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TPP影響試算作業チームの北海道現地調査の模様~同行取材したIWJの録画で~

 一つ前の記事で書いたように、私を含む4名の大学教員で結成した「TPP影響試算作業チーム」の3名(土居英二氏、三好ゆう氏、醍醐聰)が513日~15日まで北海道庁、JA北海道中央会、帯広市農政担当職員との意見交換を行ったほか、十勝の士幌町の酪農農家、芽室町の畑作農家、トラック協会、製糖事業者、十勝毎日新聞社を訪ね、現地調査と意見交換を行った。
 これを同行取材したIWJが収録した3日間の調査&意見交換の録画を1日毎に見やすく整理しているので紹介したい。一部、音声が聞き取りにくい部分があるが、TPPへ日本が参加した場合に大きな打撃を蒙ると考えられる十勝の農業、酪農関係者の生の声を多くの方に伝え、かつ大学教員との意見交換(今回は大半が私との対話という形になったが)を生の声でお聞きいただけるのではないかと考え、IWJの了解の得てこのブログに掲載することにした。
 本来なら、私の感想、コメントを添えるべきであるが、明日の記者会見(後述)で発表することにしている。記者会見後、このブログにも転載する予定である。
 なお、3日目最後のまとめのインタビューを先にみていただくと、全体の流れがわかりやすいのではないかと思う。

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1
日目(513日、午後)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/79275
 *北海道庁での意見交換

 *1日目のまとめ(醍醐インタビュー、札幌のホテルにて)

2
日目(514日)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/79277
 *JA北海道中央会との意見交換(冒頭の双方あいさつ部分のみ取材許可)(録画なし)
 *帯広市役所での意見交換
 *帯広トラック協会(専務理事)との意見交換
 *十勝毎日新聞社での醍醐ミニ講演

3日目(5月15日)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/79278
 *士幌町 澱粉工場視察/食用馬鈴薯施設視察
 *士幌町 西上加納農場(酪農・肉牛)視察&JA士幌との意見交換
 *JAめむろでの意見交換
 *めむろ町畑作農家視察
 *日本甜菜製糖株式会社での意見交換
 *3日間の現地調査&意見交換のまとめ(醍醐インタビュー)

 なお、今回の北海道の現地調査と各界の関係者との意見交換で得た知見もあわせ、影響試算の作業が一つの区切りをつけられる状況になったことから、明日、522日の午前9時半から、試算結果を発表する記者会見を下記のとおり行うことになった。これには、私たちとは別に鈴木宣弘氏を中心としたグループも政府の試算の再計算を試みる作業を手掛けておられ、明日の記者会見は合同で行うことになった。

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  日 時  2013522日(水) 930分~1130
  会 場  参議院議員会館 B107会議室(地下1階)
  出席者  鈴木宣弘(東京大学教授/農業経済学専攻)
       醍醐 聰(東京大学名誉教授/財務会計論専攻)
       土居英二(静岡大学名誉教授/経済統計学専攻)
       関 耕平(島根大学准教授/財政学専攻)
       三好ゆう(桜美林大学専任講師/財政学専攻)
  発表内容と発表者
   *鈴木宣弘研究室の発表
 
    TPPが国益に反すること示す再試算結果(GTAPモデルによる)
           発表者:鈴木宣弘
   *大学教員TPP影響試算作業チームの発表
     1.産業連関表を用いたマクロの影響試算
       
   (1)生産、雇用、GDPへのプラス・マイナスの影響
       2)都道府県別にみた影響
 
              発表者:土居英二
 
           2.農業経営統計を用いた所得ベースの影響試算
      1)全国ベースの影響試算
 
         2)北海道の影響試算
         発表者:関 耕平・三好ゆう
 
           3.政府試算との対比で作業チームの試算結果が意味すること
 
                数値の背後にある実態/数値からは見えない実態
         発表者:醍醐 聰

 記者会見の模様はIWJが中継する。中継録画はアーカイブスに入れられ、視聴できる予定。

 なお、当日(522日)午後3時半~4時半、衆議院第1議員会館大会議室で開かれる、TPPを考える国民会議とTPPを慎重に考える会の合同の第46回勉強会に私ども影響試算作業チームが呼ばれ、今回の影響試算の結果の概要を説明することになっている。芽室のてん菜畑で
 

    帯広市役所前に掲げられた旗

Photo
 
 士幌の酪農農場で 
Photo_2
 芽室のてん菜畑で
Photo_3
 緑ヶ丘公園内の中城ふみ子の歌  
 

Photo_5
       母を軸に子の駆けめぐる原の晝 木の芽は近き林より匂ふ 
       中城ふみ子:
        1922(大正11)年11月25日、帯広市に生まれる。1954(昭和29)
        年8月3日、31歳で没。

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北海道庁と帯広/十勝へ、TPPの現地調査と意見交換にーー大学教員影響試算作業チームーー

 私を含め4人の大学教員で立ち上げたTPP影響試算作業チームは明日513日から15日まで北海道に出向き、札幌では道庁のTPP・農業・酪農水産担当者と意見交換会を開くとともに、JA北海道中央会と面会することになった。その後、帯広市に出かけ、市の農政担当者、JA帯広支所と意見交換をするほか、酪農家や関連産業の現場を訪ね、TPPの影響について調査をすることになった。

道庁での意見交換会
 
 13日午後は道庁内で作業チーム3名と道庁の農政部農政課主幹、水産林務部総務課主幹/主任、総合政策部政策局参事、同部経済調査課主査、計7名の皆さんと、日本がTPPに参加した場合の影響および影響の試算をめぐって意見交換をする。そこでは私たち作業チームが事前に道庁に送った質問事項について質疑を交わし、その後、作業チームが手掛けている影響試算のフレーム、それを北海道に適用した試算結果を説明することになっている。

 作業チームから北海道庁へ送った質問事項
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/hokkaido_situmon20130510.pdf

 この意見交換会には「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の意見表明に賛同された道内の大学教員4名も参加される。また、意見交換会は報道関係に公開で行うことになっており、IWJInternet Web Journal)が同行取材して、その模様をインタネットで配信する予定である。配信の予定が決まったらお知らせしたい。

JA
北海道中央会との意見交換
 
 14日午前にJA北海道中央会を訪ね、TPPが北海道の農業・酪農およびその関連産業に及ぼす影響について意見交換をする。そこでは、作業チームが道庁宛てに送った質問事項についてのJA北海道の考えを聞くほか、

 *JA全農は2013年度からの3ヵ年計画にもとづいて、また農業の六次産業化の方針に沿って、農産物の主体的なバリューチェーンを構築する運動を進め、それを農業者の所得向上につなげていくとしているが、このような考え方にそって、JA北海道中央会として特に注力している具体的な取り組みについて、

 *こうした取り組みを推進していくうえで、日本がTPPに参加することは、プラス(追い風)の効果をもたらすのか、それとも障害になる(マイナスの効果)と考えるのかについて。
 
 *政府の産業競争力会議は耕作放棄地や地域に分散した農地をまとめて規模拡大をはかるため、都道府県単位で「農地中間管理機構(仮称)」を設置することを提案しているが、こうした動きについて、JA北海道中央会はどのように考えるか?

 *328日以降、全国の大学教員は870名近い賛同者が集って、TPP参加交渉からの即時脱退を求める運動を起こしているが、こうした大学人の動きに対して、JA北海道中央会はどのように見ているか、今後、どのような役割を期待するか、

について意見交換をする予定だ。

帯広/十勝で
 
 14日午後には、帯広市役所を訪ね、市の農政部の担当者からTPPが日本有数の酪農・畑作が位置する十勝の農業に及ぼす影響について調査し意見交換をする。訪問に先立ち、作業チームは帯広市に次のような質問事項を送った。

 作業チ-ムが帯広市へ送った質問事項
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/obihiro_situmon20130510.pdf

 また、市役所訪問の後、地元のトラック協会、消費者協会を訪ね、それぞれの観点から見たTPPが十勝地方の関連産業と消費者に及ぼす影響についてヒアリングすることになっている。
 なお、この日の夕方には作業チーム一行は十勝毎日新聞社を訪ね、地元マスコミ関係者ほかの方々と懇談をすることになっている。その折、私は40分ほどのスピーチを頼まれたので、私たち作業チームが手掛けている関税撤廃の影響試算の概略、前日の道庁での意見交換の模様を説明するとともに、TPP参加の可否をめぐって全国紙の世論調査、論説と地方紙の世論調査、論説がなぜかくもねじれるのかーーその原因を日本のメディアの報道全般の劣化と関わらせて話し、意見交換をしたいと考えている。


十勝地方の酪農・畑作経営者・製糖事業の現地調査
 
 翌15日には、地元JA帯広支所の案内で、昼食をはさんでJA士幌町、当地の酪農家、JAめむろ、当地の畑作農家圃場・製糖所を訪ね、それぞれの事業の現地調査をする。
 
 作業チームはこれまで産業連関表を使った関税撤廃の影響試算や農業経営統計を使った関税撤廃の影響(特に農業所得への影響)を試算してきたが、作業を進める過程で数字に表れにくい/現れないTPPの影響をリアルに把握する必要性を痛感している。
 
 たとえば、今朝(512日)の「日本農業新聞」には「コンニャクも重要品目」という見出しの記事が掲載されている(妻木千尋記者稿)。記事によると、政府はTPP交渉参加国からは日本へのコンニャクの輸入実績がないため、コンニャクを関税撤廃の例外とするよう求める「重要品目」に加えなかった。しかし、この記事が調査したコンニャクの主産地・群馬県では海外のコンニャク産地は日本がTPPに参加してコンニャクの関税を撤廃したら輸出促進に転じ、外国産が急増すると危惧しているという。ちなみに、群馬県のコンニャク生産量は全国の生産量の9割を占め、加工や流通に携わる関連産業も集中していて、地域経済を支えているという。
 
 地元のコンニャク農産家や県が危惧するのは品種転換、規模拡大によってコンニャク生産の担い手、後継者育成に努めてきた努力がTPP参加で灰じんに帰すのではないかということである。
 
 北海道でも道産野菜を農産物に留めず第一次加工品化する野菜のサプライチェーン構想が進められている。十勝地方の運送業界も乳製品の運送に特化した事業として存続してきたという実態があると言われている。
 
 こうした実態を知るにつけ、「現在」の「TPP参加国」からの輸入実績だけに照らして関税撤廃を除外する「重要品目」を決め、その枠内だけで影響を試算したのでは実態からずれが生じることを銘記しなくてはならない。また、川上の原材料が国産から輸入物に代わっても川下の関連産業は輸入品に切り替えて事業をこれまで同様継続できると割り切ってよいのか、実態と突き合わせた検証が必要になる。
 
 今回の現地調査では、こうした数字に隠れた日本の農業・酪農のサプライチェーンの実態も調べてみたいと思っている。 

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TPP影響試算作業のこと、安部首相の「脅しに屈しない」発言のこと

IWJ代表の岩上安身さんとの「対談」あとがき
 好天に恵まれた今年の連休。皆さんはどうのように過ごされただろうか? 一つ前の記事に載せたように、わが家の生垣には今年も大きな花びらの鉄線が咲いている。
 その記事で予告した430日のIWJ代表の岩上安身さんのインタビュ-。実際はインタビューというより岩上さんの博識が随所に現れた対談だった。多くの方に過分のツイートをしていただき、ありがたく思っているが、声が低すぎてマイクにうまく入らず、お聞き苦しいところが多々あったと思う。ぶっつけに近い中継だったので、資料の出し方などで手際の悪いところがあった。いくつになっても自分を磨くよう精進しなければと反省させられた。

安倍首相の「脅しに屈しない」発言に反応しないメディアーー異常が常態になる空気の怖さ――
 3時間半ほど話し続け、のどが渇き、空腹になっていたので近くで一緒に夕食をとることになった。連日、様々なテーマで各界の人達とインタビューという名目の「対談」をこなす岩上さんの博識と情熱と体力に敬服する。食事中、岩上さんはJA全中に対する持論を展開。話題が安倍首相の歴史観に及んだところで、私は、韓国や中国からの抗議を「脅し」と発言して憚らない安倍氏の歴史観に日本のメディアが全く反応しなかったことに呆れていると話した。そして、こうした歴史観を反証するのに一番効果的なのは、安倍氏らが「英霊」と持ちあげる特攻隊員の生存者が、自分たちを英霊と呼ぶのは欺瞞だと憤っていることを示すのが一番ではないかというと、岩上さんは大変関心を寄せ、手許にある資料を全部貸してもらえないか、できることなら生存者に取材に出向きたいと言い出した。岩上さんらしいなと思ったが、残念ながら特攻経験者で存命の人もほとんど他界されたようだ。もし、話を聴ける方がおられるなら、私も出かけたい。
 帰宅後、去年、地元の講演会用に作った資料――知覧訪問記――をメール添付で岩上さんに送った。以下はその中の一節である。

体当たりという強制された自殺を殉国と美化するのは欺瞞
 「平素率先垂範、陣頭指揮を唱えながら特攻に加わらず、生き残った幹部が出撃していった若者を賛美し、志願によるもの、憂国の情から莞爾として飛び立った等と語るのは欺瞞以外の何物でもあるまい。我々は特攻美化論の背後に、彼等旧軍幹部に潜んでいた責任回避と日和見保身主義を見落としてはならない。」
 
(西川吉光『特攻と日本人の戦争――許されざる作戦の実相と遺訓』2009年、芙蓉書房出版、211ページ)

 「体当たりという自殺行為の記憶は、時代とともに美化された思い出に変わるものではなく、三十数年間を経過したいまでも、身体の傷とともに心の傷として残り、消え去らないものである。」
 
「殉国も、献身も、そのことへの賛辞も、私にはすべてが不謹慎な偽りの言葉に聞こえ、すなおに喜ぶことができない。」
 
(鈴木勘次『特攻からの生還--知られざる特攻隊員の記録』2005年、光人社、1112ページ)

 安倍氏は近隣アジア諸国への侵略に赴かされた日本軍兵士を「英霊」と讃える前に、彼らのこうした叫びに耳を傾けるのが人の道である。

TPP
影響試算で試行錯誤の連休
 その連休だが、日本がTPPに参加し、原則すべての関税撤廃を余儀なくされた場合の影響を独自に試算する作業で明け暮れている。
 428日は試算作業チームに加わってもらった2人の若手の財政研究者と都内で3時間余り検討会。1人は島根から駆け付けてもらった。これまで使ったことのない営農類型別農業経営統計を使って関税撤廃の影響が農業生産額の減少・農業所得の減少・国と地方の税収への影響という波及効果を試算できないかという難しい作業。特に関税撤廃の対象となる品目と農業経営統計で用いられる品目とが1:1で対応しないケースが多く、入口の品目マッチングで作業は試行錯誤の連続。
 これは外部の人間の解釈では手に負えないので、51日、事前のアポで農水省へ出かけ、大臣官房統計部のメンバー5人に質問を投げる。
 54日は、静岡へ出かけて、産業連関表を使った影響分析、特に関連産業の生産額・雇用者所得・営業余剰・消費支出の誘発(この場合は減殺)効果の試算を担当してもらっているDさんも交え、メンバー3人で3時間ほど資料をにらみながら議論。切迫した現実に対峙して自分たちの専攻分野の知見を傾けるやりがいを感じさせられたひとときだった。それまでも、メールで情報交換・意見交換を続けてきたが、少しずつ試算値も定まり、先の見通しが立ってきた。また、自分たちの独自の試算と並行して315日に内閣府が発表した政府統一試算、および農水省が発表した農林水産分野の影響試算の信憑性も検証中である。

思い立って北海道へ
 
 しかし、関税撤廃の影響試算といっても仮定の置き方で結論が大きく左右される点が少なくない。例えば、小麦やてんさい・さとうきびといった農産物の生産が壊滅したら、それを加工・精製する川下の関連産業(製粉業や製糖業など)はどうなるのか? 極端な場合、廃業に追い込まれるのか、それとも原材料を輸入に置きかえて操業を継続するのか、輸入するとしたら、それは政府が踏襲したGTAPモデルの貿易収支にどのように織り込まれているのか? 
 こうした点はもともとモデルで割り切れるものではなく、産業連関、物流の実態を確かめなければ、机上の数いじりになってしまう。
 そこでというと話が飛躍するが、来週、関税撤廃で壊滅的打撃を受けると言われている北海道へ出向き、道庁で農政・酪農・水産の各担当部署のスタッフと面会することになった。道庁のスタッフとは、少し前から電話やメールで質問を投げてやりとりをしてきたせいもあってか、面会のアポを快諾してもらった。道庁での調査の後、全国有数の酪農地・帯広/十勝地方へ出向き、TPP・関税撤廃の影響を現場の人々がどのように受け止めているかを見聞する予定だ。
 こんな風に、思い立ったところへ意欲の赴くままに出かけられるのは自由な時間と自分を含めた家族の心身の健康あってのこと。あと何年、こんな環境が続くのかと思うと、持ち時間の尊さを否応なしに感じさせられる。

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