映画「犬と私の10の約束」を観て考えたこと
先日、近くのシネマ・ホールで松竹映画「犬と私の10の約束」を観てきた。NHK総合18時10分からの「首都圏ネットワーク」で紹介されているのを見たのがきっかけだった。映像の予告編であらすじをご覧いただくのが早いと思うので、ネットで知ったURLを貼り付けておく。
http://www.inu10.jp/trailer/index.html
あらすじ
両親と娘の3人家族の斎藤家が庭に迷い込んだ子犬のゴールデン・レトリバ-を飼い始めたことから物語は始まる。母親芙美子(高島礼子)が体調の急変で入院した病院へ子犬を連れて出かけ、家で飼いたいと言い出した娘のあかり(福田麻由子→田中麗奈)に向かって芙美子は「犬との10の約束」(ルーツはインターネットで広まった作者不詳の短編詩「犬の十戒」とのこと)を教える。
子犬は前足の片方が靴下を履いたように白いことから「ソックス」と名付けられた。しかし、新しい家族を迎えた生活も束の間、母親はまもなく他界する。そのショックであかりは首が回らなくなるが、それを癒し治してくれたのは母親の形見のソックスだった。その後、父娘の2人暮らしが続いた。その間、大学病院に勤める父親祐市(豊川悦司)は仕事に多忙を極め、遅い帰宅が続く。あかりはそれに不満をもらしながらも、同級生でギタリストを目指す星進(佐藤翔太→加瀬亮)との楽しい語らいの時間を過ごした。しかし、その進は両親の強い勧めでロンドンへ留学に旅立つことになった。この別れを機に二人の間には強いきずなが芽生えた。ある日、街角で見かけた演奏会のポスターで進が帰国していたのを知ったあかりは進との再会を果たし、結婚へとストーリーは進行する。このあたりはありふれた展開である。
話しは前後するが、父親の祐市はあかりと一緒の時間を増やしたいと大学病院を辞して開業医として再スタートする。しかし、それとすれ違うかのように、大学の獣医学部を卒業したあかりは旭川の動物園に就職し、獣医の仕事を始める。そして、今度は動物の世話に追われるあかりの方が帰省もままならず、帰宅した時も仕事のストレスからソックスを邪険にするようになる。しかし、ソックスの方はそんなあかりに対し、これまでと変わらないひたむきなまなざしを向ける。そんなある日、あかりの携帯電話に父親からソックス危篤の連絡が入る。仕事のために旭川にとどまろうとするあかりに対して上司の中野(ピエール瀧)は強い口調で帰宅を悟した。実家に駆けつけたあかりは居間に横たわったソックスを父親ととともに看取るのである。
犬との10の約束
さて、母親があかりに教えた犬との10の約束とは次のとおりである。
1.私と気長につきあってください。
2.私を信じてください。それだけで私は幸せです。
3.私にも心があることを忘れないでください。
4.言うことを聞かないときは、理由があります。
5.私にたくさん話しかけてください。人の言葉は話せ ないけど、わかっています。
6.私をたたかないで。本気になったら私の方が強いこ とを忘れないで。
7.私が年を取っても、仲良くしてください。
8.あなたには学校もあるし友達もいます。でも、私に はあなたしかいません。
9.私は10年くらいしか生きられません。だから、でき るだけ私と一緒にいてください。
10.私が死ぬとき、お願いです。そばにいてください。 そして、どうか覚えていてください。私がずっとあな たを愛していたことを。
犬への過剰で身勝手な感情移入の戒め
上のあらすじからわかるように、この映画のストーリーはいたって平凡であり、安直さを覚える場面も少なくないが、ホームドラマと思えば、自然なことなのだろう。だから、私自身、犬との長いつきあいがなければ、さらに、今、わが家にいる犬(ウメ)も前足の両方がソックスどころか、「ストッキングを履いているみたい」と通りがかりの人に何度か言われた体験がなければ、この映画に関心を持たなかっただろう。
しかし、それでも、この映画を見た多くの愛犬家は自分と犬の関わり方、自分にとっての犬の存在の大きさを改めて考えさせられたのではないか?
犬がかくも人間と親密な間柄になれた理由は何かと考えると、それは、自分に対する人間の接し方がどう変わっても、犬は変わらぬまなざしで人間と接してくれるという安心感ないしは犬は人間と違って自分を裏切らないという深い信頼を犬に寄せるからではないか? 言い換えると、犬と人間の深い絆は、人間と人間の絆の希薄さ、はかなさの裏返しといえなくはない。そうだとすると、いつか人間は、人間という大きな身体の小心な動物から身勝手な精神的扶養を求められる犬から疎まれる日が来ないとも限らない。あるいは、今現在、犬から、<自分に依りかかってばかりいないで、人間同士の絆を回復するよう努めてはどうか>と諭されているのかも知れない。犬への過剰な感情移入を戒めながら、犬と静かに意思を通い合わせることができる共生の関係をどのように築けばよいのか――そんなことを感じさせられた映画だった。
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