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死刑支持は85.6%ではなく、52.6%と伝えるべき~NHKに意見を提出~

 330日、NHKニュース番組制作担当宛てに、「死刑制度に関する内閣府世論調査の報道のあり方について」と題した意見を提出した。
 詳しい経過は、このブログの1つ前の記事に書いたが、意見の要点は、2009年に内閣府が行った死刑制度の存廃に関する世論調査の集計結果を多少なりとも冷静に読めば、「死刑支持は85.6%」ではなく、「死刑支持は52.6%」と伝えるのが的確な報道だ、ということである。
 なお、文中、「人が人を殺す」と書いたが、死刑は私人間の行為ではなく、私人に対する国家の意思行為であることを銘記しなければならない。

 
 今回、小川敏夫法務大臣が3人の死刑執行に踏み切ったことを伝えた3月30日の朝日新聞朝刊(2面)では、「法務省、『転換』を歓迎、法相代わるたび機会うかがう」という見出しの記事を掲載した。その中で、小川氏が法務大臣に就任直後から法務省刑事局は死刑囚2人を候補に挙げ、死刑執行の署名を求めていたと記している。

 こうした背景を知るにつけ、政府が実施・集計・公表する世論調査をメディアが国民に伝えるに当たっては、設問の仕方、回答の選択肢の設け方、集計の仕方に恣意性はないか、年代別・性別・職業別など調査対象ごとの回収率に偏在はないか等を原資料にあたって主体的に吟味し、必要とあればしかるべきコメントを添えて報道する自律性が強く求められることを痛感させられる。そして、常日頃から政府の言動にこうした鋭利な注意力、理知的な懐疑心を研ぎ澄まし、報道に活かすことがメディアの国家「からの」の自由、国家「への」自由の要であると私は思う。

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                     2012330
NHK
ニュース番組制作担当 御中

  死刑制度に関する内閣府世論調査の報道のあり方について

                        醍醐 聰

 昨朝(329日)、殺人などの罪を犯した3人の死刑囚に対する死刑が執行されました。おととし7月以来、18ヶ月ぶりの執行でした。
 昨夜7時のNHKニュースはこの件を伝えた後、死刑制度の存廃について24ヶ月前(200911月~12月)に内閣府が行った世論調査を画面に示し、「死刑を容認する国民は約85%に上っている」と伝えました。今朝の各紙も、小川敏夫法務大臣は「85.6%が死刑容認」という内閣府の公表数字を挙げて、「死刑執行は国民の支持を得ている」と語ったと伝えました。たとえば、朝日新聞朝刊は内閣府が公表した調査結果を基に折れ線グラフを掲載し、2009年の時点では85.6%が「死刑存続(「存続」と表記していることに要注意)を支持」、「死刑廃止を支持」は5.7%と作図しています。

 しかし、私は昨夜のNHKのニュース画面にこの85.6%という数字が「場合によっては死刑もやむを得ない」という選択肢への回答だったことが映されたのを見て奇異に思いました。「場合によっては」という条件を付けた死刑に関する意見を「死刑容認」と一括りにカウントしてよいのか? こうした回答は「死刑の是非はケースバイ・ケース」という意味だと解釈することも大いにありうるのではないか? ・・・・・NHKのニュース制作担当者にはこういう素朴な反問は思い浮かばなかったのだろうか? という疑問です。

 もちろん、死刑制度をめぐっては世論の意思は重要な要素ですが、制度の存続を支持するにせよ、支持しないにせよ、それぞれの意見の根拠――死刑制度は犯罪の抑止力になるという主張は実証されているか? 応報思想で死刑を正当化できるのか? 更生の可能性がないことを以て人が人を殺すことを正当化できるのか? 犯罪被害者およびその遺族の求める償い、癒しに死刑を以て応えることが正当かつ望ましい方法なのか、等々――を理知的に検証することが求められます。

 また、より現実的な問題として、近年、わが国では長期に拘留された死刑囚が再審を請求する事例が生まれ、中には請求が認められ、無罪(冤罪)に至る例も生まれています。また、殺人の罪で拘留された被疑者に対する違法な取り調べがあったと法廷で断罪されたり、別人の犯行を示す有力な証拠が提出されたりする事例も生まれています。こうした現実を直視しますと、死刑制度の存廃をめぐっては、無罪か死刑か、死刑が無期懲役かという生死を分ける判断の重みを受け止めた熟議が不可欠です。

 その点を断った上で、死刑制度をめぐる内閣府の世論調査に関するNHKの報道のあり方に絞って意見をお伝えします。
 なにはともあれ、原資料に当たるのが先決です。そこでインターネットで検索しますと、

 「基本的法制度に関する世論調査」平成2112月調査(内閣府大臣官房政府広報室)
  http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-houseido/index.html

というサイトが見つかります。問題の回答集計はこの中の表21(死刑制度の存廃)にあります。その質問事項に対する回答として、次の3つの選択肢が用意され、回答の分布が( )のように示されています(a, b, cは私が追加)。

 内閣府が公表した回答の集計結果:
 
  a. どんな場合でも死刑は廃止すべきである(5.7%)
   b. 場合によっては死刑もやむを得ない(85.6%)
   c. わからない・一概に言えない(8.6%)

 こうした質問形式に私は3つの疑問を感じました。

〔疑問:その1〕 「場合によっては」という条件付き選択肢がなぜ「死刑容認」の回答にだけ付けられ、「死刑廃止」の回答には付けられなかったのか(「場合によっては死刑廃止もやむを得ない」という選択肢がなぜ設けられなかったのか?)

〔疑問:その2〕 「場合によっては」の中味は一様だったのか、様々だったのか? その中味を問うことなく「死刑容認」と括ってしまってよいのか?  

〔疑問:その3〕年代別の回収率と年代別の意見分布の開きを突き合わせて回答結果を吟味しなくてよいのか?

 このうち、疑問12は論点が重なるので一緒に検討します。

 「場合によっては」の内訳も調査されています。なぜそれも伝えないのでしょうか?

 内閣府大臣官房政府広報室の上記のサイトを見ていきますと、「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えた者を対象にした「将来も死刑存置か」という設問があることがわかります。回答の選択肢としては、「将来も死刑を廃止しない」、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」、「わからない」の3つが用意されていますが、この設問に対する回答の集計結果(表61)は次のとおりです(d, e, f は私が追加))。

  d. 将来も死刑を廃止しない(60.8%)
  e. 状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい(34.2%)
  f. わからない(5%)

 とすれば、死刑制度の存廃に関する世論は次のように集約するのが正しいはずです。
 
  g. 将来とも存続させるべきである(85.6×0.608=)52.6
  h. 現在はやむを得ないが、将来、状況が変われば廃止してもよい(85.6×0.342=) 29.3
  i. どんな場合でも廃止すべきである 5.7
  j. わからない・一概に言えない(8.685.6×0.05=)12.9

 これをもとに言えば、「死刑制度存続に賛成」は85.6%ではなく52.6%と伝える方が正しいことになります
 内閣府あるいはNHKは、hを「少なくとも現在は容認」と解釈したのかもしれませんが、皇室のあり方に関する調査と似て、死刑制度は今日明日に変わるものではありません。したがって、死刑制度に関する世論調査は、単に現時点での容認・否認を確かめるだけでなく、制度の今後のあり方も含めた世論の動向を調査しようとしたものではなかったでしょうか? 「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えた人のうちの34.2%が「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と答えている点に着目しますと、朝日新聞の記事のように、85.6%を「死刑存続を支持」と括るのは明らかに誤りです

 この点で言いますと、hの回答が約3割を占めたことは、少なくない国民の間で死刑制度に関する揺らぎが起こっていることを物語っています。
 にもかかわらず、上記のような報道のあり方では、政府が公表するさまざまな情報や資料を扱うに当たってメディアが備えるべき注意力を欠き、その結果、視聴者に誤った心証を形成させる恐れが高いことは否めません。NHKの上のニュースの中でも、「死刑制度に関する国民的な議論が必要」と語られましたが、これはメディアにとって他人事ではなく、死刑制度をめぐって国民の間で理知的な熟議がなされるよう、必要な判断材料を公共の電波を通して国民に伝えることは公共放送NHKの根幹的な使命です。

 年代別の回収率と年代別の意見分布の開きを無視してよいのでしょうか?

 死刑制度に関する内閣府の世論調査の集計結果を利用する時に、重要と考えられる点をもう一つ指摘しておきます。それは、内閣府の上記のサイトに掲載されている「9.性・年齢別回収結果」の読み方です。また、表21には「死刑制度の存廃」に関する年代別の意見分布が示されています。これら2つの資料をもとに、年齢別の回収率と意見分布をまとめますと次のようになります。

 

(注:以下、意見書に挿入した3つの表はブログにはうまくアップできないので、PDF版のURLを貼り付ける。)

<死刑制度の存廃について:年代別の回収率と意見分布>
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sikei_nendaibetu_shukei_1.pdf

<将来も死刑制度存置か>(年代別の回収率は同前)
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sikei_nendaibetu_shorai_no_zonpai.pdf

 これら2つの資料を重ね合わせますと、死刑制度の存廃に関する年代別意見は次のように集約するのが正しいといえます。

<死刑制度に関する年代別の意見集約> 

http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sikei_sonpai_nendaibetu_ikenshuyaku.pdf

 これを見ますと、回収率は年代が下がるにつれて大きく減少すると同時に、年代が下がるにつれて、「将来も存置」が減り、「無条件廃止」、「将来は状況によっては廃止可」が増える傾向が読み取れます。こうした傾向から判断して、仮に年代を問わず、回収率が近似していれば、全体の集計結果は「将来も存置」が減少し、「無条件廃止」、「将来は状況によっては廃止可」が増加したと考えられます。したがって、回収率の年代別の偏りを考慮せず、集計結果だけから死刑制度の存廃に関する世論の分布を忖度するのは不適切です。

 以上をまとめますと、内閣府の死刑制度に関する世論調査から死刑制度の存廃に関する世論を利用するにあたっては、①「場合によっては死刑を容認」という回答を「死刑支持」と括ってしまう恣意的な集計がなされていること、②その前提として、「死刑を容認」が大勢という集計結果を導くような不適切な選択肢や設問の仕方がなされていること、③相対的に「死刑制度廃止」の意見がかなりの割合を占める若い年齢層の回収率が低いこと、に十分留意する必要があります。

 こうした意見をどう受け止められるのか、感想をお聞かせいただけると幸いです。また、今後、死刑制度のあり方を番組制作において取り上げられる場合、上記のような私の意見を参照していただけましたら、幸いです。

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