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ツバメの渡りと政治家の渡り

 この数年、わが家の玄関の軒先にツバメがやっては来るが、巣作りを途中で止めて(あきらめて?)離れていくことが続いた。それが今年は7月上旬、親鳥が軒先に別の巣を作り、やがて雛の鳴き声が聞こえるようになった。その声は次第に大きくなり、餌をくわえて戻ってきた親ツバメをいっせいに口を大きく広げ、けたたましい鳴き声で迎えるようになった。そして、6日前、5羽のうち3羽がまず巣立ちをし、続いて残りの2羽が飛び立った。巣立ちの前、まだ羽毛も生えない雛が玄関に落下しているのを見つけた。狭い巣からはみ出てしまったのか、それとも巣の中で場所取りの生存競争でふり落とされたのか(親鳥が運んでくる餌を争うでもなく、待ち続けるひな鳥同士でそんな残酷なことが起こるとは思えないが)? そこで、巣の真下に掛け布団を折りたたんでクッション代わりに置いたりした。
 巣立った後、今年はいつもより長く、昨夜もまだ巣に戻り、新旧2つの巣に分かれて一夜を明かしていた。巣立ちの前は無事、飛び立てるのか案じるが、いったん巣立った後もこうして雛がそろって巣に戻っているのを見たときは、ツバメの習性か何かの訳ありでそうしているだけなのに、まるで家人への挨拶のつもりで戻って来てくれたかのように思いたがるのは人間の欲目というものだろう。

 そんなツバメの姿に魅かれて、千勝三喜男編『現代短歌分類集成――20世紀“うた”の万華鏡』2006年、おうふう、で<燕>、<つばくらめ>の歌を調べた。

 帰り来しつばくら二つ去年の巣を少しつくろひ住みつかむとす(自流泉 土 屋文明)

 門ぐちを出入るつばめの忙(せは)しみか口にふくみし泥おとしたり(しが らみ 中村憲吉)

 営巣の泥の得がたく春燕東京の空をかなしみて去る(老槻の下 窪田空穂)

 つばくらめ並びて母を待ちてをり身のおほよそは口のごとしも(紅梅坂 稲 葉京子)

 けさ見れば空になりたる玄鳥(つばくろ)の巣のすたれしに藁しべが垂る (すもも咲く 片山貞美)

20100715

  2010_0725


 ところで、ツバメは秋風が立つ頃、東南アジアへ渡っていくという。このように自然界を生き抜く動物の強靭な生命力に畏敬の念さえ覚えるが、政治家や上層公務員に向かって使われる「渡り鳥」は、これとはまるで違ってあさましさが付きまとう。
 この両日の各紙は、社民党からの離党を表明した辻元清美議員の記者会見の模様を紙面を割いて報じた。ご本人がいう離党の理由とは、「少数の野党にいても政策の実現は難しい」、「このまま社民党にとどまったのでは次の選挙で当選できる目途が立たない」、「しかし、自分はどうしても議席を守りたい」ということらしい。そこから、いずれ民主党入りではという観測がもっぱらである。しかし、私は辻元氏の離党の理由を全く理解できない。

 「少数の野党にいても政策の実現は難しい」という主張を突き詰めたら、野党はいらないということになる。しかし、オール与党になって議会政治は成り立つのか? それなら、落選の時期も含め、なぜいままで辻元氏は超少数政党の社民党にとどまっていたのか? そして「総理、総理」と政府・与党を追及したあの国会質問は何だったのか? それとも、「野党の存在まで否定するわけではない。しかし、自分はとなると与党に身を置いて政策実現にかかわりたい」ということなのか? そうだとしたら、前回の衆議院選挙で、当選しても少数野党議員になることがわかっていながら、なぜ社民党公認で立候補したのか? 選挙区の有権者を愚弄したことにならないか?

 それ以前に、辻元氏は今の政権与党に身を置くとなれば、その党が掲げる主要な政策――消費税増税を軸にした税・財政改革、沖縄の米軍基地の処理を含む日本の外交政策、貧困格差・高齢化が進む中での国の社会保障政策等――に対する態度を表明するのが先決のところ、そうした政見を何も語っていない。聞こえてくるのはひたすら与党に身を置きたいという、自己愛過多で、多数党へすりよる言葉ばかりである。同議員のこうした本性は社民党が政権から離脱するのに伴って、国土交通副大臣を辞任する時に、未練がましく大泣きしたあの子供じみた姿に既に現れていたのだが。「市民派」出身ともてはやされた議員が、「政治屋」顔負けで日の当たる政党へと渡りをする人間に行きついたのかと思うとあまりに情けない。

 飴玉を取り上げられた子の家出 (広島市 山道乙丙)
                   朝日川柳 2010729日 より

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消費税の増税は雇用の増加・景気の回復につながるのか? ~小野善康氏の見解への批判と対案~

増税と経済成長の両立を説く小野善康氏の見解
 716日の『朝日新聞』に「増税の知恵袋、首相に苦言」と題して次のような記事が掲載された。

 「菅直人首相の「知恵袋」とされる小野善康大阪大教授は15日、日本記者クラブで講演し、参院選での首相の消費増税をめぐる発言について、「粗っぽかったと思う。増税して、(低所得者対策で)お金をぱっと渡すのは、(経済成長に)一番いけないと説明したのに」と苦言を呈した。
 小野氏は、首相が唱える「増税しても経済成長できる」という成長理論の生みの親。小野氏は講演で、「首相には、増税よりも、雇用を生み出すことが最も重要と何度も申し上げた」と説明。首相が応援演説で語ったような使った消費税分を還付するなどの低所得者対策は、雇用を生み出さず、経済成長につながらないと主張した。
 さらに、消費税率を2%引き上げて約5兆円の財源を確保すれば、「単純計算で160万人を雇うことができる。完全失業率は2.8%に下がり、国民の不安感はかなり解消する」との持論を展開した。」

 実は私は『DIAMOND ハーバード・ビズネス・レビュー』20059月30日号の書評欄で小野義康氏の著書『誤解だらけの構造改革』を取り上げ、需要重視、雇用重視の立場を鮮明にして構造改革派の主張を徹底的に批判した点に賛意を表した。
 http://www.dhbr.net/booksinreview/bir200509.html

 つまり、構造改革派が依拠する新古典派の経済学は完全雇用を自明の前提とした好況期に通用する経済学であって、余剰労働資源を吸収する成長部門が見当たらない不況期に、供給サイドの効率性をいくら追求しても、雇用不安がもたらす需要の収縮によって、「物をつくっても売れない」結果、効率性が収益性につながらない「合成の誤謬」にはまってしまうからである、という見解に私は賛同したのである。
 では、肝心の雇用をどのように増やすのか、雇用の増加がどのように需要の増加に結び付くのか、将来の雇用(の不安の解消)は無条件に現在の消費の増加をもたらすのか、雇用の増加の財源を増税に求めることと雇用ならびに需要の持続は矛盾なく結び付くのかーーーこうした実践的な政策課題になると小野氏の議論は余りにも粗雑で、小野氏が菅氏にむかって呈した「粗っぽい」という苦言がそっくり小野氏に跳ね返ると感じた。以下、小野氏の議論に関する私の感想を列挙しておく。

5
兆円の消費税増収がそっくり雇用の増加につながるという空論
 まず、「消費税率を2%引き上げて約5兆円の財源を確保すれば、単純計算で160万人を雇うことができる。完全失業率は2.8%に下がり、国民の不安感はかなり解消する」というが、5兆円の財政支出が160万人の新規雇用にどう結び付くのか、「単純計算で」という身勝手な割り切りで、その過程の論証がまったくない。そもそも、公共部門に限定するならともかく、増税で確保された税収をどのような投資に充てれば民間部門の雇用の増加につながるのか、民間向けに投資したとしてもそれが正規雇用の増加につながるのか、景気変動の調節弁とするための非正規の雇用の増加にとどまるのかは企業の意思であり、そこまで政府が民間部門に実効性のあるコントロールを及ぼすのは不可能である。
 
 さらに、現在の国と地方の予算編成の制度面からして、消費税の増税分をそっくり雇用の増加に充てるという想定には現実性が乏しい。まず、国の歳入となる消費税(現行4%相当)は予算総則上、基礎年金、老人医療、介護に充てるものとされている。2010年度予算でいうと、国分の約9.6兆円のうち、地方交付税として地方に配分された残余の6.8兆円は消費税収を充てるとされている上記の福祉関係経費に充てることになっている。もちろん、お金に色はついていないし、消費税の5%への増税と法人税率の引き下げが同時に実施された経緯からいえば、消費税の増収分の相当部分が法人税の減税の穴埋めに充てられたという見方が成り立つ。それはともかくとしても、かりに、消費税の増収分をそっくり、雇用関係の経費に回すというなら、増加が見込まれる福祉関係経費の財源を何に求めるのか、小野氏はさらなる財源論を提示する必要に迫られる。
 
 次に、地方分1%の使途であるが、地方消費税は周知のとおり、1989(平成元)年に消費税が導入された際に整理された地方間接税に代わるものとして創設された消費譲与税が1994(平成6)年の税制改正において、地方分権、地域福祉の充実等のために都道府県税としての地方消費税に衣替えしたものである。そして、都道府県税ではあるがその2分の1は交付金として市町村に交付されている。こうした創設の経緯から、地方消費税は地方公共団体の一般財源として、とりわけ福祉・医療・教育など幅広く住民の生活に密着した各種の施策を行う財源として活用されている。したがって、ここでも、今後も医療や介護など地方福祉の経費の増加が見込まれるなか、消費税の増収分すべてを雇用の増加に充てるという小野氏の想定は現実離れした机上の空論といわざるを得ない。
 
増税と雇用・消費の増加が両立するという根拠抜きの楽観論
 小野氏は増税しても雇用が増えれば消費が増えて経済は成長するという。はたして、単純にそんなことがいえるのか? 税制、とりわけ増税は国民の支持、そのための合理的な説得なしには実現のめどが立たないことは今回の参議院選挙でも立証された。もともと消費税に逆進性が強いことには異論がない。消費税の導入や税率引き上げの際に、非課税品目の創設・拡大とか、複数税率の採用などが議論されるのはそのためである。また、消費税増税には国民の抵抗感が強いというにとどまらず、消費を抑制させ、景気にマイナスの作用をもたらす公算が高いことも確かである。
 
 しかるに、小野氏が言うように消費税の増収分をそっくり雇用の確保に充てるとなれば、退職済みの高齢者世代は増税の恩恵に与るところがない。ところが、世帯主の年齢階級別1世帯当たりの家計資産額(2人以上の全世帯)を見ると、消費に充当可能な金融資産の保有額は、30歳台未満ではマイナス8万円、30歳台はマイナス212万円であるのに対し、60歳台では1,884万円、70歳台以上では2,026万円となっている(『平成16年全国消費実態調査』より)。このことは、わが国において消費を増加させる余力(可処分資産)を持つ世帯が高齢世代に傾斜していることを意味している。となると、小野氏のいうように消費税を増税する一方、その税収分を福祉にではなく雇用の増加に充てるとしたら、消費の増加の担い手となるべき高齢世代の先行きの老後の収支への不安―――増加する自己負担を賄うための可処分資産の取り崩し(目減り)―――を高め、消費の抑制を促す公算が大きくなる。このことは、消費税の増税(手段)で雇用を増加させ、消費の拡大、経済の成長(目的)を図るという小野氏の主張が、目的と手段の自己撞着を孕んでいることを意味している。
 (ただし、現役世代の雇用の拡大、将来の家計収支への不安の減少は、子供世代の先行きの経済的自立力の不足を生存中の経済的支援や遺産相続で補おうとする高齢(親)世代の資産保全意識を緩和させ、高齢世代の余剰資産の取り崩し=現在の消費の増加を誘導するという側面はあると考えられる。)

目的と撞着しない手段(財源確保策)の吟味が喫緊の課題
 私は、日本経済の再生のために雇用の拡大が大きな位置を占めるという認識では小野氏の主張に同意するが、その手段(財源の確保)を消費税の増税に求めることには同意しない。私も現行の税制には改革すべき点があると考えるが、それは消費税ではなく、近年、格差社会が指摘されるのと裏腹になされてきた所得税の累進性の緩和を見直すこと、近年、大幅に引き下げられてきた法人税率を当面、引き下げ前の水準に戻すことである。ただし、こうした税制改正には少なからぬ年月を要する。とすれば、現行の税制を前提にしたうえで、あらたな財源を確保する方策―――増税なき増収財源の確保―――を超党派で早急に検討する必要があると考えている。
 
 そのために私が唱えているのが特別会計に抱えこまれてきた不要不急の余剰金の活用である。詳しくは、既発表の論文や参議院財政金融委員会における参考人意見として述べてきた。また、このブログでも何篇か記事を掲載してきた。それらとの重複を避けて要点だけをいうと、私が最優先の財源候補と考えているのは、近年、非保険系の特別会計合計で6~7兆円に達している不用額(に見合う歳計剰余金)である。ここで、保険系をひとまず除くのは、保険系の特別会計の場合、偶発債務に備える関係から毎年度多額の不用額が発生するのを「無駄」と決めつけるわけにはいかないこと(ただし、現在のように国が地震等の個別のリスクに備えて再保険というセーフティネットを設ける必要があるのかどうかは疑問視している。国が再保険特別会計の積立金をすべて取り崩して民間の保険を補てんしなければならないような大災害が発生した場合、国は地震保険に加入していた国民を救済して済む状況ではなく、大規模な補正予算を組んで災害復旧等に当たらなければならないはずである。このように考えると、たとえば100年に一度起こるかどうかの大地震の偶発リスクに備えて地震再保険特別会計が1兆円を超える資金・積立金を保有していることが合理的なのかどうか、根本から再検討する必要があるだろう)、不用額が連年発生するのであれば、それを一般財源に回すのではなく、保険料の引き下げに充てるべきと考えられること、からである。

 そこで、特別会計ごと、予算科目ごとに不用額発生の実態を精査し(国債の累増への危機が叫ばれる一方で、国債整理基金特別会計に連年2.53兆円規模の不用額が発生していることはあまり知られていない)、連年、同規模の不用額が発生している歳出項目については、それを歳計剰余金に計上したうえで、見合いの歳出を特定しない(できない)まま翌年度の歳入に繰り入れている現状を改め、一般会計なり国債整理基金特別会計に繰り入れて、種々の一般歳出の財源として活用するなり、国債の(繰上)償還に充てることを提言したい。国債の繰上償還に充てるとしたら、それは余剰資産を一度に使いはたしてしまうわけではなく、さもなければ残余の償還期間中に生じる国債償還費を帳消しにして、その分だけ、当該期間中、他の歳出に回すことができる一般財源を増やすという効果が生じるのである。
 
 もちろん、現在の特別会計の中には不用額以外に、翌年度に繰り越される歳出の見合い財源として必要な財源枠をはるかに超える歳計余剰金が翌年度の歳入に繰入れられ、特別会計内に抱え込まれている実態にメスを入れたりすることなど、ほかにも喫緊の課題がある。また、各特別会計にぶら下がっているおびただしい独立行政法人や公益法人に滞留している可能性がある余剰資産を洗い出す作業にも本腰を入れる必要がある。

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視聴者の声がNHKを動かした画期的決定~大相撲の中継中止の判断に思うこと~

視聴者の声を拠り所にしたNHKの良識に適った判断
 NHKの福地茂雄会長ほか役員は今日の午後開いた記者会見で大相撲名古屋場所の中継を行わないことにしたと発表した。その理由として福地会長は、①多くの視聴者から意見が寄せられたが、その6割以上が中継に反対だったこと、②相撲協会が決めた野球賭博関係者への処分は重いものがあるが、今後、反社会的勢力(暴力団)とのつながりをどのように立ち切っていくのか、そのために新たに設置される外部委員会の方向性、メンバー構成がまだ見えてこない、という2点を挙げた。また、NHKは大相撲を楽しみにしているというフアンもいることから、毎日の大相撲が終わった後の午後6時台にその日のダイジェスト版を放送することも併せて発表した。

 (1)私はこうしたNHKの決定は視聴者の意思を拠り所にした、まっとうな判断だと受け止めている。今回、発覚した大相撲の親方、力士らの野球賭博について日本相撲協会は2人の個人に対して相撲界初めての解雇処分としたが、協会の最高責任者である理事長は自身の部屋から野球賭博に手を染めた力士が出た責任をとって3週間の謹慎処分を受けただけというのはどうしたことか? そもそも賭博を自主申告した力士は戒告で済ませる、その際の申告は100万円を超える賭けの場合に限るという内輪の基準を決めたのは理事長自身だった。しかも、理事長は記者会見の場で前列に並ぶカメラマンに向かって暴言を吐いている。昨夜(75)のNHKスペシャルに出演した理事長は「これからは若手の親方、力士に対する教育を徹底していく」と語っていたが、(再)教育が必要なのはまずもって理事長自身ではないか? 問題の原因を他人事のようにいう理事長のもとで改革が進むのか、NHKが慎重な判断をしたのは当然である。

 (2)文科省やマスコミなど多くの関係者は今回、史上初めて外部の人間が理事長代行に就任したことを相撲界改革に向けた重要な出来事かのように語っている。しかし、その理事長は文字通り代行であり、期間も名古屋場所が終わるまでのわずか3週間である。これで何を期待できるというのだろうか? 

 (3)その理事長代行も、文科省にお伺いを立て、そのお墨付きでどうにか代行に決まった。大の大人が理事長代行すら自分たちの手で決められないお粗末な統治能力のもとで、この先、自己改革をやり遂げられるのか、心もとない限りである。強いて、内部からの再生の一歩といえるのは、74日に開かれた親方衆による年寄総会で名古屋場所の中継を辞退してはどうか、あるいは中継するにしてもNHKに対して放映権料を返上してはどうかという意見が出たと伝えられている動きである。親方衆はこうした意見を理事長代行らに伝えたというが、結局は受け入れられなかったようである。大手マスコミはこうした動きを伝えていないが、内部からの改革というなら、相撲界を現場で支えるこうした親方の動きを注視する方がまともである。

放送権料はどうなるのか?~中継中止で浮かび上がる重要な問題~
 しかし、中継中止で一件落着かというとそうではない。5年契約で決められているという本場所中継の放送権料(巷間、一場所4億円とも5億円とも言われているがNHKも相撲協会も公表していない)はどうなるのかという問題が、これを機に鮮明に浮上してくる。
 これについては、私も共同代表の1人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は73日付でNHKの監査委員に対し、厳正な調査を求める要望書を提出した。
 「大相撲の放送権料についての監査要望ならびに質問書」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sumo_hosoken_kansayobo_20100703.pdf

 今日の記者会見で福地会長は、この件については今後、相撲協会と協議すると発言している。5年契約となれば、1年ごとに支払いをどうするという問題ではないとも取れる。しかし、今回のように、契約の相手当事者(日本相撲協会)の責に帰すべき理由で中継を中止した場合でも受信料を原資として放送権料がそっくり支払われるとなれば、「視聴者目線で中継を中止した」というNHKの見解は完全にと言わないまでも色あせてしまい、視聴者の納得を得るのは至難であろう。むしろ、ここは、一般に契約の末尾で謳われるセイビング・クローズ(契約締結の際に想定できなかった事態が起こった場合は双方誠実に協議の上、解決を図るという条項)に沿って、NHKはダイジェスト放送に相当する対価に放送権料を減額するよう厳正な態度で協議を求めるのが筋である。この点、今後のNHKと相撲協会の協議の成り行きを監視していく必要がある。
 しかし、そもそも論としては、中継をするにせよ、中止するにせよ、日本相撲協会との今度の交渉に支障が出るという不透明な慣れ合いの理由で放送権料の内容の公開を拒んできたNHKの姿勢を質し、放送権料の金額、その算定根拠を公開するよう求めることが極めて重要である。この点で、視聴者コミュニティが提出した上記の監査要望書にNHKの監査委員からどのような回答が届くのか(回答期限7月28日)、注視したい。

受信料の使い道に関心を持つことを通じて
 重要な国政選挙を控えたこの時期に、マスコミが相撲界の野球賭博を大きく報道していてよいのかと思わないではない。しかし、いろいろなサイトやブログ記事を閲覧してみて、公共の電波を使うNHKの社会的使命をまじめに考えている人が多いことがわかった。今回、NHKが反社会的勢力との関係を引きずる日本相撲協会が主催する大相撲名古屋場所の中継を中止すると決定したことは、こうした視聴者の監視の目がNHKを動かしたという意味で、貴重な経験になったと思う。
 今後、NHKが中継を再開するにしても、納税者が税金の使い道に関心を向けることを通じて主権者意識を高めるのと同じように、多くの視聴者が受信料を財源にしてNHKが支払う大相撲の放送権料に関心を向けることを通じて、「NHKの主権者は視聴者」という自覚を確かなものにしていけば、それは大変意義深いことと思う。

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大相撲の放送権料について監査要望を提出~視聴者コミュニティ、NHK監査委員に宛てて

 大相撲の親方・力士の野球賭博問題が発覚し、この11日から始まる名古屋場所の中継を中止するよう求める視聴者の声が多数、NHKに寄せられているという。
 この問題で、NHKを監視・激励する視聴者コミュニティは628日付でNHK福地会長と小丸経営委員長宛に名古屋場所の中継を見合わせるよう求める申し入れを送付した。
 さらに、視聴者コミュニティは運営委員の協議を経て、今日(73日)、NHK監査委員宛てに、「大相撲放送権料に関する監査要望・質問書」を発送した。福地会長以下NHK全役員、小丸経営委員長宛にもこのような監査要望・質問書を送付したことを通知することにし、当該文書を同報した。送付した文書のURLは次のとおり。
「大相撲放送権料についての監査要望と質問書」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sumo_hosoken_kansayobo_20100703.pdf

また、全文は後掲のとおり。なお、監査委員には728日までに回答をもらうよう要請している。

今回の監査要望の要点は次のとおりである。
 1.巷間、放送権料は1場所5億円、年間30億円と言われているが実際はいくらなのか、 また、その金額はどのような根拠で算定されたものなのか、放送法第23条の5の第1項で定められた監査委員の権限にもとづいて厳正に監査し、その結果を回答してもらいたい。
 2.1972年当時、放送権料は年間1億円(昭和47328日開催の参議院総務委員会での坂本朝一理事〔当時〕の答弁)と言われていたが、かりに現在、年間30億円とすると、この間に30倍に高騰したことになる。これは合理的理由にもとづくのかどうか、厳正に監査のうえ、その結果を報告してもらいたい。
 3.日本相撲協会が公表している本場所事業収支によると、平成20年度、21年度の事業収支倍率(本場所事業収入はどれだけ本場所事業支出を上回っているか)は約1.4倍強となっており、両年度とも約27億円の余剰金が発生している。このことは、本場所事業収入の約35%を占める放送権料が見合いの事業支出よりも相当高い水準に設定されていることを窺わせるのではないか? そうだとすると、NHKは視聴者から負託された受信料を適正、効率的に使用するという職務に反する契約を日本相撲協会と交わしていることにならないか? この点を厳正に監査のうえ、その結果を報告してもらいたい。

今回の質問事項の要点は次のとおりである。
 2008331日に開かれた参議院総務委員会で当時の理事(現専務理事)・日向英実氏は、スポーツの放送権料の契約の内容にかかわることについては守秘義務が掛かっており、その金額を明らかにすると今後の放送権の交渉に支障がでるとして、公表を拒んでいる。監査委員はこうしたNHK理事の答弁を是とするのかどうか、見解を示してほしい。
 なお、この点については、質問の後に【付記】として視聴者コミュニティの見解を示している。

   ********************************

                           201073

NHK
監査委員会 御中
NHK
監査委員
 井原理代殿
 石島辰太郎殿
 浜田健一郎殿

       大相撲放送権料についての監査要望ならびに質問書

               NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                    共同代表 湯山哲守・醍醐 聰

 貴委員会ならびに委員各位におかれましては、日頃より重要な職務にご尽力いただき、厚く感謝を申し上げます。
 皆様もご承知のとおり、NHKが一場所5億円とも言われている放送権料を支払っている日本相撲協会において、近年、親方による若手力士への暴行事件や相撲協会員が「維持員」席を暴力団関係者に横流ししていた事実が明るみに出ました。そして最近は多くの力士のみならず、力士を指導する立場にある親方まで野球賭博を行っていた実態が発覚し、多数の視聴者からNHKに対し、大相撲名古屋場所の中継を中止するよう求める意見が寄せられています。
 当会も去る628日付で福地茂雄NHK会長と小丸成洋NHK経営委員長宛に「賭博にまみれる日本相撲協会の名古屋場所中継の中止を求めます」と題した要望書を提出しました。
 私たちはこの機会に貴委員会ならびに監査委員各位に対し、これまで不透明なままにされてきた大相撲放送権料の算定根拠について、以下のとおり厳正な監査を実施していただき、その結果を728日までに後掲宛へ回答くださるよう申し入れます。
 また、これと関連して、放送権料についてNHKが日本相撲協会と交わしている契約内容の公開の可否について貴委員会ならびに監査委員各位の見解をお伺いすることにしました。この質問事項についても前記の要望事項と併せ、ご回答くださるようお願いいたします。

            監査要望事項

 1. NHKは一場所あたりどれだけの大相撲放送権料を日本相撲協会に支払っているのか? 場所によって異なる場合は、場所ごとの金額を調査の上、ご回答下さい。
 2. 上記1の放送権料はどのような算定根拠に基づいて決められたのか、算定要素の内訳を添えて具体的に調査の上、ご回答下さい。
 3. 1972年当時、NHKが日本相撲協会に支払っていた放送権料はおおよそ年間1億円強といわれていました(昭和47328日に開かれた参議院逓信委員会におけるNHK理事・坂本朝一氏〔当時〕の答弁)。現在、NHKが日本相撲協会に支払っている放送権料は20084月に締結された5年契約に基づくものと言われていますが、伝えられているように年間約30億円だとすれば、1972年当時と比べ約30倍に高騰していることになります。それは合理的な根拠に基づくものか、調査の上、ご回答下さい。
 4. 日本相撲協会の平成20年度、21年度の収支計算書(決算)によれば、放送権料が該当すると考えられる本場所事業収支は次のとおりです。

                      
日本相撲協会の本場所事業収支         単位:円

平成20年度

平成21年度

本場所事業収入

A

8,734,511,974

8,607,244,821

 本場所事業費支出

   (B

6,021,036,726

5,856,378,733

  事業収支差額

 (A)-(B

2,713,475,248

2,750,866,088

  事業収支倍率

  (A)/(B

1.45   

  1.47

 
 つまり、過去2年度の本場所事業収支決算によれば、収支差額(余剰)が各年度あたり約27億円生じており、本場所の事業遂行に要した支出の1.4倍強の事業収入を得ていることになります。このような事実は、NHKが支払う本場所中継の放送権料(一場所5億円、年間30億円と仮定すれば、本場所事業収入(8687億円)の約35%に相当)は日本相撲協会に本場所興行を通じて多額の余剰金を得させる水準に設定されている蓋然性が高いことを意味します。
 簡略ではありますが、このような日本相撲協会の決算資料の検討から当会は、NHKが営利企業ではない日本相撲協会に本場所興行の経費に基づく対価を大幅に超える放送権料を支払っているのではないかという疑念を持っています。もし、これが事実とすれば、NHK理事会は視聴者から負託された受信料を適正かつ効率的に使用するという職務上の責任に背反する放送権契約を締結していることになります。
 そこで当会は、監査委員各位が放送法第23条の5の第1項で定められた監査委員の権限(いつでも、役員及び職員に対し、その職務の執行に関する事項の報告を求め、又は協会の業務及び財産の状況の調査をする権限)を行使して、当会が指摘した上記のような疑念を解明され、その結果を経営委員会に報告の上、放送法第14条の第1項イの(4)に定めた議決を諮っていただくよう要望いたします。そして、以上の調査と検討の結果を当会あるいはあまねく視聴者向けに報告していただくよう要望いたします。

                                      
質問事項

 2008331日に開かれた参議院総務委員会で当時の理事(現専務理事)・日向英実氏はスポーツの放送権料の公表につき、下記のような答弁をしています。貴委員会あるいは監査委員各位はこの理事の説明を是とされるのでしょうか? 放送法第23条の4で定められた監査委員会の権限、ならびに同法23条の5の第1項に定められた監査委員の権限に照らして見解を示していただくよう要望し、質問いたします。

 「参考人(日向英実君) お答えします。
  スポーツ番組については、御指摘のように個別の番組についてはまだ公表しておりません。制作費の総額は決算の段階で公表しておりますけれども、御承知のようにスポーツの放送権料という問題がございまして、契約の内容にかかわることについては守秘義務が掛かっております。それから、金額を明らかにすることによって今後の放送権の交渉、それからほかのスポーツ団体との関係その他のことも考慮しなきゃいけないということがございまして、今のところ明らかにしていないということでございます。御理解いただければと思いますが。
 ただ、NHKとしては、国民があまねく視聴できるということで、スポーツについては適正な放送権料ということで各団体ともその旨を説明しながら適正な価格で取得したいというふうに考えております。」

 【付記】
 
当会は上記のような「守秘義務」を楯に放送権料の明細と算定根拠の公開を拒むのは失当と考えています。なぜなら、まず、NHKの側から言えば、多数の視聴者が収めた受信料を原資にして年間、数十億円に上る放送権料を支払う以上、放送権料がどのような根拠に基づいて算定されたものかを視聴者に公開し、忠実かつ効率的に職務を遂行したことを説明する責任を負っています。また、そのような情報が公開されなければ、視聴者は NHKが放送権料を適正な価格で取得しているのかどうかを判断する術がありません。
 次に、日本相撲協会の側から言えば、同協会は大相撲本場所を興行し、その放送権を独占的に販売する収益事業を兼業する公益法人です。したがって、放送権料の明細と算定根拠を公開したからといって、本場所ならびに協会の事業遂行にいかなる競争上の不利益が生じるわけでもありません。
 つまり、NHKの側にも、日本相撲協会の側にも放送権料の明細と算定根拠を非公開とする正当な理由はありません。放送権料の金額を明らかにすることによって今後の放送権の交渉に支障が出るかのようなNHK理事の発言は、NHKと日本相撲協会の不透明な関係をかえって推測させるだけであり、視聴者を納得させる理由にはなっていません。むしろ、NHKと日本相撲協会が進んで放送権料の内容を公開することによって、他のスポーツにおける放送権料の透明性を高めるのに好ましい影響を及ぼすことを期待できると考えられます。
                                 以上

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