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子会社を隠れみのにして政府広報に加担するNHK

 8月下旬、日本を離れていたこともあって、1ヶ月以上もブログの更新を怠ってしまった。その間もこのブログに、いままでと変わらない件数のアクセスがあるのを見てありがたくもあり、申し訳なくも感じた。あまり気張らず、コンスタントに更新するよう、心がけたいと思う。なお、これを機にデザインを以前の「音符+カップ」模様に戻すことにした。コーヒー好きの私には愛着があるので。

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子会社経由で政府主催のシンポジウムを放送したNHK
 さる822日の『朝日新聞』1面に「NHK、政府主催のシンポ放送 子会社受注表示せず」という大見出しの記事が掲載された。それによると、NHKの子会社3社(NHKエンタープライズ、NHK情報ネットワークなど)が政府省庁あるいは各省庁所管の独立行政法人や社団法人などからシンポジウムの運営を受託し、後日、これら子会社が制作した番組をNHKが教育テレビ「日曜フォ-ラム」や衛星第2テレビの「BSフォーラム」で全国放映したという。

 同記事が掲載した、放送されたイベントの主催者・発注者、契約金額、イベントの内容、放送年月は次のとおりである。

 NHK子会社が受注し、NHKで放送されたイベントなど

主催者・発注者

契約金額(万円)

イベントの内容

放 送

厚生労働省

8,532

「ものづくり立国」シンポジウム(5回)

0723

高齢・障害者雇用支援機構(厚労省所管の独立行政法人)

7030

脱年齢時代――どうなる雇用と生活

0710

中日本高速道路(日本道路公団の後継会社の一つ)

3371

当会北陸自動車道全通記念フォーラム

086

総務省統計局

2723

国勢調査シンポジウム

0510

経済産業省

2314

悪質商法対策を考える

063

新エネルギー・産業技術総合開発機構(経産省所管の独立行政法人)

1961

掘り起こそう!身近な資源・地域の資源

071

太陽光発電協会(三洋電機・シャープなどが会員)

数千百万円

どう進める?太陽光発電

077

国土交通省、日本離島センター

1千万円

島の漂着ゴミから地球環境を考える

0412

日本メディカル給食協会(厚労省所管の社団法人)

1千万円

病気は食事で直そう

054

金融広報中央委員会(日本銀行に事務局)

非公表

おかねのシンポジウム

0411

『朝日新聞』2008822日に掲載された表(一部配列を変更)

 
また、この朝日記事によると、シンポジウムの司会はたいていNHKのアナウンサーや解説委員が務めたが、放送にあたってはNHKの子会社が受注したことは触れておらず、主催者・発注者が政府あるいはその所管団体であることを伏せた番組も多かったという。

 この記事には服部孝章氏(立教大学教授)とヘンリー・ローレンス氏(オックスフォード大学博士)のコメントが掲載されている。服部氏は、「こうした放送は『広報』。直接NHK本体に契約金が入っていないとしても、子会社を隠れみのにしているだけだ」とNHKを批判し、ローレンス氏も、「事実だとすれば、政府とNHKの関係があまりに近い。公共放送は政府の影響から自由でなければならないが、政府機関から個々の番組に支払いがあるのならば、それは不可能になる」と論評している。
 
NHKの反論
 この報道記事に対して、NHKはその日のうちに文書でコメントを発表し、

「NHKの関連団体は、こうしたシンポジウムやフォーラムを受託するにあたっては、その内容を充分見極め、公共放送の関連団体が行うにふさわしい、社会的に意義あるものに限って受注するよう努めています」、「これらのシンポジウムやフォーラムの多くは、NHKが関連団体からの提案を受け、衛星放送などの番組として放送することがあります。どのシンポジウムやフォーラムを番組として放送するかについては、NHK自身の判断で決めており、・・・・・関連団体は、NHKに対して、『有意義なシンポジウム・フォーラムであるので、ぜひNHKで放送してほしい』と提案することはできますが、放送の是非はあくまでNHK自身が判断するものです。」

と指摘、官公庁の広報番組とはまったく異なると反論した。また、資金の流れについて、

「シンポジウムやフォーラムの会計と番組制作の会計は明確に分けられており、シンポジウムやフォーラムの経費が番組制作費に流用されたり、NHKが主催者となるケースを除いて、番組制作費がシンポジウムやフォーラムの経費に使われることはありません。」

と述べ、なんら問題はないと反論をしている。

 こうした議論の応酬を見ると、論点は、NHK本体が報道した番組は、

 (1)事実上の政府広報に当たるのかどうか?
 (2)政府機関、NHK子会社、NHK本体の間での資金の流れをどの   ように把握し、評価すればよいのか、
という点に集約される。


実質は政府機関をスポンサーとする広報番組
 まず、(1)の論点から考えてみよう。「関連団体はNHK本体に放送するよう提案するまで。放送するかどうかを決めるのはNHK本体」とNHKは強調する。しかし、826日に開催されたNHK経営委員会で関連会社が受託したシンポジウムの件数のうち、実際にNHK本体で放送されたのは何件かという委員の質問に答えて日向NHK理事は、2006年度では受託件数47件のうち、放送されなかったのは8件と答えている。47件のうち、発注者が政府(関係機関)のシンポジウムが何件か内訳はわからないが、総数でいうと83%が放送されたことになる。

 このような実績を前提にすると、政府等が主催するイベント運営をめぐってNHKの関連会社が他の民間広告会社と受託競争をする際の営業トークで、NHKに対する番組提案権を売り込みに活用したことは十分考えられる。ちなみに、20067月まではNHK本体に対する番組の企画・提案権はNHKの上記子会社3社に限られていた。現に、朝日記事によると、「こんな企画はどうでしょう。テレビで放送しますから」などと語り、NHKでの放送を事実上約束した上で契約をした例があったという。

編集の自由と自律がないブラック・プロパガンダは公共放送と相いれない
 さらに、問題なのは、NHKの関連会社が政府機関主催のイベントの企画を受託し、後日、それを放送番組として制作してNHK本体に放送を提案する、NHK本体は提案された番組の大半を放送する、という構図には、NHK関連会社なりNHK本体の番組編集の自由と自律が欠落しているという点である。シンポジウムを企画する段階でNHK関連会社は主催者である政府機関に様々なアドバイスをすることはありうる。このように企画段階からNHK関連会社が政府機関と一体化すること自体も危ういが、そうした企画への参加は独立したメディアの取材とは異質である。主催者が政府機関である以上、番組制作も主催者の意図に制約され、実施されたシンポジウムの内容をおおむねそのまま放送することを前提に番組作りがされるのが定石である。したがって、たとえば、シンポジウムにおいてパネリストが発言した見解とは異なる見解を視聴者に伝えるために、番組制作の段階でNHK関連会社が独自に識者を選び、取材したコメントを番組に組み入れる余地はないのが通例であろう。

 このように、自らに編集の自由、自律を確保しがたい番組の制作を手掛け、それを放送することは事実上、政府から受託した番組の放送、すなわち政府広報である。言い換えると、国営放送でない以上、特定の利害関係者にすぎない政府機関が主催するイベントを、番組のソースを伏せて放送することは「ブラック・プロパガンダ」(情報の出所を隠匿したプロパガンダ)にほかならず、公共放送の理念とは相いれない。テーマが公共性のあるものだから、問題ないなどというNHK執行部や一部経営委員の議論は公共放送と政府のかかわり方、主催が政府機関であることを伏せたイベントを放送することが世論操作に通じるブラック・プロパガンダになりかねない危うさを伴うことへの無知・無理解をさらけ出したものである。

関連会社を経由して政府資金がNHK本体に流れる仕組み
 「シンポジウムやフォーラムの経費が番組制作費に流用されたり、番組制作費がシンポジウムやフォーラムの経費に使われることはない」とNHK執行部は力説している。しかし、かりにそのような資金の流れがないからといって問題がないといえるわけではない。NHK本体で放送される番組の制作を受託する関連会社も、NHK本体に要請されるのと同じ公共放送としての使命・規範が要請されるのは当然である。この意味では、最終的にNHK本体で放送される、されないにかかわらず、NHK関連会社が政府主催のイベントの運営を受託し、受託料という形で政府資金を収納すること自体が異常である。そうした企画を放送するにしても、自立したメディアとしてイベント等を取材し、それに独自の編集を加えて制作した番組を放送するのが公共放送のあるべき姿である。

 さらに、注視する必要があるのはNHK関連会社に受託料として入った政府資金の一部がNHK本体にも流入しているという点である。NHKオンラインを調べていくと、「関連団体による財政貢献」と題して次のような方針が掲載されている。

 「・NHKの子会社は、公共放送の関連団体として、経営基盤を強化す   るため、配当については抑制してきました。
  ・平成17年度、子会社の経営基盤が安定してきたと判断して、NHK   は積極的な配当を求める方針に転換しました。
  ・平成18年度以降、財務状況に応じて積極的に大型配当を実施し、N   HK財政に大きく貢献しています。」

 ちなみに、平成15(または14)年度以降、NHKが子会社から受け取った配当金、NHKが関連団体から受け取った副次収入の金額と割合は次のとおりである。

年  度

15

16

17

18

19

20

子会社からの受取配当金

34

75

585

3,664

1,853

5,302

関連団体からの副次収入()

58.1

76.2

70.9

68.8

73.8

不明

副次収入総額に占める()の割合

84%

81%

79%

79%

80%

不明


  なお、政府機関主催のシンポジウムの運営を受託し、その放送をNHK本体に提案したとされるNHKエンタープライズにおけるイベント・ソフト制作事業の収益は
44.6億円で、売上高全体に占める割合は10.1%(2007年度。NHK情報ネットワークは不開示)である。また、NHK本体がNHKエンタープライズとNHK情報ネットワークから受け取った配当金は、それぞれ、2.7億円、1.6億円(20076月期)、22.2億円、12.6億円(20086月期)である。したがって、両社からの配当金はNHK本体が子会社から受け取った配当金総額の23.2%(2007年度)、65.6%(2008年度)を占めていることになる。とすれば、NHKの子会社が政府機関から受領したイベント受託料収入の一部が配当金の形でNHK本体に流れたことは否めない。

 このように見てくると、本体と関連会社という法人格の区別を隠れみのにして、NHK本体が編集の自由・自律が機能しない、事実上の政府広報に加担したこと、その結果、子会社からの受取配当金という形で政府資金が子会社を経由してNHK本体に流入したこと、は動かせない事実である。法形式を盾にとって、このような事実をかたくなに否認するNHKの言動は、政府からの自立が公共放送の生命線であるという言葉の重みを今もって悟れていないNHKの体質をまた一つ露呈したものといえる。この件については、今後、個人としても可能な方法で実態の究明をしていきたいと考えている。

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