通勤は自転車に乗って~コペンハーゲンで見た朝の光景~
通勤自転車の長蛇の列
むかし、「お使いは自転車に乗って」という歌があった。
http://www.youtube.com/watch?v=-iuoXW2b2-c
作詞・上山雅輔、作曲・鈴木静一、歌・並木路子で、昭和18年に発売された歌である。しかし、私がコペンハーゲンで朝の散歩の折に見かけたのは「通勤は自転車に乗って」といいたくなるような軽快な自転車通勤の列だった。
8月下旬、1週間ほど夫婦でオスロ、ベルゲン、コペンハーゲンを回ってきた。ベルゲン滞在中は途中、フロム泊でベルゲン・ミュルダール・フロム・グッドヴァゲン・ヴォス・ベルゲンという定番のフィヨルド周遊を楽しんだ。定番とはいえ、ミュルダール・フロム間のフロム鉄道の両側に広がる自然そのままの雄大な光景、フロム・グッドヴァゲン間の2時間余りのフィヨルド巡りの折、両岸に点在した小さな村々、切り立った岸壁から流れ込む滝の光景などはさすがだった。湖畔の宿のようなフロムのホテルとその前に広がる埠頭から見渡すフィヨルドの絶景も忘れられない。しかし、こうした周遊の旅の紀行記は後回しにして、この記事では、旅の最後に束の間の滞在をしたコペンハーゲンで出会った自転車通勤について記録をとどめておきたい。
ホテルをチェックアウトする8月27日の8時半ごろホテルを出て市庁舎前広場からチボリ公園の東側道路を通る頃、向かって道路の右側を様々な模様を凝らした自転車が次々と通り過ぎるのに気がついた。前日、ローゼンボー宮殿を経て国立美術館へ向かう途中でも自転車で行き来する人の姿が多いのに気がついていたが、新カールスベア美術館そばの交差点からランゲ橋あたりを歩く時に見かけた自転車の列には驚いた。
赤信号のたびに交差点には自転車の長い列ができた。一見して通勤者だとわかるが、よく見ると、いろんな型の自転車に各々好みのデザインを施し、サイクリングカー並みのスピードで走りすぎていく。それにはわけがあることがだんだんわかってきた。
1つ目の写真からもわかるように、大通りでは車道と歩道の間に幅3mほどの自転車専用レーンが設けられている。また、一方通行で自転車同士がすれ違うことはない。交差点に近づくと、さっと右手を横に挙げて後続の自転車に右折の合図をする人が多い。私が見た限りでは接触や追突の危険を感じる場面は全くなかった。市民は互いに自転車運転の作法をよく心得ている様子で、カラフルな衣装で颯爽と通りすぎる若者の後ろ姿を見送りながら、自転車通勤が個性をアピールする場面のようにも思えた。また、狭い道路にマイカーがひしめく東京の光景がいびつに思えてきた。
そうかと思うと、下の写真のように前に取り付けたボックスに2人の子供を乗せた自転車も何度か見かけた。ぜひとも写真に収めようと後方を振り返りながらシャッターチャンスを待ち受けたのだった。10時前、コペンハーゲンの一番の繁華街、ストロイエを散歩するころには通勤時間帯は終わり、通りでは時々、さらにユニークさを競うようなデザインの自転車に出合った。
デンマークを自転車王国にした社会事情
帰国して、改めてコペンハーゲンの自転車通勤の由来を調べ、少しずつその社会的背景がわかってきた。デンマークは、世界有数の“自転車国家”である。デンマーク人が自転車で走る距離は、年間20億キロ以上にもなるという。デンマークの地形が平であること、移動距離が短いことなども自転車利用の活性化につながったようだ。職住が地理的に遠隔化し、電車での1~2時間の通勤が当たり前の日本では自転車通勤はままならない。また、デンマークでは自動車保有税が非常に高いため、自動車に代わる移動手段として自転車が利用しやすいインフラ整備(自転車専用レーンや駐輪場の設置など)が進んだといわれている。
ネットで調べたところでは、今日、コペンハーゲンの住民の約36パーセントが自転車を通勤の手段にしている。そのうえにコペンハーゲン市は、この自転車通勤率を、2015年までに50パーセントに上げることを目標にしているのだ。自転車の利用率が50パーセントになると、年間8万トンものCO2排出量が削減できるという。
日本では、高速道路料金を無料化が提唱され、電気自動車の開発・普及でCO2の排出量削減につなげようという動きもある。確かに、今になって、自転車専用道路といっても空想に近い。しかし、自分が車の運転免許を持たない超マイノリティだからかも知れないが、すべての発想が車の個人所有・利用を前提に生まれることに何の抵抗も感じない人が大多数であることに違和感を覚える。コペンハーゲンでは自転車は単なる移動手段であることを超えて、<自転車文化>にまで成熟していると感じさせられた。
京都からコペンハーゲンへ~COP15~
2009年12月にコペンハーゲンで開かれるCOP15に先立ち、駐日デンマーク大使館は環境への関心を高めるためのサイクリングツアーを各地で開催した。これは日本サイクリング協会をはじめ、様々な公的機関や民間企業などが支援する、「カーボン・ニュートラル(包括的に二酸化炭素を排出しない)」なイベントである。これに備えて、デンマーク大使館では、外交官をはじめ自転車好きが集まり、毎週火曜日と木曜日に多摩川沿いを40キロ走行したそうだ。このサイクリングツアーは、2009年5月23日東京からスタートし、安城、郡山、札幌、宮崎、広島、今治、和歌山、京都を巡り、2009年6月5日、コペンハーゲンで終了した。
環境問題というと、「地球にやさしい」の合言葉が愛好される。しかし、地球環境保全・改善は言葉ではなく、自分の身の回りから一歩を踏み出すことだと実感させられた旅だった。
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