メディアの今とこれから(1)~NHK問題大阪連絡会のインタビューに応えて~
以下は、NHK問題大阪連絡会の会報「サテライト」No.4(2011年4月1日発行)の別冊として刊行された私のインタビュー記事である。インタビューは今年の2月28日、NHK問題大阪連絡会の世話人代表の河野安士さんと佐々木有馬さんがわざわざ上京され、都内で約1時間半、お二人と懇談したものである。なお、このインタビューの概略は「サテライト」No.4の第1面に掲載されているが、河野安士さんの了解を得て、同号の全文を転載させていただく。
NHK問題大阪連絡会 会報「サテライト」第4号
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/satelliteNo.4.pdf
遠路、わざわざ上京していただき、拙い私のメディア論、NHK論の全文を会報の別冊として発行していただいた河野安士氏さんと佐々木有馬さんに厚くお礼を申し上げる。また、「サテライト」の編集を担当されている㈱かんきょうムーブの國本園子さんには、この別冊の編集・校正にあたって大変、お世話になった。この場を借りて厚くお礼を申し上げる。
以下、河野安士さんの了解を得たので、別冊インタビュー全文を5回に分けて、このブログに転載することにした。転載にあたってはブログの書式に合うよう、原文の書式を変更した。
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NHK問題大阪連絡会「サテライト」No.4 別冊
(2011・4・1発行)
醍醐 聡氏 インタビュー
メディアの今とこれからを熱く発信!!(Part.1)
河野 今日は、お忙しいところありがとうございます。私たちNHK問題大阪連絡会は、3年前からニュース「サテライト」を発行しております。去年は残念ながら1号しか発行できなかったのですが、「サテライト4号」のメイン記事として先生のインタビューを掲載させていただきます。現在のメディアはいろんな問題をかかえていると思います。醍醐先生も幅広い角度で、実際に湯山先生と共同で、「視聴者コミュニティ」を立ち上げておられますし、そういう活動を通じて感じておられる、いまのメディアの有り様をざっくばらんに述べていただけますか。
醍醐 今日はこういう機会をいただきましてありがとうございます。「サテライト」を送っていただいて拝見しているのですが、少人数でよく頑張っておられると、いつも感銘しています。今日はあまり堅苦しい話ではなく、「私個人としてはこんなことを考えています」というようなざっくばらんなお話をさせてもらいたいと思っています。
●NHKはなぜ「接触者率」にこだわるのか疑問
河野 まず、NHKを中心とした日本のメディア全般の現在と将来に対してどのようなお考えをお持ちでしょうか。
醍醐 私がNHK問題の中で非常に危惧しているのは、NHK5か年計画の中で『視聴者接触率』というものを「何年までに何%」という数字の目標を掲げて、それを達成しようとしている点です。NHKを監督する経営委員会も、その尻を叩くようにやっている。私は『視聴者接触率』というものをNHKが掲げて数字を追いかけようとしていることが長い目で見て、NHKの公共性を非常にむしばむものではないか、それを脅かすものではないかという心配を2年ほど前からしているのです。接触者率(1週間にNHKのテレビ、インターネット、携帯端末、DVDなどで5分以上NHKの番組を見たり聞いたりした人の割合)というのは、番組を見ただけではなくて、ホームページなどのあらゆるNHKのネットワークにアクセスした人と時間をカウントしている。それとオンデマンドの利用までも含めている。
そのことがどういうふうに公共性を脅かすかと言えば、例えば「番組宣伝」が非常に多すぎるのではないか、それと、いろんな番組で、これまでは局のアナウンサーとか、番組担当のキャスターが進行させていたものを、最近、若いタレントをゲストとして招き、ときどきその人に質問を振ったりして番組を進行させる。具体例で言うと土曜日の夜、NHK海外ネットワークが挙げられます。この番組は、これまではスタジオのキャスターと海外の現地のスタッフがやりとりをする。もちろん、その日のテーマにかかわっている現地の人々が登場します。ところがこの半年ぐらい前から、スタジオに、いろんなタレントをゲストとして迎え、番組の途中でやりとりを挟んでいます。
●番組の質を落とす安易なタレント起用
醍醐 ところがそのゲストとのやりとりはというと、あまりに稚拙でたわいのないものです。結局、視聴者の目を引きつける、そういうことのためとしか思えないようなゲスト起用です。民放でよく売れているタレントを、見境なく起用する。途中でコマーシャルが入らなかったら、民放なのかNHKなのか、分からないという番組が少なくありません。なぜNHKがそこまでやるのか。受信料で成り立っているわけですから、そんなに視聴率を気にしなくてもやっていけるはずです。かつ視聴率を気にせずにいい番組をつくれるというNHKの強みはどこへいったのでしょうか? 「視聴者接触率」という数値目標を掲げたことがNHKの番組の質をむしばむ脅威となっているのではないかと私が危惧するゆえんです。
●テレビ離れの若者に何を発信するかが基本
醍醐 最近の若者のテレビ離れが非常にすすんでいて、なんとか若者をNHKに引き寄せたいという思いがあるのではないかということは感じます。しかし、番組の中身を問わずに、1週間にNHKの番組やサイトに何分接触したかを気にかけるのではNHKは自分の持ち味を自分で殺してしまうことになってしまうのではないでしょうか。若者のテレビ離れをいかに食い止めるかということは真剣に考えないといけないのですが、NHKへの接触を通して若者に何を訴えたいのかということを抜きに、ただ数字だけを追いかけるというのでは、公共放送とは言えないのではないでしょうか。
●NHKが民放化するのではないかと危惧する
醍醐 この傾向がこれからどんどんすすみますと、番組づくりという面から見て、NHKの民放化というのでしょうか、質の劣化というのか、それがどんどんとすすんでいくのではないかと非常に気になります。
私たちも含め、多くの視聴者はNHKはいいドキュメンタリーを放送しているとよく言われます。私もその点は大いに評価しなくてはいけないと思っているのですが、ただ全体の番組表のなかの時間数からいけば、それはごく一部なんですよ。一部でもいい番組にはみなさんの目がとまりますけど、その横の週とか、前後の番組とかタテヨコを見ると、民放と区別がつかないような質の悪いバラエティ番組がずいぶん多いのです。これではいいドキュメンタリー番組を作っていると評価するだけではすまないのじゃないかと思います。
河野 民放に関してはどうですか。
醍醐 NHKと民放の二元体制という前にですが、公共放送がNHKひとつであることが自明なのかどうなのかを考えてみる必要があると思っています。多元化複数のテレビ局があり、いい意味でお互い切磋琢磨する、悪貨が良貨を駆逐するでは困りますが。私は当然二元体制として民放は民放としてあっていいと思うのです。しかし、いまの民放の姿がどうなのかと言われるとやはり問題を感じるのです。それはよくいわれる低俗番組が多いといったことだけでなく、視聴者との関係が希薄だということです。NHKは、視聴者と契約を交わさないといけないわけですが、現状では払った受信料は全部NHKに入る。逆に民放は見たいけどNHKは見たくないというテレビはないわけです。考えてみれば、民放の番組の実態がどうであれ、視聴者には番組を選ぶ権利があるはずです。その点から見て、いまの仕組みには問題があると思っているのです。だから民放だけ見てNHKを見なくてもいいとか、スクランブルをかけたらいいとか、従量制の料金にしたらいいというようなことを私は言うつもりはありません。しかし、とくにいまの若い人は、今言いましたような意識がなかなかぬぐえない。受信料と言ったら見た分だけ払うという対価主義が、いまの若者の感覚にはすごく合うわけです。それでNHKなんか見たくないのに、NHKに受信料を払わなかったら民放も見られないのはおかしいじゃないかという感覚はあながち否定できないのではないかと思います。
●民放に受信料の一部をまわして良質な番組を
醍醐 私が個人的に考えているのは、受信料の一部を民放にまわしていいんじゃないかということです。民放の報道番組、あるいは娯楽番組でもいいんですけど、「これはスポンサーを付けない。コマーシャル料をもらわない番組にします」ということを民放から自己申告してもらい、それを条件として、そうした番組の制作に受信料の一部をまわすという構想です。そこで例えば、報道番組などで、NHKの報道の仕方と、受信料で制作された民放の報道番組が放送されることにするわけです。報道番組は多様な意見を反映するべきといいます。民放がスポンサー企業の顔色を気にせず、NHKの伝え方とまた違った焦点のあて方で報道するのか。私たちも新聞を見比べるのと似たような感覚で、テレビメディアの報道を比較・評価する――そういう仕組みが望ましいのではないでしょうか。このような仕組みを通じて民放の報道番組や娯楽番組がどこまで変わるのか試みる価値は十分あると思っています。そしてなによりもこのような受信料の一部を民放へ配分するという仕組みを通じてして、民放と視聴者の間に双務的な関係を作り、視聴者からの監視・激励のパイプを太くすることを期待したいのです。もちろん、NHKは「いまでさえ足りない受信料をどうしてくれるんだ」と言うかもしれませんが。
●視聴者をテレビ漬けにさせない
醍醐 以下は5年ほど前のシンポジウムで発言したことです。NHKも朝から深夜まで放送をやっていますが、例えば、週のうちまずは試行的に何曜日でもいいと思うのですが、「この時間帯はお休み」という、そういう時間帯を設定してみたらどうかと思うのです。その間、「みなさんテレビ漬けにならないで家庭でいろんな団らんを過ごす時間にしてください」とか、「もっといろんなところに出かけてください」「ご近所の方とお茶の時間を」というふうに、テレビから解放された時間を作ってみてはどうでしょうか?それによってとかく人間関係が希薄になりがちな「巣篭もり」人間を改造する一助になるのではと思うのです。そしてNHKにしても、受信料がこれだけあるからどう使おうかという発想から、少し減った受信料でいかに中身の濃い番組を作るのかという発想に変わっていく契機にならないかと思うのですが、どうでしょうか?そういう広い意味での受信料制度、受信料が高い、安いだけではなくて、受信料の使途・配分まで含めて徹底討論をする場が必要だと痛感しています。NHK・OBの津田道夫さんなどは、早くから民放ではなくて市民メディアに受信料の一部を配分するよう訴えておられます。私は市民メディアももちろんいいのですが、NHKに全部まわしてしまう必然性はないという考えはある程度共通したところです。
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