<ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展>へ出かける
現地で観たはずの作品だが
8月2日の午前中、乃木坂近くにある国立新美術館で開催されている<ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展>に出かけた。ルーベンス、ヤン・ブリューゲル、ベラスケスら17世紀のオランダを舞台に描かれた宗教画、狩猟・果実などの静物、肖像、風俗画、寓意画などが4つの章立てで展示されていた。これらを所蔵するウィーン美術史美術館は2度訪れ、2階のカフェ(かつてはハプスブルグ家の御用達のケーキ店だったそうだ)での軽食を挟んで回ったものだ。そのときは十分な予備知識もないまま、旅ごころで入館したのだが、今回は作品も絞られ、ゆっくり鑑賞できた。
お見合い写真代わりの王女の肖像
今回の展示でなにかと話題を集めているのは、ディエゴ・ベラスケス作<薔薇色の衣装のマルガリータ王女>(1653~54年頃)だ。
知る人ぞ知る作品であるが、1651年にスペインのハプスグルグ家の国王フエリペ4世と2度目の妻マリアーナの間に生まれた王女マルガリータは、幼少の時すでにウィーンのハプスグルグ家に嫁ぐことが決められていた。究極の政略結婚である。上の作品は将来お后となる王女のお見合い写真代わりにウィーンのハプスグルグ家に送られたことから、ウィーン美術史美術館に所蔵されることになったのである。なお、ベラスケスは1623年、国王フエリペ4世の寵愛を得て宮廷画家となり、この作品を含め、彼が描いたマルガリータ王女の幼少期の肖像画3点がウィーン美術史美術館に所蔵されている。高貴なふくよかさの中に、あどけなさが見事に描かれている。しかし、ベラスケスは王女が嫁ぐのを見届けることなく、王女が9歳の時に亡くなった。
そのマルガリータ王女は14歳の時、神聖ローマ皇帝レオポルド一世に嫁ぎ、音楽や芸術を楽しんで幸せな宮廷生活を送ったといわれるが、難産のために22歳で他界した。ラベル作「亡き王女へのパヴァーヌ」はマルガリータ王女を指すのではないかという説があるが、たしかなことはわからないようだ。
贅沢への逆説としての風俗画
マルガリータ王女の華麗な肖像画もさることながら、私が目を止めたのは第4章に収められた風俗画の数点だった。たとえば、62番のヤン・ステーン作<逆さまの世界>は男主人が女の膝に足を投げ出し、<贅沢に注意>という張り紙にもかかわらず、床には飲食物が散らかり、子供はたばこを吸っている様を風刺的に描いている。また、66番のマルティン・ディヒトル(ドイツの画家)作<台所道具を磨く女>には、「オランダの画家たちのような華麗な静物を描くのではなく、日常的な事物を抑制された表現で描写。この世の贅沢への戒め、名声のはかなさを表現した」という解説文が付けられていた。
昨年11月27日、同じ国立新美術館で開かれていたフェルメール展に出かけ、その時の感想をこのブログに書きとめた。その時、展示されたのは19世紀のオランダの風俗画だったが、ヨーゼフ・イスラエルスの<小さなお針子>、ニコラース・ファン・デル・ヴァ-イの<アムステルダムの孤児院の少女>、ヤン・エーケルス2世<ペンを削る男>などの作品に魅かれた。台所で働く使用人を主役に据えた作品がこれほど多く描かれたということは、華やかな中産階級の生活の陰にうずもれがちな働く女性の存在に深い関心を注ぐまなざしがあったからに違いない。このような傾向が17世紀のオランダやドイツの画家たちの間に確かな形で息づいていたことを発見できたのが、今回の展覧会鑑賞で得た収穫だった。
展覧会は9月15日まで。会場の国立新美術館へは東京メトロ千代田線、乃木坂駅を下車すると入口へすぐたどりつける。
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