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TPP問題:関税撤廃の「聖域探り」に焦点を当てるメディアの愚かさ(3:完)

非関税分野のTPPの危険性を黙過するメディア
 このブログの214日付けの記事で指摘したが、TPPには文字通りの関税撤廃の問題と非関税障壁撤廃の問題がある。自民党が2012年の衆議院総選挙にあたって、これら両方を含んだ6項目をまとめていた。
 
①政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
 ②自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
 ③国民皆保険制度を守る。
 ④食の安全安心の基準を守る。
 ⑤国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
 ⑥政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

 ところが、政府が212日に、衆議院予算委員会の理事に提出した「TPPの交渉参加に対する基本方針」と題するペーパーで記載されたのは上の①だけで、②以下はすっぽり抜けていた。
 219日の参議院予算員会で紙智子議員(日本共産党)はこの点を取り上げ、自民党の公約は6つがセットではなかったのかと質した。具体的には、④について残留農薬や食品添加物の使用規制などが米国から貿易の障害になると指摘されたらどうするのか、③について混合診療の解禁や株式会社の医療への参入を要求されたらどうするのか、と追及した。

自民のTPP総選挙公約、6項目守るなら参加断念を (しんぶん赤旗、20132.20
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-02-20/2013022001_01_1.html

国会でなされた核心をつく質疑を伝えないメディア
 これに対して、安倍首相は、「聖域なき関税撤廃以外の5項目も踏まえて交渉参加を判断していく」、「国民皆保険をゆるがす考えは毛頭ない」と答えた。林農相も「6項目に反することが明白な場合は交渉参加は難しい」と答弁した。②以下の公約は抽象的な文言であるため、それに反するかどうかの解釈がもつれることは十分予想される。しかし、オバマ大統領との交渉に先立つ国会審議の場で、安倍首相ほか関係閣僚からこうした答弁がなされた意味は大きい。

 実は、野党時代の自民党議員も医療分野におけるTPP、具体的にはISD条項の危険性をどこまで認識しているかについて民主党政府を追及したことがある。

佐藤ゆかり議員質問(20111111日、参議院予算委員会)

http://www.youtube.com/watch?v=XJtWmYBNKck


 質疑の中で佐藤議員は、まず(ビデオの00:30以降)、TPPは通商条約を超えて国家・社会全体を網羅する話だと指摘、その後(550頃から)アメリカが各国とかわした協定の中に、知的財産権保護条項やISD条項(他国の民間企業が協定参加国の規制によって、特許権を侵害されたという訴訟を起こすことを認める条項)が含まれていたため、ジェネリック医薬品の開発が滞ったこと、薬価を押し上げ、低所得層が使えなくなる恐れが生まれたことなどを紹介し、TPPとは単なる関税問題ではなく、国家・社会の仕組みを揺るがす大きな問題だとして、当時の野田首相や小宮山厚労相に見解を質している。


 話を今月19日の参議院予算委員会での質疑に戻すと、翌日(2013220日)の全国紙を見ても、紙議員と政府との上記の質疑の模様はほとんど伝えられていない。
 「朝日新聞」は5面で19日の参議院予算員会の「焦点採録」を掲載したが、紙議員と安倍首相のやりとりについて、
 紙智子氏「日米首脳会談でオバマ大統領に聖域を確認するか。」
 首相「聖域があるかないかを確認する。」
という質疑を記しただけで非関税分野のやりとりは全く伝えていない。
 「読売新聞」は、「TPP、例外設けられるかどうかだ首相」という見出しを付けた記事の中で、聖域なき関税撤廃を前提条件とする以上、交渉には参加しないとの選挙公約を前提にして国益を確保するよう全力を尽くすとした安倍首相の公式的答弁を伝えただけだった。非関税分野の規制撤廃については、自民党外交・経済連携調査会が国民皆保険や食の安全などに関する6項目の基本方針をまとめたことについて「重く受け止めている」と述べた、と伝えるにとどまった。
 「毎日新聞」も、「TPP踏み込めるか 関税撤廃『例外』焦点に」という見出しで、山田俊男議員(自民党)が「個別の事情に配慮すると言われて、(参加を)判断すれば間違いになる」と懸念し、慎重に「感触」を分析するよう要求したこと、医療保険の分野について、安倍首相が国民皆保険は交渉で揺るがす考えは毛頭ないと答弁したことを伝えたにとどまり、「例外」をめぐる「感触」に大半の紙面を割いている。

経済分野の報道で進行するメディアの大政翼賛体制
 TPP交渉への早期参加を政府に促す社説を次々と掲げた全国紙には、この程度の報道しか望めないのか。
  「TPP交渉参加を決断し成長戦略の柱に」(「日本経済新聞」25日)
  「首相はTPP参加へカジを切れ(「読売新聞」28日)
  「TPP交渉 参加を決断する時だ」(「毎日新聞」215日)
  「TPP交渉/主体的に関わってこそ」(「朝日新聞」215日)


 消費税増税の場合と同様、全国紙が国民に問題の核心に迫る情報を伝える使命をおざなりにしたまま、熟議に程遠い重要テーマについて、歩調をあわせて時の政府に「決断」を迫る構図を見ると、経済分野からメディアの「大政翼賛体制」が進行していると思える。この点を早い機会に詳しく論じたいと思っている。

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