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民主党内の消費税研究会で講演「民富みてこそ国も富む」

 昨日(725日)、15時から衆議院第二議員会館内の会議室で開かれた消費税研究会(消費税増税法案に反対・棄権した民主党の議員グループが立ち上げた研究会)で、「民富みてこそ国も富む~今あるべき雇用政策と社会保障政策~」というタイトルで講演をした。タイトルは研究会の事務局から依頼があったとおりのものである。
 次のような資料(パワーポイント・スライド原稿)を使って約40分説明をし、その後20分ほど出席された議員との質疑になった。

 講演用資料
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tamitomitekosokunimotomu_20120725.pdf

 この日は参議院で消費税関連法案ほかの審議が行われていたため、出席されたのは衆議院議員(下記)で、あまり多くはなかったが、熱心に聴き入っていただき、活発な質疑が交わされた。
 川内博史氏、山田正彦氏、福田昭夫氏、鳩山由紀夫氏、橋本勉氏、福田依里子氏、小林興起氏
このほか、議員の政策秘書、マスコミ関係者が数名出席・傍聴された。

 また、講演と質疑の模様はIWJチャンネル6で録画放映されている。
   http://iwj.co.jp/wj/open/archives/24038#more-24038
 
 (こうして録画を眺めると、自分の頭髪がさびしくなってきたのを否応なく見せつけられ、加齢の運命を思い知らされる。)

 行政が監視を強化したら転嫁は円滑に進むと考えるのは見当はずれ
 研究会の冒頭、司会役を務められた川内博史議員から、拙書『消費増税の大罪』のことを紹介いただいき、「今、二回目を読んでいるところ」という話があった。社交辞令かと思ったが、後の質疑の時に、拙書の30ページで引用した森信茂樹氏の著書の一節、「消費者に価格転嫁ができないようなデフレ経済状況の下では、仕入にかかる消費税分すら転嫁できず・・・・」という箇所を読み上げられ、「大蔵省主税局出身の森信さんでさえ、消費税を転嫁できないと言っていることをどう思うか」と聞かれ、相当、拙書を読み込んでもらっていることがわかった。
 川内議員の質問については、上の一節のすぐ後で森信氏は「消費税がコストの一つとして物価に溶け込んでいるEU諸国では『益税』という言葉は存在しない」とも述べていることを紹介し、家計における負担の逆進性の問題もさることながら、仕入段階で負担した消費税さえ転嫁するのが容易でないことは消費税の最大の宿罪だと指摘した。
 なお、岡田副総理が、消費税がきちんと転嫁されているか監視を強化したいと各地の説明会で述べていることについて私は、転嫁できないのはデフレの時代に消費税分だけ値上げをしたら、消費者離れが起こりかねないという経済の現実に根ざすものである、これを行政の介入で解決できるかのように考えるのは見当はずれだと批判した。

 政治のミッションは民富(税源)を涵養し、国富(財源)を導くこと
 私に与えられたテーマは消費税増税の問題点、消費税増税に代わる財源構想ではなく、民富と国富の好循環を生み出すためにあるべき雇用、社会保障政策とはどのようなものか、という点だった。
 そのため、講演は雇用政策が中心になった。詳しくは上の資料をご覧いただきたいが、民富(税源)を涵養することによって国富(国の財源)を導く上で期待される雇用政策として、正規雇用を増やす政策、高齢者の雇用の継続を定着させる政策を説明した。
 このような雇用政策の意義をわかりやすく話すために、プロロ-グとして、「チャレンジドを納税者に!」を目標に掲げて障害者の自立支援事業に取り組んでいるプロップ・ステーション(理事長:竹中ナミさん)のことを紹介するとともに、そのモデルになったスウェーデンのサムハルの事例を紹介した。

 その後、正規雇用を増やすことが喫緊の課題であることを説明するために、次のような実態を説明した。
 ①『労働力調査年報』(2011年版)によると、男女合計で非正規労働者(1,733万人)が労働者全体の35.2%を占めている。これは1985年当時の16.4%と比べ、2倍以上の増加である。なかでも、女性の場合は、非正規労働者(1,188万人)は女性の労働者全体の54.7%を占めている。
 ②正規・非正規の労働者の年収を見ると、男性の正規労働者の場合、年収200万円以下の占める割合は7.1%であるのに対して、非正規労働者の場合は58.1%に達している。さらに、女性の場合は、正規労働者でも、年収200万円以下が24.8%にもなっているが、非正規労働者になると、85.6%が年収200万円以下である。
 ③さらに、あまり知られていないが、非正規労働というと家計の足しにという固定観念があるが、男性の非正規労働者の43.6%が「家計の主たる稼ぎ手」である(厚労省「平成18年パートタイム労働者総合実態調査」より)。
 ④事業所の規模別にみると、非正規労働者を雇用している事業所の割合は、従業員529人の小規模事業所では72.6%であるのに対して、従業員1,000人以上の大規模事業所では92.6%に達している。
 ⑤民主党政権が当初掲げた非正規労働者の厚生年金加入目標は370万人であったが、今年の4月に国会に提出された「厚生年金保険法改正案」では、加入要件のハードル(年収基準など)を引き上げた結果、45万人程度へと大幅に縮小した。
 ⑥正規雇用を増やすことは、国民の生活の安定に大きく寄与するのはもちろんのこと、納税者をふやし、国の税収増加につながる。さらに、現在、市町村国民健康保険への加入を余儀なくされている若年非正規労働者を厚生年金に加入させることにより、市町村国保の財政の改善にもつながる。

 野田政権が強引に進めようとする「社会保障と税の一体改革」は三党合意を経て、「一体改悪」の本質がますます鮮明になった。昨日の私の講演のテーマに引き寄せていうと、生活保護受給者へのバッシングを政治が率先してあおる一方で、最低賃金が生活保護費さえ下回るという民の貧困(税源の縮小・枯渇)を放置したまま、国の富を増やそうと躍起になる酷い政治――政治の本来のミッションと真逆の政治といえる。

 消費税採決ストップを目指す超党派の意思表示の場を
 最近のマスコミは参議院で審議中の消費税増税法案の可決は不動で、可決後の政局の動きに関心を集中させるいつもながらの先回り報道に付和雷同している。
 しかし、その参議院での消費税増税法案の審議の状況はどうか。一昨日の審議の模様をテレビ中継で見ていると、「あなたの国家像を聞かせてほしい」というみんなの党の議員の質問に対して、野田首相は、「今日よりも明日という、希望の持てる社会というのが私の国家像」と答えていた。質問も野暮なら答弁はそれに輪をかけて締まらないものだった。昨日の講演では、このような野田首相の答弁を紹介し、「皆さんが所属される党の党首のことをこう批判するのは不躾かも知れないが」と断って、「まるで中学校の弁論大会を聞いているようだった」と話した。正確に言えば、中学校の弁論大会でも、もっと生き生きした生活体験にもとづく中身の濃い弁論があるに違いない。
 このような体たらくな審議に何時間かけたから、採決の条件は整ったなどと思考停止の国対的発想で採決に進むのを黙過しているわけにはないかない。
 講演の帰りがけに、過日、憲政資料館で開かれたような消費税増税法案のストップを目指す超党派の議員の集会をぜひ呼びかけてほしいと要望してきた。

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拙書『消費増税の大罪』(柏書房)を出版しました

 去年の暮れから執筆してきた拙著『消費増税の大罪』がようやく出版にこぎつけ、昨日(710日)配本になった。このブログで自著をPRさせていただくことにする。

 出版元の柏書房のホームページの<新刊案内>で、本書の内容紹介、章別目次、著者略歴が掲載されています。

 
醍醐聰著『消費増税の大罪――会計学者が明かす財源の代案』 柏書房刊
 http://www.kashiwashobo.co.jp/cgi-bin/bookisbn.cgi?isbn=978-4-7601-4138-8
 


章・節までの詳しい目次は次のとおりです。

『消費増税の大罪』 詳細目次 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/table_of_contents_shohizeinotaizai.pdf

2012_07110036_2

 本書で私が伝えたかったことを「はしがき」のなかで簡潔にまとめたつもりです。その部分を転載しておきます。

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            「はしがき」からの抜粋

 本書には、『消費増税の大罪』といういささか誇大な書名が付いた。ただ、消費税増税の議論を概観してみると、やはり「大罪」と断じるべき当事者が三者いるように思われる。

 第一は、消費税増税を強行しようとする政府である。消費税増税について原点に立ち返った議論を避け、「法案成立に政治生命をかける」「法案採決なら逃げない」などという野田首相の物言いは白々しい。筆者も含め、多くの国民は消費税増税法案の行方には大いに関心あっても、野田首相の政治生命などに関心はない。逃げずに断行しなければならないのは、公約に掲げてもいない消費税増税法案の採決ではなく、応分の負担を渋る富裕層、大企業の説得ではないのか。
 所得が増加するほど負担率が下がる所得税の現実を放置し、高所得者を過剰に保護する金融税制にメスを入れようとしない政治。これを「大罪」と呼ばずして何と呼ぼう。
 わが国の全産業の2005年度~09年度の財務状況の推移をみると、不況下におけるリストラの結果として、総資産が24.4兆円、総負債が20.2兆円減少する中で、利益の内部留保(利益剰余金)は6兆円増加して137.7兆円に達している。
 この間の雇用に対する企業の取り組みはどうかといえば、社会保険料の事業主負担の増加を嫌って、大企業ほど非正規従業員の正規化推進措置が遅れ、定年引き上げや継続雇用制度の導入といった高齢者雇用安定法に則った取り組みも渋ってきた。
 社会保障の担い手を細らせる大企業のこうした利己的行動に対し、政府は断固たる態度で臨もうとせず、それどころか、経済界が主張する「国際競争力の強化」「雇用機会の拡大」というおざなりの大義名分を検証もなしに受け入れ、挙げ句の果てに法人税の4.5%減税などという大盤振る舞いをしようとしている。

 大罪と呼ぶべき第二の当事者は、消費税増税に翼賛する大手マスコミである。特に大手全国紙は、民主党政権が消費税増税法案を閣議決定した際には、「豹変して進むしかない」(「朝日新聞」20111231日、社説)と弁護を買って出たうえ、消費税増税に異論を唱える者に向かっては「反対なら代替案示せ」(「毎日新聞」201217日、社説)と開き直った。
 政党、専門家の間のあいだの論争なら、代案を添えた批判が求められる。一方、メディアは独自の取材にもとづいて国民に多面的な知見を提供し、熟議をはぐくむのが使命である。そうであれば、今のメディアに求められているのは、消費税増税以外の選択肢を示すことであろう。「代替案示せ」という警告は、みずからに向けられるべきものだ。

 大罪の第三の当事者は、政府・財務省の論調と平仄を合わせて消費税増税の旗ふり役をつとめる専門家たちである。学問的立場からあるべき税制について持論を交わすのはもちろん望ましいことだ。しかし、少しでも事実を確かめようという気があればすぐに誤りとわかる主張を、専門家という肩書で国民に向かって喧伝する社会的責任はきわめて重い。
 その典型例として、本書では「ライフサイクル仮説」に基づく「消費税=比例税」論(=消費税は年度ごとにみると所得に対して逆進的だが、高所得者も亡くなるまでにすべての貯蓄を使い切って消費するから、消費税は生涯を通してみると所得に比例した税になるという考え方)を取り上げた。世帯主が60歳代以降の世帯では、平均1,2001,400万円台の貯蓄が取り崩されることなく相続されている実態を確かめるだけで、ライフサイクル仮説には消費税の逆進性を否定する説明力がないことが明らかになる。こうした初歩的な事実を無視して消費税の逆進性を打ち消そうとする専門家たちは、曲学阿世ならぬ「曲学阿政」の徒と断罪されてしかるべきだ。

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