« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »

NHKは象徴天皇制にどう向き合うのか? NHKの附帯業務はこれでよいのか? ~NHK・産経新聞社ほか共催の天皇・皇后祝賀コンサート再論~

 <この記事は1つ前の記事「疑問山積のNHK・産経新聞社ほか共催の天皇・皇后祝賀コンサート」の続編である。1つ前の記事もあわせて一読いただけるとありがたい。>

 428日にNHK、産経新聞社などが共催する天皇・皇后成婚50周年、即位20周年を記念するコンサートがNHKホールで開催されることになっている。これについて、私も参加している「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は43日付けでNHK福地会長に次のような申し入れをした。

「天皇・皇后の成婚・即位の節目を祝うコンサートへの参画取り止めを~NHKに申し入れ」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-011c.html


 ここでは、改めて天皇・皇后祝賀コンサートの問題点を2つの角度からまとめておきたい。

NHKは象徴天皇制にどう向きあうのか?
 NHKが天皇・皇后の成婚・即位の節目の年にちなんだ催しを報道の対象として扱うことと、今回のように自ら催しの主催者に加わることの間には質的に重要な違いがある。原寿雄氏の近著『ジャーナリズムの可能性』(岩波新書、2009年)を引いていうと、NHKが今回のコンサートの主催者に加わるのは、ジャーナリズムの非当事者原則からの逸脱と考えられる。ここでいう「非当事者原則」とは「権力を監視すべき役割を担う者が権力づくりに加担しては、ジャーナリストとは呼べない」、(原寿雄、4ページ)、「新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究であ」(日本新聞協会、新聞倫理綱領)って、記録者が歴史のステージに上がるべきではないとする原則である。
 原氏はこの原則に照らして、200710月に福田・小沢の与野党大連立工作を取り持ったといわれる読売新聞グループ本社会長・主筆の渡邊恒雄の政治活動を厳しく批判している(原寿雄、同上書、2ページ以下)。天皇・皇后の成婚・即位の節目の年を祝う催しの主催団体にNHKが加わったことも、特定の催しを報道の対象として扱う行為(歴史的事実を伝える行為)と政治的価値判断が絡む催しにジャーナリズムが主体的に参画する行為(歴史的事実を創る行為)の区別を踏み外し、公共放送の不偏不党の原則を逸脱する行為といわなければならない。しかし、<コンサート>という文化的催しであるがゆえにか、この点の認識が市民の間やジャーナリズム界でも希薄なことが気がかりである。


 このコンサートのことをある人に話しかけると、「昭和天皇の時代と平成天皇・皇后の今とでは同じ評価でよいのか判断が難しい」という感想が返ってきて、410日に放送されたNHKスペシャル「象徴天皇 素顔の記録」が話題になった。

http://www.nhk.or.jp/special/onair/090410.html

 私もこの番組を視たが、NHKのHPに掲載された番組案内には次のような解説がある。

即位の時から「象徴」であることを宿命づけられた、いまの天皇陛下。国民に近い皇室にしたいと、旧弊を破りライフスタイルを変えられた。これまでほとんど前例がなかった被災地への訪問に取り組み、膝をついて人々と向き合われた。そして、沖縄やサイパンなど、激戦地への「慰霊の旅」。

番組の基調はこの解説文に沿ったものだった。周囲の時期尚早という声を承知で沖縄へ何度も慰霊の旅に出掛けた天皇・皇后の「沖縄の心に寄り添う」決意が強調された。他方、天皇夫妻を迎える沖縄の人々の様子はというと、「複雑な思い」の一語に集約され、何がどう「複雑なのか」、番組の中で立ち入ることはなかった。天皇夫妻の沖縄に寄せる<心情>にスポットを当てることによって、沖縄戦の悲劇を天皇の「慰霊」の旅で癒し、今なお残された歴史の事実の検証の必要性を忘れさせるかのようなムードが醸成されかねないことを私は非常に危惧した。
 また、番組では天皇自らが運転し、皇后を助手席に、職員を後部座席に乗せて皇居内のテニスコートへ出向く場面が映しだされた。私も<へえ、そんなものなのか>と思いながら見ていたが、平成天皇の<気さくな人柄>、夫妻の<ライフスタイル>にスポットをあてることによって、象徴天皇の名において、どのような問題について国民をどのように<統合>しようとしているのかという問いかけが欠落していることにも強い危惧を感じた。

学校行事において日の丸・君が代の強制に従わなかったことで処分される教員が後を絶たない事実とともに、日本の旧植民地国の二世、三世が今なお、天皇制に対するわだかまり、批判を抱えながら、私たちと共生している事実に日本人は余りに無頓着になっていないか? この番組を見終えて改めて考えさせられた。

NHK本体と関連会社の附帯業務の範囲は?

放送法は第92項が定めているNHKの附帯業務の範囲は一言でいえば、放送あるいは番組制作上の題材の二次的利用ということである。この点でいうと、今回の天皇・皇后祝意のコンサートは、放送法の定めに疎い福地会長がアサヒビールのメセナの感覚で産経新聞からの誘いに応じて共催することになったといわれ、催しが決まった後で周りがあわてて放送予定を決めたというのが実情のようである。これでは、<本来業務としての放送に附帯したイベント>ではなく、<附帯業務であるはずのイベントに附帯した本来業務としての放送>という本末転倒の形になる。NHKの回答によれば、開催費用は民間企業の協賛金で賄われるとのことであるが、<初めにイベントありき>、<後から放送ありき>でNHKがイベントを手掛け、副収入源を得るのは、NHKの附帯業務の範囲を定めた放送法を潜脱する行為でないのか? 
 また、放送法が定めた附帯業務の範囲規制はNHK本体にのみ適用され、NHKの関連企業・団体については野放しなのか、NHK本体と関連企業・団体を連結ベースで規制するものなのか、総務省は法解釈を明確にし、所要の法整備を急ぐ必要がある。筆者は関連企業・団体も支配力基準でNHKの子会社・関連企業等とみなされる以上、視聴者が収めた受信料が関係会社・孫企業等でどのように使用されているのかを監視する必要がある。その点で、附帯業務規制をNHKの子会社・関連企業等にも適用し、情報公開を徹底させるべきであると考えている。
 こうした点について、NHK経営委員会、監査委員会による厳正な監視・監督と視聴者の情報公開請求による監視が必要である。その際には、NHKの本来業務に係る収支と附帯業務に係る収支を厳密に区分した会計情報、附帯事業(イベント等)ごとの収支の公開、協賛金の収支の透明化が不可欠である。

| | コメント (0)

疑問山積のNHK・産経新聞社ほか共催の天皇・皇后祝賀コンサート

そっけないNHKの回答、その裏に不可解な事実が
 さる43日付けで「NHK問題を考える会(兵庫)」と「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が連名でNHK福地茂雄会長宛に提出した「『天皇・皇后成婚50周年・即位20周年記念コンサート』の企画に関する質問ならびに参画の取り止めを求める申し入れ」に対し、NHKから410日付けの回答が13日に届いた。その全文は次のとおりである。

2009041350_5
 

  一見してそっけない回答である。「クラシック音楽を愛する多くの視聴者にご満足いただける内容」といわれると、天皇・皇后の成婚と即位の節目を祝うという催しの趣旨がまるでなかったかのように聞こえる。また、回答を求めた5項目の申し入れについて、「その内容を拝読させていただき、貴重なご意見として承ります」と受け流すのは、いかにも慇懃無礼な返答である。
 しかし、それでも、開催費用はどこから捻出されるのかという問いに対し、産経新聞社が集める協賛社からの協賛金により賄われることを明らかにした。また、これまで「未定」としてきた記念コンサートの放送を516日と公表したのも今回の回答が初めてではないかと思われる。
 しかし、注意が必要なのはそれだけではない。平静さを装った回答の陰に次のような不可解な事実が見え隠れしている。

1.自ら実行委員会に加わり、「クラシック音楽を愛する多くの視聴者にご満足いただける内容」と自負するにもかかわらず、NHKのホームページにアクセスしても、コンサートの<イベント・インフォメーション>のサイトにたどりつくのは容易でない。「日本を代表する音楽家たちが一堂に会する希少な」企画と銘打ちながら、積極的に広報をしないのはどうしたことか?

2
.開催費用は協賛社により賄われるという。しかし、NHKの<イベント・インフォメーション>には、主催団体、後援団体、協力は明記されているが、協賛社がどこにも記載されていない。ちなみに、産経新聞社のHPには「協賛 各社」と明記されている。

3
.今現在、NHKの<イベント・インフォメーション>にアクセスすると、次のとおり、主催者欄には「記念コンサート実行委員会」と表記されているだけで、310日付けの記事に記載されていた主催者団体名(日本クラシック音楽家協会、産経新聞社、NHK、NHK交響楽団)が消されている。
http://pid.nhk.or.jp/event/PPG0020201/index.html

 これは何を意味するのか? ちなみに、NHKマルチメディア局編『協業の手引き』(平成14年ごろ編集)によると、「実行委員会方式のイベント」と題する項の中で次のように記載されている。

 「主催同様、公共放送として特別な判断がある場合を除いて、分担内容が明確でない構成団体として、NHKが実行委員会に参加することは避けるべきである。」

 この規程に照らして、今回の記念コンサートにはいかなる「公共放送として特別な判断」があったのか、NHKに明確な説明が求められる。

附帯業務と本来業務の主客転倒
 今回の回答でもっとも<苦心の跡>が窺えるのは次のくだりである。

 「このコンサートは、日本を代表する音楽家たちが一堂に会する希少なもので、芸術性も極めて高く、クラシック音楽を愛する多くの視聴者にご満足いただける内容であると判断し、NHKでは放送番組で紹介することにいたしました。」

 NHKはこのくだりのすぐ後で、「NHKによるコンサートの主催は、放送法第9条第2項のうち放送附帯業務として実施するもの」と回答している。「附帯業務」とは、NHKの本来業務のほかに、放送法第7条で定められた目的を達成するために認められた業務である。具体的には、NHKが放送した番組及びその編集上必要な資料を電気通信回線を通じて一般の利用に供すること、既放送番組等を、放送番組を電気通信回線を通じて一般の利用に供する事業を行うものに提供することなどをいう(放送法第9条第2項第2号、第3号)。

 つまり、NHKは既放送番組の二次的利用、番組の制作・編集上必要な資料を一般の用に供する業務などを附帯業務として行うことを認められているのである。ところが、上で引用したNHKの回答からいうと、初めにコンサートありきで、放送することを決めたのはその後ということになる。現に、NHKが<イベント・インフォメーション>をHPにアップした3月10日の時点ではコンサートの放送日はもとより、放送予定日も記されていない。「こっそり」やる企画だったので、もともと放送するつもりはなかったが、最近になって急に「上から」放送現場に対し、「コンサートを収録して放送せよ」という指示が出たという情報もある。つまり、放送法が定めた附帯業務から逸脱したイベントを、放送法をクリアする催しとして取り繕う苦肉の策といえよう。しかし、これでは「放送に附帯するコンサート」ではなく、「コンサートに附帯する放送」という本末転倒の関係になり、放送法が定めた附帯業務を逸脱する行為であることを示唆したといえる。

 また、コンサートの企画が先にあって、後から放送予定が決まったいきさつから言えば、コンサートが特定の番組の素材として必要であったという説明も成り立たない。番組素材として必要ならコンサートの企画に先立って番組の企画があるはずだからである。

子会社の附帯業務を媒体にした事実上の政府広報
 昨年822日の『朝日新聞』1面に「NHK、政府主催のシンポ放送 子会社受注表示せず」という大見出しの記事が掲載された。それによると、NHKの子会社3社(NHKエンタープライズ、NHK情報ネットワークなど)が政府省庁あるいは各省庁所管の独立行政法人や社団法人などからシンポジウムの運営を受託し、後日、これら子会社が制作した番組をNHKが教育テレビ「日曜フォ-ラム」や衛星第2テレビの「BSフォーラム」で全国放映したという。これについて、本ブログでも記事を書いたので参照していただけると幸いである。

子会社を隠れみのにして政府広報に加担するNHK(2008914日)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-1851.html


 この例のように、NHKの関連企業が政府・省庁が主催する各種イベントの運営を受託し、それを題材にして関連企業が制作した番組を後日、NHK本体が放送するというケースは各省あるいはその外郭団体をスポンサーとする事実上の政府広報番組を意味する。関連企業を介在させることによって、NHK本体と政府の結びつきをカムフラージュし、実質的な政府広報に手を染めるNHKのイベント事業には監視の目を光らせる必要がある。

<付記:次の記事でこの記事の続編を書く予定である。あわせて一読いただけると幸いである。>

| | コメント (0)

春の上野公園界隈を歩く

 「東京新聞」に同じ猫?の写真が
 昨日(4月8日)の「東京新聞」の26面を見てびっくりした。「ニャンパスライフ満喫~東大の自由気ままな猫たち」という大見出しの記事に載った、車のうえで寝そべる猫の写真が目に飛び込んできたからだ。
 
45日の昼休み、研究室から降りて三四郎池に向かって歩いていたら、1人の女性が駐車中の車の屋根に携帯電話のカメラを向けていた。近づくと一匹の猫が人の気配など無視するかのように足を投げ出して寝そべっていた。急いでシャッターを押したのが、このブログのひとつ前の記事に載せた写真である。もっとアップで撮れたらと後で思うが。いずれにしても、「東京新聞」に載った写真は場所といい格好といい、同じ猫に間違いなさそうだ。

 「あゝ上野駅」
 先日、陽気に誘われて久しぶりに京成上野で降りた。桜の季節の上野公園を歩くのが目的だが、その前にJR上野駅の広小路口近くにある「あゝ上野駅」の歌碑を見ることにした。何度もそばを通ったが気がつかなかったようだ。近くで見ると、平成152003)年76日、設立というから、井沢八郎が亡くなる2年半前に建てられたわけである。歌碑を見にいこうと思い立ったのは今年の1月、ある新聞で井沢八郎の二周忌を記念して美代子夫人が『素顔の井沢八郎とともに』(文芸社)を出版したのを知り、買い求めて読んだのがきっかけだ。スポーツ刈りの姿のせいか、享年70歳と知って驚いた。また、この本に序文を寄せた遠藤実氏もこの本の刊行を目前にした2008126日に他界された。「歌は世につれ」というが、「世につれない歌」が出回る昨今、「あゝ上野駅」は生活者が自然に口づさむ稀有な歌である。

 4020090405








 








_4020090405













上野公園を経て不忍弁天堂へ

 その後、JR上野駅の公園口まで歩き上野公園に入った。入口近くにある東京文化会館前には都響メンバーによるティ-タイムコンサート(入場無料)の看板が立ち、その向いの国立西洋美術館の前には「ルーヴル美術館展~17世紀ヨーロッパ絵画」(614日まで)の大きな看板が掲げられていた。さらに進むと、東京都美術館で近く開かれる「日本の美術館名作展」(425日~75日)の予告の看板が立っていた。が、この日はすべて素通り。
 噴水池前の広場(交差点)を左に切ると満開の桜並木の道。両脇はビニールシートの上で宴会に興じるグル-プで賑わっていた。

40_20090405













 

桜並木の大通りの途中、五條天神社に通じる石の坂道を下り、弁天堂を通って不忍池へ出た。池にはいつもながらユリカモメが群がり、道路を挟んだボート池では満開の桜の下でボートを漕ぐ人々で華やいだ情景。

40_200904005















無縁坂

 上野公園を抜け、東大の龍岡門に向って無縁坂を上る。今は大手町経由の通勤だが、以前は京成上野で降りて不忍池に沿って歩き、水上音楽堂の脇を経て無縁坂を上るコースだった。無縁坂というと、「忍ぶ 不忍(しのばず) 無縁坂 かみしめる様なささやかな 僕の母の人生」というさだまさしの歌ので知られているようだが(私自身はこの歌をあまり聴いたことがない)、坂の上に無縁寺があったことに由来するという。坂の途中にある講安寺にも無縁寺という庵がある。
 知る人ぞ知るだが、無縁坂は鴎外の「鴈」の中で岡田青年の散策道として登場する。

 「岡田の日々の散歩は大抵道筋が決まっていた。寂しい無縁坂を降りて、藍染川のお歯黒のような水の流れ込む不忍の池の北側を廻って、上野の山をぶらつく。」

 鴎外というと、私は『青年』の中に出てくる次の一節に魅かれ、自著『会計学講義』(第3版まで)の第3章のエピローグに掲載してきた。

 「いったい日本人は生きるということを知っているのだろうか。小学校の門をくぐってからというものは、一しょう懸命にこの学校時代を駆け抜けようとする。その先には生活があると思うのである。学校というものを離れて職業にあり付くと、その職業をなし遂げてしまおうとする。その先には生活があると思うのである。そしてその先に生活はないのである。
 現在は過去と未来との間に画した一線である。この線上に生活がなくては、生活はどこにもないのである。」(岩波文庫、6667ページ)

 経済学部では毎学期末に受講生から授業アンケートを回収する。私の担当科目の受講生のアンケートを読んでいくと、最後の自由記述欄に、上の一節を引いて感慨を書きとめる学生が数人いた。受験時代を駆け抜けた自分と重ね合わせたからだろうか。

40_20090405_2 40_20090405_3

| | コメント (0)

政治的自立、非当事者原則にもとるNHKの主催~天皇・皇后に祝意を表すコンサート再論~

 一つ前の記事で書いた、428日に予定されている天皇・皇后の成婚50周年、即位20周年を祝うコンサートの主催団体にNHKが加わることについて補足をしておきたい。
 今回の企画は、NHKが、産経新聞社という特定の報道機関等と共催で、日本を代表する経済団体(日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会)の後援を受けて、天皇・皇后の成婚、即位の節目を祝う催しを、「報道対象」として扱うのではなく、催しの「主催者=当事者」に加わる点で、先例のない重大な問題をはらんでいる。

 NHKは日時は未定ながら、この記念コンサートの模様をいずれ放送すると語っている。しかし、今日でもなお、天皇制の歴史的役割を十分知らされないまま、学校行事において国歌・国旗への敬意を強制され、それに従わない教員に対する処分が各地で続発している。
 このように天皇制について様々な意見・信条を持つ視聴者が存在する中で、天皇・皇后の成婚・即位の節目を祝うコンサートの開催費用ならびに番組制作費用の一部に受信料が充てられるとなれば、天皇制の存続、歴史的役割にこだわりや批判的な意見を持つ視聴者の憲法第18条で保証された思想・良心の自由が侵されることになる。

 また、後援団体である日本経団連等が番組制作費用に通じるコンサート開催費用の一部を負担するとなれば、事実上、スポンサー付きの番組となり、これはこれで大いに問題のある先例になる。なぜなら、NHKは視聴者が収める受信料を財政基盤とすることによって放送の自主自立を維持することを生命線とする公共放送のはずだからである。

 2001年に起こったETV番組改編問題をめぐってNHKは、天皇が絡む問題(昭和天皇の戦争責任問題)は扱いが難しかったため、自らの編集権に基づき慎重を期したまでで、政治家の圧力に従ったものではないと繰り返してきた。しかし、真相はどうかというと、この番組改編事件は摩擦が予想される天皇制が絡む問題は避けるというNHKの政治に弱い体質を如実に露呈したものだった。また、他のメディアもNHKのこうした摩擦を避ける体質を追究するどころか、自らも天皇が絡む問題をタブー視してきたことは否めない。今回もNHKが天皇・皇后の成婚・即位の節目を記念するコンサートを主催することについてほとんどのマスコミは沈黙を守っている。

 しかし、天皇にまつわる催し、天皇家の冠婚葬祭となると市民はいつも敬意を強制され、物を言いにくい風潮がまかりとおる現実、そしてそうした現実をメディアが素知らぬふりをする状況は、成熟した民主主義、国民主権の対極にあると同時に、ジャーナリズムの「非当事者原則」、政治的独立の原則、権力監視の役割と根本的に相容れない。今からでも、多くの市民がこの問題に関心を向け、議論を興して意見を表明することが重要ではないか?

********************************************************

春の本郷キャンパス

上:桜の木から見上げた安田講堂
下:陽気に誘われて

_20090403



_4020090403

| | コメント (0)

天皇・皇后の成婚・即位の節目を祝うコンサートへの参画取り止めを~NHKに申し入れ~

来る428日にNHKとNHK交響楽団は日本クラシック音楽事業協会、産経新聞社と共催(実行委員会結成)で、日本経団連、日本商工会議所、経済同友会の後援により、天皇・皇后成婚50周年、即位20周年の記念コンサートをNHKホールで開催することにしている。

 この企画の趣旨は、「天皇・皇后両陛下は今年、ご成婚50周年、そしてご即位20周年をお迎えになられます。記念コンサート実行委員会ではこれを記念して、国内外で活躍する音楽家が集まり、クラシック音楽にご造詣の深い両陛下をお祝いするコンサートを開催します」と謳われている。

詳しくは次のサイトを参照いただきたい。

http://pid.nhk.or.jp/event/PPG0020201/index.html

 しかし、戦後の政治、社会、教育等、様々な分野で極めて政治的、思想的意味合いを帯びた役割を果たしてきた天皇制について、NHKが特定のメディアと共催し、わが国を代表する経済団体の後援を受けて、成婚、即位の節目を祝う催しを行うのは公共放送の性格、役割を逸脱する重大な行為と考えられる。そこで、「NHK問題を考える会(兵庫の会)」と「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は、NHK福地会長宛に、NHKがこの催しへの参画を取り止めるよう求める文書をまとめ、本日(43日)、NHK視聴者センター経由で福地会長宛てに提出した。

 また、この文書を今井NHK副会長以下、全理事宛にも提出するとともにNHK経営委員会宛にも提出した。

 以下は、その申し入れ文書の全文である。

***************************************************************
                         200943

  「天皇・皇后成婚50周年・即位20周年記念コンサート」の企画に
     関する質問ならびに参画の取り止めを求める申し入れ

NHK会長
福地茂雄 様

   
           NHK問題を考える会(兵庫)
               代表 貫名初子
             NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
               共同代表 湯山哲守・醍醐聰

 NHKおよびNHK交響楽団は来る428日に日本クラシック音楽事業協会、産経新聞社との共催で、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会の後援を受けて表題のようなコンサートを開催すると発表しています。しかし、私たちは視聴者の受信料で運営される公共放送NHKがこのような催しの主催者に加わるのは重大な問題であると考え、以下のような質問と申し入れを行います。これを真摯に受け止め、慎重に検討の上、413日までに文書で後掲の宛先へご回答くださるよう、お願いいたします。

               質 問 

1
NHKが天皇・皇后の成婚・即位の節目に因んで、それも特定の報道機関との共催で、また日本を代表する経済団体の後援を受けて、祝意を表する催しを開催したことは過去に例がありません。今回、こうした形の催しを企画することになったいきさつをご説明ください。

2
. 今回の企画は放送法第9条以下に列挙されたNHKの業務のどの項のどういう業務に該当するのか、ご説明ください。

3
主催者が発表した<イベント・インフォメーション>によれば入場無料となっていますが、諸々の開催費用はどこから捻出されるのでしょうか? 受信料の一部で賄われるのでしょうか? それとも他の主催者あるいは後援団体が負担するのでしょうか? 

4
このコンサートは後日、NHKのいずれかのチャンネルで放送されるのでしょうか?

                申し入れ

 私たちの会は以下の理由により、NHKがこの催しに参画するのを撤回するよう申し入れます。

1. 
主催者が発表した<イベント・インフォメーション>によれば、この催しは「天皇・皇后両陛下は今年、ご成婚50周年、そしてご即位20周年をお迎えになられます。記念コンサート実行委員会ではこれを記念して、国内外で活躍する音楽家が集まり、クラシック音楽にご造詣の深い両陛下をお祝いするコンサートを開催します」と記されています。
 しかし、天皇制は戦後わが国の政治、社会、教育の中で極めて政治性、思想性を帯びた問題であり続けたことは周知のとおりです。こうした状況の中で、NHKが天皇・皇后の成婚あるいは即位から何周年という節目を客観的事実として報道するのならともかく、天皇・皇后の成婚50周年、即位20周年に祝意を表する催しの主催者に加わることはNHKに求められる政治的公平、不偏不党と相容れません。

2
今回、NHKが天皇・皇后の成婚50周年、即位20周年に祝意を表する催しの主催者に加わるとなれば、今後、NHKが天皇制に関わる番組制作にあたって政治的公平、不偏不党を貫けるのか、視聴者に重大な疑念を抱かせることになります。

3.
 今回のような催しは放送法第9条以下で定められたNHKのいかなる業務にも該当せず、放送法から逸脱した企画であると考えられます。

4
前記1で記したとおり、天皇制はわが国で現在もなお、極めて政治性、思想性を帯びた問題です。そうした中で、天皇・皇后の成婚・即位の節目を祝う催しの主催者にNHKが加わり、開催費用あるいはこの催しの番組制作費用を受信料の一部で賄うとなれば、それは様々な思想・信条を持つ視聴者の思想の自由、内心の自由を侵害することになり、思想および良心の自由を定めた憲法第19条に違反します。

5
かりに今回の催しの開催費用が他の主催者あるいは後援団体の負担で賄われ、後日、この催しがNHKのいずれかのチャンネルで放送されるとなれば、それはNHKの番組制作費用(の一部)を営利企業あるいはその連合団体の資金で賄うことを意味します。これは受信料を支柱とすることで放送の自主独立を貫こうとするNHKの理念と相容れない先例となるものであり、公共放送NHKの視聴者として容認することはできません。

                              以 上

| | コメント (1)

« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »