« 介護報酬の引上げは保険料の引上げなしでも可能である~介護保険財政の現状分析(1)~ | トップページ | グルジア人の誇りと友愛の精神を描いた放浪の画家、ニコ・ピロスマニ »

財政安定化基金の活用で介護報酬のさらなる引上げは可能~介護保険財政の現状分析(2)~

 前回の記事で紹介したように、介護報酬を引き上げるなら、保険料も引き上げるのが当然であるといった論調が喧伝されている。しかし、実態はどうかというと、全国集計ベースで見た介護保険特別会計は介護保険制度が発足した2000(平成12)年度以降、毎年度、黒字を計上している。しかし、介護保険特別会計で注視すべきはそれだけではない。あまり知られていないが、各都道府県が保険料の未納分を補てんするため、あるいは介護給付費が見込みを超えて増加した場合に備えて積み立てた基金(財政安定化基金)の大半が制度発足以来、使い残され繰り越されているという実態を見過ごすことはできない。今回は、こうした財政安定化基金の現状を探ることにより、保険料の引き上げなしでも介護報酬の引き上げや介護給付の充実のために必要な財源は存在することを実証したい。

「財政安定化基金」とは?
 介護保険の保険者である市町村は3年を1期とする事業計画を策定する。その際、市町村はむこう3年間の介護サービス需要を見込み、期間を通じて同じ水準の保険料を設定する。その際、各都道府県は、管内の市町村が通常の努力をしてもなお見込まれる保険料の未納や計画を上回る介護給付費の伸びなどにより財源に不足が生じた場合に、一般会計からの繰り入れに頼ることなくこれに対応できるよう、「財政安定化基金」を設け、そこから財源不足の市町村に対する貸付や交付を行うことになっている。具体的には毎年度、保険料の収納不足や見込みを超える給付費の増加によって生じた財源不足はこの基金からの「貸付」で賄われ、次の事業計画期間中に償還されることになっており、償還原資は保険料に織り込まれることになっている。また、事業計画の最終年度に至って生じた財源不足のうち、原則として保険料の収納不足額の2分の1は「交付」で賄われることになっている。
 次に、基金の原資は国、都道府県、市町村が3分の1ずつを負担する形で造成されるが、市町村の負担金は保険料に原資を織り込んで造成されることになっている。

保険料を引き上げながら「財政安定化基金」を蓄える介護保険財政
 では、財政安定化基金の実際の運用状況はどうなっているのかをデータで確かめてみよう。表12は厚生労働省が公表した2006(平成18)年度と2007(平成19)年度の都道府県別の財政安定化基金からの貸付・交付、貸付の回収、年度末の基金残高、基金残高に対する(償還額を差し引いた)正味の貸付等の割合である。

 2006年度 財政安定化基金の積み立て・運用状況
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zaisei_anteika_kikin2006.pdf

 
2007年度 財政安定化基金の積み立て・運用状況
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zaisei_anteika_kikin2007.pdf

 これらのデータのうちの全国集計を抜粋して示すと次のとおりである。

           財政安定化基金の利用割合
                         (単位:百万円)

2006年度

2007年度

基金からの貸付金額

80,174

80,736

基金からの交付金額

5,242

5,242

貸付金・交付金合計(A

85,416

86,029

既償還額(B

43,153

59,029

年度末現在の基金実支出額
C)=(A)-(B

42,263

27,000

年度末基金残高(D

260,874

273,219

基金からの実支出割合
C)/(D

16.2

9.9

  ここから、両年度とも、財政安定化基金の利用割合(基金残高に対する正味の貸付・交付金額の割合)は16%から9.9%へと低位かつ減少傾向にあり、造成された基金の大半が使い残されていることがわかる。これを都道府県別にみると、2006年度では基金の利用割合が最も高かった長崎県でも55.5%で、22の都道県では1桁台の利用割合に止まっている。また、2007年度では、基金の利用割合は最も高かった福岡県でも34.6%で、30の都道県は1桁台に止まっている。
 このことは、介護予防など地域支援事業を理由に約24%もの保険料を値上げしながら、介護給付費の増加等に備える多額の基金を使い残すという結果になっていることを物語っている。
 
 そこで、2006年度末現在の財政安定化基金残高260,874百万円を同じ時点の介護職員数(常勤換算)1,019,318人を基準に1人当たりの月額に換算すると21,328円となる。この金額は当時のホームヘルパー男子(37.6歳、勤続3.9年)の給与の9.2%に相当し、ホームヘルパー女子(44.7歳、勤続4.5年)の給与の10.8%に相当する(給与水準については、全日本民医連理事会、2008321日開催提出資料を参照)。

 このように見てくると、現在の介護保険財政には介護職員の報酬を5%以上引き上げ、まずは介護保険制度発足時の水準に戻すための財源は保険料の引き上げなしでも、財政安定化基金を活用することによって確保できる目途があるといえるのである。

|

« 介護報酬の引上げは保険料の引上げなしでも可能である~介護保険財政の現状分析(1)~ | トップページ | グルジア人の誇りと友愛の精神を描いた放浪の画家、ニコ・ピロスマニ »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。