視聴者コミュニティ、放送の自主自律と逆行する改定条項の削除を申し入れ
<続報>:放送法改定法案、25日の衆議院総務委員会で、野党各党の質疑継続要求を振り切って、採決・可決される。(5月25日、22時50分、追記)
今日(5月25日)、開催された衆議院総務委員会で放送法改定法案の質疑が行われ、野党各党が質疑の継続を強く主張する中、それを振り切って採決が行われ、法案が可決された。
しかし、今日の総務委員会は昨日来、委員会理事会で行われてきた法案の修正協議を委員長が一方的に打ち切り、当会も申し入れた電波監理審議会の権限強化条項を削除しただけで、それ以外は無修正のまま、委員長職権で開催されたものである。また、前日の16時までに質問通告をした上で質疑を行うという慣例も無視され、当日提出された修正法案について即日質疑を求めるという異例の運営となった。
こうした異例の委員会運営は実際は委員長の発意ではなく、民主党の小沢幹事長が郵政「改革」法案を今国会で成立させるよう、それに先行した法案審議の早期終結を指示したことによるものといわれている。
しかし、自らが野党の時代は与党自民党の数を頼みにした一方的な審議打ち切り・強行採決に物理的抵抗さえ辞さず反対した(住専への公的資金投入法案に対し、国会内で座り込みをして法案の成立を阻止しようとした例など)にもかかわらず、与党になり、委員会運営の職権を手中にするや、60年ぶりの放送法改定を、しかも課題が山積する(NHK会長を経営委員会のメンバーとする条項、ハード・ソフトの分離等を介して総務大臣の権限を拡大強化する条項、マスメディア集中排除原則を緩和する条項など)法案の質疑を延べ20時間で打ち切り、採決に持ち込むのでは民主党のいう衆参両院での過半数確保は、好きなように国会を動かす権限を掌握するためだったのかということになる。
しかもそうした強引な国会運営が党の特定の個人の指示に忠実に従う形で行われるのでは、民主党は民主主義を標榜しうる政党といえるのか、党所属の各議員は自立した大人としての見識を持ちあわせているのか、疑われてもやむを得ない。
今日の衆議院総務委員会での質疑の模様は衆議院のHPに収録されている次のビデオライブラリで視聴できる。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php
①画面の左サイドにあるビデオライブラリをクリック
②カレンダーの5月25日をクリック
③総務委員会をクリックすると発言者順に議員名が現れる。
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今、国会では多くの国民・視聴者が知らないうちに放送法改定法案の審議が大詰めを迎えている。その中には放送の自主自律を脅かす怖れがある重大な条項が含まれている。そこで、NHKを監視・激励する視聴者コミュニティはこの点について運営委員間で協議をし、本日、以下のような申し入れを原口総務大臣と衆参総務委員会委員宛にFAXで送信した。
(原口総務大臣宛は以下の衆参総務委員宛と多少表現が異なる箇所があるが大意は同じ)。
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2010年5月24日
衆議院総務委員 各位
放送の自主自律と逆行する放送法改定条項の削除を求める申し入れ
NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/
目下、国会で審議されている放送法改定法案は放送法制定以来の大改正といえる内容であるにもかかわらず、国会での審議は尽くされておらず、広く視聴者・国民に向けた趣旨説明と意見の聴取もないまま、成立に向けた拙速な手順だけが進行しています。しかも、法案には表現の自由、放送の自主自律を脅かす怖れがある重大な条項が含まれています。これらについて当会は以下のとおり、緊急の申し入れを行います。総務委員各位におかれましてはこの申し入れを真摯に受け止め、法案の拙速な審議の仕切り直しに尽力下さるよう要望します。
1.私たちが重視するのは、第一に、法案の第180条に追加された項目において、電波監理審議会に新たに放送番組の編集にまで踏み込んだ事項を審議し、審議会が必要と判断した事項を総務大臣に建議する権限を与えている点です。
もともと、電波監理審議会は総務大臣からの諮問を受けて省令の制定および改廃,無線局の免許および取り消しなど,電波および放送の規律に関する事項について答申をする組織です。ところが今回の改定法案では審議会は、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保することに関する重要事項や、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすることに関する重要事項について、自らの判断で調査審議し、必要と認められる事項を総務大臣に建議することができると定めています。
しかし、電波監理審議会の委員は総務大臣が選んだ候補者が国会の同意を経て選任される仕組みになっており、委員の構成からして政府から独立した第三者機関といえるものではありません。2006年に時の菅総務大臣から諮問を受けたNHKに対する命令放送(北朝鮮による拉致問題を指定した国際放送を行うようNHKに命じる案件)について電波監理審議会が非公開の短時間の会合で即日答申をしてしまった例は、当審議会が政府・所管大臣の意に沿う結論を出す機関であることを物語っています。この時(2006年11月8日付け)、民主党は鳩山幹事長名で発表した談話の中で、本件は「放送法第3条の放送番組編集の自由を侵害する恐れがある」「にもかかわらず、・・・・・議論は公開されず、即日答申が出されたことは、独立性が担保された審議会として、その権限と責任を十分果たしたとはおよそ言いがたい。所管大臣の意向に従わざるを得ない現状を変えるためには、かねてより民主党が主張してきたように国家行政組織法3条機関に相当する『通信・放送委員会』をつくり、本件のような事案を含めた通信・放送の問題を政治の介入を排して判断できる仕組みに改めるべきである」と指摘しています。
現政府の与党が野党の時代にこれほど独立性に疑義を呈した審議会に放送の自主自律の根幹に関わる事項に介入する権限を与えるのは自己矛盾です。そもそも、民主主義の血脈ともいえる言論の自由は与党か野党かを問わず、これを遵守するよう努力いただくのが国権の最高機関である国会の良識です。この意味から、当会は新たに追加された改定法案の第180条を削除するよう要望します。
2.第二に、当会が強く指摘したいのは法案の第30条第1項で、新たにNHK会長を経営委員会の構成メンバーに加えることにしている点です。現放送法はNHKにおける業務の企画立案・執行の権限と重要事項の議決・監督の権限を分化することによって、番組編集の内部的自由を確保しながら経営面でのガバナンスを有効に機能させる仕組みを採用しています。このような仕組みは今後とも維持・徹底されるべきものです。にもかかわらず、NHKにおける業務の企画・執行の最高責任者である会長を業務の監督機関である経営委員会の正式メンバーに加えることは権限と責任の分化をあいまいにし、NHKにおける経営面でのガバナンスを混乱させる怖れがあります。加えて、NHK会長だけを経営委員会のメンバーに加えるとなれば、NHKの理事会の権限を一層会長に集中させ、民主的な運営を阻害する怖れもあります。こうした理由から、当会は第30条第1項も削除するよう要望します。
当会も現行の放送法には大胆な見直しが必要な事項が少なくないと考えています。しかし、その事項というのは今回の法案とは違って、NHKの自主自律を強化する方向への改正です。NHKの毎年度の収支予算、事業・資金計画を総務大臣の意見を添えて国会へ提出し、承認を受けることを義務付けている第37条各項や、経営委員会委員の選任を国会の同意人事に委ねている第16条第1項などはその代表例です。また、NHKか民放かを問わず、放送の自主自律を制度面で担保するための独立放送委員会構想が今回の法案に全く反映されていないのも不可解です。当会はこれらの事項こそ、時間をかけ、国民的議論を経て見直す必要があると考えていることを申し添えます。
以上
当会は視聴者主権の公共放送をめざし、NHKの番組に対して是々非々の立場で激励あるいは批判を続けている市民団体です。
連絡先:<削除>
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