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全国の大学教員有志:安倍首相宛てにTPP参加交渉からの即時脱退を求める運動を開始

6割以上がTPP交渉への参加を支持したというが
 315日に安倍首相はTPP交渉への参加を表明した。これについて、全国紙はこぞって「交渉参加」の決断を迫り、参加の意思表明を「歓迎」する社説を掲げた。また、全国紙が行ったどの世論調査でも回答者の6~7割が交渉参加を支持すると答えている。その一方で、全国道府県では「反対」が19、「慎重に」が25、で賛成はゼロだった(「産経ニュース」315日、2306)。また、大半の地方紙も交渉参加に鋭い疑問を投げかけている。なぜ、こういう「ねじれ」が起こるのかを研究することは「世論はどう作られるか」を考える上で重要である。
 その際に注目したいのは、地方紙の社説がこぞって、TPPへの参加が地域社会・経済に及ぼす深刻な打撃をリアルに指摘しながら、政府のTPP交渉参加に危惧を表明している。これに対して、全国紙の社説が通商の「世界標準」づくりに日本が主体的に関わるべきだ(『朝日新聞』2013215日社説)とか、交渉参加の「決断が遅れるほどTPPの貿易・投資ルールに日本の意向を反映しにくくなる」(『毎日新聞』2013215日社説)、「自由貿易と投資を拡大し、アジアの活力を取り込むことが、日本の経済成長に欠かせない。〔TPP交渉への参加は〕そのための大きな一歩となるだろう」(『読売新聞』2013316日)といったように、初めに「交渉参加ありき」の跡付けの論調になっているのが特徴といえる。
 また、全国紙の世論調査の結果を立ち入って見てみると、日本の農業や健康保険制度を守ると言う発言通りに日本が交渉を進めることができるかと尋ねると、「できる」が39%であったのに対し、「できない」が40%と意見は拮抗している。また、安倍首相の交渉参加表明を「評価する」層でも、31%は「発言通りに交渉できない」と見ている(『朝日新聞』デジタル、2013317日、2235分)
 また、「期待と不安のどちらが大きいか」という質問に、「不安」との回答が48.4%で、「期待」の42%を上回った。また、「政府が国民に十分メリット、デメリットの情報を提供していない」との答えが79.9%、「日本の農業にとって悪い影響の方が大きい」が59.9%、「国民皆保険に悪影響が出る」42.5%、と、TPP参加への懸念も根強いことが示されている(『産経ニュース』2013318日、1416
 こうした世論の動向を見ると、多くの国民はTPP交渉への日本の参加の是非を判断する情報をいまだ得ていないことが窺える。それだけに、前記のようなTPP交渉への参加に関する支持率が独り歩きすることは好ましくないといえる。

全国の様々な分野の大学教員が共同で
 こうした世論、民意の動向を見て、全国各地で、様々な分野の研究に携わる大学教員の有志がそれぞれの研究で培った知見に基づいて、TPPがはらむ危険な内容を国民に伝えるとともに、政府に対してTPP参加交渉からの脱退を求める要望書を提出しようということになった。私もこの運動の発起者の一人として呼びかけ人に加わっている。
 呼びかけ人(2013331日現在)の名簿を添えた要望書の全文は次のとおりである。

 内閣総理大臣 安倍晋三氏宛て「TPP参加交渉からの即時脱退を求める要望書」(全国大学教員有志)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/TPP_yobosho20130331.pdf

 呼びかけ人は328日から、全国の大学教員・名誉教授・元教員の方々に向けて、この要望書への賛同を呼びかける運動を始めた。以下は、その呼びかけ文である。私も呼びかけ人の一人として、多くの大学教員の方々から賛同が寄せられることを願っている。

 なお、安倍首相宛てにこの要望書を提出した後、呼びかけ人(今のところ6名)が出席して、つぎのとおり、410日に記者会見を行うことが決まっている。

  410日 10時~12
  参議院議員会館 B106 会議室(地下1階)

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全国の大学教員・名誉教授・元教員の皆様

 私たちは先日、日本政府が交渉に参加することを表明したTPPの危険な本質を多くの国民に伝えるとともに、この4月上旬に、安倍首相と日本政府に対し、直ちに交渉から脱退することを求める添付のような申し入れをすることにしました。
 つきましては、全国の大学教員の皆さまに賛同を呼びかけ、賛同者名簿を添えて安倍首相と政府に申し入れをするとともに、記者会見でこの申し入れを広く国民にアピールしたいと考えています。
 この申し入れにご賛同いただける方は下記にご記入の上、48日(月)までに、
  tpp2013@mbr.nifty.com 
へ送信くださるよう、お願いいたします。

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 私は安倍首相宛て「TPP参加交渉からの即時脱退を求める要望書」に賛同します。
  お名前
  所属と専攻(○○大学教授・△△学専攻)
  メール・アドレス
  メッセージ(100字以内でお願いします。)
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注:①お名前・所属はそのまま公表させていただきます。 
  ②メッセージも原文のまま公表させていただく場合がありますので、ご了承ください。
  ③このメールをお知り合いの大学教員・名誉教授・元教員に拡散していただけましたら幸いです。

                              以上

呼びかけ人(2013331日現在)
 磯田 宏(九州大学准教授/農業政策論・アメリカ農業論)
 伊藤 誠(東京大学名誉教授/理論経済学)
 大西 広(慶応義塾大学教授/理論経済学)
 岡田知弘(京都大学教授/地域経済学)
 金子 勝(慶応義塾大学教授/財政学・地方財政論)
 志水紀代子(追手門学院大学名誉教授/哲学)
 白藤博行(専修大学法学部教授・行政法学)
 鈴木宣弘(東京大学教授/農業国際)
 醍醐 聰(東京大学名誉教授/財務会計論)
 萩原伸次郎(横浜国立大学教授/アメリカ経済論)
 日野秀逸(東北大学名誉教授/福祉経済論・医療政策論)
 渡辺 治(一橋大学名誉教授/政治学・憲法学)

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採決あって審議なし~佐倉市議会総務常任委員会の惨状(2)~

 以下は、一つ前の記事に続く佐倉市議会総務常任委員会(2013319日開催)を傍聴した4人の佐倉市市民の傍聴記である。4人の方全員から転載の了解をいただいたので、それらを掲載させていただくことにした。審議の対象となったのは一つ前の記事で掲載した2件の陳情(市庁舎建設基金条例の一部改正を求める陳情と市庁舎改築/改修計画への市民の参加を求める陳情)である。

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総務常任委員会傍聴記

 委員の皆さん、こんにちは。委員会を傍聴させていただきました。地方自治は、「民主主義の学校」とされています。私たちが住む
佐倉市をより良くするために議員になられた皆さんですから、常日頃から自分の意見を形成するのに、なるべく門戸を広げて吸収し取捨選択されておられると思います。
 一人のスーパーマンの良い意見に賛同し実行されるのを傍観するよりも、多数の侃侃諤諤の意見を戦わせ、時間をかけてもいいからみんなの意見を反映させようとするのが民主主義ですよね。
 職員の答弁がなっていないといいながら賛成するのではなく、一歩でもベターを目指して意見を交わし、佐倉市の課題を解決していって下さい。

                                           Cさん              
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佐倉市議会総務常任委員会傍聴感想 

 3月19日の総務常任委員会に市庁舎改築、改修に関する2件の陳情をし、その討議ぶりを期待して傍聴に行ったが、議員たちの無気力、無反応ぶりに驚いた。
 
清宮委員長が陳述者に対する質問や議員としての意見を求めても、伊藤とし子議員以外の5人は全く反応なし、議員として何らの発言もなく終了してしまった。ただ、採決では、伊藤議員以外は全員、反対に挙手して陳情は否決された。全くお話にならない、委員会傍聴であった。
 反対するなら、陳述者に質問するなり、自分の意見を述べて反対するくらいの気概を持ってもらいたかった。これでは、何の目的を持って議員をやっているのか、全く理解できない人たちの集りと言わざるを得ない。陳述者に対しても,大へん礼を失しているのみならず、こういう議員達が年間一千万円近い税金を喰いものにしているのかと思うと腹立たしくもあり、やりきれない喪失感のみが残った委員会傍聴であった。

                                          Dさん
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常任委員会に於ける市民の陳情議案の審議状況を傍聴して

 昨年に続き今年も総務常任委員会を傍聴した。
広報等では広く市民の声を求めているものの、いざ陳情という形になると審議どころか内容についての質問もなければ討論等はまるで無し!!
 陳情内容が理解されているのか??いないのか?さっぱり解からないが、採決となると『反対』に回る。まるで『市民の陳情等は聞く耳持たぬ。』と言った傲慢な態度が非常に残念であり、このような議員を選んでしまった自分が悲しくなりました。
 
我々も陳情議案がどのように審議され結果が出るのかを時間を割いて傍聴しているのであって、遊びに行っている訳ではない。
もっと真摯な気持ちで議論を交わして欲しい。

                            Eさん
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総務常任委員会に想うこと

 319日開催、総務常任委員会での陳情に対する審議模様の傍聴に強い関心を抱いて参加した。とりわけ「議会基本条例(第3章、市民と議会との関係)」との深い関わりがある事案でもあり、真摯な態度による自由闊達な審議を期待していたが、結果的には失望の念を抱かせざるを得なかった。
 傍聴を通して奇異な感じを受けたことは、採決の結論(今回は否決され残念)にまして、採決に至るまでの過程に注目すべき点が内在していたことであった。すなわち、委員会は委員長の議事進行により採決の段階まで取り仕切られたが、その間、陳情者への質問や協議討論が皆無に近い沈黙の時間が経過し、結局、発言の無い状態で最終採決に至り挙手を以って多数決にて採択された。
 この異常な委員会の当事者は、事案に対する事前の調査・検討もなく、市民から負託された自覚すら持たず漫然と会議に臨んでいる無気力・無意欲な委員に思えてならなかった。この様な委員会は会議体の本質を失った形だけの集団にすぎず、ここでの決議事項は真に有効となるのであろうか、甚だ疑問に感じる。また、諸々の重要事案においても同様な状況の中で採決されているのであろうか。
 この実態は今回の傍聴で初めて明白になったもので、市民の誰もが想像できなかった事態であろう。市民として情けなく、恥ずかしい限りの思いで一杯である。この失態に対し当事者は勿論、佐倉市議会としても少なからぬ市民社会へのイメージ低下は免れず、信頼失墜の早急なる回復を目指して心機一転の奮闘を望んで止まない。

                            Fさん
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佐倉市議会総務常任委員各位

 319日、陳情25号、26号の賛同者の一人として委員会で陳情の趣旨説明をし、その後の審議を傍聴しました。採決終了後、この日のような委員会審議・議員しか持てない佐倉市の市民の一人であることに深い失望と恥辱を感じました。
 審議中、一言も質問、意見を述べないまま、採決となると黙々と否の挙手をする委員。他市では当たり前になっている市庁舎改修・改築計画の検討に市民の参加を求める陳情でさえ、15で否決されるのでは、「
市民の意思を市政に反映させるために競い合い、協力し合う」こと、「市民参加による多様な意見を聴いた上で、公平、公正かつ透明な議会運営の下、議員間の自由闊達な討議を通じて論点を明らかにすることにより政策立案や政策提言を行っていかなければならない」とした市の議会基本条例は死文と化したのも同然です。 

 しかし、私はこれに落胆せず、よい意味で、「この市民にしてこの議会、この議員」となるよう、そして「良貨が悪貨を駆逐する」理性ある民意が佐倉市に広がるよう、尽力しなければという決意を新たにしました。

                             醍醐聰
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なお、2件の陳情提出の代表者U.Mさんが起草し、市民有志の賛同で総務常任委員宛てに次のような文書を321日付けで発送した。

 佐倉市議会総務常任委員宛て「陳情25号、26号 総務常任委員会における反対理由書を求める申し入れ書」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/somu_zyoniniinn_hantairiyusho_yobo.pdf

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採決あって審議なし~佐倉市議会総務常任委員会の惨状(1)~

 近年の地方分権の流れに呼応して、多くの自治体で「議会基本条例」が制定されている。その骨子は、地方議会が二元代表制のもとで、議事機関としての役割・機能を十分に果たすため、情報公開と住民参加を重んじた活動に徹することを謳う点にある。また、議会内でも議員相互間の自由闊達な討議の推進、市民との対話を通じた住民意見の的確な把握に努めることを謳った自治体も少なくない。
 私が住む千葉県佐倉市も議会基本条例を制定し(20101228日、条例第34号)、その前文で「議会及び議員は、積極的な情報公開を通じて市民への説明責任を果たし、市民参加による多様な意見を聴いた上で、公平、公正かつ透明な議会運営の下、議員間の自由闊達な討議を通じて論点を明らかにすることにより政策立案や政策提言を行っていかなければならない」と定めている。さらに、第3では「議会の活動原則」として、「一 公平性、公正性かつ透明性を重んじた議会運営を目指すこと。二 議決責任を認識し、市民に対して積極的な情報公開を図り、説明責任を果たすこと。三 市民が参画しやすい議会運営に努め、市民の多様な意見を把握した上で政策立案、政策提言等に取り組むこと。四 市長その他の執行機関の市政運営について監視し、及び評価すること。五 議員間の自由な討議の場を設けるよう努めること」を謳っている。

 しかし、わが佐倉市議会の実態は、こうした美しい条文とは隔絶していることを改めて思い知らされる体験をした。それは2013319日に開かれた市議会総務常任委員会を傍聴して目の当たりにした委員会での陳情の審議の惨憺たる模様である。陳情というのは、佐倉市民有志(代表者・U.Mさん、賛同者18名ほか)が2月議会に提出した次のような2件の陳情のことである。

 陳情第25号「佐倉市庁舎建設基金の設置、管理及び処分に関する条例の一部改正を求める陳情書」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kikin_zyorei_minaosi_chinzyo.pdf

 陳情第26号「佐倉市庁舎改築、改修計画について佐倉市民の声を反映する場、機会を求める陳情書」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/sichosha_simin_sanka_chinzyo.pdf

 これらの陳情の審議を付託された総務常任委員会が319日に開かれるというので、陳情に賛同した18名の中の9名が委員会を傍聴した。当日、午後2時に集合したが、他の議案の審議が大幅に長引き、委員会室の隣の空き部屋で約1時間待機。3時過ぎに部屋に入室。まず清宮委員長から陳情者に陳情の趣旨説明を5分以内でと促され、この日、代表者のUさんが所用で傍聴できなかったため、代わって私が手短に趣旨説明をした。
 その後、審議となり、冒頭、委員長から、①市庁舎については改修(耐震補強工事等)か改築(建替え)かまだ決まっていない段階だが、それが決まった段階での市民参加という考えはないか、②陳情第25号の文書に「議会を基軸として」とあるが、どういう意味か、という質問があった。これについて、私から、①については、私たちは計画の大枠が決まってからの市民参加ではなく、改修か改築かという大枠を協議する早い段階からの市民参加が重要と考えている。現に県内の他市―――浦安市、市川市、木更津市、白井市、習志野市など――では、改修か改築かを検討する段階から公募市民が協議に参加している。今回の陳情はこうした要望を前提に提出していると返答した、また、②については、議会基本条例の前文で、市民から多様な意見を聴取しつつ議会運営に当たるという精神を確認する意味で記載したもの、と返答した。
 問題はこの後の審議である。委員長が各委員に質問、意見を促したものの誰一人、発言する議員なし。しばらく間を置いても沈黙が続いたため、委員長は審議を打ち切り、採決に入った。すると、委員は「粛々と」否の挙手。あっけなく陳情は15で否決されて落着となった(委員長は可否同数の場合以外は採決に加わらない)。
 他の市では当然のこととして公募市民も参加する形で検討がされている市庁舎改修/改築計画について、佐倉市では市民参加の場を設けるよう求める陳情が圧倒的多数で否決されたのも驚きだが、それ以上に驚きあきれたのは、趣旨説明をした陳情者に対する質疑を一切せず、審議の場でも賛否の理由を一切発言しないまま、採決だけを急ぐ「採決あって審議なし」の実態だった。これで何が「市民に対する説明責任」なのか、何が「議員間の自由闊達な討議」なのか。憤りを通り越してあきれ果てたというのが陳情者全員の感想だった。
 退室しかけた私のところへ委員長が近づいてきて、「文書を手直しして、もう一度出し直す考えはないか」と話しかけられたので、「否決の理由も知らされないまま、再提出もないですね」と答えた。
 その後、陳情賛同者有志(=傍聴者)は市役所1階のロビー集まり、今後の対応を相談した。その結果、まずは、傍聴者一人一人が傍聴感想記を書き、それを総務常任委員全員に届けようということになった。3日後には7名の傍聴者の感想記がUさんのもとに集まった。
 皆さんの了解を得たので、匿名で(私の感想記は実名入りで)全文を2回に分けて、このブログに転載することにした。この記事では2人の傍聴記を載せ、残りの5人の傍聴記は次の記事に転載することにする。
 
 
なお、2件の陳情に対する各委員の賛否は次のとおり。
   委員長  清宮 誠(さくら会) 議決に不参加
   副委員長 橋岡協美(さくら会) 反対
   高木大輔(無会派)       反対
   松原 章(さくら会)      反対
   伊藤壽子(市民ネットワーク)  賛成
   村田穣史(みんなの党)     反対
   小須田稔(公明党)       反対

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佐倉市議会総務常任委員会 市民参加陳情の審議について

 議会は本来政策を討議することが基本です。ところが、委員の方々は、市民の心底からの陳情の意味が理解できないか、理解不能なのか、討論もせず沈黙の40分間でした。採決だけにはこれも無言の反対の挙手。まるで採決ロボット。「沈黙は金なり」というが、報酬の「金」だけはご馳走さん。なんとも情けない。巷では、市職員からも議員の資質に疑問符、あきれ果てているとか・・・。賛成ならともかく、反対するなら、その理由を堂々と述べることが、世の中の常識、議員の品格というものでしょう。佐倉市は本当に「選ばれる街(市)」になれるのだろうか?

                             Aさん
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市民参加陳情の審議について

 3月19日の総務常任委員会を傍聴して唖然とした。市民代表が陳述した後に清宮委員長が、2,3の質問をされたが、その後各議員(6名)からは何の質問・意見も無いまま最後にまとめて行われた採決では、陳情3件は推し測ったように否決された。
 毎回議会だよりを見ても分かるように、市長からの議案は99%可決、市民からの陳情は、否決が連綿と行われている現場を目の当たりにした。
 私が選んだ議員が、この場に居たら次回の選挙では入れない。自分の意見も持たない、発言も出来ない人に我々の声を市政に届ける資質は皆無だ。

                             Bさん

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今朝(3月22日)の『朝日新聞』「私の視点」欄に拙稿、掲載

 今朝(2013322日)の『朝日新聞』の17面、「私の視点」欄に拙稿「企業の社会的責任 内部留保に課税すべきだ」が掲載された。関心を持たれた方には一読いただけるとありがたい。
 なお、参考までに、消費者物価と現金給与の推移(2000年=100)、業績回復局面での企業の1人当たり経常利益と平均給与の推移をグラフ化したデータを掲載しておきたい。

   消費者物価と現金給与(調査産業平均、医療分野)の推移
   http://sdaigo.cocolog-nifty.com/pricewages.pdf

 業績回復局面での企業の1人当たり経常利益と平均給与の推移
 
 
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/profitswages.pdf

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TPP/政府と北海道の試算:どちらにリアリティがあるか?

 日本がTPPに参加することによって、関税が撤廃された場合の影響を試算したデータが政府と北海道から公表された。これについての元資料を紹介したうえで、それらに関する私の、ごくごく初歩的であるが、コメントを記すことにしたい。

「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」(内閣官房2013315日) 
 http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130315_touitsushisan.pdf 

「関税撤廃による北海道農業等への影響試算」(北海道農政部、2013年3月)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/eikyosisan_hokkaido20130319.pdf
 (北海道農政部農政課 政策調整グループに依頼して送ってもらった試算文書である。同グループの担当者の話では、今現在、道のHPにはアップしていないとのこと。) 

 なお、201111月に北海道が公表した次のような文書がある。 
 TPP協定の影響に関するQ&A(北海道) 
 
 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/ssa/ssk/TPP_QA2.pdf 

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 政府の試算のポイントは、新聞でも報道されているように、 
 (1)日本経済全体への影響(GDPベース) 
    輸出 +0.55%(+2.6兆円)  輸入 ▲0.60%(▲2.9兆円)
    消費 +0.61%(+3.0兆円)  投資 +0.09%(+0.5兆円)
 (2)農林水産物生産額 ▲3.0兆円 
というものである。 
 他方、北海道の試算のポイントは、
   生産減少額(12品目)▲ 4,762億円
   影響額合計      ▲15,846億円
    農業生産額     ▲ 4,931億円
    関連産業      ▲ 3,532億円
    地域経済      ▲ 7,383億円
   雇用への影響     ▲  11.2万人
   農家戸数への影響   ▲  2.3万戸

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 それぞれの試算については、その方法まで立ち入った詳細な検討が必要であるが、大枠でみた時の決定的な違いは、農林水産業への影響が及ぶ範囲の捉え方の広狭である。
 政府の試算が、農林水産物生産額の減少という、いわば第一次的影響の試算にとどまっているのに対して、北海道の試算はそうした第一次的影響に加え、関連産業に及ぼす影響、さらには地域経済に及ぼす影響(それぞれの試算の方法の概略は添付した文書の3ページで説明されている)も試算している
 しかも、北海道の試算では、第一的影響が▲4,931億円であるのに対して、関連産業への影響が▲3,532億円、地域経済への影響が▲7,383億円となっており、第一的影響よりもはるかに大きいマイナスの影響となっている
 しかし、TPPの影響は、北海道関係者などが早くから指摘してきたように、農林水産業の生産に及ぼす直接的即物的影響にとどまるものではなく、農林水産物を加工する関連産業、さらにはそうした産業を主たる基盤にした地域経済に及ぼす影響まで考慮しなければ、生きた影響試算にならないことは明らかである。
 この点で、政府の試算(DGPベースの影響試算)は国全体のマクロ経済への影響試算といいながら、農林水産業となると、関連産業や地域経済に及ぼす影響を視野に入れない、極めてずさん、かつ、首尾一貫しないものである
 こうしたデタラメな数字が独り歩きしないよう、徹底した批判の広報が必要である。

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TPP交渉参加反対の緊急集会に参加

 今日(2013年3月12日)、午後1時から日比谷野外音楽堂で開かれた「国益を守れないTPP交渉参加断固反対緊急全国集会」に参加した。開会時刻5分ほど前に会場に着いたが、すでに満席。全国のJAなどから参加した人々が着用した色とりどりのウインドブレ-カ-で華やいだ雰囲気ながらも、張り詰めた空気に包まれていた。
 夜のテレビ・ニュースは主催者を「農協、漁協など」と伝えていたが、正しくは、全国農業協同組合中央会(JAグル-プ)、全国農業会議所、全国漁業協同組合連合会、全国森林組合、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、大地を守る会、パルシステム生活協同組合連合会、社団法人中央酪農会議からなる実行委員会の主催。

 JAグル-プの萬歳章会長に始まり、全漁連代表、鈴木宣弘・東大教授、佐野
真理子・主婦連事務局長、パルシステム生協代表、STOP TPP!! 市民アクション代表、全国学校給食を考える会代表、JA福島女性部会代表、岩手建設業協会代表らが次々と意見表明を行った。
 その後、出席した各政党代表(石破茂・自民党幹事長、井上義久・公明党幹事長、郡司彰・民主党ネクスト農水大臣、森ゆう子・生活の党代表代行、志位和夫・日本共産党委員長、福島瑞穂・社民党党首、舟山康江・みどりの風政調会長)が順次、あいさつをした。
 その中で、私の印象に残った発言を紹介しておきたい。

 全国学校給食を考える会代表
 「私たちは地場型学校給食を作る運動を進めてきた。学校給食を三たび、外国の余剰農産物のはけ口にしてはいけない。いつ、誰が作ったかわからないものを学校給食に使ってはいけない。」

   
鈴木宣弘・東大教授
 「日米首脳会談の後、アメリカ政府は国内農業団体に対して、『日本は全ての農産物の関税を撤廃すると約束した』と説明し、業界を喜ばせている。」「自民党は公約破りをどう思っているのか。人間として恥かしくないのか。」

 石破・自民党幹事長
 「交渉にいつ参加するかどうかは首相の専権事項だが、党として6項目の公約を踏まえて判断するよう安倍総理に申し入れている。」「われわれは公約を守らなかったら、どういうことになるか、よくわかっている。前政権がそれを示したことを知っている。」

 舟山康江議員
 「国益を守れるTPPなどない。国益を守れないTPPに参加することはあり得ない。」

 
 
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TPP交渉参加:政府のまやかしと国民分断報道を乗り越えて

亡国の「感触」外交
 政府は、223日未明に行われた安倍首相とオバマ大統領の日米首脳会談の場で、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に日本が参加する場合には、「聖域なき関税撤廃」が前提ではないことが明確になったと述べ、来週中にも、交渉参加を正式に決定する方針と伝えられている。こうした日本政府の解釈には重大なまやかしがある。

 なぜなら、「聖域」という以上、アンタッチャブル(手を付けない)という意味であり、初めから交渉のテーブルに乗せないという了解がなければ「聖域」が認められたと言えないからだ。げんに、政府筋は、会談のシナリオ調整の段階では、オバマ大統領の応答に「オン・ザ・テーブル」(=すべての品目を交渉の机に乗せる)という文言が入ることを最も警戒していた。なぜなら、例外なく交渉の対象にすると宣言されれば「聖域なき関税撤廃」を通告されたに等しいと日本政筋も考えていたからである。(「産経ニュース」2013220日、1432分)

 ところが、こうした文言が入ることが避けられないとなるや、政府筋は、「全品目を対象にしても結果は交渉次第というのが常識的な落としどころ。全品目の関税ゼロが交渉参加の条件とはならない」とみなし、「オン・ザ・テーブル」でも交渉参加に踏み出すと判断したのである(同上「産経ニュース」)。

 これをみても、「聖域が存在する」ことが確認できたとみなす政府の言い分は、「はじめに交渉参加ありき」で用意したシナリオのつじつまを合わせるまやかしの強弁である。しかも、かりに「例外」が認められたとしても、それは当面のことで、参加後510年以内にすべての品目の関税を撤廃するのというのが参加国間で合意された原則である。こうした事実を伏せて交渉参加にのめり込む政府の方針は、それによって農水産業者や地域が壊滅的な打撃を受けることを考えれば、「亡国の感触外交」といって差し支えない。

後発交渉参加国は先決の3条件に制約される
 折しも、38日の朝刊で『東京新聞』ほか数紙は、昨年6月にメキシコ、カナダが交渉参加を認められた際には、先発9カ国から、(1)包括的で高いレベルの貿易自由化を約束する(2)合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さない(3)交渉の進展を遅らせない、という条件が付いていたことを伝えた。
 しかも、日本政府は昨年3月にこの内容を把握していたにもかかわらず国会審議でも明らかにしなかった。岸田外相は8日の衆院予算委員会で、メキシコとカナダが条件を受け入れたかどうかについて明言を避けたが、「日本が交渉に参加した場合、この3条件によって議論が制約される可能性もある」(『毎日新聞』2013310日)のは間違いない 

自民党の公約隠し
 メディアは、TPPへの参加で農家は打撃を受けるが、消費者は安い輸入品で、輸出産業は相手国の関税撤廃易で、それぞれ恩恵を受けると報道している。本当にそうなのか?

 「輸出が伸びる」代表例として挙げられるのはアメリカ向けに輸出する自動車産業である。しかし、アメリカが4輪自動車に課している輸入関税は2.5%で、撤廃するとしても5年後。年率0.5%の関税撤廃でなにほど輸出の追い風になるのか? しかも、アメリカ側はこれだけの関税すら直ちに撤廃するつもりはないと公言している。また、2011年時点で関税のかからない海外現地生産台数が総生産台数の63%を占めている日本の自動車産業にとって、関税撤廃が輸出の増減におよぼす影響は少ないのが現実だ。
 他方で、すでに始まっている自動車分野の事前協議でアメリカは、わが国の軽自動車の安全基準審査や自動車税が「非関税障壁」になっているとして、規制の緩和や税金の引上げを要求している(「東京新聞」2013227日)。これに対してスズキの会長は「全部内政干渉だ」と厳しく反論している(「日本経済新聞」電子版、2013226日、2120分)。

 こうした「非関税障壁」の撤廃要求は自動車の分野に限ったことでなく、すでに医療、保険、食品表示、知的財産権など、アメリカ政府や産業界が対日輸出や投資にとって不利な規制なり慣行とみなせば、際限なく、訴訟を起こしてでも撤廃を求めることができるということは、このブログでも何度か指摘したとおりである。
 
  だからこそ、自民党は野党として臨んだ昨年末の衆議院総選挙の公約のなかで、「例外なき関税撤廃であればTPP交渉に参加しない」という項目だけでなく、国民皆保険などわが国固有の制度は守るという5つの項目も公約に明記したのである。そして、日米首脳会談に出発する直前に行われた国会審議の場で安倍首相、林農相はこれら6項目がセットで守られるというのが交渉参加の前提と明言した。ところが日米首脳会談後、政府は非関税分野の公約をまるで忘れたかのように、論点を関税問題だけに矮小化するという「公約隠し」に必死になっている

国民を分断するメディアの報道を乗り越えて
 重大なことは、そうした政府のまやかしを質し、TPP参加問題について国民に的確な判断材料を伝えるべきメディアがそうした任務を放棄して、「例外ありが確認された」という政府広報に翼賛する報道にのめり込んでいる点である。しかも、TPPの非関税分野に存在する重大な脅威から目をそらせて、TPPに関する国民の賛否を分断するような報道をしているのでから、その罪は大なるものがある。
 『日本農業新聞』が38日付の論説で訴えているように、TPPは「ゼロ関税と米国仕様のルール改正・規制緩和を同時進行する異常協定である。このままTPP陣営に加われば、農産物輸出大国の攻勢で地域そのものが消滅しかねない。医療や保険、公共事業の大幅な規制緩和で、国民の命、生活が脅かされる」のである。
 それゆえに、反TPPは同論説が鋭く記したように、「一部報道が指摘するような農業団体のエゴでは決してない。立場によって利害が錯綜(さくそう)する国益などという曖昧なものではなく、生活に根差した国民の利益である「国民益」を目指す闘いに他ならない」のである。

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参加国国民の医療アクセス権を脅かすTPPの知財保護条項

TPPニュース・クリップ コーナーを新設
 このブログの右サイドバ-の最上段に「TPPニュース・クリップ」というコーナーを設けた。新聞・雑誌記事等から得たTPP関連ニュースのうち、これは是非と思うものを掲載する。できれば、毎日更新したいと思っている。
 最新のクリップ「反TPP国民運動 組織挙げ情報発信の時」は『日本農業新聞』2013年3月8日の論説です。多くの方にぜひ一読していただきたい内容です。

印象に残る2人のスピーチ~3.5官邸前行動に参加して~
 このブログでも紹介した35日の「STOP TPP! 官邸前拡大行動」に参加した。地下鉄丸ノ内線を下車、地上に出ると官邸前交差点の一角の歩道に参加者が色とりどりの旗やプラカードを掲げ、通る人用の通路を空けてぎっしり詰めかけていた。
 呼びかけ団体の代表や遠路、北海道、茨城、群馬などから参加した農業団体、農家の人々、それに各党国会議員が次々とスピーチをした。その中で、私の印象に強く残った2人のスピーチを簡潔に紹介しておきたい。
 1人は、パルシステム連合会の代表。「国益」「国益」というが誰の利益なのか、わからない。「国民益」というべきではないか、と発言した。私もこのブログで「国民益」という言葉を使ったばかりだったので大いに共感した。
 もう一人は、みどりの風の舟山康江・参議院議員のスピーチ。安倍政権が参加しようとしているTPPは日本とアメリカの国と国との関係ではなく、日本国民と多国籍資本との関係だ、と発言した。まさにその通りと私も思っている。多国籍資本は、TPPを世界各地で自らの販路を拡大するための好機と捉え、自らの国の政府に強力なロビーイングを行っている。例えば、多国籍製薬資本は知的財産権の保護を盾にTPP交渉で特許期間の延長を要求しているが、これが通ると、ジェネリックネ医薬品の普及は遅れ、参加国国民、とりわけ貧しい人々の医療へのアクセス権を損なうとともに、薬価の高止まりを通じて医療財政の悪化に拍車をかける恐れがある。

国境なき医師団の警告
 
 世界の紛争地や感染症がまん延する地域、自然災害の被災地などで緊急医療援助を行っている「国境なき医師団」(MSF)によると、現在、途上国に供給されるHIV治療薬の約80%、小児患者の治療に用いられている薬の約92%は安価なジェネリック薬である。こうしたジェネリック薬が普及したことで、HIV治療薬の1人当り年間費用は2000年には1万ドル(約84万円)だったのが2011年には約60ドル(約5,000円)まで下がった。
 わが国でも、厚労省は安価なジェネリック医薬品を普及させることによって薬価を引下げ、国際比較で医療費に占める割合が高い薬剤費を節減しようとしてきた。それだけに、TPPや二国間FTAを通じて上記のようにジェネリック医薬品の普及が遅れると、薬価が下がらず、医療財政にも悪影響を及ぼすことが避けられない。安倍政権は繰り返し、「わが国固有の国民皆保険は守る」と言っているが、もっと具体的に何を守るのかの議論をしないと、名あって実なしの「口公約」で終わってしまう。
 こうした事情から、国境なき医師団は次のような見解を発表している。

 「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が薬の流通を脅かす」
 http://www.msf.or.jp/files/20120405_TPP_Issue_Brief.pdf
 この中でMSFは次のように警告している。

 「MSFは、アメリカがTPP交渉を通じて各国に公衆衛生保護政策の緩和を迫り、結果的に途上国の人命が差湯される事態になることを懸念している。」
 「医療分野での知的財産権の保護は、薬価を高止まりさせて治療の機会を狭めている。その結果、購買力の弱い途上国の人々が苦しんでいる。アメリカは、途上国での知的財産権の規制を厳格化・高度化して既得権益を守り、開発費を薬価に反映させる誤ったビジネスモデル固持している。途上国の事情は考慮されていない。」
 (詳しくは、醍醐聰「TPPは薬価制度をどう変えるか」<医薬品業界の経営動向 最終回>、『文化連情報』20131月を参照いただきたい。) 

同じ問題が日本でも起こりうる
 まさに、TPPが国と国との関係というより、<世界各国の国民益>対<多国籍資本>という構図になっていることを物語る典型例といえが、このように高い薬価に阻まれて生命にかかわる医療へのアクセスを断念するまでに追い込まれる事態は日本でも起こっている。しかも、その薬は、インドで特許権保護訴訟を起こした多国籍製薬資本・ノルバティス社が開発した抗がん剤・分子標的薬グリベックである。これについては、ちょうど2年前(2011年3月8日)に、NHKグローズアップ現代で放送されたドキュメンタリーを題材にして、このブログで触れたが、再度、その中の一節を引用しておきたい。

 「Kさんは10年前に骨髄の中ががん細胞で侵され、白血球が増加する「慢性骨髄性白血病」を発症した。当初は平均生存期間45年と言い渡されたが、細胞中の分子をピンポイントで攻撃する「分子標的薬」「グリベック」を服用し始めると、1ヶ月でがん細胞は正常範囲に収まった。」
 「しかし、「夢の医療」は患者にとって朗報と喜んで済まなかった。1錠約3,130円のグリベックを1日4回服用すると高額療養費制度を利用しても、患者負担は月44,000円、年間約50万円になる。Kさんは、夫婦で経営していた店が不振になったこともあり、家計への負担に悩んだ末、妻に内緒で「グリベック」の服用を止めてしまった。すると、症状が急速に悪化、服用を再開したものの手遅れで効かず、昨年11月に死亡した。番組は残された妻の、「貧乏人は死ねということか。悔しい」という言葉を伝えた。「金の切れ目が命の切れ目」という諺そのものの現実を見せつけた場面だった。」

 TPP参加交渉にあたって、安部首相はわが国固有の国民皆保険は守ると繰り返し発言している。しかし、具体的に何をしたら、守ったことになるのかの議論をしないと、名あって実なしの「言葉遊び」で終わってしまう。確かにわが国には、すべての国民を何らかの医療保険に加入させ、資力のいかんにかかわらず、医療を受ける機会を保障してはいる。しかし、現実はどうかといえば、医療費抑制・自己負担拡大政策の結果、たとえば、生活保護を受給し始めた人々全体の20.3%はどの医療保険にも加入していなかった。さらに驚くべきことに、40~60歳台で保護を開始した人々の25%以上がいかなる医療保険にも加入していなかった(以上、厚労省「平成23年度福祉行政報告例」による)。

 この意味では、必要な医療に、資力のいかんにかかわらず、アクセスできる制度が確保されていて初めて、実態として国民皆保険が確立しているといえる。したがって、こうした医療への平等なアクセス権を阻む恐れのある協定に日本が参加することは国民皆保険を守る行為に逆行するといわなければならない。

 追記:国境なき医師団が医療分野の知財保護条項の危険性を指摘した事例として、他に以下のようなレポートがある。
 
国境なき医師団「インド:『途上国の薬局』の危機、製薬会社が特許法に対し訴訟」(201198日)
http://www.msf.or.jp/news/2011/09/5317.php

国境なき医師団「バイエル社、インドでジェネリック薬の製造を牽制」(201294日)
http://www.msf.or.jp/news/2012/09/5696.php

国境なき医師団「大手製薬会社2社、"途上国の薬局"インドで法廷争議―  特許薬の独占権の保護か人命か、裁判の結末がもたらす危機」(2012921日)
http://www.msf.or.jp/news/2012/09/5712.php

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米国産業界にとっての不利事項はすべて不公正な「非関税障壁」とみなされる

 ―――「TPP交渉参加論の5つのまやかし 第2回 非関税分野のTPPの危険性を周知しないまやかし」の番外編として、この記事を書くことにした。―――

執拗
な「アメリカ業界益」の追求~直視すべきTPPの脅威~
 私がTPPについて、もっとも危機感を持つのは、アメリカの産業界が対日貿易・投資にあたって、自分たちに不利と判断した相手国の規制や慣行はすべて「自由貿易の障壁」とみなし、撤廃を求めてくるということである。こういう論法でいくと、「非関税障壁」は際限なく広げられ、最終結果はどうなるにせよ、相手国(日本)の国民益が脅威にさらされる

 現在、進行中の自動車の分野のTPP日米事前協議でも、アメリカは日本の独自規格である軽自動車の税制優遇を問題視し、税率の引上げ、軽規格の廃止を要求している。これについて、スズキ会長は「全部内政干渉」と激しく反発している。

 
スズキ会長「TPPと軽は無関係」 規格巡り米に反発(「日本経済新聞」電子版、2013226日、2120
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD260DS_W3A220C1TJ1000/

 また、自動車分野の日米交渉の中で、日本政府は米側の要求を受け入れ、輸入車の安全や排ガスなど環境性能の基準に関する審査基準を緩和する方向で検討に入ったと伝えられている。

 
「輸入車の安全審査を緩和へ 政府、TPPで米に配慮(「中国新聞」2013227日)
 http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201302260171.html 

 自動車の分野でのアメリカからの「非関税障壁」の緩和・撤廃要求はこれが始めてではなく、201242日に公表された「外国貿易障壁報告書」で、新型車およびその流通の基準、認証に関わる基準・規制策定過程の透明性の欠如、技術基準、および認証手続が国際標準と調和していないとする意見を提起している。

 「
自動車についての米側関心事項」201266日、内閣官房)
 http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20120601/car_us0601.pdf

 「非関税障壁」をめぐる撤廃要求の脅威はこれからの話ではなく、すでに日米交渉の場で現実のものとなっている―――この点を多くの国民が知る必要がある。

日本国民の健康にもかかわる、アメリカの「非関税障壁」撤廃要求
 
 しかも、アメリカの「関心事項」は自動車に限られるわけではない。米国通商代表部が昨年まとめた外国貿易報告書を見ると、農産物・肉類・乳製品等の輸入政策、郵政・保険・金融サービス、流通サービス、電気通信、情報技術、知的財産権、政府調達、投資障壁、独占禁止法、商法、医薬機器・医薬品、民間航空、運輸港湾など、極めて広範囲に渡っている。

 
2012年米国通商代表部(USTR)外国貿易障壁報告書」(日本の貿易障壁言及部分2012420日、外務省仮要約)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp03_02.pdf

ここに盛り込まれたアメリカの対日要求のいくつかを摘記しておく。
 ・牛肉輸入制度 「日本は牛肉及び牛肉製品の輸入を20か月齢以下に制限することによって、引き続き米国産牛肉及び牛肉製品へのアクセスを制限している。」
 ・医薬品価格 「予見可能で安定的な償還価格政策を実施するよう引き続き求める。201241日、2年毎の薬価改定において、日本政府は、試行的に導入されたいわゆる薬価維持加算を向こう2年間継続することを決定した。米国政府は、薬価維持加算については、その恒久化を引き続き求めるとともに、市場拡大再算定制度など、革新的や医薬品の開発と導入を妨げる他の償還政策を導入することを控えるよう日本に求める。」
 ・食品及び栄養機能食品の成分開示要求 「新開発品及び栄養機能食品について、成分と食品添加物の名称・割合・製造工程の表記を求めていることは、負担が大きく、専有情報の競争相手への漏出の危険もある。」

 
 こうしたアメリカからの「非関税障壁」撤廃要求が日本国民の健康にも関わるというゆえんを、200510月に日本政府が米国産牛肉の輸入再開を決定した時の経過を例にして説明しておきたい。この時、日本政府は米国産牛肉について脳や脊髄などの危険部位を除去した生後20か月以下の牛肉であることを条件に芸国産牛肉の輸入再開を決定した。ところが、その翌月に輸入食品の安全性の評価を担ってきた内閣府の食品安全委員会プリオン専門委員会の委員改選にあたって、12名の委員中、6人が辞任するという異例の事態が起こった。辞任した委員の大半は自分の意に反した輸入再開に責任を感じたためと語っている(『読売新聞』200644日)。

 しかし、6人の辞任のきっかけは、2004年9月に委員会がまとめた「中間とりまとめ」の公表にあたって事務方が文書の重要箇所を改ざんしたことにあった。審議の過程で「科学的根拠がない」として委員が退けた、「生後20ヶ月以下の感染牛を発見することは困難」という文言を事務方が委員会に無断で残したまま公表したのである。また、米国産牛肉の輸入再開の審議の際、政府の姿勢に異議を唱えたある委員の研究室を厚労省の担当者が訪れ、「(国から)研究費をもらっていますよね」と露骨に圧力をかけたこともあったという(以上、『東奥日報』2006412日)。ほかでもない自民党政権時代に起こった出来事である。
 しかも、アメリカは上記「外国貿易障壁報告書」の中で、生後20ヶ月以下という基準さえ撤廃を要求していたが、日本政府はこれにも譲歩し、201321日から生後30ヶ月に基準を緩和して米国産牛肉の輸入拡大を図ったのである。

 日本国民の健康に関わる問題でさえ、なりふり構わず、アメリカの要求実現に執心する日本政府に、今回のTPP交渉で日本の国民益を守る意志と能力があるのかどうか、よくよく心得て、国民は民意を示す必要がある。

経済界が期待するのは規制撤廃の国内への波及効果
 
 それでも、安倍政権(民主党政権時代も同じだったが)がTPP交渉への参加にこだわる理由は、表向きの「成長経済の後押し」というよりも、「日米の同盟関係の絆の証し」という政治レベルの動機が非常に強いといえる。日本の経済界が貿易面ではさしたるメリットがないことを知りながら、TPP推進派になっているのは、国内への規制緩和・撤廃の波及効果に期待しているからだと私は見ている。実際、次のような報道がされている。

 
【TPP交渉参加へ】成長戦略、実現に弾み 規制緩和は「関税撤廃以上の効果」
 (産経ニュース 2013.2.23 22:55
 http://sankei.jp.msn.com/economy/print/130223/fnc13022322560005-c.htm 

 TPP問題における日本の経済界の最大の関心事は関税ではなく、規制撤廃の波及効果にあることを示す証拠は、上記の米国通商代表部の外国貿易障壁報告書から逆読みすることもできる。たとえば、米国が、革新的な医薬品の開発と導入を図るためという大義名分で要求している薬価維持加算制度(正式には「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」制度:特許が切れていない新薬で一定の条件を満たすものについては、薬価を特許期間中は据え置いて、特許が切れ、後発医薬品が発売された時点で一気に下げる制度のこと)の恒久化と市場拡大再算定制度(原価計算方式で薬価が算定されている医薬品で、市場規模が当初予測の2倍を超えた場合に薬価を引き下げる制度)の廃止は、米国医薬品業界ばかりでなく、日本の医薬品メーカーも繰り返し、厚労省に要求してきたことだったからである。

 このように見てくると、今回のTPP参加交渉の結果、例外品目が思惑よりも少ないことが判明したからといって、「ここで抜けると日米同盟の絆を損なう」という論法で、そのまま正式参加に進むのは必至だ。日本人は、こうした「なし崩し」の手法に何と、もろいのか。しかし、嘆息ばりしていても始まらない。具体的立証で警鐘を発する努力を続ける必要があると思っている。

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