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政権交代の虚像をあぶり出した西松献金事件(2)

魚住昭氏の逆立ちした検察良識論
 『毎日新聞』の2009312日夕刊の4面<特集ワイド>欄で「西松事件の読み方」と題する大きな特集が組まれ、元東京地検特捜部検事の郷原伸郎氏、ジャーナリストの魚住昭氏、元毎日新聞司法記者の山本祐司氏の談話が掲載された。一つの問題について多様な意見を伝えるという点で読みごたえのある紙面とは思ったが、郷原氏、魚住昭両氏の見解には、先の記事で取り上げた大谷昭宏氏の場合と同様の強い異議を感じた。

 まず、魚住氏は、東京地検が政権や自民党の指示に従うことはあり得ないとして、今回の事件を「国策捜査」と非難する主張を退けている。ところが、そうはいいながら、魚住氏は「検察上層部に『今回の摘発で小沢氏が首相になる芽は消える』との計算がなかったとは言い切れません」とも述べ、「以前の検察ならば、政治介入に対する自制心が働いたはずです。現場のはやる気持ちを、上層部が待ったをかけた。『政治資金規正法なんかでバッジ(国会議員)を取れるか』という良識もあった」と述べている(『毎日新聞』2009312日、夕刊)。

 こうした言い方は、今回の問題を政治資金報告書の書き方の問題として片付けようとする小沢氏側の言い分と軌を一にしている。驚いたことに、郷原氏も次のように述べている。

 「今回の容疑は4年間で寄付総額が2100万円。しかもすべて報告書に記載されており、寄付の名義を偽っただけ。<過去の類似の事件と比較して>金額の規模や悪質性の面で軽微であることは否定できません。」

 念のため断ると、魚住氏の記事にせよ、郷原氏の記事にせよ、本人の原稿ではなく、ご両人が取材に応じて話した内容を記者が文章化したものと思われる。以下、私が問題視する箇所がご両人の見解を正確に伝えていないのなら、事の重要性から訂正を申し出られる必要があると思う。以下では、記事がご両人の見解を正しく伝えているものと前提して私の感想を述べたい。

 まず、魚住氏の見解について。不可解なのは魚住氏が東京地検特捜部は「政権や自民党の指示に従うことはあり得ない」といいながら、「地検が強い姿勢で臨んだのは、小沢氏絡みだからでしょう」とあえていう意味は何なのかである。魚住氏は確たる裏付け証拠に基づいて、検察上層部に「今回の摘発で小沢氏が首相になる芽は消える」との計算がなかったとは言い切れないといったのだろうか? そうであるなら、その証拠を提出すことがぜひとも必要であった。そうした証拠も示さないままでは憶測の域を出ないと受け止められてもやむを得ない。
 しかし、ここで重要なことは検察の意図を憶測することではなく、小沢氏や二階氏にまつわる疑惑の解明である。これについて、これまでの報道によれば、小沢氏や二階氏側は、資金の出所が西松建設やその他大手ゼネコンであることを十分認識していただけでなく、小沢氏側からは西松建設に献金の方法、金額の割り当てまで指示していたとされる一方、小沢氏や二階氏の側からは、こうした報道を退けるに足る反証がこれまでのところ、何も示されていない。肝心のこの点を不問にして、小沢氏や二階氏周辺を捜査するのを自制することがなぜ、「良識」なのか? 捜査するべき事案であるにもかかわらず、近く首相になる公算が高い政治家だとして捜査に手心を加えることこそ、「国策捜査」以外の何物でもない。それによって、小沢氏が首相になる芽が消えたとしても、それは関知するところではないという態度こそ、検察当局の良識というものである。

<たかが政治資金収支報告>か――郷原信郎氏の見解への批判――
 郷原氏が、小沢氏側では西松ダミーからの献金も「すべて<政治資金収支>報告書に記載されており、寄付の名義を偽っただけ」と語ったのには驚きである。このようなもの言いは、今回の西松建設ほかの不正献金疑惑は政治資金の報告書の記載のあり方に過ぎないと見なすのも同然であるが、ここで問われるべきことは、小沢氏側や二階氏側は<なぜ>そうまでして名義を偽らなければならなかったのかである。
 そのわけは、政治家個人やその資金管理団体への企業からの献金を禁止している現行の政治資金規正法を裏金で受領するリスクを避け、表の金という装いで「適法に」受け取れるよう、西松建設のOBが代表を務め、同社の社員が収める会費で献金の原資を捻出するダミーの政治団体を作ったのである。しかも、社員が収めた会費は後日、賞与への上乗せという形で西松建設が負担したという。なぜ、そこまでして西松建設が献金の原資を負担したのかといえば、東北地方で公共工事の発注に強い影響力を持つ小沢氏側の影響力を自社に有利に働かせるためである。とすれば、西松建設としては、献金の原資の出所が西松建設であることを小沢氏に伝わっていなければ意味はないことになるし、小沢氏側としても西松建設から受けた献金であると認識していることを献金元に知らしめることが、公共工事の発注にあたっての自分の影響力を誇示する上で必要であったという見方は十分成り立つ。

 このように考えると、今回の西松建設献金事件は単なる政治資金収支報告書の記載が不備であったかどうかの問題ではなく、自己の政治的影響力を武器にして営利企業に政治資金を献金させ、そうして調達した潤沢な政治資金を力の源泉にして政治勢力を膨張させるという構図――金に物をいわせる下劣な政治――を許すのかどうかという問題に直結するのである。
 この点で、「特捜検察がいわば聖域とも言える『表献金』にあえてメスを入れたのは、表面上は適法な献金であっても、実態次第では厳しい態度で臨むのだというメッセージに他なりません」という山本祐司氏の見解がまっとうな意見である。
 これと比べて、今回の西松建設献金事件を<小沢氏と検察のガチンコ勝負>(大谷昭宏氏)とか、<小沢氏対特捜の最終章>(星浩「政態拝見」、『朝日新聞』2009310日)などと高みの見物を決め込むもの言いは、ジャーナリストとしての資質を疑わせる批評精神を欠いた記事である。

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コメント

郷原さんの議論と今回の事件の争点を、醍醐さんは正確に理解なさっていないように思います。Videonews.comで郷原さんとの2時間に渡る議論が見れますので、そちらを参考にしてください。(NHKの問題にも触れています)

NHKを批判されている方が、メディアから垂れ流される検察リークをもとに発言するのはちょっと違和感を感じてしまいます。

http://www.videonews.com/on-demand/0411/000931.php

(こちらは郷原さんの短いインタビュー)
http://www.videonews.com/interviews/001999/000869.php

(先週の朝生。こちらも郷原さん出演です。)
http://video.google.com/videoplay?docid=-5861029564823656421


投稿: Windy | 2009年3月31日 (火) 02時24分

政治資金規正法の実体を一つ。
最近ネット上の一部で話題になっている、千葉県知事候補・森田健作氏のケースが面白いですよ。詳しい事実は

東京サバイバル情報  ☆一時避難せよ☆
http://yaplog.jp/ichijihinan/daily/200903/22/

をご覧願いたいですが、ここを見れば、森田健作(本名・鈴木栄治)が、
「自由民主党東京都衆議院選挙区第二支部」
という自分専用のダミーの「企業献金受け皿政治団体」をトンネルに、「森田健作政経懇話会」なる個人の「政治団体」に資金の名義を移していたのは明白です。両政治団体の住所は同じであり、両「団体」の代表も何と鈴木栄治=森田健作本人です。

要するに、個人への企業献金は禁止なので、「ポスト」を一つ作ったというわけです。そのポストの表側には「自由民主党東京都衆議院選挙区第二支部」と書いあります。これで企業献金は受け放題。一方ポストの裏、現金取り出し口には「森田健作政経懇話会」と書いてある、という話です。今回の知事選でも半端ではない金額がこのポストから取り出されたことでしょう。

自由民主党東京都衆議院選挙区第二支部代表の森田健作は、有権者を舐めきったことに「完全無所属」を標榜して知事候補となっているようです。これほど詐欺的・悪質な、政治資金「完全ダミー団体」の代表者たる彼が、何故逮捕されないでしょうか?千葉県民はすっかり騙されているようですね。
「大久保秘書」などかわいいものに見えてしまいます。

投稿: digo | 2009年3月24日 (火) 20時59分

わたしも同意できません。上の、コメント氏の意見に共感します。

今回の問題が悪質なのは、マス・メディアばかり見ていてはまったくわからないということです。ネットで、ずいぶんな時間をかけて探索し、情報を選り分けないと、姿が見えてきません。

(1)は、麻生が跳ねてよろこぶような記事でした。知識人と言われる方々は、弁も筆も立つので、どのような理屈もつくることができる。かの近代の超克につどった知識人たちのことを思ってください。

投稿: aki | 2009年3月24日 (火) 09時50分

あなたの意見にはまったく同意できません。
以下を参照願いたい:
http://d.hatena.ne.jp/zames_maki/20090311
 ついでだからコメントしておくと
>小沢氏-からは、こうした報道を退けるに足る反証が-何も示されていない
 報道の情報源は全て「関係者」という曖昧なものでありこれに反証しろと言うのか?小沢一郎は金が会社からのものであれば党支部へ献金をお願いすると述べており、受け取らないなどとは述べていない。そういう形であくまで法は守っていると説明している。

 面白いのは反証しろという、あなたの言い分はソフトニュース(ワイドショーの事)の代表のTBSの朝の番組のみのもんた氏の言い方とそっくり同じな事だ。彼は庶民を代表する立場で、その無定見さ故に半ば動物的感でそう言うが、こねくりまわしてはいるがあなたも同じようだ。

 一般にTVのソフトニュースははっきりした根拠もないのに繰り返し事件を煽るとして批判されるが、今回は検察のリークという「偽の信頼性」を背景にハードニュース(NHKニュース)がそれを行っている。

 ソフトニュースは低学歴で政治に関心のない人が見るから騙されるのだと言われるが、今回ハードニュースが舞台となることで高学歴の知識人も騙されている。いかに検察の情報操作が成功したかのよい例だろう。
 しかし本当の知識人なら小沢一郎に関する連日のTVのハードニュースの内容にどれだけ根拠があるか一度調べて見るべきだ。

投稿: zames_maki | 2009年3月16日 (月) 03時35分

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