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会長から理事まで~ ここまでやるのか 官邸主導のNHK人事 ~

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政府批判=「偏向」とみなす籾井会長のジャーナリズムと真逆の放送観
 一つ前の記事で、この4月に退任したNHK2人の理事が422日に開かれたNHK経営委員会の場で異例の退任のあいさつを述べたことを紹介した。あいさつの中で、上滝前理事は、居並ぶ籾井会長、副会長、理事、経営委員を前に、一連の会長発言で地方の職場にも懸念と不安が広がっている事態を紹介したのち、「2011311日の東日本大震災の際、私どもはそれこそ寝食を忘れて被災者や視聴者の

方々のために、放送に全力を尽くしました。そこでの公共放送人としての使命感、一体感が私ども公共放送の一つの原点となっています。それがあるからこそ、値下げ後の受信料収入も順調に回復し、放送番組も信頼されていると思います。この延長線上にこそ次の経営計画があり、また『自主・自律』のジャーナリズムとしてのNHKがある」、「誠にせん越ですが、会長には本部各部局や地域放送局に出向かれ、職員との対話を積み重ねて、職員たちとの心の距離を縮めて頂きたいと思います。職員のモチベーションの維持向上がなくては、公共放送はもちません」と直言した。

 ところが、この日の経営委員会議事録を読むと、理事の人事に関する議題―――専務理事の4人制、理事の任務分担の変更などを経営委員会に諮り、承認を求める議事―――の中で籾井会長は放送総局長から番組考査担当の理事に分担替えをした石田研一氏について、次のような発言をしている。

 「(籾井会長) 石田専務理事は、過去2年間放送総局長を担当している際に偏向放送など、いろいろなことを経験し、今度は番組の考査業務統括を担当していただき、コンプライアンスも統括していただきます。」

 これを聞いた美馬経営委員はすかさず、次のように発言、籾井会長とやりとりが交わされている。

 「(美馬委員) いま会長は、『石田専務理事はこれまで偏向放送の中で放送総局長としてやってきた』というように発言なさいました。会長は偏向放送があったとお考えなのですか。」

 「(籾井会長) 偏向放送があったと言われている、そういう経験も持っておられるということであり、偏向放送があったと申し上げているわけではありません。<以下、省略>」

 籾井氏の最後の発言は意味不明だが、要するに、石田放送総局長時代(正確には、松本前会長時代)の原発再稼働、米軍のオスプレイ配備などに関するNHKの報道が政府批判的(私は一概にそうだったとは思わないが)とみる経済界や自民党の不満を代弁したものと思われる。(これについては、『東京新聞』20131119日、『毎日新聞』20131221日、『朝日新聞』2014131日を参照。)

 政府批判的=「偏向」とみなす籾井氏の発想は、権力監視機関としてのジャーナリズム精神と真逆の思想である。籾井氏がこうした持論を、居並ぶ理事の目の前で、放送総局長の担当替えを説明する場で公言したことが理事の心理に及ぼすけん制、委縮効果は計り知れない。

まかり通る「官邸あっせん」人事
 422日の経営委員会に諮られたNHK理事の人事にはもう一つ重要な案件があった。井上樹彦氏の理事起用である。井上氏のことを籾井会長は次のように紹介している。

 

(籾井会長) 井上樹彦は昭和55年の入局、記者出身で政治部時代には外務省キャップや官邸キャップを歴任し、平成17年からは3年間政治部長として第44回衆議院選挙などの取材を指揮しました。その後、編成センター長や編成局長を務め、東日本大震災の復興を支援する番組の編成等に携わりました。」

 文字通り、NHKの報道部門で政治畑を歩いてきた人物である。この井上氏の理事任用について約2ヶ月前に『日刊ゲンダイ』が次のように伝えている。

 

「昨年の暮れも押し詰まった頃、菅官房長官は、都内某所で籾井次期会長と密かに会談し、その席に井上局長も呼んで籾井氏に紹介した。その上で、井上局長を報道担当の理事にするよう要請し、籾井氏も了解したといわれています。井上局長は、政治部長時代から当時、総務相として初入閣し、放送行政に力を振るい出した菅氏に急接近。選挙情勢など政治部記者を通じて集めた情報を菅氏の耳に入れるなどして信頼を得ました(NHK関係者)」『日刊ゲンダイ』201424日)


 これとほぼ同様の内容が『文芸春秋』の今年の3月号の記事でも書かれている。

 「JR東海出身で13年を務めた前会長の松本正之の後任として、三井物産元副社長で日本ユニシス特別顧問の籾井勝人(70)が1月末に〔NHK会長に〕就任した。・・・・・
 籾井に行き着く前、会長選びは、菅がJR東海の葛西敬之と相談しながら、JXホールディングス
相談役の渡文明ら安倍に近い財界人数人に打診したが、いずれも断られた。・・・・困った菅に手を差し伸べたのが財務相兼副総理の麻生太郎だった。同じ旧産炭地である福岡県の嘉麻市出身で、長年の付き合いがある日本ユニシスの籾井を管に推薦したのだ。菅はさっそく籾井と接触して、会長就任を内々に打診した。」

「菅のNHKに対する影響力は、単に経営委員や会長に自分の息のかかった人物を送り込むだけに止まらないという。菅は昨年末、都内で密かに籾井と会談したと言われるが、その場には、菅に近NHKの現役局長まで呼び、その人物を理事に昇格させる話も出たとされる。」

 (以上、三波一輝「NHK失言会長はなぜ生まれたのか 安倍政権『官邸人事』の研究」『文芸春秋』20143月、124ページ)

 ほぼ、同じ内容の人事話が2つの記事で伝えられたということは、官邸と籾井氏の間で井上氏の理事起用をめぐって「内々の約束」があったという指摘に信憑性が高いことを物語っている。 
 ここで私が注目するのは、井上氏のことを籾井氏が菅官房長官に紹介したのではなく(そうだったとしてもNHKと政治の関係で大問題だが)、菅官房長官が籾井氏に紹介したという点である。

 これが確かなら、会長、経営委員に加え、NHKの理事も「官邸あっせん人事」となっていたことを意味する。

会長が率先して服務準則・放送ガイドラインに違反する行為
 NHKが定めた「会長、副会長および理事の服務に関する準則」の第2条「服務基準」にはこう書かれている。

 「第2条 会長、副会長および理事は、放送が公正、不偏不党な立場に立って国民文化の向上と健全な民主主義の発達に資するとともに、国民に最大限の効用と福祉とをもたらすべき使命を負うものであることを自覚し、誠実にその職責を果たさなければならない。」

 また、「NHK放送ガイドライン2011」は冒頭の「1. 自主・自律の堅持」で次のように定めている。

 「〔NHKは〕・・・・報道機関として不偏不党の立場を守り、番組編集の自由を確保し、何人からも干渉されない。ニュ-スや番組が、外からの圧力や働きかけによって左右されてはならない。NHKは放送の自主・自律を堅持する。
 全役職員は、放送の自主・自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、すべての業務にあたる。
 日々の取材活動や番組制作はもとより、NHKの予算・事業計画の国会承認を得るなど、放送とは直接関係のない業務にあたっても、この基本的立場は揺るがない。」

 籾井氏が都内某所で井上局長を伴った菅官房長官と会った昨年末は、会長就任前だった。しかし、会長就任後、菅官房長官から勧められた井上氏を―――2人の先任専務理事に辞表提出を拒否されたため、あっせん通りに放送担当にはできなかったが――経営統括というポストの理事に任用したという事実は、NHK幹部の人選まで官邸からの働きかけ通りに実行したことを意味する。
 これでは、会長が率先して「会長、副会長および理事の服務に関する準則」ならびに「NHK放送ガイドライン2011」に反する行為を行ったといって過言ではない。このような人物は、NHK内でコンプライアンスを語る資格がないにとどまらず、そもそもNHKの会長の地位にとどまること自体が許されないのである。


 「籾井会長の辞任を求める受信料凍結呼びかけチラシ」 ぜひとも活用ください。
   http://sdaigo.cocolog-nifty.com/momii_yamero_chirashi_a.pdf

 「受信料支払い凍結の手続きについて:Q&A
   http://sdaigo.cocolog-nifty.com/toketsuqa20140511.pdf

(補足) 
 524日に京都市内で開かれた「NHKを憂え、市民の手に取り戻すつどい」の録画が、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」のブログにアップされています。津田正夫さん(元NHKプロデューサ-)新妻義輔さん(元朝日新聞大阪本社編集局長)と、会長からの質問、意見を交えながら、リレースピーチをした録画です。この記事に書いたことも話しています。一度、視聴いただけると幸いです。
 【京都】NHKを憂え市民の手に取り戻すつどい ─津田正夫氏・新妻義輔氏・醍醐聰氏(動画)

 目が覚めて人の気配がないと、か細い声で人を呼ぶ介護度約80%のウメ

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退任する2人のNHK理事が経営委員会に向けた異例の直訴

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 422日に開催された第1212回NHK経営委員会の議事録が516日、公表された。

 「日本放送協会第1212回経営委員会議事録(平成26422日開催分)
  http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/giji_new.html

 この日の会合の最後に、2人の理事が退任のあいさつをしている。その一部はすでに報道されたが、異例ともいえる内容なので、議事録から発言の全文を転載しておく。
  厚顔無恥な会長、時の首相の応援団を公言して憚らない2人の経営委員の言動をNHKの役職員がどう受け止め、何を求めているかが、ひしひしと伝わる発言である。と同時に、公共放送のイロハもわかっていない人物を会長に任命した責任をいまだ自覚できていない経営委員会へのいらだち、直訴ともいえる内容である。  

 久保田技師長の退任のあいさつ 
   「私は424日で退任いたしますが、任期を2日後に控えた本日、後任となる次の理事の任命の同意が議決されました。2年という期間でしたけれどもお世話になりました。
 ただ、後任と業務の引き継ぎを行う時間も十分にない状態で退任するという異常な事態であると私は受け止めております。1月から続く異常事態はいまだに収束しておりません。職場には少しずつ不安感、不信感あるいはひそひそ話といった負の雰囲気が漂い始めています。
 現場は公共放送を担うことへの誇りと責任感を何とか維持しようと懸命の努力を続けていますが、限界に近づきつつあります。一刻も早い事態の収拾が必要です。公共放送への視聴者からの信頼を取り戻すためにも、一刻も早い事態の収拾が必要です。
 経営委員会からは、これまで、執行部が一丸となって事態の収拾に当たるように言われてきました。本日、私からは、経営委員会こそが責任をもって事態の収拾に当たってほしいと申し上げたいと思います。改めまして、2年間ありがとうございました。」  

 上滝理事の退任のあいさつ
  「経営委員の皆さまには、この2年間ご指導いただき、まことにありがとうございました。私は視聴者対応と、広報の責任者として述べさせていただきます。
 今回の籾井会長の就任記者会見での発言以来、混乱の中で私の頭の中にあったのは、10年前の不祥事のような、受信料拒否問題が絶対に起きないようにする、この一点でございました。326日の全体会では、35,000件を超えた視聴者の生の声について身を引き裂かれる思いで報告させていただきました
 413日には会長が広報番組に出演し、視聴者へのおわびを述べました。この中で、「個人的な見解を放送に反映させることは断じてない。NHKが皆様に支えられてこそ成り立っていることに思いを新たにし、皆様の声を何よりも大切にしていく」と決意を述べました。経営委員の皆さまも、この放送をごらんになったと思います。このことを必ず実行して頂きたいと思います。

 その一方で、私は去る19日、佐賀放送局で開かれた「視聴者のみなさまと語る会」に石原委員、美馬委員、堂元副会長と一緒に出席した際に視聴者から、「放送とは関係のない問題でごたごたしているのはまことに残念だ」「各地で会長の釈明をして回るのは情けない」などの厳しい声が相次ぎました。終了後、石原委員は記者団に対し、「会長発言の件が皆さま方の最大の懸念材料かなと思いました。会長の番組だけで終わったということではもちろんない。大事なのはこういう努力をいかに番組にしていくかという頑張りだと思います」と話されました。
  私はその前日、佐賀局の30人の職員と対話をしました。そこでは、「NHKは今後どうなってしまうのか大変不安な日々だ」とか、「苦難があったが現場は苦労しつつも頑張っている。役員も一枚岩となって事態の打開へ全力を尽くしてほしい」との声があり、職員の思いの厳しさを改めて知りました。全国の取材や営業現場では、取材先や視聴者から、「NHKは一体どうなっているのか」と問われ、つらい思いをしている職員が数多くいます。

 誠にせん越ですが、会長には本部各部局や地域放送局に出向かれ、職員との対話を積み重ねて、職員たちとの心の距離を縮めて頂きたいと思います。職員のモチベーションの維持向上がなくては、公共放送はもちません。2011311日の東日本大震災の際、私どもはそれこそ寝食を忘れて被災者や視聴者の方々のために、放送に全力を尽くしました。そこでの公共放送人としての使命感、一体感が私ども公共放送の一つの原点となっています。それがあるからこそ、値下げ後の受信料収入も順調に回復し、放送番組も信頼されていると思います。
 この延長線上にこそ次の経営計画があり、また「自主・自律」のジャーナリズムとしてのNHKがあると思います。経営環境が激しく変化し、視聴者やマスコミから厳しい視線が注がれる中で、放送法を守るという言葉を、新しい執行部体制の中で、経営や放送などのサービスとして具体的な形で実現し、視聴者の方々にとって「NHKは絶対に必要だ」という存在になれるよう努力してほしいと思います。

 経営委員の皆さまにおかれましては、新執行部に対する管理監督の役割と責任を十全に果たして頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。」

 経営委員会の会長任命責任・監督責任が厳しく問われている  
  この2人の理事の直訴が、はたして、どれだけの経営委員に通じたのだろうか? 514日、参考人として衆議院総務委員会に呼ばれ、委員から経営委員会の会長任命責任を問われても、無表情に、同じ答弁を棒読みした浜田経営委員長には通じた気配がない。
 本来、経営委員会は外部の圧力からNHKの自主自律を守る砦としての役割を担っているはずだ。その経営委員会があろうことか、公共放送のイロハもわかっていない籾井勝人氏をNHK会長に選任した。そして、危惧したとおり、籾井氏は会長人事権を意のままに振い、本来、監視の対象であるべき政府の主張、政策をもっと忠実に伝えよと、NHKを国策放送に仕向けるべく、「ボルトとナット締め上げる」ことを自分のミッションと公言して憚らない。
 このような籾井会長の横暴を毅然と批判し、経営委員としての監督責任を果たそうとしている委員は議事録を読むかぎり2人に過ぎず、多くの委員は沈黙し続けている。
 いまや、籾井会長問題は彼を選任し、選任後も会長の放送法違反行為、人事権の乱用を放任している経営委員会の責任問題と表裏一体になっている。退任した2人のNHK理事の思いつめた直訴は、そう訴えかけているのだ。


             連休中に道路沿いのわが家の生垣に今年も咲いた鉄線
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NHKを国策翼賛放送へ仕向ける籾井会長

2014年5月6日
 

 籾井会長の辞任を求める受信料凍結呼びかけチラシが出来上がりました。
 ぜひとも活用ください。
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/momii_yamero_chirashi_a.pdf

 「個人的見解を放送に反映させるつもりはない」と言うが
 会長就任会見で公共放送への無知をさらけ出す発言を連発した籾井勝人氏。それでも、「あれは個人的見解。私の見解を放送に反映させるつもりはない」という釈明を繰り返して批判をかわそうとした。
 ところが、5月2日、朝日新聞が「NHK会長『1つの番組で公平性を』」という見出しで掲載した記事を読むと、籾井氏は放送法が定める公平性の原則(多様な意見の反映)に関する持論を番組制作現場に反映させるよう、理事に迫っていたことがわかる。
 記事の要点はこうだ。放送法が定める公平性の原則(多様な意見の反映)の意味を籾井会長は「一つ一つの番組で確保すべきだ」と解釈し、4月30日に開かれた理事会で、このような持論を展開した。これに対して、理事たちは「いろんな観点を、様々な機会をとらえて報道している」なとど反論し、会議は紛糾したというのだ。

 朝日新聞の記事は、公平性の確保は「一つの番組ではなくて当該放送事業者の番組全体を見て判断することが必要」という増田寛也・元総務大臣の国会答弁を紹介し、籾井会長の持論は政府見解を踏み越えるものと論評している。
 法解釈論としては増田答弁が通説となっており、金澤薫『放送法逐条解説』2006年、財団法人電気通信振興会)も放送の政治的公平を定めた放送法第3条の2第1項第2号の規定の適用は、多様な意見の反映を定めた同条同項第4号の規定と併せて考えられるべきものとしたうえで、「一の番組における政治的な公平ではなく番組全体として判断されるべきものである」(59ページ)と記している。

 確かに、時間が限られた個々の番組の中で多様な意見を反映するよう法律で求められると、番組制作者は対立する意見の持ち主、特に政治的商業的に強い影響力を持つ者からのクレームを恐れて、意見が分かれる問題を取り上げるのを避ける委縮効果が生まれることが懸念される。しかし、意見が分かれるからこそ、「どちらともいえない」と答える国民を減らし、有権者が自立した意見を持って参政権を行使するよう援けるのがメディアの役割である。だとすれば、番組制作現場に委縮効果を生むような法律なり法解釈は好ましくない。

  多様な意見というより政府の意見 ~籾井氏が番組に求めたもの~  
 しかし、上の朝日新聞の記事を読んで私がより重要と思うのは、放送の公平(バランス)の問題というより、籾井氏が述べた次のような主張である。  「籾井会長は4月の消費増税で不安を抱える高齢者を取り上げたニュース番組に対し、『(税率が)上がって困ったというだけではニュースにならない』、『買いだめは無意味だと伝えるべきだ』という趣旨の発言をした上で、低所得層への負担軽減策の議論も紹介するよう求めた。」
 ここから窺えるのは、籾井会長が番組編集にあたって求めたのは、正確にいうと公平(多様な意見の反映)ではなく、政府の見解、施策の伝達だったことがわかる。NHKのニュース番組では高齢者は増税で生活が苦しくなったと伝えるだけでなく、政府がどのような低所得者対策を検討しているかも伝え、高齢者の不安や買いだめを解消するように努めるのがNHKニュースの役割だ―――籾井氏が言わんとしたのはこういうことなのだ。これが籾井氏のNHKニュース番組に関する持論なのだ。

 しかし、NHK会長がこうした持論の持ち主となれば、公共放送にとって最悪の人事である。なぜなら、籾井氏の持論は、NHKのニュース番組を事実上、政府の広報番組に変容させる要求であり、NHKを国策放送局へと仕向ける持論に他ならないからだ。
 そもそも、放送法第3条の2第1項第2号ないしは第4号が放送事業者に求めた政治的公平、多様な意見の反映とは、政党、団体、個人の間にある多様な意見の反映であって、それら国民の意見を伝えるにあたって、関連する政府の意見、政策を必ず伝えるべきと言った要請ではない。バランスというなら、「国民の間になる多様な意見、対立する意見の反映」という意味であって、「国民の意見と政府の意見のバランス」では決してない。この点は前記の金澤薫氏の著書でも次のように記している。

 「社会を構成する国民には多様な意見が存在する。公共的に重要な、様々な意見が放送されることにより、その事項についての国民の理解がより深まり、民主主義の発達に資することになる。一方に偏した放送が行われることは他の意見や主張の存在を国民の目からそらすことになり、有限希少な電波を利用する放送の健全な発達を阻害することになる」(59ページ)。

 公共放送を国民・視聴者の「言論の広場」、「異なる意見の出会いの場」と捉える意義を再確認させられる。

 籾井発言のもう一つの重大性
 会長就任会見の場での籾井氏の発言の中で、これまで注目され、批判が向けられてきたのは、NHKの国際放送のあり方、首相の靖国神社参拝問題、従軍慰安婦問題、特定秘密保護法をめぐるNHKの報道のあり方がほとんどだった。私も同様だ。
 しかし、上記の朝日新聞の記事を読んで、改めて籾井氏の就任会見の場での発言(ここでは「朝日新聞DIGITAL」が掲載した「NHK籾井新会長会見詳報」)を確かめると、これまであまり取り上げられてこなかった重要な発言があったことがわかる。それは記者との次のようなやりとりである。

 「――現場の制作報道で会長の意見と食い違う意見が出た場合、どう対応するのか」  

 「最終的には会長が決めるわけですから。その了解なしに、現場で勝手に編集してそれが問題であるということになった場合については、責任をとります。そういう問題については、私の了解をとってもらわないと困る。NHKのガバナンスの問題ですから。」

 「――個別の番組についても、会長が個別に指揮するのか」

 「私個人が指揮するかは別として、組織の中で、きちんとしなければならない。ボルトとナットの問題じゃないでしょうか。」

 こうしたやりとりの背景にあるのはNHKの「番組編集権」なるものである。しばしば、編集権は誰にあるのか、という発問がされる。たとえば、1月31日に開かれた衆議院予算委員会で原口一博委員(民主党)と参考人として出席を求められた籾井NHK会長との間で次のようなやりとりが交わされている。

 「原口委員 まず、NHK放送番組の編集権はどなたが持っているのか、会長に伺いたいと思います。」

 「籾井参考人 会長が持っております。

 「原口委員 ありがとうございます。NHKの放送番組の編集権は、責任ある編集権を総括する会長にあるわけであります。制度上、放送局としての公共放送の編集権を持っているのは会長ただ一人であります。」

 2人の間でいとも簡単にNHKの放送番組の編集権は会長ただ一人にあるという解釈が了解されている。しかし、こういう解釈が「制度上」どこかに存在するわけではない。

  「NHKの番組編集権は会長ただ1人が持っている」という危険な誤解
 むしろ、私も共同代表の1人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が1月27日に籾井会長・石田研一放送総局長宛に提出した質問書(注)に対し、2月6日付けでNHK編成局計画管理部長・黄木紀之氏名で届いた回答の中に、NHKの番組編集権について、次のような説明がなされている。
  (注)質問Ⅰ-2:籾井会長の就任会見の場での一連の問題発言をNHKがニュース番組で取り上げなかった理由を質したのと関連して、NHKが報道する側とされる側の双方当事者となった場合、自局の放送で当該問題の報道を抑制するバイアスがからないようにするため、NHKは番組制作部門と経営部門に利益相反が生じないよう、どのようなファイアーウオール措置を講じているのかという質問

 「NHKの番組の編集権と編集責任は、最終的には業務の執行を総理する会長にありますが、具体的な運用の権限は番組制作部門の各番組責任者に段階をおって授権されています。これに対し、経営部門には、番組編集権は授権されておらず、経営部門が番組編集に関与することはありません。各番組の責任者は、その責任範囲について、放送法や国内番組基準(国際番組基準)、放送ガイドラインの基準に基づき、それぞれが主体的に編集判断を行っていますので、そこに経営部門の意向が反映されることはありません。」

 つまり、NHKの番組編集の具体的な権限は各番組責任者に段階的に授権され、各責任者が授権された範囲内で放送法や国内番組基準(国際番組基準)、放送ガイドラインに沿って編集上の判断をするのであって、会長が一元的に番組編集に関与するわけではない。この点からいうと、番組編集の最終責任は会長にあるからと言って、制作現場が会長の了解なしに個々の番組を「勝手に」編集できないと述べた籾井会長の就任会見の場での発言は「編集権は会長にある」という一面的な解釈を一人歩きさせた危険な言動である。また、「NHKの放送番組の編集権は、責任ある編集権を総括する会長にあるわけであります。制度上、放送局としての公共放送の編集権を持っているのは会長ただ一人であります」という原口議員の発言は、こうした言葉の危険な一人歩きを助長させる恐れのある曲解である。

 もっとも、「会長は、協会を代表し、経営委員会の定めるところに従い、その業務を総理する」(放送法第51条)という定めから言えば、NHKの会長は経営部門のみならず、番組制作部門も統括すると解されるから、会長に番組編集の大綱的方針の協議、決定に関与する権限が与えられていることは否定できない。
 しかし、そこで重要なことは、「関与」といっても会長個人の意見を番組制作に反映させることではなく、ここでも、放送法や国内番組基準(国際番組基準)、放送ガイドラインに沿った統括でなければならないということである。この点は、放送法の第1条3で、この法の目的を、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」と明記されていることからも明らかである。なぜなら、NHK会長が「放送に携わる者」のトップの地位にある以上、この条項で明記された職責、つまり、総体としての放送法を遵守して業務に当たる職責を負わされていることは明らかだからだ。

 百害あって一利なしの籾井会長
 ~辞任を求める切り札としての受信料凍結運動~

 だからこそ、NHK会長には放送法、その他関係法令、基準等の文言をただ、暗記して読み上げることができるというのではなく、放送法の趣旨を咀嚼し、運用する資質が求められるのである。
 この点で言うと、「(国際放送では)政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」という籾井氏の会長就任会見での発言は、「各国の利害が対立する問題については、一方に偏ることなく、関係国の主張や国情、背景などを公平かつ客観的に伝える」という「NHK放送ガイドライン」に明らかに反した意見である。
 また、4月の消費増税で不安を抱える高齢者を取り上げたニュース番組に対し、税率が上がって困ったというだけではニュースにならない、政府が検討している低所得者対策も伝えるべきだ、という籾井会長の理事会の場での発言は、上記のとおり放送法の定めと無縁な、籾井氏個人の意見を放送に反映させようとする言動に他ならず、コンプライアンス(法令遵守)の観点からも由々しい発言である。
 だからこそ、一日も早い籾井氏罷免、辞任が切望される。本人にその意思がさらさら、窺えない以上、NHKにとり、百害あって一利もない人物を辞任に追い込む草の根の視聴者の意見発信が求められている。

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受信料凍結運動で籾井NHK会長の辞任を求める包囲網を!

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受信料凍結運動、今日からスタート!
 
 私も共同代表を務める「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は去る421日、代表がNHKへ出向き、NHK経営委員会ならびに籾井NHK会長ほか宛に、4月末日までに、籾井勝人氏をNHK会長から罷免するか、籾井氏が自ら会長職辞任するよう申し入れをした。そして、期日までに申し入れが受け入れられない場合は、受信料の支払いを向う半年間、凍結する運動を起こすことを通知した。

 「ご通知 籾井勝人氏のNHK会長辞任を停止条件として受信料支払い凍結運動に踏み切ります」(2014421日)
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zyushinryo_toketsu_tuchi.pdf

今日の午前中にNHK視聴者部に問い合わせたところ、籾井勝人氏は今現在もNHK会長職にとどまっているとのことだった。

そこで視聴者コミュニティは、ただちに、受信料凍結運動開始の通知文を視聴者部に送り、NHK経営委員会ならびに籾井会長ほかに届けてもらった。

 「ご通知 籾井勝人氏のNHK会長辞任を停止条件として、本日より受信料支払い凍結運動を開始しました」(201451日)
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/toketsu_kaisi_tuchi.pdf

その後、当会会員に同上通知文を送るとともに、会の運営委員会が作成した「受信料支払い凍結の手続きについて:Q&A」もHPに公開して、それらを活用いただき、受信料凍結運動への参加を広く呼びかけた。

 「受信料支払い凍結の手続きについて:Q&A
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/toketsu_QA.pdf
 
 「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」HP
 
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/

受信料凍結運動の大義
受信契約は双務契約、視聴者には抗弁の権利がある
 
 受信料の支払いは受信契約を締結した者の無条件の義務であり、一時的とはいえ支払いを止めるのは許されないという議論が見受けられる。そうした議論の背景には、受信料の「不払い」と「凍結」の違いを十分理解しない誤解があると考えられる。さらに、そうした誤解の背景には片務性の納税義務と双務性の受信契約の違いが正しく理解されていない事情があるように思える。
 
 
 
 視聴者がNHKと結ぶ受信契約は、納税のような片務性の契約ではなく、視聴者とNHKが相互に権利と義務を分かち合う双務契約である。過去、何度も受信料の支払い義務を法制化しようとする放送法改定法案が国会に上程されながら廃案となったのは、NHKの人事、運営等に関して視聴者にまったくと言ってよいほど権利が与えられていない現在の受信契約の下で、支払い義務化によって今以上に強い受信料徴収権をNHKに与えると、特権的・徴税的な意識がNHK内に生まれ、視聴者との相互信頼関係が損なわれるとの危惧があったからである。

受信料の支払いは視聴者の無条件の片務的な義務ではなく、NHKが放送法ならびにNHK放送ガイドライン等の定めに沿って、民主主義の発達に資する番組を国民に提供するという、視聴者とNHKの間の相互信頼関係の上に成り立つ双務関係の下に成り立つ義務である。

だとすれば、「政府が右といったら左とは言えない」などと公共放送の自立性をまったく理解しない人物がNHK会長職に居座り続け、会長の人事権を乱用して理事会で専決体制を敷くことに執着したのでは、視聴者は、NHKが公共放送にふさわしい民主的な組織運営に徹し、自主自律の放送を提供する責務を誠実に履行するという信頼を保てない。
 
 このような場合、視聴者は、NHKが公共放送の事業者にふさわしい信頼を回復するのに必要な措置を講じるまで―――今回の場合は籾井会長が辞任するまで―――民法第533条で明記された「同時履行の抗弁権」を準用して、受信料の支払い義務の履行を一時的に停止する権利を行使できると考えるのが正当である。
 
 このように考えると、受信料凍結運動が受信料の支払い義務にもとるかのように思い込んだり、受信料義務化に口実を与えるかのように捉えたりして、凍結運動を頭から退けたり、運動への参加をためらったりするのは、受信契約が双務契約であることを的確に理解できていないことに由来する非合理的な委縮である。

「不払い」と「凍結」はどこが違うのか

ただし、受信料の支払い凍結は「相手方〔ここではNHK〕の債権を絶対的に否認する抗弁権ではなく、相手方の債権の存在を認めるけれどもその行使を一時的に制限する延期的抗弁権である」(島谷部茂「同時履行の抗弁権」『法学教室』199912月、26ページ)ことを認める点が、受信料「凍結」運動を「不払い」運動から一線を画す上で重要である。
 
 政府から交付される税金や助成金、あるいは営利企業の広告料に頼らず、視聴者が負担する受信料で運営するという公共放送の強みを維持しようとする以上、受信料という債権そのものを否定するに等しい不払い運動には大義が欠けるのである。

 以上のような見地から、「視聴者コミュニティ」は次のような資料を作成し、受信料凍結運動の大義を説明している。参照いただけると幸いである。

 「受信料は無条件の支払い義務論である」との議論に関する説明資料
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/zyushinryo_toketu_shiryo.pdf
 
  ①1980(昭和55)年49日、衆議院逓信委員会における武部文委員の質問(抜粋)
 
  ②河野弘矩「NHK受信契約」(遠藤浩・林良平・水本浩監修『現代契約法大系』第7巻、サービス・労務供給契約、1984年有斐閣、241ページ)
 
  ③1999(平成11)年315日、衆議院逓信委員会における海老沢勝二NHK会長(当時)の発言(抜粋)

Q
Aを活用して受信料凍結で籾井会長リコールの声を届けよう
 
 視聴者コミュニティ・運営委員会は、上で述べた受信契約の双務性に着目し、多くの視聴者が受信料凍結運動に正々堂々と参加してもらえるよう、会に寄せられた質問を参考にして、「受信料支払い凍結の手続きについて:Q&A」をまとめた。その中で、多くの方々に特に活用していただきたいことを最後に摘記しておきたい。
 

 ①受信料凍結の意思を自分だけに留めず、NHKへ伝えること。
      受信契約担当窓口電話:
0570077077
 

 ②なぜ凍結するのかを伝える応答例:
 
 (例1)「受信料の支払いは税金と違って視聴者の一方的な義務ではありません。受信契約は視聴者とNHKの相互の信頼関係の上に成り立つ双務契約です。『政府が右という時、NHKは左とは言えない』などと言った籾井さんが会長に居座っているかぎり、NHKが政治から自立した公正公平な放送をすると信頼できませんから、視聴者はそういう籾井さんが会長を辞めるまで受信料の支払いを凍結する抗弁の権利があります。籾井さんが会長を辞め、政府が右と言おうが左と言おうが、NHKは自主自律の放送を貫くという信頼が取り戻せたら、凍結した分も含めて受信料の支払いを再開します。」

 

(例2)「オバマ大統領も従軍慰安婦は女性の人権を侵害するものだと発言しました。そんな従軍慰安婦を『どこの国にもあったこと』などと平然と発言した籾井さんは公共放送の会長として失格です。そんなNHK会長に受信料から年額3,092万円もの報酬が支払われるなんて、とても納得できません。今すぐ、籾井さんに会長を辞めてもらうよう、抗議のつもりで向う半年間、受信料を凍結します。籾井さんが会長を辞めたら、その時から、凍結した分も含めて受信料の支払いを再開します。」

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