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国民健康保険の現状と滞納問題解決の道筋~佐倉市の現状から見えてくること~

講演の準備を通じて見えてきたこと
 1120日の講演の準備をする中で見えてきた佐倉市の一般会計と国民健康保険の特徴をまとめると次のようになる。
1.佐倉市の財政(一般会計)を人口が同じ規模の県内の他市と比べて見ると、
 ①平成21年度の財政力指数(標準的な財政需要に対する標準的な財政収入の比率)は1.00とまずまず。 歳入の地方債依存度は浦安市についで低い(5.4%)、市民1人当たりの負債額(地方債残高+債務負担行為のうちの次年度以降支出予定額)は7市のうちの最少額(22.7万円)という数字からいえば、佐倉市は比較的健全な財政状況にあるといえる。
 ②しかし、市民1人当たりの歳出額、とりわけ市民生活に深く関わる1人当たり民生費が7市の中で最少で、市民税の還元率(私なりに作った比率で、市民1人当たり民生費/市民1人が納めた市民税の平均額)は7市の中で最低の0.93.ちなみに最高の成田市は1.67
 ③浦安市、成田市では市民1人当たり民生費が際立って多く、市民税還元率も非常に高い。そのわけは、ディズニーランド、成田空港、およびそれに関連する法人が納める市税、固定資産税が市の財政を支えていることにある。
 ④佐倉市では景気動向はもとよりのこと法人立地、人口密度、地価といったマクロの経済要因に左右される歳入面で当面、大きな増収を期待することはできない。となると、歳入規模は与件として、それをどのような歳出項目に充てるのかという予算配分に重点を置き、市民税還元率を改善するよう留意する必要がある。
 ⑤全国的傾向とはいえ、佐倉市でも、保険料(税)の滞納問題という形で国民健康保険のセーフティネットのほころびが深刻な状況になっている。特に、注視する必要があるのは、
  *佐倉市は滞納分も含めた通算の収納率が7市の中で最低の58.7%となっていること、
  *滞納世帯の84%が所得未申告世帯・年間所得200万円以下の世帯となっていること、
である。また、今年の31日に開かれた佐倉市議会本会議での質疑で明らかにされたところでは、佐倉市では所得200万円で2人世帯の保険税額は介護分を含めると2425万円で、所得の1割を超える状況になっている。

所得に著しく逆進的な保険料調定額
 全国規模ではどうかというと、厚労省労働局がまとめた『平成21年度国民健康保険実態調査報告』によると、1世帯当たり平均所得(平成20年)に対する1世帯当たりの平均保険料(税)調定額が全世帯平均でも9.4%で、保険料(税)が減額される世帯では平均で13.4%、7割軽減世帯では実に年間所得の3分の1に達している。
 また、『平成21年度国民健康保険実態調査報告』に収録された所得階級別・年齢別の保険料(税)の収納率(平成20年度)は、全体(各所得階級/年齢の平均)では89.7%であるが、34歳以下の30万円以下(所得なしも含む)では70%を割り込んでいる。
 このような実態を見ると、現在の国民健康保険料(税)は低所得層にとって「払わない」のではなく、「払えない」水準になっていることがわかる。従って、結果としての滞納問題を捉えて、徴収強化や窓口での対応のあり方だけで解決しようとするやり方では滞納問題の根本原因は手つかずで終わることは明らかである。
 むしろ、1年以上滞納者に対して機械的に保険証を返却させ、窓口でいったん医療費の全額を負担させる資格証明書に切り替えるやり方は行きたくても医療機関に行けない低所得層を増やし、健康を悪化させるという悪循環を生むことになる。こうした悪循環は本人をより重症に追い込むと同時に、ひいてはそれが医療費の増加、生活保護世帯の増加を招くという悪循環の増幅につながる。

滞納問題を解決する道筋
 政府は市町村国保の危機的財政状況と滞納問題を解決する方策として近年、国保の広域化(市町村単位から都道府県単位への広域化)を強力に指導している。同一都道府県内で財政力の強い自治体が財政力の弱い自治体を支援するという互助システムといってよい。しかし、
 ①現在、市町村国保において、同じ自治体の中でさえ、給付担当、資格担当、課税担当、滞納整理担当が別々の部署になっていて業務の連携に困難がある(八千代市の国保年金担当者からの聴き取りの折に何度かそういう実情を聴かされた)中で、運営の単位が広域化すると、運営の主体と滞納者との窓口対応をする現業部署との意思の疎通が更に困難になると予想される。
 (佐倉市の場合、国民健康保険の資格に関する業務、給付に関する業務、高齢者医療に関する業務は健康保険課が担当し、課税に関する業務は課税課、納税・滞納整理に関する窓口は収税課が担当している。)
 ②また、広域化して都道府県単位で財政調整を行うといっても、都道府県内で1人当たり保険料(税)調定額に2倍以上の格差があるところが13もあるという現状(厚労省保険局『平成21年度国民健康保険事業年報』参照)のままでは、実効性に乏しく、それでも都道府県単位に広域化すると、保険料(税)の値上げを余儀なくされるところが少なくないと考えられる。
 ③そもそも論として、被用者保険(健保組合、各種共済)と違って、事業主負担がなく、被保険者が相対的に高齢で低所得層が多い市町村国保の財政方式を、負担と受益を連動させる社会保険方式とみなして同列に扱うこと自体が実態とずれているのである。
 むしろ、市町村国保の財政を窮状に追い込んだ大きな要因は歳入に占める国庫支出金の大幅な減少にある。佐倉市の国保では、歳入合計に占める国庫支出金の割合は昭和58年度に約51%であったのが、その後、低下の傾向をたどり、平成21年度には23%にまで減少している(平成2331日開催の市議会本会議における萩原陽子議員の質問による)。
 市町村間、都道府県間の財政力の格差に起因する国民健康保険料(税)の大きな格差を是正し、保険料(税)を低所得層にも「払える水準」まで引下げるには、国庫からの財政支援、国レベルでの財政調整が不可欠である。

佐倉市にできること、やるべきこと
 
 ④その上で、市町村国保の段階で再考を要する、佐倉市としてできることとして、私は昨日の講演もしく講演用に準備した資料の中で次の2つを提言した。
  *一つは、保険料(税)の積算要素の見直し、具体的には応能分(所得割・資産割)と応益分(均等割・平等割)の比率の見直しである。7市の比較でいうと、佐倉市では応能分の割合が53.28であるのに対し、応益分が56.72となっている。これは八千代市に次いで応益分のウエイトが高く、応能分のウエイトが低い仕組みである。言うまでもなく、応能分が低く、応益分が高いということは所得に対する逆進性が強い仕組みである。この点では、応能分のウエイトが浦安市では75.29、習志野市では67.79と非常に高いのが注目される。市町村国保として独自に行う余地のある滞納対策(「払える」水準まで保険料(税)を引きさげる努力)として応能分のウエイトを高める措置が講じられてしかるべきである。
  *もう一つ私が指摘したのは現在55億円に達している財政調整基金を活用して資格証交付世帯を援助するということである(パワーポイント・スライドNo.36, 37)。いまかりに、佐倉市における643の資格証明書交付世帯のうち、年間所得200万円以下の世帯(354世帯。ここでは75歳未満の2人家族と想定)の1年分の滞納額を一般会計からの繰入で肩代わりするとして、それに必要な財源を平等割減額分と均等割減分を控除した上で試算すると4,547万円となる。これは現在の佐倉市の財政調整基金残高55億円0.83%に過ぎない。将来の不測の事態に備えるという財政調整基金の趣旨を了解してもなお、国民健康保険のセーフティネットからこぼれかけた市民の健康と生活を救うのにその0.83%さえ活用することを見合わせるのが合理的だとは到底思えない。早急な実行案の検討を市当局ならびに議会に要望したい。

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見えてきた佐倉市の財政の特徴と問題点~市民フェスタでの講演準備を通じて

講演の準備ために
 1つ前の記事で書いたように、20日は地元の市民活動フェスタ2011の日。市民体育館、市立美術館、佐倉城址公園自由広場などでさまざまな市民グループがポスター展を開いたり、ポニー乗馬や和太鼓演奏、手話ダンスを披露・体験したり、防災・まちづくりの講演会を開いたりする一日である。
 私は佐倉向日葵会が主催したまちづくり講演会の講演を頼まれ、1130分から40分間ほど市立美術館の4階会場で「私たちの町の財政~基礎から現状分析まで~」と題して話をさせてもらった。前半(Part1)は基礎編ということで、人口が同じ規模の県内の6つの市(野田市、成田市、習志野市、流山市、八千代市、浦安市)と比較しながら、佐倉市の財政の現状と特徴を話し、後半(Part2)は応用編として佐倉市の国民健康保険のことを話した。
 しかし、40分で2つのテーマを十分に話すのはとても無理なので、この日はPart1を主に話した。国民健康保険の方が皆さんに身近な問題で、「応用編」などと第三者的な物言いをするにしては余りに切実な問題がある。そこで、主催者の向日葵会の代表のUさんの「これからも第2弾、第3弾と続けてやりたい」というお話を受けて、国民健康保険のことはゆっくり時間をとって別の機会に出来ればと考え、昨日はPart2は要点(滞納問題)に触れるだけにした。
 使った資料は、Part1は主に「決算カード」。Part2は各市のホームページに掲載された国民健康保険に関する情報と社会保障推進千葉県協議会(千葉県社保協)が今月10日にまとめたばかりの「2011年社会保障の充実を求める自治体要請キャラバン報告集」である。最後の報告集はインターネットで偶然見かけたサイトを辿って千葉県社保協に問い合わせて提供してもらった資料であるが、県内全市町村の担当課に対して、住民税・医療・介護保険・国民健康保険・児童/保育・障害者福祉・生活保護などについて行ったアンケート調査の結果を集計したものであるが、国民健康保険についても保険料(税)の算定方法、水準、滞納の状況、資格証明書/短期証の交付状況など詳細なデータが網羅されていて大変有益だった。

数字の背景にある現実を確かめないと
~市役所へ出かけて担当課に聴き取り~

 しかし、データをなぞるだけではなく、数字の背後にある現実こそ重要である。しかも数字は必ずしも現実をあるがままに表しているとはいえないし、市民の生活実感とずれていることもある。そこで、講演の準備をする中で、行政の他の問題に関心を持った方と連れだって、119日にはお隣の八千代市役所へ市内の知人3人と出かけ、国保年金課、環境保全課、保健センターを訪ねて担当職員から聴き取り調査をした。国保年金課では国民健康保険の保険料の滞納の実態と背景、滞納者への市の対応について、環境保全課では放射能汚染の除染対策について、保健センターでは特定健診の持ち方について、それぞれ尋ねた。1330分から始まったが、国保年金課では応対してもらった課長の熱心な説明に時間が経つのを忘れ、最後の保健センターでは勤務外の応対をしてもらうはめになった。おかげで外へでるとあたりは薄暗く、帰路を急いだ(といっても私は同乗させてもらったのだが)。
 ついで、1114日には市内の知人お2人といっしょに佐倉市の健康保険課と環境保全課へ出かけた。健康保険課では課長と国保資格班のOさんに応対してもらい、事前に送っていた質問事項に沿って市内の被保険者の構成の推移(「一般」と「退職」の年齢別分布)、短期証世帯数と資格証世帯数の推移、一般会計から国保特別会計へのいわゆる「赤字繰入」の推移などについて、途中、議論を挟みながら、説明を受けた。環境保全課では、課長、班長、担当職員の応対で、目下、詳細計画は発表されたものの、肝心の「いつから」始まるのか一向に見て来ない放射能汚染の除染について話し込んだ。
 こうした2回の聴き取り調査が昨日の講演にも大いに役立った。

当日使った資料
 
 以下は当日用に作った資料一覧である。

1.パワーポイント・スライド原稿
 ① 6つの他市と比較した佐倉市財政の特徴:その1

 ② 6つの他市と比較した佐倉市の財政特徴:その2

 
6つの他市と比較した佐倉市国民健康保険の特徴

 
国民健康保険料(税)滞納題の背景と解決の道筋

2.配布資料(本体)
   配布料(体)

 3
.配布資料(データ編)
  表1 県内7ータ

  表2, 3 県内7市の構成較(実数と構成比)

  表4 県内7市の給与水準の比

  表5 県内7市の国民健康険の状況

  表6 県内7市の国民健康保険の滞と資格証明書発行の所得階層別分布

質疑の中で出た意見・質問
 40分ほどの私の話が終わったあと、お二人の参加者から質問・意見があった。
 一人は、国民健康保険を資格証明書に切り替えられた市民のなかで、18歳未満の子供のいる世帯をなんとかしなくてはいけないのではないかという意見だった。
 もっともな質問だったが、それについてはパワーポイント・スライドのNo.35をスクリーンに出して、国では昨年7月から、18歳未満の子供(従来は中学生以下)がいる滞納世帯には短期証の交付にとどめるとした国保法改正が施行されていること、佐倉市ではそれに先だって昨年4月から同様の措置が実施されていることを紹介した。

 もう一人は、佐倉市では人口対比で職員数が7市の中で一番少ないと言った私の説明(パワーポイント・スライドのNo.35No.15)に対して、一部事務組合に所属する職員も含めるとそんなことはないという反論だった。一部事務組合にどれくらいの佐倉市職員が在職しているのか私は確かめていないが、一般論として臨時職員や指定管理者などに業務を切り出したことに伴う人員減を考慮に入れた調査が必要で、その点では私の説明は確かに不完全なものだといえる、と答えた。

お礼
 なお、20日の講演会には市内のたくさんのお知りあいやご近所の方々が出かけていただいた。また、7名の市議会議員も聴きにきていただいた。ありがたいことと感謝しているが、これも広報に力を入れていただいたUさん始め、主催者・佐倉向日葵会の方々のご苦労のおかげである。改めてお礼を申し上げたい。

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地元の市民フェスタで講演します~テーマは市の財政~

主催者の熱意に押されて
 
この11月に佐倉市で開催される「佐倉市民活動フェスタ2011」に佐倉向日葵会が応募され、佐倉市の財政について講演を企画されたとのこと。10月上旬に会の代表のUさんから講師を引き受けてもらえないかという依頼を受けた。
 Uさんとは今年の5月に佐倉市の市民グループが開いた市議会議員と市民の懇談会の場で知り合った。その時伺った会の名前は「佐倉市の財政を考える会」だった。懇談会の中で周りの年配の市民や議員の発言をものともせず、かつ、市の最新の予算をよく調べた上で堂々と発言されたUさんの姿が印象的だった。
 その後、事情があって会の名前を「佐倉向日葵会」と変えられたそうだが、中味は市の財政を調べて議論をすることに変わりはないとのこと。
 国と地方の公会計は私の研究テーマでもあったので、地元の財政を勉強するよい機会にもなればと思い、引き受けた。
 それからは主催者が立派なポスターを作られ、Uさんのお知り合いの市民の方々の協力も得て熱心に広報していただいている。市議会議員も幾人か参加の予定とのこと。こうなると、私もうかうかしていられなくなり、目下、資料づくりに駆り立てられている。

 佐倉市市民フェスタ2011参加企画 第2回佐倉向日葵会主催事業
 佐倉市町づくりを考えてみよう! 私たちの町の財政:基礎から現状分析まで(クリックしていただくとポスター原文が開きます。)
  日時 20111120日(日)1130分~1220
  会場 佐倉市立美術館4階ホール
  講師 醍醐 聰
  問い合わせ 080-4174-3053
  sakurahimawarikai@yahoo.co.jp

国民健康保険(市国保)を中心に
 
~今日の日本の社会保障の不安の縮図として~
 ただ、講演の時間が40分程度と限られている。また、聴きに来ていただく方々の中で市の財政に馴染んだ方はさほど多くないようで主催者からは入門コースのつもりでお願いしたいと言われている。
 そこで、思案の末、
 ①人口規模が佐倉市と近い千葉県内の他市(具体的には、野田市、習志野市、流山市、八千代市、浦安市)との比較で佐倉市の財政の現状を説明する。ただし、Uさんによると、成田市から引っ越してくる人が少なくないので、成田市も比較の対象に入れてほしいという要望があったので了解した。

 ②限られた時間内で、数字をなぞるだけでなく、生活実感につながる話をできるよう、テーマは市の国民健康保険の財政に絞ることにした。というのも、近年、全国共通の問題であるが、市町村国保の滞納問題が深刻な状況にあり、生活保護とならんで国民の最後のセーフティネットと言われる国保のネットワークからこぼれてしまう国民が大量に生まれているからである。
 その背景には、
 *本来なら被用者保険に加入すべき現役労働者が短期雇用を理由にそこから外され、自治体の国保に流入する人々が大量に生まれている。そうした短期雇用労働者の多くは低い所得層が多く、国保負担力が低いため、自治体国保の財政悪化の要因の一つになっている。
 *被用者保険と違って、事業主の保険料折半負担がない市町村国保で事業主負担に代わるべき国庫支出金の割合が近年減少したこと、各自治体も一般会計自体の財政状況の逼迫から国保特別会計に繰り入れる(法定外繰入)余力が縮小している。
 *そこで、各自治体は民間委託も含め、保険料の徴収強化に乗り出し、保険料滞納者に正規の保険証に代えて窓口での自己負担を増加させる短期証や資格証明書を発行している。そのため、保険料滞納者の間では受診の手控えが起こり、それが健康をむしばむという悪循環が起こっている。

 このような背景を見据えると、今日の市町村国保は日本の社会保障の実態の縮図であり、尖鋭な事例であると言ってよい。これについては「毎日新聞」が114日から始めた「安心が逃げていく」という連載記事が参考になる。その中の第2回目を紹介しておきたい。
 
 安心が逃げていく 第2回 上がる国保料 滞

 (『毎日新聞』2011115日、東京朝刊)

 私の口からいうのも気が引けるが、このブログ記事をご覧いただいた佐倉市の方々でテーマに関心を持たれた方には足を運んでいただけら嬉しい。
 私の気持ちとしては、当日の講演で終わりではなく、それがきっかけになって佐倉市の市民の方々の間に市の財政への関心が高まり、自分たちの手で勉強してみよう、近隣の市町村にも出かけて自治体の財政事情を調査し、市民から財政改革の意見・提言を発信していこうという気運が盛り上がることを願っている。

 講演用にまとめた資料は後日、このブログに掲載する予定です。

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