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メディアの今とこれから(4)~NHK問題大阪連絡会のインタビューに応えて~

NHK問題大阪連絡会「サテライトNo.4 別冊         201141発行)

醍醐 聡氏 インタビュー   

メディアの今とこれからを熱く発信!!(Part.4


メディアは争点提示型の報道をせよ

河野
 会長選と経営委員長の辞任問題、非常に内容的にはマスメディアが注目している問題と、先生が中心になっておっしゃっておられます「コミュニティ」の質問状等と、この問題はさらに今後発展性がございますので、また次の機会にお伺いするとしまして、次のテーマです。

NHKを中心としたメディアが当面する消費税増税、TPPやJALの整理解雇問題など国民各層に重要な問題の報道が大変「おかしな」スタンスで伝えられている点についてご指摘いただきたいと思います。

醍醐 消費税とかTPPについてですが、私たちは市民の間では、消費税に的をしぼった財源対策とか、増税がいいのか悪いのか、TPPはどうなんだということを、それ自体の賛否をめぐっても議論を交わす必要があると思っています。いまこの問題で私が非常に疑問に思っているのが、政治あるいは経済問題であっても、意見が分かれている問題についてメディアはどう扱うかという根本の問題です。そのときに、意見が分かれている問題についてはただ多様な意見を反映させるということはもちろんですが、それをもう少し厳密に、争点はどこにあるのか、争点提示型の報道をするというのが本来のメディアの役目だと思います。それによって視聴者の賢明な、理性的な判断の一助にするというのが、とくに報道分野のメディアの役割だと思います。
ところがいまの消費税、TPPの報道を見ると、争点提示型ではなくて、結論誘導型、つまり世論を束ねようというやり方です。こういう国の根幹にかかわる問題については与野党の差はないとか、与野党でいつまでもゴタゴタしているんじゃなくて、知恵を出し合えと。つまり国論を束ねる役回りをしようという、そういう形になっている。一種の大政翼賛です。

戦争の時だけではなくて、平時の政治、経済問題についても大政翼賛ということはあるわけで、いま、まさにそういう格好になっているのじゃないかと。
そうすると、よく街頭でインタビューをして賛成意見、反対意見をマイクで拾いますね。そのときにTPP賛成という人の理由を聞きますと、日本だけが閉じていると世界から取り残されるという、そういう発想が目立ちます。消費税だって、このままいけば日本は世界一の借金で破綻してしまう、社会保障のために使うのだったら消費税増税もやむを得ないという、言うなれば自分の頭から出てきた理由じゃなくて、おしきせられたステレオタイプの理由です。強迫観念ですね。取り残されるというけども、日本だけが取り残されるのか、日本はそれほど閉じているのか、では世界はどうなんだろう、という話、こうした争点が全く示されていません。

●メディアの本来の役割を果たせていない

醍醐
 もう少し言えば、そう思っている人がいるとしても、そうは思わない人だっているのに、逆の意見、違った意見が伝えられていません。だから議論の軸が示されていない。これではジャーナリズムではないと思うのです。要するに賛成するにせよ、反対するにせよ、自分の頭で咀嚼して、意見を形づくれるような市民をつくるというメディアの一番の役目をまったく果たせてない。どうこう考えないうちに世論を束ねてある方向に誘導しようとしている。それは非常に怖ろしいことです。今はそういう状況ではないかと思います。

消費税の中身はどうだとなりますと、メディアの問題から離れますから、この場ではお話をしません。結局、メディア自身が政府発表を流すだけではなくて、あるいは「有識者」とかいう怪しげな、私が一番嫌いな名称の常連たちの引用を使って、それで国民を説き伏せる。そうじゃなくて、メディアの基本は取材報道だと言いますね。ところが、実態はどうかといいますと、最近会った大手マスコミの記者たちがいうには、毎日、記事をデスクにあげるのに追われていて調べている時間なんてとてもない。結局、忙しいときに記者クラブ官僚から渡されるお役所資料をもとに少しそれに手を入れて手際よく記事を書くということになるわけです。記者自身が自分で考え、自分で調査し、取材して記事を書くという、基本をおろそかにして記者クラブ発の報道ができあがる、知れば知るほど恐ろしいことです。

●本当のところ“記者クラブは諸悪の根源”

河野
 どうしても政府サイドに、官僚サイドになった記事になっているのですね。

醍醐 ですから新聞にしても、記事はこうつくられるとか、そういう本を書いてみたらいいんじゃないか。取材源、発生源は、どういうところか、どこまでが現場で、どこからが官庁出なのか、それが分かると、出来上がったニュースをどう受けとるべきかという心得ができるように思うのです。記者クラブは諸悪の根源と言いますけれど、クラブに所属する記者たちと話をしていてそれは決してオーバーではなくて、確かにその通りだと実感しました。
今、私が読んでいる本で『政治報道とシニシズム』(J・N・カペラ、K・H・ジョンソン。ミネルヴァ書房)という、アメリカの人が書いた本があります。シニシズムというのは「冷笑主義」と訳されます。真面目なことを言う人を斜めに構えて嘲笑するという意味です。例えば、いま民主党政権や自民党政権に失望した人がどこへ行くのかと言ったらほとんど無党派に行きますよね。一部、「減税日本」「みんなの党」とかに流れている部分がありますが、大部分は無党派に行くでしょう。最近、いろんな選挙で一見盛り上がっている。しかし、選挙前は投票に必ず行くという人が90%ぐらいあってもふたを開けると投票率は50%越えるか越えないか。これは有権者のなかにあきらめを通り越した、何かもうシニシズムというものが浸透していっているような気がします。

●失望感を助長する政局報道が「シニシズム(冷笑主義)」を生む

河野
 俗に言う閉塞感ということですか。

醍醐 それは政治のていたらくに対する閉塞感が土台なんですけど、『政治報道とシニシズム』の著者たちは、政治報道の在り方がそういう失望感をシニシズムへとさらに退化させているとみなすのです。どういう政治報道がシニシズムを蔓延させるのか。著者たちは政治報道の仕方を2つのタイプに分けて議論をしています。1つは戦略型報道、もう1つはそれと対照的な争点提示型報道です。戦略型報道は、政治報道ではなくて、政界報道と言うか、要するに「政治家なんて所詮は自分の利害でうごめいているんだ」という、そういうシニカルなモノの見方です。政治家は、自分の次の選挙を考えて利己的な行動ばかりやっているという舞台裏を暴く政局報道をやりますね。著者たちはそれを「戦略型報道」と言う。あきらめから冷笑主義を生むのはこの戦略型報道だというのです。要するに政治家、政党は所詮、利己的にしか動いていない。そのことを執拗に報道されると有権者は政治家の誰に望みを託しても結局、裏切られるだけだという思いをよけいに募らせる。著者たちは、こういう悪循環を断ち切るためには政治報道は争点提示型の報道でなければいけないと言っています。私はこの本を興味深く読んで、最近出会ったマスコミの人にぜひ読んでみてと言ったばかりです。

よく政局報道と言いますが、いかにも何か自分はリアルな現実を伝えているかのように思いこんでいるようだけれども、有権者にあきらめを諭すのも同然だと言う気がします。
消費税報道にしても、結局は、それは争点提示ではなくて、政局報道です。そのため、政治報道が消費税について政治家に向かって言っている注文は、本気度を問うとか、決断を問うとか、そういう精神論的なことばかりです。一種の煽り、けしかけですね。

河野 昨年1024日、神戸で、安保50年日米政府の密約について映画と合わせた集会で、元月刊誌の編集長も参加されて、ジャーナリストのあり方について、先ほど醍醐先生がおっしゃったような記事を書く記者の有り様を問うておられ、現状報告をされておりました。先ほど、おっしゃっていましたが、こういうことに対して改めてどのようにお考えでしょう。

醍醐 日本のメディアというのはTPPにしても国の財政危機にしても、1つの経済的な意味での国難ととらえる意識がすごい強いと思うのです。こんな時に政党間の争いごとをやっている場合じゃないという構図が、いまの大手全国紙に染みついている。国益とか、国難とか、国威発揚とか、そういう問題に直面したときにメディアの真価が試される気がします。
戦時かどうかは別にして国が大きな困難に直面したときに、メディアはどうそれに向き合うのか。各メディアの上層部、経営陣、論説陣の間で、その点のきちんとした見識、トレーニングがない。何かこういうときにはすぐに世論、国民を束ねるために一致して事にあたるのが国益なんだという罠で自分をしばっているように思えます。

●メディアに中身を調べよとボールを投げることが大切

醍醐
 ただそれだけ言っていてもしかたがない。じゃ、どうしたらいいのかと言えば、私は政治そのもの、経済の実態そのものをもっと調べてそれらを批判的に国民に伝えるようメディアを促し監視する、そういういう運動が必要ではないかと感じています。ただちょっと難しいのは、そうなってくると現実の伝え方、メディア論だけの話ではすまなくて、現実そのものについて私たちが知見、意見を持つことが必要になってくるという点です。例えば、消費税を批判するのはいいですが、消費税の増税しかないと思いこんでいる人、財源なんてあるのかといぶかっている人にどう向き合うのかを考えることが必要です。その役割を担うのがメディアの調査報道であり、争点提示型報道ですね。私たちもメディアに「この点についてもっと突っ込んで取材して報道してほしい」というボールを投げることぐらいの勉強をしないといけないと思います。

その点で、私が注目したいのはいま、NHKの解説委員が一同に集まって討論をする番組があります。ご覧になりましたか? 私が見た前回は、TPPを取り上げていました。その番組には経済担当、労働担当、外交担当など、様々な分野を担当する解説委員がいろんな角度からTPPをめぐる問題を取り上げて議論をしていました。あれはなかなかおもしろかった。もちろん、政府が言っていることに近いようなことを言う人もいましたが、互いに矛盾点を指摘する解説委員もいる。この番組でおもしろかったのは、討論をはじめる前、途中、大体終わったところというふうに視聴者の意見調査をやるのです。聞いている人の賛否がどう変わっていったかという、そういうデータをその場で伝えたのも興味深い企画でした。

河野 その番組は単発ですね。定期ではやっていない?

醍醐 テーマはいろいろ変えて定期にやっています。そうすると、最初と比べて、慎重論、反対論が半数を越えました。私はあれこそ争点提示型報道で、それを判断材料にして世論がどう変わっていくかを追跡するという企画は有意義だなと感じました。私もブログで書きましたが、韓国併合100年を記念して日韓の若者の討論番組をやったじゃないですか。あれなんかは、私は進行のさせ方について思うことがありましたが、結構、ぶっつけ本番で論争もやっていました。ゲスト同士が論争しあっていましたしね。韓国の若者が、日本の若者は何も知らない、「エエッ、そんなことあったの?」と言われると頭にくると言っていました。消費税にしてももっとああいう討論型番組が必要です。

河野 結局、中身を伝えない。こうなる、ああなる、こういう実体だということを。とくにTPPの問題などはそうだと思う。自給率が絶対に下がるし、農水省が数字を出しているのに、それを伝えないで「明治維新以来の開国…」なんてことを言うから先ほど先生がご指摘になった街のインタビューだけでも日本だけが閉じこもって、だから賛成しなさいという。束ねられた報道に操られて発言するという人が圧倒的に多い。いま先生がおっしゃった解説員の在り方、日韓併合の問題も含めて、そういう点ではメディアの果たす役割というのは対案的なことも勉強しながら、学習しながら、問題提起をメディアにもっとあびせかけないといけないということをご指摘いただいたと思います。
次は、地デジ問題をはじめとしたメディアの在り方に対してご意見を述べていただけませんか。

醍醐 地デジ問題も全国連絡会がいま取り組まないといけないテーマです。すでに岩崎貞明さん、坂本衛さんらメディア関係の4人の方を中心に終了プロジェクトというのをやっておられますし、関西の市民団体が、大阪の会もいつも早い時期から取り上げてこられた大きなテーマですね。あと5か月を切ったいまの時期に何が必要かということを考えないといけないですね。具体的には、総務省への働きかけが重要になっていると思っています。全国連絡会は近く総務省、NHK、民放連にアナログ停波の延期を申し入れることになっています。

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