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無謀無益な新銀行東京への追加出資

400億円の追加出資に公益性はあるのか
 累積赤字(利益剰余金のマイナス)1,016億円を抱えた新銀行東京へ都が400億円の追加出資をする案をめぐって都議会で議論が交わされている。これに先立って同行は220日、現在の6店舗を1店舗に、行員を450人から120人に、融資残高を2,218億円(20079月期末)から約700億円に縮小することを柱とする再建計画を発表した。これについて、同行の生みの親である石原都知事は「常識はずれの経営がされた」と旧経営陣を非難する一方で、「中小企業を支える銀行として重要な役割を果たしている」と強気の答弁を続け、400億円の追加出資をあくまでも貫く姿勢を変えようとしていない。そこで、このような財政支援に公益性(都が公金をつぎ込んでまで支援をする公益的理由)があるのかどうかを、あまり周知されていない財務データに基づいて検討しておきたい。

 財務データが物語る新銀行東京の空洞化
 まず、同行の預貸率{貸出金/(預金+譲渡性預金+債券)}の推移を地方銀行(64行)、地方銀行Ⅱ(46行)の平均値と比較してみよう。ここで取り上げる「預貸率」とは上の計算式からもわかるように、銀行が集めた預金のうち、どれだけを融資に回しているかを表す、金融機関の基本的機能のバロメーターといえる指標である。表1を見ると、新銀行東京は設立初年度こそ民間銀行を上回る高い比率であったが、次年度以降、2030%台へと急落し、その後は民間銀行よりも3035パーセント・ポイントも低い水準で推移している。

    1 新銀行東京と地方銀行の預貸率の比較

(期中平均:%)

          地方銀行  地方銀行Ⅱ  新銀行東京
2004
    71.6               74.4                   84.8
2005              71.6               74.4                   26.1
2006             72.2               75.8                   38.9
2007/9                                                          38.0

(出所)地方銀行、地方銀行Ⅱについては、『全国銀行
    財務諸表分析』、新銀行東京については、同行
    『ディスクロージャー誌』

 他方、資産構成に占める有価証券と貸出金の割合を比較してみると、表2のとおりである。

 2 新銀行東京と地方銀行の資産総額に占める
    有価証券と貸出金の割合の比較
    地方銀行  地方銀行Ⅱ  新銀行東京

2004          26.7               21.5                    

      64.3             68.5                    

2005          28.1              22.4                  
31.7
                 63.9              68.6                    34.3
2006          27.1              22.4                  
 
51.0
                 64.8              69.7                    34.6
2007/9                                    
                        
47.4
                                                                35.1

(注)上段は有価証券の割合、下段は貸出金の割合
(出所)地方銀行、地方銀行Ⅱについては、『全国銀行
    財務諸表分析』、新銀行東京については、同行
    の『決算短信』

 これを見ても、新銀行東京が地方銀行と比べて、貸出金の比重が低く、その反面、有価証券(20079月期でいうと、その87.4%は国債)保有額の割合が異常に高いことがわかる。

 そこで次に、新銀行東京の貸出金総額に占める中小企業向けの貸出金の割合を見てみると、表3のとおりである。

 3 新銀行東京の貸出金総額に占める中小企業
    向け貸出金の割合

    貸出金総額  中小企業向け  B
     (A               B           A

2004        92
百万円   92百万円   100.0
2005
    174,394          109,005                 62.5
2006         246,719          127,106                 51.5
2007/9 
     221,800          104,694                    
47.2
(出所)表1と同じ。

 これを見ると、初年度末こそ100%だったが、2005年度末には62.5%へと急落し、その後も急落傾向が続いている。
 
 極端に低い預貸率が意味するもの
――中小企業からも見放された無用無益な存在――
 
400億円の追加出資の構想が持ち上がったのを受けて、東京中小企業家同友会がこの2月末から3月にかけて会員企業に対して行ったアンケート調査(回答があったのは会員企業の1割弱の162社)によると、新銀行東京が役立っていないと回答したのは61.7%で、役立っているの9.3%を大きく上回っている。また、57.4%が同行について「早急に整理した方がよい」と回答している。これは、同行の貸出利率が民間銀行よりも高い例が珍しくないこと、融資期間が短いことなどによるものと考えられる(200835日、NHKニュース)。

 新銀行東京はこのように、主たる融資先であるはずの中小企業からさえ、そっぽを向かれているばかりか、開業当初に掲げた融資残高目標9306億円に対し、20079月期末現在の残高実績は2,218億円と目標額の4分の1にも達していない。これが極端に低い預貸率となって表れているのであり、中小企業以外でも貸出先を得るのに四苦八苦している実態が窺える。
 新聞報道によると、「大手銀行のある幹部は『発足まもなく、大企業向けで構わないので貸付先を譲ってほしいと打診があった。中小企業向けという理念が当初から破綻していた』と明か」(『朝日新聞』2008224日)している。これでは新銀行東京は中小企業支援行としてはもとより、一金融機関としての存在理由さえないに等しい。

 再建の効果も回収の見込みもない無暴な追加出資
 では、今回の400億円の追加出資が新銀行東京の財政再建に果たして寄与するのかどうか、最悪、出資を回収できる目途はあるのかどうかを検討してみよう。直近の20083月期決算の予測値によると、新銀行東京の累積赤字は1,016億円に達すると見込まれている。その結果、貸借対照表上の純資産は200億円を割り込むことになる。しかも、同行の資産内容を子細に吟味すると、後掲の表4で示したように不良債権(金融再生法開示債権)のうち、担保・保証、貸倒引当金で保全されていない債権が約100億円存在する。

 となると、今後、これら非保全債権が貸倒れになるとともに、それ以外にも非開示の不良債権が露見するなどして追加的な損失が発生すれば、同行は20083月期決算で債務超過に転落する可能性も否定できない。しかも、表1でみたように、貸出先を確保することさえ、ままならない同行へ新たな資金を供給しても中小企業に回る部分はわずかで、大部分は国債等の有価証券を買い込んで低利の運用で塩漬けされる公算が大である。となると、新銀行東京への都の追加出資は事業上の必要からではなく、もっぱら債務超過への転落を先送りする延命措置としての意味しかないことになる。したがって、今回の追加出資額も早晩、赤字の補てんのために毀損され、都の財政の浪費で終わる公算が大きい。にもかかわらず、事実上の役員任命権者としての自らの責任、支配的株主としての自らの経営監督を忘れ、まるで被害者かのようにふるまう石原知事の言動は的はずれで見苦しい限りである。
 
 このような無謀な出資が提案され、都議会がそれを可決するとすれば、都民に対する重大な背任を意味する。都民はこうした重大な背任行為が強行されないよう、石原知事をはじめとする都政当局と都議会を厳しく監視する必要がある。

1~表4(新銀行東京の財務データ)のオリジナル
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/singinko_tokyo_zaimu_deta.pdf


(追記)
 今日の都議会で、石原都政当局は、①ここで追加出資をしなければ、新銀行東京の自己資本比率は4%を割り込み、業務を遂行できなくなる。②今、清算するとしたら都の負担は預金者の取り付けに対応するため1,000億円の追加的貸付が必要になるが、追加の財政支援なら400億円で済むかのような答弁をしている。しかし、たとえ、追加出資をしてもそれが新銀行東京の再建に寄与しない以上、現在の預金者をどのように保護するかは追加出資の有無にかかわらず避けて通れない問題である。とすれば、他の要素をすべて無視してざっくり言うと、比較すべきは、1,000億円か400億円かではなく、1,000億円か1,400億円かである。なぜなら、今の空洞化した経営状況では追加出資の400億円もいずれ毀損する可能性が高く、ここで清算を遅らせれば400億円が無益に浪費される結果になる公算が大だからである。

 また、自己資本比率を4%以上に維持するのは目的ではなく、所要の業務(融資)をするのに必要な条件だからである。業務が空洞化しているなかで、手段だけを守ろうと追加出資をするのは本末転倒である。

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