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問題の核心に迫らなかったNHK監査委員会の調査~会長選考の調査報告書を読んで~

〔キーワード〕
  調査の後遺症 自己規制 小丸氏の逃げ得 財界人脈 類は友を呼ぶ

調査はどのように行なわれたか
 
昨日(225日)、NHK監査委員会は「新会長任命に至るまでの過程についての調査報告書」を公表した。その全文は次のとおり。
 http://www.nhk.or.jp/kansa-iinkai/condition/pdf/report_110225.pdf 

 この調査の目的は、NHK会長の選考の過程で各経営委員ならびに経営委員会事務局職員が「経営委員の服務に関する準則」(情報の管理、委員会での合意に基づく行動)を遵守したかどうかを検証することにあるとされている。
 この目的に沿って、監査委員会は各経営委員から準則を遵守して行動したかどうかの確認書の提出を求めた。これには経営委員も辞任した小丸前経営委員長を含む当時の経営委員12名全員から提出があったという。その際、監査委員会は小丸氏から、「1219日の候補者〔安西氏のこと〕との接触は、就任の要請でない旨の回答を得た」という。
 次いで、監査委員会は経営委員に質問書を送って回答を求めたうえで、一人一人の委員から聞き取り調査をしたという。なお、小丸氏はすでに経営委員を辞任し、一市民となったので、と述べてこの聞き取り調査に応じなかったという。

 ところで監査委員会は、これら書面ならびに面接を通じて、経営委員会における会長選考の節目ごとに、その段階では正式発表に至っていなかった審議内容(報道事象)をA~Fに区分し、それぞれの審議内容の発生日と、当該審議内容が各種報道機関(週刊誌等も含む)で報道された月日を比較対照した表を示し、各経営委員ならびに経営委員会事務局職員が報道の取材源に関与したかどうか、その他経営委員会の内部資料とされたものをブログやメール等で外部へ流出させた事実がなかったかどうかについて調査したという。

調査で明らかにされたこと
 
監査委員会は上記のA~Fの事象ごとに下線部分について調査した結果を記載している。それらを要約すると、経営委員あるいは経営委員会事務局職員が委員会として公表を控えていた情報を外部に漏洩した事実ないしはそうした事実を窺わせる可能性は確認できなかったと結論づけている。

 その上で、監査委員会は調査を通じて判明した問題点として情報共有の不備、欠陥を次のように列記している。
 ①20101221日に指名委員会が候補者の実名と打診の優先順位を協議した内容は経営委員のみが知る事象であるにもかかわらず、それが1223日以降、各種報道で詳細に伝えられたことは問題であった。その原因としては委員会終了後に多くの経営委員が取材を受けた際に「いわゆる当て取材」が行なわれ、個別に取得した断片的な感触をつなぎ合わせて事象全体の認識が形成され、報道に至った可能性は否定できない。

 ②打診を受けた安西氏が受諾したという事象は同氏と接触した小丸氏から各委員に電話で伝えられたが、これについて伝え聞いた経営委員から情報が漏洩した事実は確認できなかった。また、小丸氏から連絡を受けた委員の受け止め方は一様ではなく、経営委員間で正確な情報交換のルートが存在することが望ましかった。

 ③安西氏がNHK会長職の執務環境(交際費、住居などを指すと見られる)に関して質問した事項は、質問を受けた小丸氏からこの件について照会を受けた協会職員がいたことが確認されたが、当該職員が情報の外部流出に関与したとは認められなかった。しかし、安西氏がどのような執務環境について質問したのかについて承知していた経営委員はいなかった。こうした情報は全経営委員に共有されるのが望ましかった。<以下、省略>

調査が迫らなかった問題の核心
 今回の調査報告を読んだ私の主な感想を記しておきたい。

 ①各委員に調査の後遺症、自己規制を生まないように
 監査委員会が報告書の冒頭で、「本調査対象事象は、NHKが最も尊重すべき報道の自由の根幹である取材源の秘匿に関する調査であること、経営委員会は公開と透明性を旨として運営されるべきことには十分な尊重と配慮を払いつつ本調査を実施した」(2ページ)と記しているのは率直に評価できる。
 特に、今回の調査が情報漏洩の有無を調べる「犯人捜し」に矮小化されず、視聴者の知る権利、それに応えるがために付与されている取材の自由を侵害しないよう求めていた私にとっては、こうした調査の基本姿勢は重要であったと思う。ただし、今回のように個々の委員を呼び出して情報管理のあり方を聞き取り調査したという事実そのものが、一人一人の委員の今後の言動を委縮させる「後遺症」や発言の「自己規制」を生まないか、注意深い監視が求められる。

 ②問題発生の中枢にいた小丸氏の「逃げ得」で終わってはならない
 調査報告書を読み終えて痛感するのは、今回の会長選考の中心人物であり、候補者との接触という点でも最も多くの重要な情報を保有した小丸氏が聞き取り調査に応じなかったことが、情報管理に限っても、会長選考が迷走した真相を解明し責任の所在を明らかにすると言う点でも、今回の調査が中途半端なものに終わった最大の原因といえる。
 とりわけ、注目すべきなのは、「要請」だったのか、「打診」だったのかはさておくとしても、経営委員会・指名委員会が候補者の実名、打診の優先順位を決めた1221日の2日前の1219日に、小丸氏が安西氏と接触し、同氏を会長候補と見立てた対話をしたことを監査委員会が正式に認定した点である。このことは小丸氏が、NHK会長の選考という経営委員会の職務の中でも最重要事項の一つといえる職務にあたって、委員会でまだ合議がされていない候補者に独断で接触したことを意味するから、同氏の服務規律違反は明白である。

 小丸氏が監査委員会の聞き取り調査に応じなかったのは、こうした委員会の合議無視の独断専行を調査されるのを忌避するためと受け取られてもしかたがない。また、同氏が経営委員長を辞任するだけでなく、会長選考の迷走の事後検証を待たず、経営委員の辞任も申し出、「一市民となったので」という口吻で聞き取り調査に応じなかったことは独断専行の調査から免れる「逃げ得」願望の卑怯な態度と言わなければならない。

 ③財界人脈主導の選考を意味した水面下の選考ルートの解明を
 これと関連して、見過ごせないのは、松本正之氏を会長に選ぶ段階でも、経営委員会の合議を脇に置いて、財界の人脈で会長候補の模索・打診が水面下で進行した形跡があるという点である。これについて、私はこのブログに掲載した120日付の記事「類は友を呼ぶの悪習を断ち切るべき~NHK会長選考を振り返って~」の中で次のように記した(下線は引用にあたって追加)。
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/nhk-53dc.html 

 さらに今回のNHK会長の選考過程で露見したのは、民間経営者の資質とNHK会長に求められる資質の混同にとどまらず、上の『東京新聞』社説や数紙の記事にも記されたように、具体的な人選まで経済界の人脈を頼って進められたと伝えられている点である。とりわけ、見過ごせないのは、松本正之氏の名前が経営委員会で出たのは115日が初めてと言われているにもかかわらず、松本氏はその2日前の113日に、JR東海の葛西敬之会長を通じて間接的に会長就任を打診されていたと明かしている点である(『毎日新聞』2011116日)。これが事実とすれば、大多数の経営委員が与り知らないところで、経済界の人脈を通じて松本氏への打診が進行していたことになる。これでは、あからさまな財界主導の会長選びであり、名実ともに「類は友を呼ぶ」である。

 下線部分が事実とすれば、安西氏に対する打診の過程にとどまらず、NHK会長に松本氏を最終決定する過程でも、ほとんどの経営委員が与り知らないところで、経営委員でもない同じ業界の財界人が仲介に入って、松本氏への打診が進められたことになる。この点が事実かどうかを調査するところまで進まないと会長選考が残した問題点を掘り下げて解明したことにならない。こうした財界人の関与の有無は、会長選考の手続き論や情報漏洩の有無の検証にとどまらず、選考方法、選考基準にも関わるだけにうやむやにできない問題である。そのためには、経済人としての小丸氏や松本氏と同じ業界に属する経営委員に対する厳正な調査と狭い人脈や知己に依存した選考方法の限界・弊害を経営委員会全体で抜本的に見直す努力が不可欠である。

 報道によれば、経営委員会は今後も、次回のNHK会長選考に向けて、選考のあり方を検討するという。その推移を注視するととともに、222日に「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティが経営委員会・監査委員会、安田経営委員長代行、井原監査委員に提出した3通の質問書に対して、どのような回答をするのか注目したい。

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