NHKは象徴天皇制にどう向き合うのか? NHKの附帯業務はこれでよいのか? ~NHK・産経新聞社ほか共催の天皇・皇后祝賀コンサート再論~
<この記事は1つ前の記事「疑問山積のNHK・産経新聞社ほか共催の天皇・皇后祝賀コンサート」の続編である。1つ前の記事もあわせて一読いただけるとありがたい。>
4月28日にNHK、産経新聞社などが共催する天皇・皇后成婚50周年、即位20周年を記念するコンサートがNHKホールで開催されることになっている。これについて、私も参加している「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は4月3日付けでNHK福地会長に次のような申し入れをした。
「天皇・皇后の成婚・即位の節目を祝うコンサートへの参画取り止めを~NHKに申し入れ」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-011c.html
ここでは、改めて天皇・皇后祝賀コンサートの問題点を2つの角度からまとめておきたい。
NHKは象徴天皇制にどう向きあうのか?
NHKが天皇・皇后の成婚・即位の節目の年にちなんだ催しを報道の対象として扱うことと、今回のように自ら催しの主催者に加わることの間には質的に重要な違いがある。原寿雄氏の近著『ジャーナリズムの可能性』(岩波新書、2009年)を引いていうと、NHKが今回のコンサートの主催者に加わるのは、ジャーナリズムの非当事者原則からの逸脱と考えられる。ここでいう「非当事者原則」とは「権力を監視すべき役割を担う者が権力づくりに加担しては、ジャーナリストとは呼べない」、(原寿雄、4ページ)、「新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究であ」(日本新聞協会、新聞倫理綱領)って、記録者が歴史のステージに上がるべきではないとする原則である。
原氏はこの原則に照らして、2007年10月に福田・小沢の与野党大連立工作を取り持ったといわれる読売新聞グループ本社会長・主筆の渡邊恒雄の政治活動を厳しく批判している(原寿雄、同上書、2ページ以下)。天皇・皇后の成婚・即位の節目の年を祝う催しの主催団体にNHKが加わったことも、特定の催しを報道の対象として扱う行為(歴史的事実を伝える行為)と政治的価値判断が絡む催しにジャーナリズムが主体的に参画する行為(歴史的事実を創る行為)の区別を踏み外し、公共放送の不偏不党の原則を逸脱する行為といわなければならない。しかし、<コンサート>という文化的催しであるがゆえにか、この点の認識が市民の間やジャーナリズム界でも希薄なことが気がかりである。
このコンサートのことをある人に話しかけると、「昭和天皇の時代と平成天皇・皇后の今とでは同じ評価でよいのか判断が難しい」という感想が返ってきて、4月10日に放送されたNHKスペシャル「象徴天皇 素顔の記録」が話題になった。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/090410.html
私もこの番組を視たが、NHKのHPに掲載された番組案内には次のような解説がある。
即位の時から「象徴」であることを宿命づけられた、いまの天皇陛下。国民に近い皇室にしたいと、旧弊を破りライフスタイルを変えられた。これまでほとんど前例がなかった被災地への訪問に取り組み、膝をついて人々と向き合われた。そして、沖縄やサイパンなど、激戦地への「慰霊の旅」。
番組の基調はこの解説文に沿ったものだった。周囲の時期尚早という声を承知で沖縄へ何度も慰霊の旅に出掛けた天皇・皇后の「沖縄の心に寄り添う」決意が強調された。他方、天皇夫妻を迎える沖縄の人々の様子はというと、「複雑な思い」の一語に集約され、何がどう「複雑なのか」、番組の中で立ち入ることはなかった。天皇夫妻の沖縄に寄せる<心情>にスポットを当てることによって、沖縄戦の悲劇を天皇の「慰霊」の旅で癒し、今なお残された歴史の事実の検証の必要性を忘れさせるかのようなムードが醸成されかねないことを私は非常に危惧した。
また、番組では天皇自らが運転し、皇后を助手席に、職員を後部座席に乗せて皇居内のテニスコートへ出向く場面が映しだされた。私も<へえ、そんなものなのか>と思いながら見ていたが、平成天皇の<気さくな人柄>、夫妻の<ライフスタイル>にスポットをあてることによって、象徴天皇の名において、どのような問題について国民をどのように<統合>しようとしているのかという問いかけが欠落していることにも強い危惧を感じた。
学校行事において日の丸・君が代の強制に従わなかったことで処分される教員が後を絶たない事実とともに、日本の旧植民地国の二世、三世が今なお、天皇制に対するわだかまり、批判を抱えながら、私たちと共生している事実に日本人は余りに無頓着になっていないか? この番組を見終えて改めて考えさせられた。
NHK本体と関連会社の附帯業務の範囲は?
放送法は第9条2項が定めているNHKの附帯業務の範囲は一言でいえば、放送あるいは番組制作上の題材の二次的利用ということである。この点でいうと、今回の天皇・皇后祝意のコンサートは、放送法の定めに疎い福地会長がアサヒビールのメセナの感覚で産経新聞からの誘いに応じて共催することになったといわれ、催しが決まった後で周りがあわてて放送予定を決めたというのが実情のようである。これでは、<本来業務としての放送に附帯したイベント>ではなく、<附帯業務であるはずのイベントに附帯した本来業務としての放送>という本末転倒の形になる。NHKの回答によれば、開催費用は民間企業の協賛金で賄われるとのことであるが、<初めにイベントありき>、<後から放送ありき>でNHKがイベントを手掛け、副収入源を得るのは、NHKの附帯業務の範囲を定めた放送法を潜脱する行為でないのか?
また、放送法が定めた附帯業務の範囲規制はNHK本体にのみ適用され、NHKの関連企業・団体については野放しなのか、NHK本体と関連企業・団体を連結ベースで規制するものなのか、総務省は法解釈を明確にし、所要の法整備を急ぐ必要がある。筆者は関連企業・団体も支配力基準でNHKの子会社・関連企業等とみなされる以上、視聴者が収めた受信料が関係会社・孫企業等でどのように使用されているのかを監視する必要がある。その点で、附帯業務規制をNHKの子会社・関連企業等にも適用し、情報公開を徹底させるべきであると考えている。
こうした点について、NHK経営委員会、監査委員会による厳正な監視・監督と視聴者の情報公開請求による監視が必要である。その際には、NHKの本来業務に係る収支と附帯業務に係る収支を厳密に区分した会計情報、附帯事業(イベント等)ごとの収支の公開、協賛金の収支の透明化が不可欠である。
最近のコメント