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「埋蔵金は存在しない」という与謝野馨氏の無責任な虚言――「埋蔵金」論争の正しい決着のために(2)――

「埋蔵金があると証明した人はいない」という与謝野馨氏の発言の真偽
 一つ前の記事で紹介したように、与謝野馨氏は、「『埋蔵金論争』だが、あると証明した人もいない」(『毎日新聞』2008913日)と発言している。こう断定的にいわれると、「やはりそうなのか」と信じ込む人も少なくないと思われるので事の真偽を明らかにしておく必要がある。私は、「埋蔵金」を「過剰な」積立金に限定せず、一般財源に充当できる不用額(歳出予算の使い残し)、使途未定のまま翌年度に繰り越される剰余金等も含めて、「特別会計の余剰金」と呼んでいる。こうした余剰金が数十兆円規模で存在することは政府関係機関の文書でも明確に証明されている。

多額の繰越額・不用額・決算剰余金・積立金の精査・縮減を求めた会計検査院報告書
 その一つは、会計検査院が200610月に参議院に提出した「特別会計の状況に関する会計検査について」と題する報告書である。この報告書は会計検査院が「各府省が所管する特別会計について、参議院の検査要請に基づき、財務等の情報に関する透明性、多額な繰越額・不用額・決算剰余金の状況、積立金等の残高の状況、予算の執行状況、特に予算積算との対比及び出資法人への出資の状況に関し、財政統制の面から着眼して検査した」(報告書、140ページ)結果をまとめた計188ページの大部な文書である。
 この報告書のまとめの箇所で会計検査院は次のように指摘している。
 全文は次のサイトにある。
 会計検査院「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」平成1810
 http://report.jbaudit.go.jp/org/pdf/h17-0628-tokukai.pdf 

「(1)特別会計における透明性について
  <省略>
 (2)繰越額・不用額について
 特別会計の中には、各年度とも同種の事由により、多額の繰越額・不用額が継続して発生しているものがあり、繰越しが継続している科目の中には、繰越額の全額又は相当額を、翌年度の決算においてもそのまま不用額として処理しているものも見受けられる。<以下、省略>
 (3)決算剰余金について
 特別会計の中には、当該特別会計の事業の性格上やむを得ないものもあるが、各年度とも同種の事由により、多額の決算剰余金が継続して発生しているものが見受けられる。また、決算剰余金の処理として翌年度の歳入に繰り入れられる金額の中には、その有効活用を図るなど決算剰余金を縮減する措置の検討対象とすることが特に重要と考えられる部分も少なからずある。<以下、省略>
 (4)積立金等について
 特別会計に設置されている積立金等の主な財源は、決算剰余金、一般会計からの繰入金等であり、その残高は16年度末現在、財政融資資金及び外国為替資金を除く31資金で200兆円を超えている。積立金等の保有量については、設置目的、使途、特別会計の事業規模等に応じ、それぞれ適正規模があると考えられるが、ほとんどの資金においては、そのような基準を舞台的に定めていない。このため、積立金等の残高が適正な水準であるかどうかを判断できず、資金の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっている。<以下、省略>」(以上、報告書、136137ページ)

 なお、多額の繰越額・不用額・決算剰余金・積立金等の実態は上記報告書の157188ページに各特別会計ごとに2001年度~2005年度分の具体的なデータが掲載されているので参照されるとよい。
 
特別会計の余剰資金の透明化・縮減・一般財源化を促した参議院決算委員会の決議
 参議院決算委員会は国の決算の審査を行うにあたって決算決議を採択することがあるが、2004年度、2005年度の決算審査にあたり、特別会計の多額の剰余金、不用額、積立金の透明化・縮減・有効活用を求める以下のような決議を採択している。
 「平成16年度決算審査措置要求決議」200667日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k028_06060701.pdf
 「8 特別会計積立金の一層の活用方策の検討について
 財政融資資金特別会計においては、将来の金利変動による逆ざやの発生の可能性に備え、毎年度、損益計算上利益を生じた場合には、金利変動準備金として整理することとしているが、昭和55年度より毎年黒字を計上し、逆ざやを生じたことはなく、近年、年間3兆円単位で積立金が増加している。18年度予算においては、同準備金より12兆円を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債残高の圧縮に充てることとしている。
 また、外国為替資金特別会計においては、将来の歳入不足の可能性に備え、為替介入で得たドルで米国債を購入するなどしてその利子収入を蓄えており、昭和56年度より剰余金の一部をほぼ毎年一般会計に繰り入れているものの、何間数千億円単位や、時には一兆円を超える額で積立金が増加している。
 <中略>
 さらに、多くの特別会計においては、一般会計から多額の繰入金を受け入れているが、いったん予算化されると執行残が出ていながらも、一般会計に戻されることなく、そのまま特別会計において繰り越されている。
 政府は、これら特別会計の積立金等について、その規模の妥当性につき国民が納得できるよう説明を行うとともに、規模が過大であると考えられる部分については、国債償還への充当や一般会計への繰り入れを行い、その上で消費拡大策への利用なども念頭に、その活用策を徹底的に検討すべきである。」

 「平成16年度決算 議決」200669日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k010_06060901.pdf
 3 特別会計については、歳出規模が純計規模で前年度を上回り225兆円余と一般会計を大きく上回っており、依然として多くの特別会計において不要不急の事業の実施や多額の積立金・資金、不用・剰余金を抱え、一部は引き続き増加傾向にあることは看過できない。政府は、各特別会計の事務事業の見直しに加え、右の各種の余剰資金の縮減、一般会計への繰り入れ・繰戻し、事業の実態に即した適切な予算計上など、透明化のため、一層目に見える改善に努めるべきである。」

 「平成17年度決算審査措置要求決議」2007611日)
 http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/164/k028_07061101.pdf
 「8 特別会計の剰余金及び積立金の財政健全化のための更なる活用について
 第166回国会において特別会計に関する法律が成立したことに伴い、剰余金については、一般会計への繰入れが共通ルール化され、積立金については、その必要性や水準等が各特別会計予算の積立金明細表に公表されることとなった。
 しかしながら、恒常的に繰入れが行われてきた外国為替資金特別会計を除けば、剰余金からの一般会計への繰入れは少額にとどまっており、積立金明細表における必要性や水準等の記載は、そのほとんどが抽象的文言となっている。<中略>
 政府は、すべての特別会計の剰余金の使途をより一層精査するとともに、積立金の必要性及び水準等について、積立金明細表に特別会計の業務の性格に応じて明確な基準を示し、現在掲げられている20兆円の財政健全化への貢献目標にとどまることなく、剰余金及び積立金の財政健全化のための更なる活用を図るなど、今後も特別会計の不断の見直しに努めるべきである。」(下線はいんようにあたって追加)
 (下線部分に関する注)
 たとえば、財政融資資金特別会計の場合、積立金の積立基準に関し、「本特別会計の財務の健全性を確保するために必要な金額まで積み立てることとしている」と記しているにすぎない。

 「特別会計改革法」(通称、2006年成立)による一般会計への繰入措置
 政府は2006年に成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(法律第47号)の中で、特別会計の資産、負債、剰余金等を縮減するなどして、2006年度から5年間を目途に総額20兆円を財政の健全化に寄与することを目標とした。しかし、2007年度予算までにすでに15.6兆円を一般会計ならびに国債整理基金特別会計に繰り入れ、今後毎年1.5兆円程度を一般会計等へ繰り入れすれば目標は達成可能な状況になっている。このような事実は現状の特別会計の内部に一般財源に充当可能な余剰金が数十兆円単位で存在していたことの証左である。
 しかも、参議院決算委員会の上記の「平成17年度決算審査措置要求決議」にもあるように特別会計に存在する一般財源化が可能な余剰金はこれに尽きるわけではない。一つ前の記事で指摘したように偶発債務に備える保険事業特別会計を別にしても、特別会計全体で毎年5兆円~9兆円の不用額が発生していることはこの指摘を裏付けるのに十分な事実である。

「堂々たる政治」どころか「姑息な政治」
 与謝野馨氏は新著『堂々たる政治』(2008年、新潮新書)の中で、「耳障りであっても、事実をきちんとお話しする。時には批判を浴びることがわかっていても、国民に堂々と語りかける。それが政治家としての本道ではないかと思う」(はじめに、5ページ)と記している。実際、先の自民党総裁選の渦中でも与謝野氏は他の候補者が消費税の引き上げの必要性を認めながらも、将来の政治的アジェンダとして先送りする政見を示したのに対し、国民受けしないことを承知で消費税引き上げの必要性を説き続けた。こうした与謝野氏の政治姿勢に多くのマスコミは耳障りなことから逃げず、正直に国民に訴える実直な政治家として好意的な評価をした。しかし、こうしたイメージ先行のマスコミ論調はかつて国民に痛みを伴うことを厭わず「改革断行」を絶叫した小泉元首相に喝采を送ったマスコミ論調とそっくりである。問題は、与謝野氏がはたして、社会保障等の財源を検討する際に不可欠な事実を国民に向かって「堂々と語りかけている」のかどうかである。

 この点でいうと、「埋蔵金を証明した人はいない」という与謝野氏の発言は、本稿で示した上記の会計検査院報告書、参議院決算委員会の一連の決議によって、まやかしの発言であることは明白である。国会に提出された会計検査院の特別会計に関する検査報告書や国会でなされた特別会計に関する決算決議を無視するかのような与謝野氏の発言は無責任な虚言であり、財政担当大臣として不見識もはなはだしい。
 与謝野氏は財政融資資金特別会計や外国為替資金特別会計の「積立金には、すでに定められた目的や理由がある。決してフリーハンドで使えるお金ではない」(前掲書、166ページ)と述べている。しかし、会計検査院も参議院決算委員会決議も私も、これら特別会計の積立金のすべてが自由に使えるなどといったためしはない。与謝野氏や前回紹介した吉野直行氏が答えなければならないのは、
 ①財政投融資特別会計の積立金のうち、およそどれだけが自由に使えないお金なのか、それを国民に説明するのに、「本特別会計の財務の健全性を確保するために必要な金額まで積み立てることとしている」といった国民を愚弄するような所管省庁の説明でよしとするのかどうか、
 ②財政投融資特別会計の積立金は独立行政法人などに長期固定金利で貸し付けをした場合に金利が急上昇して逆ざやになった時の損失に備えるためのものというが、1980年度より毎年黒字を計上し、逆ざやになった年度はなく、2003年度~2008年度の間、年間28千億円~4兆円の決算剰余金が発生している事実をどう説明するのか、
という点である。

 もっとも、与謝野氏によれば、特別会計の余剰金は会計検査院が定期監査で指摘する「無駄」の問題と同じ次元で捉えられている。与謝野氏は前掲書の中で財政における無駄を2種類に分け、次のように述べている。与謝野氏がいう一つ目の無駄は会計検査院が指摘するような「本当の無駄」である。もっと安く買えるのに高く買ったとかいった「税金の無駄使い」である。もう一つは政策の評価に関わる無駄である。その例として与謝野氏は地方の道路整備や老人医療費、児童手当を挙げ、「社会福祉は結果的に社会の安定を底支えするわけで、その恩恵は誰もが受ける」(152ページ)と記している。「社会福祉は社会の安定を底支えし、誰もがその恩恵を受ける」という意見には私も同感である。

 しかし、会計検査院が毎年の定期検査で指摘する「無駄」を引き合いに出して特別会計の余剰金を論じるのは場違いであるし、社会福祉のための支出と少なからぬ特別会計に毎年生じている不用額・剰余金・使途不定の繰越金を同列に置き、後者まで政策評価次第で無駄とは言えない余剰金であるかのようにみなすのは荒唐無稽なすり替えである。多くの特別会計において、毎年発生する多額の不用額や剰余金を一般財源化せず、積立金や繰越金として特別会計に内部留保している実態は政策評価以前の、財源の非効率な運用である。

 「増税なき増収」財源が毎年数兆円規模で発生している実態から目をそらせ、財政当局が敷いた「消費税増税による財政再建路線」の振り付けに順応して、消費税引き上げなしには社会保障等のための増収財源がないかのように世論を誘導する発言を繰り返す与謝野馨氏の言動は、「堂々たる政治」どころか、「財政当局に」耳障りな事実をはぐらかす「姑息な政治」といわなければならない。

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コメント

ホタル様 
感想ありがとうございました。一見和解できそうにない主義、主張の違いを、依って立つ事実認識の違いに着目して解き明かす努力が大切ではないかと感じるこの頃です。続編(2)(3)をアップしました。長文になりましたが、お手すきの時にでもご覧いただけると幸いです。

投稿: 醍醐 | 2008年10月13日 (月) 14時55分

「埋蔵金」のある・ない論議はどちらが正しいのか、私のような素人にはまったく謎でしたが、醍醐さんのお蔭で明確に理解できました。

それにしても、会計検査院報告という隠しようもない公的資料がありながら、一体何を思って「財源なし」の主張ができたのか。そんなに隠したい意図は何から来るのか。隠した財源をどうするつもりだったのかーーー現政権に対する不信がいや増します。

投稿: ホタル | 2008年10月12日 (日) 21時40分

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