革>というキャッチ・フレーズを、その内実を問うことなく思考停止のまま<善なるもの>と予断して垂れ流し、有権者の郵政民営化をめぐる判断に資するなにほどの資料、情報も提供しなかった日本の政治ジャーナリズムの荒廃と同質である。
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コメント
民主党予備選挙をめぐる報道で軽薄なのは、オバマかヒラリーかの論点が、黒人か白人か、男性か女性かということに終始しているところと思っています。そして、有権者もメディアもそれをネタにお祭り騒ぎ。お互いの公約がどうで、どこが違うのか、理解できている人は米国人にもあまりいないでしょう。
それでも、国民投票で大統領が決まってしまうという現実に危機を感じます。
米国だけでなく、日本も同じです。「お役所」という言葉があまりいい意味で使われない風土で、小泉さんの「郵政民営化」「抵抗勢力」といった言葉は国民にとってわかり易いうえに受け入れやすかった。爽快感がありルックスもよく西洋人と並んでも見劣りしなかった。そんなイメージだけで支持者が増え、ついには民営化、あるいは刺客、といった社会現象を巻き起こし、小泉さんの言うことは全てごもっとも、という気にさせられてしまう国民がいかに多いことか。
そして、それに対抗するために「タレント候補」を多数擁立する野党。こんな構図で、日本はよくなるのでしょうか。本当に「改革」が必要なのは、我々有権者の意識だと思います。
投稿: masa | 2008年3月11日 (火) 00時20分
失礼します、お邪魔虫です。
拍手です。
私もその通りだと思います。
私もブログでそのようなことを書きました。
私の論旨は「流れ」に潜む危険性の指摘です。
オバマチェンジも、小泉改革も、アドルフヒットラーのそれとそう大差ありません。
アメリカの疲弊は、続け様のあの戦争にもその一端はあるでしょう・・・
だからここは若くて激しく、攻撃性の強そうなオバマさんよりも、じっと耐え忍ぶのに適正な女性性であるヒラリーさんへの選択の方が、アメリカとしては賢明だと思えるのですが、選択を誤まる可能性が大です。
それは取りも直さず「流れ」というものが、必ずしも冷静なる国民の判断ではなく、一時的、集団的移ろいから発してしまう「後悔先に立たず」のミステークであることに他ならない。
日本マスコミに「深さ」が不足しだしたのは残念でなりません。
投稿: ara | 2008年2月17日 (日) 22時26分