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過剰な積立金と経常的に発生する剰余金の一般会計への還元――埋蔵金論争の正しい決着のために(4・完)――

 最終回のこの記事では、保険を除く事業特別会計の中で毎年度の不用額または剰余金と直近年度末の積立金・資金の規模が傑出している財政投融資特別会計(旧財政融資資金特別会計)と外国為替資金特別会計の積立金・資金を検討してみたい。はじめに、両特別会計の過去5年度(20022006年度)の不用額、剰余金等の推移を再掲しておく。
 1 各特別会計の決算状況(2006年度)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_kessan_H18.pdf

 表2 各特別会計の不用額の推移
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokubetu_kaikei_fuyogaku.pdf

財政投融資特別会計の事例分析
 まず、財政投融資特別会計であるが、現在のこの特別会計は旧産業投資特別会計投資勘定を引き継いだ「投資勘定」と旧財政融資資金特別会計を引き継いだ「財政融資資金勘定」の二つに区分されている。このうち、投資勘定については前回触れた。もう一つの財政融資資金勘定については2回目の記事で少し触れたが、中小零細企業、教育、社会福祉関係等への長期低利の貸し付けを通じてこの分野で経済社会に貢献することを目的としている。そのため、この勘定では金利変動による損失に備える金利変動準備金を設けることとされ、2006年度末現在で残高は15.3兆円となっている。しかし、金利変動リスクというが過去において逆ザヤとなったことはなく、この5年間は毎年度2.8兆円~4.0兆円の剰余金を計上している。加えて、2007年度で郵貯・年金の預託払い戻しが概ね終了し、金利リスクが相当程度低減した。そのため、金利変動準備金の準備率の上限をそれまでの1,000分の100から1,000分の50に引き下げ、準備率の上限を上回る9.8 兆円が国債整理基金特別会計に繰り入れられた。
 このような状況から判断すると、財政融資資金勘定では現状の準備率でも金利リスクに十分対処できると考えられ、過去5年間の実績を基準にしていうと、毎年度発生した2.5兆円程度の不用額に相当する剰余金を今後、一般会計に還元することが可能と考えられる。また、今後各年度の金利変動準備金への繰入れで金利リスクに概ね対応できると考えられるから、約15兆円の準備金の大半を段階的に一般会計に繰り入れて行くことが可能と考えられる。

外国為替資金特別会計の事例分析
 次に、外国為替資金特別会計であるが、この特別会計も2006年度末現在で17.5兆円の積立金・資金を保有する一方で、過去5年間、1.7兆円~3.7兆円規模の剰余金を計上してきた。これは運用サイドの米国債の金利と為替介入の際のドル購入用資金を調達するために発行した債券の国内金利の差、つまり日米金利差に起因するものである。剰余金率(=剰余金/収納済歳入額)でいうと90.3%~99.4%を記録している。歳入額の90%以上を余している計算である。

 ところが、与謝野馨氏は、「外為資金特別会計は、為替変動リスクに備え、為替介入などの原資となるものだ。いわば、家計における保険料のようなもの。食費が足りないからといって使っていいものではない」(『堂々たる政治』166ページ)と述べ、17.5兆円の積立金は任意に使えないかのように主張している。本当にそうか? 
 しかし、為替介入に備えるといっても、20043月に実施された円売り・ドル買いの介入を最後に日本は為替介入を封印している。この間おおむね、ドル高傾向が続いたこともあるが、欧米各国や中国に為替介入の意思がない中で日本が単独介入しても相場への影響は微々たるものだということがわかっているからである。もっとも、このところ急速に進む米国発の金融危機の中で日本の通貨当局が4年半ぶりに介入に踏み切るかどうか注目されているのも事実である。しかし、欧米の通貨当局は、為替レートは相場の動向を反映させるべきであるとして、人為的な介入に否定的な姿勢を取り続けている。むしろ、是非は別にして金融機関への公的資金の投入で協調行動をとることで合意している。そうした中、日本が単独で介入してもさしたる効果は見込めないから、日本の通貨当局も介入には慎重な姿勢をとるものと思われる。このように考えると、為替介入の原資として必要という与謝野氏の説明は事情に疎い人々をミス・リードするには簡潔明瞭であるが、あまりに単純すぎる。

 では、円高・ドル安の進行により、保有する米国債に為替差損が生じたときの穴埋めのために積立金を取っておく必要があるという議論はどうか? 資産の運用成果を測るためなら、資産を時価で評価替えして差益、差損を洗い出すことが必要である。しかし、外為特別会計が現在保有する82兆円もの米国債を現在のようなドル安の時期に差損を確定することを承知で一挙に処分することはありえないし、市場の需給関係、相場への売り圧力からいってもできるはずもない。そうであれば、多額の為替差損が実現する可能性はほとんどなく、差損を穴埋めするために積立金の大半を取り崩す必要も生まれない。こう考えると、与謝野氏の議論は外為特別会計の積立金を特別会計に囲い込んで手放さないでおくための幼稚なためにする説明である。
 しかし、それとは別に、将来、為替介入が行われる見込みも乏しい中で、外為特別会計が82兆円にも上る資金を米国債に投資し続ける点については、次のいずれかの方法で現状を改革することが必要であるし、実行可能でもあるといえる。
 (1)年度ごとの剰余金の一般会計への繰り入れ
 米国債を今後も保有し続け、日米の金利差が、多少の幅の変化はあるにせよ、今後も続くとすると、毎年23兆円の剰余金が発生すると考えられる。これを一般会計に繰り入れることは可能である。
 (2)相場の動向をにらみながら米国債を段階的に処分し、その際に発生した差益か、処分額にみあって不要となった積立金を一般会計に繰り入れること。
 (1)の方法を選べば、一般会計に対する外為特別会計の剰余金の貢献は剰余金の計上が続く限り、持続することになる。(2)の方法を選ぶと、持続的とはいかないが、米国債の段階的処分が続く間は増税なき増収財源として一般会計に寄与することになる。

まとめ
 以上のように見てくると、①特別会計に留保された積立金等の「埋蔵金」は決して一過性のものではないこと、②一般財源化が可能な特別会計の余剰金は過剰な積立金に限ったことではなく、これまで毎期発生してきた不用額相当の剰余金の一般会計への繰入れ、ないしは一般会計から特別会計への繰入れの停止によって、社会保障等の歳出に持続的に充当可能な財源となりうるといえる。それだけに、特別会計の余剰金は規模において、社会保障財源を議論する上で、ノイズであるどころか、「公の租税の必要性を確認し、それを自由に承認し、その使途を追跡し、かつその数額、基礎、取立て、および期間を決定する権利」を持つ市民・納税者にとって、避けて通れない重大なテーマなのである。

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コメント

みずの様
感想ありがとうございました。財政再建、高齢化時代の社会保障の維持には増税不可避という論調が政府サイドから喧伝され、マスコミは「国民に嫌がられることから逃げずに率直に訴えるべし」といった論調を洪水のように流しています。ブログの記事がこういう論調を疑ってみる一助になれば幸いです。

投稿: 醍醐 | 2008年10月15日 (水) 22時40分

ともすればブラックボックス化して
分かりにくく、特に為政者に都合の良い
解釈だけがしたり顔で大手を振る中、
非常に分かりやすい説明に
得心いたしました。

特別会計をできれば廃止して一般会計に
組み込み、きちんと毎年精査されて
本当に国民のためになる用途に
血税が使用されることを願うばかりです。
旧来の悪習に囚われない
抜本的な改革が待たれますね。

投稿: みずの | 2008年10月15日 (水) 18時48分

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