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「一枚のハガキ」~菅沼正子さんの映画招待席より~

多くの人に読んでほしくて
 連れ合いがご近所の友人と発行しているミニコミ誌「すてきなあなたへ」にほぼ毎回、菅沼正子さんの映画招待席が掲載されている。いつも他のスタッフに先んじて原稿が届くと、印刷前に読ませてもらっている。以前、NHKラジオの深夜便の映画コーナーを担当されただけあって、読者を引き込む筆力には感心させられる。「戦場のピアニスト」を観たのも菅沼さんの紹介文を読んだのがきっかけだった。
 せっかくの映画評をぜひ多くの方に読んでほしいと思い、このブログに転載できないか打診したら、すぐに快諾していただいた。

「映画人生最後の作品」と新藤監督が公言するだけあって
 今回、菅沼さんが取り上げたのは813日から全国ロードショーが始まる「一枚のハガキ」である(「すてきなあなたへ」63号に掲載)。以下はその全文である。

一枚のハガキ~絶対、戦争をしてはいけない~
~菅沼正子の映画招待席35
 日本人だけではなく、世界中の人々に見てほしい。戦争の恐ろしさは、戦場だけではない、銃後の人々の人生をも狂わせてしまうのだ。反戦を生涯のテーマとしてきた99歳の現役監督・新藤兼人が「映画人生最後の作品」と公言して98歳でメガホンをとった、驚くほどにパワフルな映画。
 開巻そうそうからドッとばかりに涙があふれ。太平洋戦争末期の日本はもう負け戦で、戦場に送られる兵士は死ににいくようなもの。明日からそれぞれの戦地に赴く100人の兵士。その壮行会を盛り上げるために、上官の命令で<君恋し>を歌う森川定造(六平直政)の純粋な顔。死を覚悟した人間は、こんなにも純粋になれるものなのか。その純粋さが涙を誘うのだ。
 案の定、定造はあっけなく戦死、妻の友子(大竹しのぶ)は定造の弟と結婚させられるが、その弟も白木の箱で帰ってくる。息子2人に戦死された義父(柄本明)はショックのあまり心臓麻痺で急死、義母(倍賞美津子)は人生を悲観して自殺する。ひとり残された友子は気丈にもこの地にとどまって、定造の分まで生きようと決意する。
 終戦になって、漁師の松山(豊川悦司)は帰還してくるが、自宅はもぬけのから。妻と自分の父親が不倫していて、夜逃げしてしまったのだ。喪失感がぬぐえない松山は、新天地ブラジルをめざすことにして荷物を整理していると、定造に託された一枚のハガキがでてくる。─「今日はお祭りですが、あなたがいらっしゃらないので何の風情もありません。友子」─このハガキを友子に届けてほしいという依頼だったのだ。
 約束を果たすため友子を訪ねた松山。古ぼけた家の暗い部屋。いろりをはさんで向かい合う2人。静かな会話のなかで、戦争の愚かさを痛烈に批判する新藤監督の人生観がはっきり見える。「なぜあなたは生きて帰れたの?」と友子。兵士100人のうち6人が帰還しただけ。その生死を分けたのは、上官が彼らの任務先を決めるためにひいたクジだった、と説明する松山。こんなシンプルなシーンで私が心を激しく揺さぶられたのは、信念を曲げない人間の尊厳をうたいあげた「白バラの祈り」(05年)以来だ。人間のいのちがクジで決められていいのか。運がよかったとか悪かったで人生が左右されるほど、人間のいのちは軽いものなのか。スクリーンの奥から新藤監督の叫びが聞こえてくるようだ。
 松山のキャラクターは戦争で生き延びた監督の体験を投影しているという。「戦死した94人の魂がずっと私につきまとっていて、これをテーマにして生きてきました」と監督。私の父も太平洋戦争で死んだ。教職にあった父は赤紙一枚で召集され、開戦間もない19411225日死亡。勝ち戦の勢いがあるときだったので、遺骨とともに、サーベル、軍服、軍靴、手帳、日記など遺品はすべて戻ってきて、大尉だったので名誉の戦死とか称えられ、村をあげての葬式だったという。だが、そんな名誉がなんになるのか。父は生まれたばかりの私の顔も見ないで死んだ。親子顔知らずのままだ。「正子」、これは父が戦場でつけてくれた名前、父とのつながりを持つ唯一の贈り物。夫に戦死された母は、戦争を憎み、その憎しみをバネにして3人の子どもを育て上げた。60年の母の苦しみを思うと、いまや旅立ってしまった母に、感謝の気持ちでいっぱいである。


戦場で付けてくれた名前が父親からの唯一の贈り物
 一読して、封切りが待ち遠しい映画評であるが、最後のくだりで、映画のストーリーとご自分の出自を重ね合わせ、父親が戦場で付けてくれた「正子」という名前が親子のつながりであり、まだ見ぬ父親からの唯一の贈り物だという菅沼さんの言葉にはっとさせられる。しかも、夫を戦争で失った憎しみをバネに3人の子どもを育てられた母君への感謝を綴った一節は映画評を超えた、実直な、心に沁みる言葉である。

「一枚のハガキ」公式サイト
 http://www.ichimai-no-hagaki.jp/

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