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放送行政の独立機関化について提言を提出

 政権交代を機に放送行政を政府から切り離し、独立の第三者委員会(独立放送委員会・仮称)に移す構想が検討され始めた。その根本にあるのは「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消する」という理念である。この理念には国家と放送局のあるべき関係が凝縮されており、私も大いに賛同する。問題はこの理念を各論にどう貫くのかである。
 
これについて私も世話人として参加している「開かれたNHKをめざす全国連絡会」は1023日、代表者が内藤正光総務副大臣と面会し、「『日本版FCC』でない独立放送委員会を」と題する5項目の提言をまとめ内藤総務副大臣に提出した。以下は、そのPDF版のURLと全文である。その後に私のコメントを添えることにする。
~放送行政の独立機関化について提言します~
「日本版FCC」でない独立放送委員会を

http://sdaigo.cocolog-nifty.com/teigen_dokurituhosoiinnkai20091023.pdf

    ~放送行政の独立機関化について提言します~
    「日本版FCC」でない独立放送委員会を


                       20091023
                 開かれたNHKをめざす全国連絡会

 原口一博総務大臣は、記者会見などで「通信・放送委員会」の創設を言明しています。民主党の『INDEX2009』にも「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消する」とあり、放送行政を政府から切り離して放送に対する国家権力の不当な介入を排除しようという姿勢を示したことは、率直に評価したいと思います。
 そのうえで私たちは、新しい委員会の創設にあたって、言論・表現の自由を守る観点から、最低限以下の各点の実現を求め、ここに提言します。今後の議論の参考にしていただくことを強く希望します。

1.新委員会には免許権限を、しかし内容規制はNO
 これまで政府は、放送局に対して放送内容に踏み込んだ行政指導を繰り返してきました。このような措置は憲法・放送法が保障する表現の自由・番組編集の自由から見て疑問の拭えないものでしたが、放送局は免許権限を政府に握られているために、反論もせず委縮してきたと言えます。こうした弊害を払拭するために、放送局への免許権限を政府から切り離して独立機関に委ねることが必要です。現に先進諸外国では、放送行政は政府から独立した機関が担っているところが主流であり、この機会に日本も世界の趨勢に倣うべきです。
 一方、放送局が番組で人権侵害などの問題を起こした場合、日本では放送倫理・番組向上機構(BPO)が迅速に、経済的負担も少ない形で救済する仕組みがすでに機能しています。屋上屋を架すことがないように、この仕組みを生かして、放送内容に関わる問題については、新委員会は一切タッチしないことが肝要です。
 この点で付言しますと、放送局に免許を付与する権限や電波の割当権限を総務省に残し、新委員会がその権限行使をチェックするという制度設計では、国家の介入から放送の自主・自律を守る制度にはなりえないことを申し添えます。

2.多数委員制と選任過程の透明化を
 アメリカのFCC(連邦通信委員会)は、与野党および大統領の推薦による5名の委員で構成されていますが、日本の場合、国民各層のさまざまな意見を放送行政に反映させるためには少なすぎると思われます。中央・地方からの委員選出などのバランスも考慮すれば、最低でも10名前後の委員が必要だと考えます。
 また、委員の選任に当たっては、選考委員会を設けて委員の候補を推薦する方法をはじめ、一般からの公募枠や、日弁連などいくつかの団体からの推薦枠を設けるなど、選任過程を可能な限り公開して、市民の目に見えるような形にすることが求められます。その際、政府・総務省は委員候補の選考過程には一切関与しない仕組みにするよう要望します。

3.議事の公開など組織運営も透明化を
 政府の審議会が曲がりなりにも公開の方向にあるにもかかわらず、総務省の電波監理審議会はその議事を一切公開しないままとなっています。市民各層の意見を反映した放送行政のために、新委員会における会議の公開は重要な検討課題です。少なくとも、発言した委員名を明示した議事録の速やかな公開を義務付けることは必須だと思われます。

4.事務局には役人OBでなく民間登用を
 アメリカのFCCは1800人に及ぶという事務局スタッフを抱えていますが、番組内容の規制を行わない組織なら、これほど巨大な事務局は必要ないと思われます。それでも、事務局スタッフを総務省などからの出向や天下りで占めてしまっては、独立行政委員会方式を採用する意義が大きく減じられることになります。電波行政は高度に専門的な知識や経験が必要でしょうから、官僚経験者をまったく排除することは非現実的かもしれませんが、なるべく民間から事務局スタッフを登用することにして、新委員会の独立性を高めることは重要なポイントであると考えます。

5.NHKと政府の関係も同時に見直しを
 放送行政の分離と合わせて、現在のNHKと政府の関係についても、見直しが必要だと考えます。国会がNHK予算の審議・承認の権限を持っているために、NHKが政治記者まで動員して質問取りなどの国会対策を行うという非常に不健全な慣習が続いています。政治介入を排除し、報道機関としてのNHKの自立・自律を促すためにも、NHK予算の国会承認制度の廃止を求めます(NHKと同様に受信料で成り立っている英国のBBCは、国会に対しては決算の報告のみで予算の承認は受けていません)。

 また、放送行政の新しい委員会について上記のように最高度の透明性を求めるのと同様に、NHK経営委員会のあり方についても改善が必要だと考えます。委員選出過程に公募枠を設け、政府・総務省は委員候補の選考に関与しない仕組みにするなど、市民の立場に立った経営委員会の改革を、この機会に強く求めます。

 日本は、アメリカのように民間放送のネットワークが圧倒的に普及している国や、ヨーロッパ諸国のように政府が関与した公共放送が主体になっている国々とはいずれも異なって、巨大な公共放送と複数の民間放送のネットワークという、非常に充実した放送実態を持っています。ですから、放送行政のあり方についても、日本独自の仕組みが求められるはずです。「日本版FCC」という言い方にとらわれず、諸外国の制度の良いところを参考にしながら、より豊かで自由な放送環境を創出できる放送行政の実現を、切に望みます。

                             以 上

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理念を各論に貫くために

 
提言の冒頭でも引用されているように、放送行政を独立の機関に移管しようとする構想の根底には「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消する」という理念がある。これ自体は、国家と政府のあるべき関係を簡潔に表すものであり、私も大いに賛同している。問題はこの理念を各論にいかに反映させるのかということである。
 この点で気がかりなのは、原口総務大臣が放送に関する行政権限は政府に残し、権力の不当な介入がないかどうかを監視するのが委員会の役割だという趣旨の発言をしている点である。しかし、独立放送委員会が総務大臣なり政府の放送行政権の行使を不当と判断した時、その権限行使を差し止めるほどに強い権限を持たないかぎり、委員会は総務大臣の諮問機関ないしは現在の電波監理審議会と大差ないものとなる。これでは放送局を国家が監督するという矛盾を解消できない。そうならないためには、放送行政権限そのものを独立放送委員会に移管する必要がある。

 もうひとつ気がかりなのは、内藤副大臣が、「緊急の場合に限って」と断りながらも、委員会に番組内容を規制する権限も持たせるべきと発言している点である。しかし、わが国では人権侵害や虚偽の放送がなされた場合は、放送倫理・番組向上機構(BPO)が迅速に審査にあたり、被害者を救済するなどの仕組みが機能している。独立の第3者機関といえでも、行政権限を持つ者が番組内容を規制する権限を併せ持つことは避けるべきである。

 最後に、独立放送委員会への国家権力の干渉・介入を排除する上で重要なことは委員の選任方法である。従来の政府審議会のように政府が自分の意に沿う「有識者」を物色して委員会に送りこみ、これら政府に「優しい」委員を遠隔操作することによって委員会を政府のコントロール下に置くのでは独立機関の名に値しない。そうならないためには、委員を選考するプロセスに政府は一切関与しない仕組み(選考委員会の設置、公募・推薦制の採用など)を工夫する必要がある。

政府・国会とNHKの関係も抜本的に改革すべき
 「開かれたNHKをめざす全国連絡会」がまとめた今回の提言の中でもうひとつ注目したいのは、放送行政の独立機関化と併せ、NHKに対する国家権力、政府の干渉、介入を排除するために不可欠と考えられる制度改革として、NHKの予算・事業計画に関する国会承認制の廃止を打ち出した点である。国民、有権者の代表が国政をめぐって審議をする公開の国会でNHKの事業活動の骨格をなす予算、事業計画を審議し、その承認をまって成立するという仕組みは一見、民主主義の手続きに沿うかにみえる。
 
 しかし、よく考えてみると、NHKの放送事業は「国政」ではない、むしろ、「国政を監視する有権者の知見を涵養する」活動である。国家権力を握る政府・与党がメディアによる監視の第1の対象であるといはいえ、メディアは国政全般を監視する使命を負っており、国家の三権――司法、行政、立法の各機関――から独立性を保つことが求められる。とりわけ、議員内閣制の下で多数党が立法府のみならず、行政府をも組織し、行政権の行使に強い影響力を及ぼす制度の下では、国会からの独立性を確保する必要がある。

 予算、事業計画の国会承認制があるがために、従来、与党議員は予算審議に名を借りて、NHKの個別の番組や人事にまで干渉し、番組制作に対する威嚇、牽制を繰り返してきた。また、予算、事業計画の国会承認制があるがために、予算案等の国会提出に先立ち、NHK役職員が総出で国会議員を回り、会長以下幹部は与党の非公式の部会等に呼ばれて、様々な注文をつけられてきた。さらにいえば、予算、事業計画の国会承認制があるがために、総務大臣はNHKから提出された予算案、事業計画に「意見を付けて」国会に提出する手続きが法制化されている。そして、その一環として、総務大臣が重要と認めた課題について特に留意して放送をするようNHKに「要請する」(従来は「命令する」)制度も法制化されている。しかし、数あるテーマの中で「何が重要か」を選別するのは編集の自由の根幹をなすものである。これについて所管大臣が判断を差し挟むことを可とする仕組みは放送の自由と本質的に相いれない。

 政権交代を機に、こうした行政府によるNHKへの不当不合理な干渉・介入を可能にした法制度を廃止することは放送行政の独立機関化を実効あるものとするためにも不可欠の課題であることを強調しておきたい。

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