新旧宇都宮陣営は問題の重大性を自覚すべきである(2)
領収証の記載に間違いがないなら違法な選挙報酬の支払いとなる
しかし、想定を変えて、上記2つの領収証が記載のとおり、上原、服部両氏に対する労務者報酬(選挙運動報酬)の支払いを意味したのだとしたら、公選法で選挙運動報酬の支払いが禁じられている選挙運動統括者らへの報酬の支払いを裏付ける資料となり、公選法違反を免れない。
この点を少し解説すると、公選法上、東京都内の選挙運動で実費弁償とは別に報酬を支払うことができるのは、①自分は決定権を持たず、選挙事務所内で責任者の事務的作業をサポートする選挙事務員(1日につき1万円以内)、車上等運動員(いわゆるウグイス員。同上1万5千円以内)、手話通訳者(同上1万5千円以内)、②電話の取次ぎ、ビラや証紙貼り作業、演説会の設営・撤去作業などを行う要員(基本日額/1万円以内、超過勤務手当/基本日額の5割以内)、とされている。
したがって、公選法上、上原公子氏がそうであったような選対本部長や服部泉氏がそうであったような出納責任者には事務員報酬であれ、労務者報酬であれ、支払いは禁じられているのである。
この点でいうと、他ならぬ出納責任者であった服部泉氏自らが、「選挙報酬として」と記載した領収証を、違法性に気づかず提出したとなれば、それ自体、初歩的な法令順守義務違反に当たり、重大な批判を免れない。また、かりに、真実は交通費や宿泊費の実費弁償であると認識しながら、「誤って」「選挙報酬として」と直筆した領収証を提出したのだとしたら、出納責任者としての適格性を著しく欠いた行為と言わなければならず、そうした人物を選任した宇都宮健児氏の責任も問われなければならない。
真実は2つの想定のどちらなのか?
一つ前の記事で、私は上原公子氏と服部泉氏に支払われた10万円の趣旨に関して、2つの解釈を併記し、どちらが真実に近いかについては判断を留保した。以下では、それぞれの解釈ごとに道義上、どのような問題が生じるのか、公選法上、どのような扱いになるのかを述べた上で、私は2通りの解釈のどちらに信ぴょう性が高いと考えているかを、根拠を添えて述べたい。
領収証の記載が虚偽なら公選法違反となる
弁護士3氏の連名で公表された「澤藤統一郎氏の公選法違反等の主張に対する法的見解」(以下、「法的見解」と略す)によると、上原、服部両氏に対する支払いを「労務者報酬」としたのは事務的ミスで、「交通費」、「宿泊費」の実費弁償と訂正するとのことである。「選挙運動費用収支報告書」上は、このような訂正申告(要するに記載すべき「支出費目」を取り違えたという事務的ミス)で事は済むかに見える。
しかし、この10万円の支払い(金額、日時、支出の目的等)を証するために作成され、報告書に添付された上原、服部両氏名を受取人とする領収証は訂正箇所の上書きでは済まず、全面的な訂正、すなわち差し替えが必要になる。果たして、領収証の遡及的差し替えがそれほどたやすく行えるのだろうか?
ここでは、仮定の話として記すが、公選法第246条第5号に次のような定めがある。
「第246条 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の禁固又は50万円以下の罰金に処する。
<中略>
五.第188条の規定に違反して領収書その他支出を証すべき書面を徴せず若しくはこれを送付せず又はこれに虚偽の記入をしたとき。」
もし、上の領収証が事実と異なることを認識したうえで作成され、東京都選管に提出されたのだとしたら、虚偽の領収証を提出したことになるから、上記のとおり、公選法第246条第5号に違反した行為となり、3年以下の禁固又は50万円以下の罰金が課されることになる。
「法的見解」は事実を隠ぺいする文書に当たる疑いが強い
しかし、私は問題の領収証が虚偽記載に該当する可能性は低いと考えている。その理由は次のとおりである。
「法的見解」は、上原氏(ら?)に対する「交通費や宿泊費など法的に認められる支出の一部にすぎない10万円の実費弁償に何の違法性もない」と記している。ここからすると、訂正するのは支出費目だけで、10万円という支払い金額は訂正しないと解される。しかし、それなら、
①交通費、宿泊費といった異質な実費に対する弁償について、1枚の領収証が発行されるということがありうるのか?
②上限のない交通費を含む実費の弁償といいながら、上原、服部両氏に対する支払いが、なぜどちらもぴったり10万円で同じなのか? なぜ、毎回(10日分)、常に両氏とも1万円なのか? この1万円とは労務者報酬として支払うことが認められた基本日額の上限額1万円を意味したと理解するするのが合理的である。
③上原氏、特に出納責任者でもあった服部氏が、自分宛に支払われる真の目的が交通費や宿泊費の実費弁償であると自覚していたなら、サインを求められた領収書に「人件費」とあらかじめ印字されていたことを不審に思わず、自ら「選挙報酬として」と直筆することがありうるだろうか? むしろ、真実、支払いを受ける目的が選挙報酬だと認識していたからこそ、「人件費」という印字を了解し、「選挙報酬として」と直筆した(あるいはそのように記載するよう促されたのに応じた)と解釈するのが自然である。
以上、一つ前の記事とこの記事で示した事実、そしてそこから合理的に導けると考えられる推論の帰結として私は、弁護士3氏が「選挙運動費用収支報告書」の作成に関する基礎的規程を理解したうえで連名で「法的見解」を公表したのだとすれば、その「法的見解」は真実を立証するに値しないだけでなく、真実を隠ぺいする意図をもって作成され、公表された文書である疑いが強いと考えるに至った。「些細な金額にどうしてそこまでこだわるのか」という反問が出ることを承知の上で、この記事を書いた主な理由はここにある。
念のためにいうと、ここでいう「真実」とは、上原、服部両氏に対して支払われた10万円は「選挙報酬」という趣旨・目的での支払いであったということである。これが確かなら、両氏に対する10万円の支払いは報酬の支払いをできる者を制限した公選法第197条の2に違反したことになる。
かりに、弁護士3氏、宇都宮健児氏、あるいは当該「選挙運動費用収収支報告書」の作成責任者(出納責任者)であった服部泉氏、その他関係者が、私のこうした推論に誤りがあるというなら、それを反証する証拠を公開して、どこがどう誤っているのかを説明するよう要望する。
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コメント
醍醐先生。私こそわざわざのコメントを賜りまして、まことにありがとうございます。
細かいことで恐縮ですが、光熱水費については先生のコメントを拝見してもなお、少し疑問がございます。
また、別件の疑念も1件ございます。
つきましては、なるべく整理して改めて投稿させていただきたく存知ます。
まずは、大変なご多忙中に先生のコメントを頂戴いたしましたことに、急ぎにて心よりお礼申し上げます。
投稿: かんちゃん | 2014年1月16日 (木) 17時08分
コメントありがとうございました。
労務者報酬の記載を5~7度も重ねて誤るということがありうるのかというご意見は、ごもっともだと思います。
最後の光熱水費ですが、①「領収書を徴し難い事情があった支出の明細書」の「雑費」の費目区分に2012年12月27日付けで「電気水道代」として60,254円」が記載され、②「家屋費」の費目区分に2013年1月28日付けで「光熱費」が45,950円、27,571円、それぞれ記載されています。2つに分かれているのは発生した事務所(?)が2か所のためです。
細かなことですが、総務省が作成した記載例では、電気代、ガス代などは雑費の区分に記載するとなっています。
投稿: 醍醐 | 2014年1月12日 (日) 01時17分
先生。 恐らく先生の御論難を免れる術は無いであろうと思いながら本稿を読了いたしました。
卑しくも、官庁で出納実務の経験がある者や、公選法上での出納実務を知る者であるならば、出納実務上で金銭授受の際に、即ち、領収書受領の際に、その記載等の訂正はあっても、当該金銭の費目誤りは存在しないものと言わねばなりません。
費目の誤謬があれば、重大な会計上の誤謬、と言うよりも虚偽として監査には耐え得ない法令違反の指摘を受けて当然です。
>弁護士3氏が「選挙運動費用収支報告書」の作成に関する基礎的規程を理解したうえで連名で「法的見解」を公表したのだとすれば、その「法的見解」は真実を立証するに値しないだけでなく、真実を隠ぺいする意図をもって作成され、公表された文書である疑いが強いと考えるに至った。
厳しい御批判です。 でも、弁護士ともあろう者が、こうした文書を作成した、とすれば当然非難を受けます。 会計学を御専門にされておられる先生からの批判には宇都宮氏と新旧選対の方々は、真摯に批判を受け止められることが肝要でしょう。
投稿: とら猫イーチ | 2014年1月11日 (土) 11時38分
私は東京からは遠い土地に暮らしておりますために、「宇都宮選挙事務所」の「選挙運動費用収支報告書」の開示を受けることが容易には叶いません。
せめて記載例でも入手したいとネットで、都選管>選挙結果&データ>様式集(選挙運動費用収支報告書)>2.収支報告様式(都知事)を検索しました。すると、そこにはEXCELの簡単な表があるだけで、記載例も醍醐先生の「旧宇都宮陣営の選挙運動支出に関する法的見解は真実の証明になっていない(1)」で触れておられる「備考の8」も見えません。
そこで、総務省>選挙・政治資金>選挙運動費用収支報告書作成支援様式>2.記入例 選挙運動用収支報告書記入例を検索すると、参議院選挙用ですが、記載例も「備考の8」もあります。
そして、この記載例で気づくのは、無償の役務の提供は
①収入上は「寄附」に記入する必要がある(6p)
②支出として同額を「人件費」として記入する必要がある(8p)
③領収書を徴しがたい支出に記入する必要がある(12p)
④収支報告書要旨に記入する必要がある(16p)
と、4度も記入が求められることです。
一方、「労務者報酬」も
①人件費に記入する必要がある(8p)
④収支報告書要旨に記入する必要がある(16p)
と、2度の記入が求められています。
つまり、労務者報酬を受け取ることができるか否かは、公示前の労務者の届出の必要と合せて、5度~7度も判断しながら記入することになります。
旧宇都宮選対幹部は5度~7度も判断を誤ったのでしょうか?
このように幾重にも判断を誤っていては、革新統一候補の選対幹部としては失格だと思います。
また、「つくる会」の報告書中に、11月・12月と真冬の選挙であったにも関らず、光熱水費がゼロであるのも不思議です。
それとも光熱水費は「選挙運動費用収支報告書」に記されているのでしょうか?
投稿: かんちゃん | 2014年1月11日 (土) 06時25分