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内外製薬資本の利権漁りの場と化すTPP参加国交渉

2013726日(この記事の画面右サイドの「TPPニュースクリップ」の山田俊男氏の発言も是非、ご覧ください。)
 
経済的弱者の命綱を奪う米国の新薬特許延長の要求
 今朝の「読売新聞」1面に、「新薬特許、米が延長要求」という見出しの記事が載っている。それによると、今月25日までマレーシアで開かれたTPP参加国交渉会合の「交渉の中で、世界的な製薬会社を抱える米国が新薬の特許期間を延長するよう要求していることが現地の交渉関係筋の話で分かった」という。こうした米国の要求に対しては、「マレーシアなどの新興国が強く反発しているほか、医療費を抑制するため、安価な後発薬の普及を進めている日本も慎重な立場で、今後の交渉の焦点の一つになりそうだ」という。
 記事によると、「日本は、新薬(先発薬)の特許期間を最長25年に設定しているが、関係筋によると、米国はTPP参加に先立つ日米事前協議で特許期間を数年程度、延ばすよう求めていたが、同様の要求を日本以外の参加国にもすでに行っている」という。
 こうした「米国の要求の背景には、米製薬業界の『特許期間が短いと企業の新薬開発意欲がなくなり、結果的に悪影響が出る』との主張があるとみられる。これに対し、後発薬に頼っているマレーシアなどは、後発薬の発売が遅れると自国の低所得者層を中心に影響が出るとして警戒感を強めている。」

 以上のような新薬への開発投資の保護を大義名分にした米国の新薬特許期間の延長要求は今に始まったことではない。これについては、筆者も『文化連情報』20131月号に寄稿した論稿で取り上げた。同誌の編集部の許可を得たのでその全文を以下、ここに転載することにした。

日本の医療財政の改善策を阻む先発薬の保護強化要求
  
これをお読みいただければ、新薬の特許期間延長など医薬品への投資の保護を強化すべきという米国の要求は、安価なジェネリック薬を命綱とする途上国の貧民の健康と生命を犠牲にしてでも販路の拡大と薬価の高値維持を求める多国籍製薬資本の強欲を代弁するものであることが理解いただけると思う。
 また、そうした日本国内外の製薬資本の強欲に屈して割高な先発薬の特許権保護を強化することは、開発費を要しない分だけ新薬より安価な後発医薬品を普及させることによって薬剤費、ひいては窮迫する医療保険財政の立て直しを図ろうとしている厚労省のロードマップの達成を阻む重大な障害となることを理解いただけると思う。

(補足)
 厚労省は2007年に、2012年度末までにジェリック医薬品の数量ベースの普及率を30%以上とする目標を掲げたが、実際には26.3%にとどまった。そこで、本年4月に、普及率の算定方法を変更した上で、2017年度末までにジェリック医薬品(数量ベース)の普及率を60%以上とする目標に改めた。
 ちなみに、日本製薬工業会/医療産業政策研究所がまとめたリサーチ・ペーパー(「後発医薬品の使用促進と市場への影響」20126月)によると、2009年現在の各国のジェネリック医薬品の数量シェアは次のとおりだった。
  アメリカ  72.0%      カ ナ ダ  66.0
  イギリス  65.0%      ド イ ツ  63.0
  フランス  44.0%      スペイン  37.0
  日  本  21.0%      イタリア   6.0

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(以下は『文化連情報』№41820131月号に寄稿した拙稿を同誌編集部の許可を得て転載するものである。)全文のPDF版は次のとおり。
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tpp_yakka_bunkaren.pdf

                             
  TPPは薬価制度をどう変えるか
                                ~医薬品業界の経営動向~

                           醍醐 聰

TPP
は単なる貿易自由化協定ではない
 
 自民党は先の総選挙において、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉参加に反対する、という公約を掲げた。また、早く交渉に参加してわが国の立場を主張し、国益が守られそうにない場合は参加を見合わせる、と主張した政党もあった。これだけを聞くと、TPP交渉参加に慎重な姿勢のように思えるが、実際はそうとはいえない。
 農業も含め、文字通り聖域なき関税撤廃が条件なら、そうした協定交渉に日本が参加するのは論外である。しかし、TPPは関税だけがテーマではなく、アメリカ流の「自由貿易」にとっての障壁とみなされる加盟各国内の諸々の制度――農業・自動車・サービス・金融保険・投資・特許・知的財産権・医療といった広範囲な制度――の撤廃を目指す国際協定づくりである。

 また、日本とのTPP交渉に関してアメリカ政府が国内で行った意見募集の結果(20122月、外務省公表)をみると、産業界、労働界などから提出された115件の意見の大半は日本の交渉参加に肯定的だった。しかし、それは無条件でなく、「米国と同レベルの市場アクセスの確保を求める」(全米商工会議所)、「アプリオリの除外をすることのない包括的な合意へのコミット、合意済みの事項についてリオープンしないこと」(全米製造業協会)といった厳しい条件を付ける意見が見受けられた。また、玄葉外務大臣はTPPについて交渉に参加した後に離脱することはあり得るのかという質問に対し、それは論理的にはあり得るが、日本政府が離脱を決めるとなれば、それによって失われる国益、信頼も考えなければならないと答弁し、途中での離脱は容易でないとの認識を示唆している(20111025日、衆議院安全保障委員会)。

 以下では、この連載のテーマに従って、TPPが公的医療制度にどのように改変を迫るものかを、これまでにアメリカが豪州・韓国と締結した自由貿易協定(FTA)ならびにEUとインドのFTA交渉の過程で生じた問題を先行例として、検討しておきたい。

薬価制度を脅かすTPP
 20051月に成立した米豪FTAについて、オーストリアのマーク・ベイル貿易大臣はオーストリア国内の高品質で求めやすい医薬品へのアクセスを国民に保証する医療給付制度(PBS)、特に医薬品の価格・リスト設定は従来のまま維持されたと語ったが、この言葉を信じる同国民は多くない。ホ-カ-・ブリトン社の世論調査では米豪FTAに対する支持率は交渉が開始された2003年はじめは65%だったのが、交渉が妥結した20042月には35%に低下した。
 オーストラリアでは政府の医薬品給付制度の下で、医薬品の価格は政府からの補助金によって米国の3分の1 から10 分の1 の水準に抑えられてきた。また、新薬の価格が代替療法よりも高価な場合は、それが代替療法を上回る有効性を証明されない限り、新薬として収載しない参照価格制度が採用されてきた(ジェーン・ケルシー編著/環太平洋経済問題研究会他訳『異常な契約――TPPの仮面を剥ぐ――』2011年、農山漁村文化協会、181ページ)。また、製薬会社が、特許切れ間近の医薬品の成分等を部分的に改善して特許期間の延長と価格の引き上げを図るエバーグリーニングは法律で禁止されていた。しかし、アメリカは、国際的にももっともすぐれていると自負していたオーストラリアの薬価制度を、自国の製薬業界(PhRMA:米国研究製薬工業部会)の販路・権益拡大のため、2つの面から切りやり玉に挙げた。

 一つは、参照価格制に対する攻撃である。USTR(米国通商代表部)は、この制度にもとづく「不当に低い」薬価によって、企業が知的財産権の恩恵を十分に受けることを妨げられていると非難し、参照価格制度を骨抜きにしてしまった。すなわち医薬品を新たに代替性のない革新的な医薬品からなる「F1」と、ほとんどがジェネリック薬である「F2」に分類した上で、従来の価格規制はF2にのみ有効とし、F1は価格規制の対象外としたのである。
 その上で、米豪FTAにもとづいて設置されることになった医薬品作業部会は、厳格な知的財産権の保護を通じて革新的医薬品の価値を尊重する必要性を優先するという原則を採用した。その結果、参照価格制度は存続はしたものの、その機能は大きく毀損され、薬価を押し上げることになった。

 もう一つは、反エバーグリーニングの事実上の放任である。それまで、オーストラリアでは効能に無関係な、わずかな成分の変換だけで特許の保護・延長を図ることを認めない反エバーグリーニング法があった。これによって、特許薬の高止まりを阻止し、公的な薬価規制を実効あるものにしてきたのである。しかし、アメリカは特許付与の原則となる新規性、革新性の解釈を各国の判断に委ねる方式に異議を唱えた。そして、薬効の新規性がなくても、既存品に新たな利用方法を付与するだけでも特許の対象とする原則を標準化するように迫り、これに反する制度を特許権侵害とみなした。目下、オーストラリアでは反エバーグリーニング法は活きているが、アメリカの製薬企業はこうした原則が特許権侵害に当たるとみなせば、「投資家対国家間の紛争解決条項」(通称:ISD条項)を使って、協定締約国政府を相手取って訴訟を起こすこともできる仕組みになっている。これがTPPにも持ち込まれると、TPPは安価なジェネリック医薬品の普及を抑止し、先発薬の薬価の高止まりを誘導して医薬品市場を製薬資本のリゾート地にしてしまうだろう。

ジェネリック医薬品の普及に逆行する知財保護要求
 ジェネリック医薬品の普及に対するFTATPPの脅威は可能性の問題ではなく、現実の問題となって現れている。この点をジェネリック医薬品の世界的供給源であるインドの例を挙げて確かめておきたい。
 世界の紛争地や、感染症がまん延する地域、自然災害の被災地などで緊急医療援助活動を行っている「国境なき医師団」によると、現在、
途上国に供給されるHIV治療薬の約80%、小児患者の治療に用いられている薬の約92%がジェネリック薬である。なぜ、これほどジェネリック薬が普及したかというと、HIV治療薬の1人当りの年間費用は2000年には1万ドル(約84万円)だったのが、2011年には約60ドル(約5000円)まで下がった。そして、このジェネリック薬、例えばHIV治療用のジェネリック薬の約50%、抗生薬、抗がん薬、糖尿薬など世界の複製薬の20%を供給しているのがインドである。
 こうして世界各地の貧しい患者の命綱ともなっている「世界の薬局」インドのジェネリック薬を守れという運動が起こっている。それは、インドのジェネリック薬が、一方ではEUとのFTA交渉を通じて、もう一方では多国籍製薬資本・ノバルティスによる特許権訴訟によって脅威にさらされているからである。

 まず、EUはインドとのFTAに含まれる「海外投資に関する条項」を盾に、欧州企業が自社の利益や投資がインドの安価なジェネリック薬普及政策によって損害を被る恐れがあると判断した場合は、インド政府を提訴することが可能になっている。現に、インドでは2006年にノバルティス社が同社製の抗がん剤メシル酸イマチニブ(商品名:グリベック。この連載の第1回で取り上げた分子標的薬の一種)の特許申請が模倣薬だと判定され、申請を却下されたのを不服としてインド政府を相手取った訴訟を起こしている。ノバルティスは韓国でも2001年にグリベックを上市する際、特許権を盾に1か月に300万ウォン以上の価格を要求した。韓国内の白血病患者はこれに猛然と反対して「薬価の引き下げ」、「保険の適用拡大」を要求し、1年半以上戦ったが、韓国政府福祉部はノバルティスのほぼ要求通り、1か月に270万ウォン以上の価格を決定した。
 これについて、国境なき医師団の必須医薬品キャンペーン政策責任者であるミシェル・チャイルズは次のように語っている。 (http://www.msf.or.jp/news/2011/04/5170.php

 「インドの裁判所は企業の利益よりも、公衆衛生の保護と医薬品の普及を優先するよう規定しています。しかし、このような規定は、企業が独自に代理機関を通じてインド政府を提訴した場合には、適用されることは難しいでしょう。私たちは、FTAの海外投資に関する条項において、知的所有権の保護を要求することを止めるよう、EUに求めています。」

医療を受ける国民の権利に対する多国籍製薬資本による挑戦
 野田首相はISD条項の危険性を質した国会質問に対し、この条項は相方向的なものであって、日本だけの脅威ではないと繰り返し答弁した。しかし、これはFTAなりTPPなりの内実をみない空疎な形式論である。その証拠に日本の製薬業界はISD条項に何ら異議を唱えていない。それもそのはずで、わが国の薬価を実勢価格以下に抑えている制度――外国平均価格調整制度や市場再算定制度など――がFTAなりTPPなりの締結によって撤廃されれば、アメリカの製薬企業ばかりか日本の製薬企業にとっても願ってもない「朗報」だからで、いまさらアメリカ政府を相手どって訴訟を起こす動機はどこにもないからである。
 現に、自民党は2012年総選挙公約集の中で、次のような医療政策を掲げている。

 
「製薬産業がイノベーションを通じて付加価値のある薬剤の創造力を強化し、国民医療へさらに貢献していくため、研究開発減税の拡充、新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度の恒久化を図るとともに、基礎的医薬品の安定供給に資する措置を行います。また、先発品と後発品の役割が適正に反映された市場実勢価格主義に基づく透明性の高い薬価制度を堅持します。さらに、医療の効率化や国民の健康維持の観点から、後発品の普及を図るとともにセルフメディケーションを推進します。」

 新薬加算制度の恒久化といい、先発品と後発品のセグメンテーションといい、国民の医療へのアクセスをさらに狭める一方で、わが国の薬価制度と医薬品市場を多国籍製薬資本の求めを先取りするかのように、改変する政策と見て取れる。
 しかし、こうした医療政策は国民の医療を受ける権利を犠牲にして、国内外の製薬企業に今以上の高利益を保証する仕組みに他ならない。これは国境なき医師団の次のような指摘にもはっきり示されている(前掲サイトより)。

 「医療分野での知的財産権の保護は、薬価を高止まりさせて治療の機会を狭めている。その結果、購買力が弱い途上国の人びとが苦しんでいる。アメリカは、途上国での知的財産権の規制を厳格化・高度化して既得権益を守り、開発費を薬価に反映させる誤ったビジネスモデルを固持している。途上国の事情は考慮されていない。」

 さいわい、インドはグリベックの特許はその後も認められず、ジェネリック薬のビーナットは20分の1の価格で販売されているという。
 韓国でも、前記のように、2001年にグリベックが承認される際、「白血病患者は生き続けたい、ノバルティスは薬価を引き下げろ」という患者たちの行動の成果もあって、グリベックは、通常、自己負担5割のところ白血病患者だけが1割に減額され、その1割はノバルティス社が出資する財団からの補助で賄われることになったという。もっとも、それは、ノバルティス社がたった1割引(1ヶ月あたりの要求額300万ウォンから270万ウォンへの値下げ)で、韓国でグリベックを上市できた上でのことであるが(以上、「〔診察室〕抗がん剤グリベックの問題点」『群馬保険医新聞』20115月号参照)。
 ちなみに、ノバルティス社の2011年度の連結ベースの売上総利益率と営業利益率を調べてみると、それぞれ69.0%(73.2%)、18.8%(22.8%)で、武田薬品に匹敵する異常に高い水準になっている(括弧内は2010年度)。

 医療機関と患者は連帯して、また国境を超えて、こうした各国国民の医療を受ける権利に挑戦するとともに、薬価を高値に誘導して医療財政をさらに窮状に追い込む反国民的な医療政策と厳しく対峙していかなければならない。

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TPPからの脱退も辞さずを公約を掲げて当選した国会議員は政府に情報公開を求める責務がある~例外扱いがどうなっているかを監視するために~

2013724日 

 TPP交渉への日本の正式参加の日に合わせた抗議のリレートーク

 昨日723日、日本はマレーシアで開催されているTPP交渉に正式に参加した。これに対し、抗議の意思を示そうと、「国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会(全国食健連)」と「STP  TPP!!官邸アクション実行委員会」の共同主催で、昨日夕方、新宿西口駅前で「TPP交渉参加大抗議 宣伝とリレートーク」が開かれた。リレートークには全国保険医団体連合会の住江憲勇会長、主婦連の山根香織会長、国公労連の宮垣忠委員長、農民運動全国連絡会の笹渡義夫事務局長、TPPに反対する弁護士ネットワークの宇都宮健児氏、福島県南相馬市で農業を営む亀田俊英さんらが参加された。私も「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」の呼びかけ人としてこのリレートークに参加した。
 なお、リレートークの途中で、マレーシアの参加国交渉会議の取材に出かけているアジア太平洋資料センター事務局長の内田聖子さんの現地レポートも流された。
 時間が16分と限られていたので、前もって原稿を用意し、それを読み上げる形でスピーチをした。その読み上げ原稿をこのブログに掲載することにした。
 なお、リレートークの模様は現場取材をしたIWJが次のとおり録画で配信している。生のスピーチをご覧いただけると臨場感があるのでぜひ、各スピーカーの肉声を聴いていただきたい。

 Part1 主催者あいさつ / 全国保団連会長 住江さんのスピーチ
http://www.ustream.tv/channel/iwakamiyasumi4?utm_campaign=ustre-am&utm_source=6876846&utm_medium=social#/recorded/36240699

 Part2 主婦連会長
・山根香織さん/ 弁護士・宇都宮健児さん / 内田聖子さんの現地レポート(回線不良)/ 醍醐 / 国公労連・宮垣忠さん / ニャントマーさん / 福島県農民連会長・亀田俊英さん
http://www.ustream.tv/recorded/36241053

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私のリレートーク スピーチ原稿
(下線部分は時間の関係でスピーチを割愛した箇所)
 
 大学教員の会の呼びかけ人の醍醐聰です。
 私たち大学教員の会は328日に17人の呼びかけ人で会を立ち上げ、49日には安倍首相宛てにTPP参加交渉からの即位脱退を求める要望書を提出しました。これには全国の様々な専攻分野にまたがる大学教員870名の賛同署名を添えました。現在賛同者は約900名となっています。

 TPP推進を公約に掲げて当選したのは121人中わずか16
 皆さん、21日投票の参議院選挙で121人が当選しましたが、その中でTPP交渉推進を公約に掲げたのは2つの政党に属する16人だけです。大勝した自民党も重要品目を関税撤廃の例外とすることができなければ、交渉からの撤退も辞さずという公約を掲げて当選したのです。民主党の海江田代表も選挙戦の中で同様の主張を繰り返しました。
 しかし、フロマン米国通商代表部代表は、718日に下院歳入委員会が開催した公聴会で、「日本は5品目を交渉の対象外にするよう求めているがどうなのか」という質問に対して、「日本の農業に関し、〔特定の品目について〕前もって除外することに同意したことはない」と発言しています。また、今朝のNHKニュースでも、アメリカは日本の参加により交渉全体に遅れが生じないよう、関税撤廃などで日本に強く妥協を迫る意向と伝えています。

 であれば、聖域が守られなければ脱退も辞さずという決議をした衆参農林水産委員会の委員はもとより、例外扱いができないなら脱退も辞さずを公約を掲げて当選した自民党議員は、例外扱いがどうなっているのかをチェックできるよう、交渉の途上での情報公開を政府に求める責務があると考えるのが当然です。
 かりにも、参加国間の協定により交渉途中での情報公開はできないと言われたと称してすごすごと、引き下がるのであれば、脱退も辞さずという公約は実行できるあてもない空約束だったということになります。

 そもそも、1国の主権を揺るがすような国際協定の交渉過程に国会議員さえ関与できないというなら、そうしたTPPはわが国の立憲民主主義、議会制民主主義と全く相容れない異常な協定交渉というほかなく、この一事を以てしても交渉から即時脱退すべき十分な理由になると私は考えます。

さまざまな交渉テーマを天秤にかけるバーター取引は売国の言い訳作りに過ぎない
 皆さん、日本政府はTPP交渉に臨むにあたり、農業分野での関税撤廃交渉と非関税分野でのルール撤廃交渉にブリッジをかけ、ある分野で譲歩するのと引き換えに別の分野で日本の要求を認めさせるバーター交渉をもくろんでいるとも伝えられています。
 しかし、長年にわたって日本国民が培い、定着してきたさまざまなルールや慣習を切り刻き、天秤にかけて取引の材料にすることなど「交渉力」でも何でもありません。それは肝心の分野でアメリカの強硬な要求に屈服するのと引き換えに、ごく限られた分野でおこぼれ的に日本の要求を認めてもらおうとする屈辱交渉以外の何物でもありません。そんなおこぼれを材料に国益を守ったなどというのは詭弁であり、日本の国民益を冒涜するものです

 そもそも、日本の法律や規則を決めるのに、どうしてアメリカや外国企業の指図を受けなければならないのでしょう? 日本の法律や規則は日本の主権者である私たちが決めるのではなかったですか。

数百万の国会請願署名を目標に掲げたTPP阻止の一大国民運動を
 最後にTPP阻止に向けたこれからの運動について提案をさせていただきます。大学教員の会は日本がTPP交渉に参加した今でも交渉からの即時脱退を求める立場は変わりませんが、百歩譲って交渉が進行し、いよいよ国会での批准となった場合も視野に入れ、それに備えて、TPP阻止の国民運動を盛り上げるため、今日、ここにお集まりの各界の団体、個人の方々が中心となって、さらにその輪を広げたTPP阻止の国民運動ネットワークを結成して、数万人規模の大集会や、数百万人の賛同者を目標に掲げた国会請願署名を企画されるよう要望して私のスピーチを終わります。

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著作権強化で「青空文庫」がピンチに~私たちの身辺に及ぶTPP交渉の行方

2013713
著作権強化で「青空文庫」がピンチに
 ~私たちの身辺に及ぶTPP交渉の行方~
 
 以下は、2013712日付の「全国農業新聞」の<農声>欄に掲載された筆者の小論である。同紙の編集部の了解を得たので、このブログに転載する。

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           売国条約から即時撤退を               
                        醍醐 聰

  この7月末マレーシアで開かれるTPP参加国協議に日本も加わることになった。その参加国協議で議論の焦点になっているのは知的財産権の分野だと言われている。こういうと多くの国民には他人事のように聞こえるが、実は私たちの身辺にも及ぶ問題が潜んでいる。その一つはインターネットの電子図書館「青空文庫」である。ご存じの方も多いと思うが、50年の著作権保護期間が過ぎた名作の原文をボランティアが入力し、インターネット上の電子図書館に載せて多くの国民が無料で閲覧できるようにしている市民版文庫である。今年の1月1日には50年が経過した柳田国男や吉川英治、室生犀星など著名な作家の作品を一斉に公開した。
 ところが、アメリカはTPP協議の場で著作権の強化を唱え、保護期間を自国の国内法にあわせて70年とするよう主張している。かりに、この要求が通ると青空文庫による名作の公開は20年遅れることになる。同様に、全国各地の公共図書館などが取り組んでいる名作上映会や名作鑑賞会でも上映できるまでさらに20年待たなければならない作品が続出することになる。
 さらに、医薬品の特許の分野でアメリカは先発薬への投資を保護するためとして、現状の薬価を高止まりさせる新薬創出等加算制度(現在試行中)を恒久化させることをわが国に要求している。この要求を受け入れると、医療保険財政を改善する決め手として安い後発薬の普及率の向上を図ろうとしているわが国の医療政策はアメリカの横やりで行き詰まることになる。と同時に、高い薬価を負担できない経済的弱者の間で受診抑制が広がり、健康と命の格差がさらに拡大する一方、海外の富裕層をターゲットにした高額の医療ツーリズムが広がり、医療の営利事業化が進行することになる。
 このように考えると、TPPは農業の問題といって傍観しているわけにはいかない。わが国の国民益を投げ捨て、アメリカ企業や多国籍企業に営利の機会を広げる売国的なTPP交渉から即時脱退することこそ日本の国民益を守る唯一の道なのである。

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大学教員作業チーム:第3次のTPPの影響試算を実施中

2013711

 4月以降、大学教員4人(静岡大学名誉教授/土居英二さん、島根大学准教授/関耕平さん、桜美林大学専任講師/三好ゆうさん)でTPPの影響試算に取り組み、これまでに、第1次、第2次の試算結果をまとめ、記者会見で発表した。第1次は全国レベルの影響(全産業・雇用等への波及効果の試算、及び主要品目別にみた農業所得への影響の試算)であり、第2次は、都道府県レベルの影響ならびに規模別にみた稲作農家の経営収支に及ぼす影響の試算だった。
 これらを引き継いで、現在は、第3次の影響試算に取り組んでいる。
 土居さんは農林水産物を起点とする全産業へのTPP(関税撤廃)のマイナスの経済波及効果の試算、都道府県内所得が減少し、企業所得と並んで家計所得の減少と、それを通じた家計消費の減少額を新たに試算中である。
 私は75日の記者会見で発表した「作付面積規模別にみた稲作農家の経営収支への影響」の試算を受け継ぎ、コメどころ・北陸4県の稲作農家の経営収支に及ぼす影響を試算中である。これに必要な資料(過去3年の平均値を計算するために必要な、目下公表外の2009年の作付面積規模別の稲作農家の経営収支)を北陸農政局に依頼して取り寄せ中。
 この作業と並行して、規模別にみた畜産農家の経営収支に及ぼす影響の試算にも取り掛かっている。ここでは全国レベルの試算だけでなく、日本一の畜産地・北海道を対象にした試算も行う。北陸の稲作農家といい、北海道の畜産農家といい、規模別にみたら、どのような結果が出るのか、自分でも注目している。
 また、関さん、三好さんには畑作農家の経営収支に及ぼす影響を同じく規模別に試算してもらっている。ここでも、お2人は全国レベルの試算と同時に、日本有数の大規模畑作農家が存在する北海道を対象にした試算も手掛けている。
 7月中旬には作業を終え、記者会見を開いて試算の結果を発表することにしている。政府・自民党が農業所得倍増計画を掲げる一方で、TPPに参加したら、農家の所得がどの程度、落ち込むのか、選挙公約にどれほどの実現見通しがあるのかを判断する資料として、試算の結果に注目していただけるとありがたい。

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関税が撤廃されると10ha以上の大規模稲作農家も農業純所得は赤字になる

201376
関税が撤廃されると10ha以上の大規模農家も農業純所得は赤字になる
TPPが稲作農家に及ぼす影響を規模別に試算すると~

 一つ前の記事で書いたように、昨日(75日)、私を含む4名の大学教員で作った「大学教員・TPP影響試算作業チーム」は参議院議員会館内で記者会見し、わが国がTPPに参加した場合の影響試算の第2次の試算結果を発表した。第一次の試算は主に全国レベルの影響を試算したものだったが、今回は全都道府県レベルの影響を試算したものである。
 会見の模様は、当日取材したIWJのスタッフが解説付きで録画を配信しているので、ご覧いただけるとありがたい。

 昨日(201375日)の記者会見の録画(IWJ
 http://atpp.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/tpp24-iwj-2a1e.html

以下、当日の発表順に発表資料を掲載しておく。

関耕平氏・三好ゆう氏、発表資料「都道府県ごとの農業生産・所得への影響」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/seki_miyoshi_presen_20130705.pdf

関耕平・三好ゆう氏、同上、データ編
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/seki_miyoshipresen_data_20130705.pdf

土居英二氏、発表資料「産業連関表を用いたTPPの都道府県別影響試算について(1)」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/doi_presen_20130705.pdf

醍醐、発表資料「作付面積規模別に見た稲作(個別経営)に及ぼすTPPの影響の試算」
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20130705_presenpapers.pdf

醍醐、発表資料、同上データ集
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20130705_presen_data.pdf

 関・三好両氏がまとめた試算は関税撤廃により生産量、産出価格に影響を受ける19の農産品を対象にして、今年の3月に農水省が発表した全国レベルの生産額ベースの影響を各都道府県レベルの所得額ベースの影響に換算したものである。両氏の試算結果では所得額ベースでもっとも減少割合が大きかったのは富山県(それぞれ▲33.5%)で以下、沖縄県(28.0%)、福井県(24.8%)、秋田県(23.5%)石川県(23.3

%)、宮城県(22.3%)、滋賀県(20.6%)、山口県(20.6%)となっている。富山、福井、秋田、石川、宮城、滋賀、山口の各県の減少率が大きいのは米の関税撤廃・輸入品への置き換わりの影響によるものである。沖縄県の減少率が高いのは関税撤廃でさとうきびがほぼ壊滅すると見込まれることによるものである。

 土居氏の試算結果のポイントは、①TPPによる関税撤廃の影響は、それぞれの都道府県内では、農林水産物等の生産減少額の約24倍の影響が、産業全体に及ぶ。②それぞれの都道府県では、第一次産業の生産減少の1.7倍~3倍以上の生産減少額が、第二次産業・第三次産業に及ぶ。このことは、TPPへの影響は、農林水産業だけではなく、地域産業全体の問題であることを示している、という点である。

私の試算の問題意識
~農家の作付面積規模別に関税撤廃の影響を試算する目的~

 
 私が試算の問題意識は、TPPにわが国が参加することは、農地の集約による規模拡大、所得増加を謳う政府の政策と整合するのかどうかを、TPPの影響が大きい稲作・個別経営の規模別に検証することだった。その影響を検証するためには、品目単位の影響試算ではなく農業経営体(ここでは個別経営
農家)単位で、それも規模(作付面積規模別)に影響を試算した。

 採用した試算の方法
 1.農水省「営農類型別経営統計」(個別経営)に収録された水田作<稲作<作付面積規模別の経営統計を基礎資料として、全国ベースの影響を試算する。
 2.稲作経営体が営農している品目のうちで関税撤廃によって生産額が顕著に減少すると見込まれている米・麦類・豆類・いも類の4品目ごとに関・三好チームが試算した生産額減少率をベースにして各品目の作物収入の減少額を作付面積規模別に試算する。その場合、従前(関税撤廃前)の収入実績等は過去3年の平均値を用いる。
 3.農業経営費を変動費と固定費に区分し、生産の減少が経営費用に及ぼす影響を試算する。具体的には、農業用自動車・農機具・農用建物・共済等の掛金拠出金を固定費とみなし、それら合計額の過去3年(20092011年)の移動平均値を固定費の推計値とする。上記の固定費以外の経営費を変動費とみなし、過去3年の変動費率(=変動費/作物収入)の平均値を関税撤廃後の作物収入試算値に乗じて変動費を推計する。
  
4.農業所得を純所得(=作物収入-経営費)と総所得(=純所得+共済補助金・各種奨励補助金)に区分して影響を検討する。ここでの「農業純所得」を、各種補助金に依存せず、農業を持続できるポテンシャルを表す指標とみなす。
 5.農水省「米をめぐる関係資料」(2013328日開催の食料審議会に参考資料2として提出されたもの)の中で示された水稲作付規模別の経営収支のペイオフ図を参照して、家族労働費も加味した稲作経営体の収支を試算する。家族労働費は、厚労省「毎月勤労統計調査」で示された調査対象事業(5人以上の一般労働者)の実労働時間・現金給与総額を基準にして、それと規模別経営体の家族労働時間を対比して試算する。

 試算の結果から読み取れるポイントとコメント
 1.現状でも作付面積1ha以下の農家は農業純所得がマイナスで、自力で農業を持続できる所得の基盤を持ち合わせていない。しかし、それ以上の規模の経営体は、家族労働費を補償するには遠く及ばないが、農業純所得はプラスを記録し、自立的に農業を継続する所得基盤を持っていると考えられる。
 しかし、日本がTPPに参加してこれら経営体の中心作物である米の関税が撤廃され、生産額がほぼ半減すると、作付面積10ha以上の経営体も含め、すべての規模の経営体は農業純所得がマイナスとなり、自力では農業の継続が困難となる。所得の減少総額は作物収入の段階では7,554億円、純所得の段階では3,136億円に達すると見込まれ、政府が掲げる農家の所得倍増計画とは逆行した帰結を生むと予想される。

作付面積規模別にみた1農家当たりの農業純所得の変化(単位:千円)
        0.5ha未満 1.0~2.0ha 3.0~5.0ha   10.0以上 
  
   関税撤廃前      ▲190             99              356           2,233
 関税撤廃後      ▲250        ▲292         ▲1,013       ▲1,123          

 2.総所得のレベルで見ると、関税撤廃前は作付面積0.5ha以上の経営体では所得がプラスの状況にあるが、日本がTPPに参加してこれら経営体の中心作物である米の関税が撤廃され、生産額がほぼ半減すると、作付面積1ha以下の経営体は所得がマイナスとなり、現状の補助金を受けても農業を持続することが困難になる。こうした農家の数は「2010年世界農業センサス」の時点でいうと84万、全稲作農家の73%に上る。
 3.現状でも、作付面積10ha以下の稲作農家は家族労働費(自家労賃)を補償するに足る所得を得ていない。日本がTPPに参加してこれら経営体の中心作物である米の関税が撤廃され、生産額がほぼ半減すると、作付面積5ha以上の稲作農家では実質経営余剰がプラスの状況(農業総所得で家族労働費を補償できる状況)に変化すると試算される。しかし、それは生産規模の縮小に見合って家族労働時間が大幅に減少すると仮定したからである。作物収入の大幅な減少を補填する就業の場が得られない限り、耕作放棄地の発生に拍車をかけるとともに、離農者や所得の補填のために兼業の場を求める人々が激増し、日本の雇用情勢を悪化させる大きな要因になると考えられる。
 この意味で、家族労働費も補償する抜本的な所得向上策が練られ、実行に移されることが日本の農業の中核を担う稲作農業の後継者問題の解決にとって欠かせない課題といえる。
 4.近年、農地の集約による規模拡大が謳われているが、規模拡大といっても単位経営体の農地の所有面積の拡大と、単位耕作地の規模拡大を区別する必要がある。山間地に狭い農地が点在するわが国では前者の意味での規模拡大はあり得るが、生産コストの低下に通じる後者の意味での規模拡大は至難のことといえる。むしろ、日本がTPPに参加した場合、前記のように作付面積10ha以上の経営体でさえ、 経営的に就農を継続することが困難な状況になると、規模拡大の担い手が存在しなくなる事態が予想される

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第二次TPP影響試算(都道府県レベル)の結果発表の記者会見のお知らせ

201372

 私も加わっているTPP影響試算大学教員作業チームは75日に、都道府県ごとのTPPの影響試算の結果を発表する記者会見を開くことになった。以下は報道関係者へのプレスリリースである。
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  2013
71
報道関係者各位

        第2TPP影響試算の結果発表
           記者会見のご案内 

             TPP影響試算大学教員作業チーム
               醍醐 聰(東京大学名誉教授)
               土居英二(静岡大学名誉教授)
               関 耕平(島根大学准教授)
  
              三好ゆう(桜美林大学専任講師)

 私たち大学教員4名で作ったTPP影響試算作業チームは522日に記者会見を開き、全国レベルの影響試算を発表しました。その後、都道府県レベルの影響を試算する作業を進めてきましたが、このたび作業が完成しましたので、その結果を発表する記者会見を下記のとおり開催いたします。
 ご多用のところとは存じますが、ご出席のうえ、取材をお願いしたく、ご案内いたします。

  日 時  201375日(金)1000分~1130
  会 場  参議院議員会館 B104会議室(地下1階)
  出席者  醍醐 聰(東京大学名誉教授/財務会計論専攻)
       土居英二(静岡大学名誉教授/経済統計学専攻)
       関 耕平(島根大学准教授/財政学専攻)
       三好ゆう(桜美林大学専任講師/財政学専攻)
  発表内容と発表者
   1.産業連関表を用いた都道府県ごとの生産・雇用・所得等への影響試
             算
          発表者:土居英二
   2.農業経営統計を用いた都道府県ごとの農業生産・所得への影響試算
      発表者:関 耕平・三好ゆう
   3.第2次影響試算の結果が意味すること 
 
     発表者:醍醐 聰

 以上の発表後、ご出席の報道関係の皆さまと質疑をさせていただきます。よろしく、お願いいたします。

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