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消費税増税に待ったあり(第1回)

 
 
 野田首相はさる
530日に行った小沢一郎氏との会談で、「少子高齢化の問題等にかんがみ、消費税の増税は待ったなしだと認識している。協力してもらいたい」と発言した。この記事はこうした野田発言に対する反証を意図して書きとめるものである。

「待ったあり」:理由その1
 
~消費税増税をけしかけるIMFに気前よく4.8兆円を差し出すくらいなら~
 
 去る417日、安住財務相は閣議後の記者会見で、日本政府として国際通貨基金(IMF)に対し600億ドル(約4.8兆円)の資金協力をすると表明した。
 
 http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20120417.htm
 
 このニュースには消費税増税の大義を確かめる上で、考えさせられる題材がある。

 一つは、消費税増税をめぐるIMFと日本政府・財務省の関係についてである。IMFが信用不安に陥ったEU加盟国に対して、資金援助の条件として厳しい緊縮財政を迫ってきたことはよく知られている。そのIMFの副専務理事の篠原尚之氏は今年の23日、都内で記者会見し、日本政府・与党が消費税率を10%に引き上げる方針を固めたことをIMFとして歓迎すると表明した。さらに、日本の財政健全化のためには消費税を最終的には15%まで引き上げていくことが考えられるとも言及した。余計なお世話と言いたいが、この篠原氏は200911月にIMFの副専務理事に就任するまで財務省財務官を務め、20092月にローマで開かれたG7に出席した中川昭一財務大臣(当時)に同行した人物である。ここから、消費税増税に対する国際的支持・圧力なるものがIMFの衣をまとった財務省の用意周到な仕掛けであったことがわかる

「飛び抜けて最大の支援」と胸を張っている場合か?

 おまけに、安住財務相は、「アメリカは今回出さないということはかなり明確にしている中で、今回の600億ドルという額は恐らくヨーロッパ圏外からだと最大というようなご認識でしょうか」という記者の質問に対して、「飛び抜けて最大だと思います」と胸を張っている。
 
 野田首相や財務省は「日本の財政は待ったなしの危機的状況」と繰り返している。その一方で、「欧州圏外では飛び抜けて最大」の資金を気前よくIMF差し出すのでは、内面と外面を使い分ける二枚舌とみられても仕方ない。
 
 それにしても、大臣の記者会見に臨む財務省記者クラブの面々の中に、「ご認識でしょうか」などとへりくだった物言いではなく、こうした巨額の資金援助と「待ったなしの危機」の辻褄、消費税増税の大義を真正面から質す記者が1人もいないのはどういうことなのか?

 私がこのニュースを、消費税増税の大義を疑わせるものと受け止めたもう一つの理由は、安住財務相が、IMFへの資金援助に使う財源として外国為替資金特別会計が保有する資産を挙げたことである。これについては、次の記事(第2回)で、消費税増税に頼らない財源案を示す時に触れることにする。
 

 
「待ったあり」:理由その2
~消費税増税の論拠のまやかし~

 
1直間比率是正論のあやまり
 
 国際比較で、わが国は所得税など直接税のウェイトが高いので、消費税を引き上げることによって間接税のウェエイトを高め、税の直間比率を改める必要があるという主張が繰り返されている。しかし、言うまでもないが、税収は税率だけで決まるのではなく、それに課税ベースを乗じて決まる。
 
 そこで、OECDが加盟国別にまとめた消費税および個人所得税の負担率(対国民所得比)を調べてみると、図1のとおりである。
 

 
  1 個人所得税負担率(対国民所得比)の推移の国際比較

 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/personal_tax_gdp.pdf

 また、図2先進7カ国の税収(国税+地方税)に占める消費税の割合の推移を示したものである。

 2 先進7カ国の税収(国税+地方税)に占める消費税の割合(2008年)

 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/weightofconsumptiontax.pdf
 

 
 つまり、一国規模での増税余力を大まかに示す対GDP比で租税負担率をみると、この負担率が先進国のなかで最低の水準にある個人所得税こそ最優先の増税候補なのである
 
 他方、日本の消費税は税収全体に占める割合からいえば、最高のドイツと比べてかなり低いが、アメリカ、カナダよりも高くなっており、総じていうと、先進国中、中位の水準にあることがわかる。これは、EU諸国の附加価値税は、税率の面では1825%と極めて高いものの、食糧などを免税(イギリス)あるいは5%程度(フランス5.5%、スペイン・イタリア4%)に軽減しているため、課税ベースが日本と比べて相当狭いからである。

 
このような事実に照らせば、税率の国際比較だけから直間比率のバランスを云々し、消費税増税を正当化することが誤りであることがわかる。

 しかも、図1を見ると、日本では消費税を導入した1989年以降、所得税の負担率は低下し続け、ピーク時には10.5%であったのが、2000年以降は先進諸国のなかで最低の水準を保ち、2011年には6.9%まで下がっている。このような実態に照らすと、わが国の税制で見直すべき第一の税目は消費税ではなく、所得税であるというのが正解なのである。

2)「景気に左右されやすい所得税vsされにくい消費税」のまやかし
 
所得税の減収の44%は制度減税によるもの
 
 <所得税は景気に左右されやすいが、消費税は景気の変動に左右されにくく安定財源として優れている>という指摘が繰り返されてきた。確かに、家計の所得と消費の行動パターンを見ると、可処分所得の変動ほどに消費性向(可処分所得のなかから消費に回す金額の割合)は変動しないから、所得を課税ベースとする所得税と比べ、消費を課税ベースとする消費税の方が税収の面で変動性が低い。しかし、こうした差異がどれほど決定的なものかは実証を待たなければならない。
 
 この点を財務省が201112月にまとめた所得税に関する参考資料に基づいて吟味しておきたい。同資料の中に「所得税収の推移」という項がある。それによると、所得税収はピーク時(1991年度)の26.7兆円から2011年度当初予算額の13.5兆円へと約13兆円も減少している。問題はその要因である。 財務省が示した主な要因を整理すると次のとおりである。 
 
 ①1995年の税制改革による制度減税:24兆円
 
   税率構造の累進性緩和、人的控除額の引上げ、給与所得控除の引上げ
 
 ②1999年の税制改革による最高税率の引き下げに伴う制度減税:0.3兆円
 
 ③所得税から住民税への税源移譲による制度的減収(2007年より):3.0兆円
 
 つまり、これらを合計した5.7兆円(所得税の総減収額の約44%)は景気変動ではなく、税制改革による政策的な減税による税収減だったのである。こうした政策的減税を無視して近年の所得税の落ち込みを景気変動のみに起因するかのように説明し、所得税の財源調達機能の低下、不安定性を強調するのは誤った議論である。

税収全体から見た消費税増税の帳尻は?
 
 他方、「景気に左右されにくい消費税」という指摘はある意味で否定できない。しかし、これは、可処分所得の減少に合わせて減らしにくい生活必需品にも一律の税率を適用する消費税の逆進性の裏返しにほかならない。なぜなら、生活必需品への支出の非弾力性は、もともと消費性向が100%に接近し、景気変動や雇用状況の悪化によって所得が減少しても消費支出を減らしにくい低所得層に対して、消費税が逆進的な負担となることを言い換えたに過ぎないからである。であれば、所得階級別に見た負担の逆進性を消費税の欠陥とみなす以上、「景気に左右されず税収を確保できる」ことを消費税の利点とみなすのは自己矛盾なのである。

 さらに注意しなければならないのは、消費税増税が、法人税、所得税、分離課税の税収など国全体の税収に及ぼす影響を見極めなければならないという点である。たとえば、消費税が3%から5%に引き上げられた翌1998年の国の税収は49.4兆円で、前年度の約53.9.兆円から4.5兆円も減少した。消費税収は0.8兆円増えたが、消費の減退で景気が落ち込んだ結果、企業業績や家計の所得が落ち込み、源泉所得税が1.6兆円、法人税が2兆円、申告所得税が0.6兆円、減少したためである。政府は消費税の1%引き上げで約2.7兆円の増収を見込んでいるが、消費税増税が他の税目の税収に及ぼすマイナス効果も考慮すると、消費性増税によって国税収入全体が増加するという保証はどこにもない。

 さらに、もう一点、指摘しなくてはならないのは消費税増税分が価格に転嫁されるとなると、それに伴って政府の物資調達、サービス給付コストが増加し、歳出を押し上げるという点である。たとえば、物価スライド制を採用している公的年金は消費税増税に伴って物価が上昇した分だけ給付コストが増加する。これについて政府は、消費税増収分の使途のうち1%(約2.7兆円)を社会保障支出等の増加に充てるとし、この「等」のなかに国と地方の物資調達コストの増加分が含まれると説明しているが、「等」の内訳を示していない。

 このほか、政府は消費税の逆進性対策として低所得者に税を還付したり現金給付をしたりする給付付き税額控除制度を導入するとしている。他方、自民党は食料品等に軽減税率を適用するよう求めている。かりに、いずれかの制度が採用されたとすれば、それに充てる財源として2~3兆円が必要になると概算している。

 このように見てくると、所得税は景気に左右されやすく、安定財源になりにくい、しかし、消費税は景気に左右されにくく安定財源として優れているという議論には幾重もの事実誤認やまやかしがあることがわかる。また、消費税率を2倍に引き上げたら、消費税収も2倍になると見込むのは「取らぬ狸の皮算用」であることを理解していただけると思う。

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国民を愚弄する談合と詭弁~消費税増税法案と原発再稼働をめぐって~

「解散を確約したら消費税増税法案に賛成する」!?
 自民党はこういう物言いで民主党に「話し合い解散」なるものを迫ってきた。しかし、
共同通信が52627両日に実施した全国電話世論調査によると、消費税増税関連法案を今国会で採決しなくてもよいという回答が52.1%で、採決した方がよいという回答(43.1%)を上回った。また、増税法案が今国会で成立しない場合、どうするかについては、野田佳彦首相は衆議院解散、総選挙で国民の信を問うべきだとの答えが57.1%でトップ。野田首相の続投19.6%、内閣総辞職18.5%と続いている。内閣支持率は28.0%と前回調査より1.6ポイント増のほぼ横ばいで、不支持は58.1%だった。
 
 つまり、過半数の国民は今国会で消費税増税法案を採決することを望んでいない。そればかりか、消費税増税法案が今国会で成立しない場合、57%が衆議院解散、総選挙で増税の是非について国民に信を問うべきと考えているのである。このことは、「消費税増税法案を成立させたうえで増税の実施前に国民に信を問う」という野田首相の姑息な言い分に75.6%(57.1%+18.5%)の国民がNo と答えていることを意味する。

野田首相の政治生命は国民の関心外
 
 ところで、野田首相は「消費税増税法案に自分の政治生命をかける」という大仰な物言いを繰り返してきた。消費税増税法案の成立にかける首相の「決断」、「やる気」をけしかけてきた大手メディアも、野田首相のこういう物言いを、さも重大事かのように持ちあげ、大見出しで伝えてきた。
 
 しかし、上の世論調査で過半の回答者が、消費税増税法案を今国会で採決する必要はないと答える一方、今国会で法案が成立しない場合は総選挙か野田内閣の総辞職を求めている。この事実は、国民は消費税増税法案の行方には強い関心を寄せているが、野田首相の政治生命が絶たれることをいっこうに気にしていないことを意味している。自分の政治生命を高く売りつけるような芝居がかった物言いは国民には通用していないことを野田首相は早く悟った方がよい。

「私の責任で判断する」!?
 
 自分の地位を高く売りつけようとする野田首相の大仰な物言いは大飯原発の再稼働問題でも見られる。「私の責任で判断する」という言葉がそれである。このような発言の問題点は61日付け「毎日新聞」の社説「再稼働と原発の安全 『私の責任』という無責任」で的確に論評されている。社説が指摘するように、「第一に事故の検証は終わっていない。国会事故調査委員会による真相解明は遠く、政府の事故調の最終報告は7月だ。大飯再稼働の根拠とする安全基準は経済産業省の原子力安全・保安院が作成した「ストレステスト」が基になっている。保安院は原発の「安全神話」を醸成してきた組織だ。事故時に危機管理能力がなかったことも明らかになっている」。

 
 ここで言いたいのは、原子力の専門家でも地震予知の専門家でもない野田氏あるいは野田氏を含む4名の政府首脳の「責任で再稼働の可否を判断する」ことに正統性があるのか、「責任」の中味は何なのかということである。安全性の判断をいうなら、あらゆる利害関係者から独立した機関による福島原発事故の原因究明と大飯原発の安全対策の十分性を検証する作業を進める環境を整えるのが政府の責任であり、独立した第三者機関に代わって素人の政府首脳に安全性を確認されても国民は安心立命できるはずもない。

 ところが、政府が注力しているのは、安全性の検証ではなく、この夏の電力不足を喧伝して「はじめに再稼働ありき」の行動である。しかし、関西電力による需給予測は試算のたびごとに供給不足の数字が下がる奇妙な試算である。再稼働の判断の前提として、信頼できる電力の需給見通しの開示を求めていた関西広域連合が、この前提がどうクリアされたかも見極めないまま、この期に及んで再稼働容認に転じたのも不可解である。こういう腰砕け的な対応が、議論の筋を曲げ、問題点をうやむやにして終わる日本の政治の悪弊であり、それに警鐘を鳴らすのがメディアの役割である。

私の責任」という名の大いなる無責任
 
 ついでに、「私の責任」について指摘しておきたい。
 
 将来、かりに、原発直下で大地震が発生し、福島原発の二の舞の事故が起こった時、野田氏がまだ、首相の座にとどまっていると誰が保証するのか? かりに、とどまっていたとして、野田氏がいう「私の責任」とは具体的に何をすることなのか? その場合、安全面で責任を負える立場になかった野田氏にできることと言えば、私財を投げ打って被害者の損害賠償に充てるということなのか? しかし、昨年1014日、野田内閣の発足時に公開された閣僚らの資産によると、野田首相の資産は、公開制度が始まって以来、歴代の首相の中で最も少ない1,774万円だった。失礼ながら、これでは被害補償に米粒ほどの役にも立たない。
 
 あるいは、不謹慎ながら、野田首相は切腹して国民に詫びるつもりなのだろうか? しかし、それが被害者にとって何の救済になるわけでもないことはわかり切っている。
 
 要するに、「私の責任という名の無責任」ここに極まれり、である。こういう物言いをさも重大な「決意」かのように持ちあげるマスコミの無責任も同罪である。

 
「ぎりぎりセーフ」ではなく、完全にアウト
 
 岡田副総理は530日の衆院消費増税関連特別委員会で、消費増税について「マニフェスト違反とは思わない。(テニスでボールが線上に落ちる)オンラインみたいなもの」、「ぎりぎりセーフ」だと発言した。税率引き上げ時期が現衆院議員の任期満了後だという理由。ただ岡田氏は「国民の期待を裏切ったのは誠に申し訳ない」と弁明し、「マニフェストは4年間の約束で、状況が変わることはある。きちんと説明することが大事だ」と語った。同じ民主党の近藤和也氏が「マニフェスト違反と言われる。私も前の衆院選では、当選させてもらえば任期中は消費税は上げませんと言ってきた」と述べ、「任期中の消費増税(方針の決定)に違和感があることは間違いありません」とただしたのに答えた発言である。

 しかし、「線上」とはどういう「線」なのか? 消費税の増税法案を国会に提出するのが4年内であっても「実施する」のは4年以上先だということを以て「ぎりぎりセーフ」と言うつもりらしい。しかし、4年間の公約であるマニフェストに掲げなかったということは、消費税増税を「実施しない」というにもどまらず、消費税増税を政策として採用しないという公約を意味することは子どもでもわかる話である。したがって、法案の基になる消費税増税を謳った税制改定大綱を民主党が了承することも、法案を閣議決定することも有権者は民主党に信任していないのである。そして、昨年末から現在までに行われた各種の世論調査消費税増税に反対の意思がで5060%に上っていることは、こうした国民の意思が今も変わっていないことを意味している。

 
 現に、民主党は20098月に行われた衆議院総選挙で、国の総予算207兆円を全面的に組み替え、徹底的に効率化、ムダ使いを省いて9.1兆円、「埋蔵金」や国の資産を活用して5.0兆円、租税特別措置を見直して2.7兆円、計16.8兆円を平成25年度に実現するという公約を掲げ、公示前の193議席から308議席へと躍進して政権の座を獲得した。
 
 しかし、20107月に実施された参議院選挙で、民主党は「強い財政」の旗印のもと、「早期に結論を得ることを目指して消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します」というマニフェストを掲げて戦ったものの、1人区で821敗するなど大敗し、参議院第1党の座を自民党に奪われた。

 
 こうした選挙結果を見ても、民主党が消費税増税について国民から信任を得ていないことは明白である。それでも、「任期中に状況が変わった」というなら、解散して改めて国民の総意を問うのが「国民主権の常道」である。それを回避して、法案を成立させた上で、実施の前に国民の信を問うなどというのは、民意を愚弄するのも甚だしい詭弁である。

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