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(再録)ためにする強制の「広狭」論 ~「従軍慰安婦」問題をめぐる安倍首相の理性に耐えない言辞 ~

2014625

 このブログの
200737日付けの記事として、「ためにする強制の「広狭」論 ~「従軍慰安婦」問題をめぐる安倍首相の理性に耐えない言辞 ~」というタイトルの記事を掲載した。
 
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_d9fe.html 

 ところが、政府は620日、「従軍慰安婦」の問題をめぐって日本政府としての謝罪と反省を明らかにした1993年の河野官房長官談話の作成にあたり、韓国側と事前に綿密に調整していたなどとする有識者の検証結果を衆院予算委員会理事会に提出した。その一方で、政府は河野談話を引き続き踏襲していくとも述べている。
   しかし、自民党内には慰安婦の連行に「強制」があったか否かに関して河野氏の発言を質す必要があるとして同氏を国会に招致するよう求める意見が出ている。
 このような議論がむし返されるのを見て、私は7年少し前に書いた上記の記事を思い起こし、ぜひ、多くの方に一読いただきたいと願わずにはいられない気持ちになった。そこで、元の記事をそのまま、再録することにした。

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  200737
  ためにする強制の「広狭」論 ~「従軍慰安婦」問題をめぐる安倍首相の理性に耐えない言辞~

河野談話を継承すると言いつつ、謝罪を拒む安倍首相の支離滅裂な言動」
 米下院外交委員会の「アジア太平洋・地球環境小委員会」が「従軍慰安婦」問題で日本政府に対して、元慰安婦への明確な謝罪を求める決議案を審議している。これに関して、安倍首相は5日午前に開かれた参議院予算委員会で、「決議案には事実誤認がある。決議がされても謝罪することはない」と答弁した。
 安倍首相のこの国会答弁を聞いて、私は支離滅裂ぶりにあきれた。安倍首相が継承するという河野談話には次のようなくだりがある。

  「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めてその出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」

 ここには、元従軍慰安婦への謝罪と反省が明記されている。この河野談話を踏襲すると言いつつ、「謝罪はしない」と言うのでは、国の内外を問わず、言語意味不明である。

 
連行の強制性の「広義か狭義か」にこだわる底意
 
 安倍首相が謝罪をかたくなに拒むために持ち出すのが連行の「広狭」定義論である。そして、その意図するところは、狭義の強制性が証拠で裏づけられないかぎり、学校教科書に載せるべきではないし、謝罪には及ばないという論法である。
 これについて安倍氏は昨年106日の衆議院予算委員会で、「本人たちの意思に反して集められたというのは強制そのものではないか」という問いに対して、次のように答弁している。

 「ですから、いわゆる狭義の強制性と広義の強制性があるであろう。つまり、家に乗り込んでいって強引に連れていってしまったのか、また、そうではなくて、これは自分としては行きたくないけれどもそういう環境の中にあった、結果としてそういうことになったことについての関連があったということがいわば広義の強制性ではないか、こう考えております。」

 こういう物言いを聞くと、家に乗り込んでいって強引に連れていったのでなければ強制にはあたらない、したがって謝罪する必要はないとでも言いたいのだろうか? そうでないなら、強制の広狭を持ち出す意図はどこにあるのだろうか?

 安倍首相の上記の議論には、二つのレトリックが仕組まれていると考えられる。
 一つは、従軍慰安婦を徴集する際に「狭義の強制」があったかどうかだけが問題であるかのように議論を誘導し、これに該当しない「募集」業務は非難に当たらないという回答に着地させようとするレトリックである。
 もう一つは、従軍慰安婦制度の犯罪性を慰安婦「徴集の局面」に意図的に限定し、徴集後に慰安婦が「慰安所」でどのような状態に置かれていたかを不問にするというレトリックである。

 慰安婦徴集の犯罪性に狭義も広義もない
 安倍首相が継承すると明言した「河野談話」は慰安婦の「募集」方法について、次のように記している。

 「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」

 また、1994年に国連人権委員会によって「女性への暴力に関する問題に関する特別報告者」に任命されたスリランカの法律家クマラスワミ氏が1996年に提出した最終報告書は、慰安婦の徴集に次のような3つのタイプがあったと記している。
 http://space.geocities.jp/japanwarres/center/library/cwara.HTM 

 ①すでに娼婦であった女性と少女からの自発的応募
 ②料理屋や軍の料理人、洗濯婦と称して女性を騙すやり方
 ③日本の支配下にあった国々での大規模な強制と奴隷狩に匹敵する暴力的連行

 まず、指摘しておく必要があるのは、安部首相が言う「狭義の強制」的徴集も実在した証拠が提出されているということである。クマラスワミ報告にあるように、徴集方法は地域によって一様ではなかったが、国内では軍が直接自国民を慰安所へ連行するのは好ましくないと判断され、①が多く、一部②のやり方もあったようである。

 しかし、当時、日本軍の統治下にあった朝鮮、台湾、中国等では、軍人が直接現地の女性を拉致、誘拐して慰安所へ連行するケースや、現地のブローカーや地元の村幹部などを通じて女性を集めたケースが多かった。1956年に中国の瀋陽と太源で行われた日本人戦犯裁判で有罪判決を受けた45人の自筆供述書、前記のクマラスワミ報告に収められた元従軍慰安婦3人の証言、韓国政府が元慰安婦13人から聞き取り調査をした結果をまとめた中間報告書(1992731日)などから、この事実を具体的に読み取ることができる。
 しかし、このことから、物理的強制(連行)を伴わない徴集なら問題はなかったなどと言い募るのは慰安婦徴集の実態に目をふさぐ暴論である。例えば、「よい仕事があるから」といった甘言で軍の慰安所に連れていかれ、最初は裁縫や洗濯などを割り当てられたが、しばらくたって兵士の性的処理の相手をさせられた女性がおびただしい数にのぼる。こうした女性に対して、「家に乗り込んでいって強引に連れていったわけではない」などと殊更に言い募るのはモラルの退廃というほかなく、そうした人物が「美しい国づくり」を語るのは笑止の沙汰である。

 本来、インフォームド・コンセントというのは、必要な情報を得たうえでの合意を意味し、詐欺や甘言で誤導された意思が「真正の意思」でないことは言うまでもない。それどころか、暴力的連行とは区別される詐欺・甘言(この事案では女給か女中として雇うという詐欺)による慰安婦の徴集を「国外移送目的の誘拐」として有罪とした大審院判決(1937年)が存在したことが「朝鮮人強制連行真相調査団」の手で発掘されている。

「慰安所」における女性の性奴隷としての実態
 先に触れたように、従軍慰安婦問題の犯罪性は徴集の局面がすべてではない。強制連行か甘言による拉致・誘拐かを問わず、慰安婦とされた女性の悲惨な姿は「慰安所」の実態を直視することなしには把握できない。これについて、「河野談話」と同時に内閣官房外政審議室が発表した「慰安婦関係調査結果の要旨」は、<慰安所の経営及び管理>と題する項で次のように記している。

 「慰安所の多くは民間業者により経営されていたが、一部地域においては、旧日本軍が直接慰安所を経営したケースもあった。民間業者が経営していた場合においても、旧日本軍がその開設に許可を与えたり、慰安所の施設を整備したり、慰安所の利用時間、利用料金や利用に際しての注意事項などを定めた慰安所規定を作成するなど、旧日本軍は慰安所の設置や管理に直接関与した。」

 慰安婦の管理については、旧日本軍は、慰安婦や慰安所の衛生管理のために、慰安所規定を設けて利用者に避妊具使用を義務付けたり、軍医が定期的に慰安婦の性病等の病気の検査を行う等の措置をとった。慰安婦に対して外出の時間や場所を限定するなどの慰安所規定を設けて管理していたところもあった。いずれにせよ、慰安婦たちは戦地においては常時軍の管理下において軍と共に行動させられており、自由もない、痛ましい生活を強いられていたことは明らかである。」

 こうした記述を裏付ける資料や証言は少なくないが、前記のクマラスワミ報告は「慰安所」の状態に関する調査結果を次のように記している。

 「敷地は鉄条網で囲われ、厳重に警護され巡視されていた。『慰安婦』の行動は細かく監視され制限されていた。女性たちの多くは宿舎を離れることをゆるされなかったと語っている。」

 「・・・・・・そのような状態のなかで、『慰安婦』は一日に10人から30人もの男子を相手とすることを求められた。」

 「軍医が衛生検査を行ったが、『慰安婦』の多くの記憶では、これらの定期検査は性病の伝染を予防するためのもので、兵隊が女たちに負わせた煙草の押し焦げ、打ち傷、銃剣による死傷や骨折でさえもほとんど注意を払われなかった。」

 「そのうえ病気と妊娠にたいする恐怖がいつもあった。実際『慰安婦』の大多数はある程度性病にかかっていたように思われる。病気の間は回復のための休みをいくらか与えられたが、それ以外はいつでも、生理中でさえ彼女たちは『仕事』を続けることを要求された。ある女性被害者が特別報告者に語ったところでは、軍事的性奴隷として働かされていたときに何度も移された性病のため、戦後に生まれた彼女の息子は精神障害者となった。このような状況はすべての女性被害者たちの心に深く根付いた恥の意識と合わさって、しばしば自殺または逃亡の試みという結果をひきおこした。その失敗も確実に死を意味した。」

「楽しみもある代わりに死んでくれ、と言っているわけでしょう。」
 
~元日本軍兵士の尊厳をも冒涜する政治家の発言~
 
 「この程度のことは違う立場から見れば、戦争だったわけですから当然のことなんですね。これが強制連行と言ったらひどすぎますが、連れていくのに全然自由意思で『さあ、どうぞ』という話などないわけですね
 しかし、この程度のことを外国に向けて本当にそんなに謝らなきゃいかんのか。誰がひどいと言ったって、戦争には悲惨なことがあるのであって、当時、娼婦というものがない時代ならば別ですけれども、町にあふれているのに、戦争に行く軍人にそういうものをつけるというのは常識だったわけです。働かせなきゃいけないんです。兵隊も命をかけるわけですから、明日死んでしまうというのに何も楽しみがなくて死ねとは言えないわけですから、楽しみもある代わりに死んでくれ、と言っているわけでしょう。」
 (日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編『歴史教科書への疑問』展転社、平成9年、435~436ページ)

 これは「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が河野洋平衆議院議員を講師として招き、同氏が官房長官時代(199384日)に発表した前記の談話(「慰安婦関係調査結果の発表に関する河野官房長官談話)の経緯を説明した後の質疑の冒頭で小林興起議員が行った発言の記録である。
 口を開けば、「英霊」と奉られる元日本軍兵士は、後世の政治家が自分たちのことを「娼婦をつけ、楽しみを与えるから死んでくれと言ったまでだ」と言ってのけるのを聞いてどんな思いをするだろうか? 意に背いて戦場へ連行され、性的奴隷扱いを受けたアジアの女性たちにとって、自分たちが受けた仕打ちを「この程度のこと」と言ってのける加害国日本の政治家の発言を聞かされるは、二重の意味で――度は戦場で、もう一度は戦後の歪んだ歴史認識の持ち主である日本の政治家の暴言で――人格冒涜というほかない。

 ちなみに、前記の小林議員の発言に対し、河野洋平氏は次のように応答している。

 「なるほど。私は残念ながら意見を異にします。この程度のことと言うけれどもこの程度のことに出くわした女性一人一人の人生というものを考えると、それは決定的なものではなかったかと。戦争なんだから、女性が一人や二人ひどい目にあっても、そんなことはしょうがないんだ、というふうには私は思わないんです。やはり女性の尊厳というものをどういうふうに見るか。現在社会において、戦争は男がやっているんだから、女はせめてこのぐらいのことで奉仕するのは当たり前ではないか、と。まあ、そうおっしゃってもいないと思いますが、もしそういう気持ちがあるとすれば、それは、今、国際社会の中で全く通用しない議論というふうに私は思います。」
 (日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編、前掲書、436~437ページ)

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国策放送へ急旋回するNHK ~ ニュース7と全国紙の報道比較調査を手掛かりに ~

2014623

 621日、大阪中之島の中央公会堂で開かれた「どうする!公共放送の危機」6.21関西集会に、リレートークの一人として参加した。
 リレートークは、池田恵理子さん(アクティブ・ミュージアム『女たちの戦争と平和資料館』館長/元NHKディレクタ―)、永田浩三さん(武蔵大学教授・元NHKチーフプロデュ―サー)、阪口徳雄さん(弁護士/「NHKを考える弁護士・研究者の会」共同代表)と私の4人。ラジオパーソナリティの小山乃理子さんが司会を務められた。

 6.21関西集会チラシ
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20140621kansaishukai_chirasi.pdf

 
会場に入り、大阪市の中央公会堂の重厚な建物、内装に感銘したが、それについては後の記事で触れることにして、私の読み上げ原稿の前半部分(国策放送に急旋回しつつあるNHK――新聞報道との対比で――)を転載したい。参加者に配布してもらった資料は次の2種類。

 NHK国策放送への瀬戸際 ~NHKを視聴者の手に取り戻す運動のために~
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20140621_hokoku_shiryo.pdf

 <資料1><資料2> 最近の報道機関のニュース報道の比較
 
          ――201456月を中心に――
 
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/20140621_shiryo1_2.pdf

        会場の模様(湯山哲守氏撮影・提供)
2014621_2_40
2014621_1_40_2
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 6.21
関西集会読み上げ原稿
(【 】内は時間の関係から読み上げを省略した部分)
                                                                                   醍醐 聰

NHK
:問われるその影響力
 
今日、私がお話しするテーマは、政府が右といったらNHKは左とは言えないというような人物がNHKの会長に選ばれないようにするにはどうしたらよいか、【護憲派は大バカ者と叫ぶ百田尚樹さんや、王様の首を切り、住民を虐殺する時の錦の御旗になったのが国民主権だと憲法の国民主権を蔑視する長谷川三千子さんのような人がNHKの経営委員に選ばれたりしない、】自主自立の公共放送の担い手にふさわしい人物がNHKの会長や経営委員に選ばれるよう制度をどのように改める必要があるのかを考えることです。
 しかし、そうした人事の問題も、NHKの放送番組が世論に及ぼす影響力を見極めながら議論する必要があると思います。【とりわけ、安倍政権が集団的自衛権、特定秘密保護法の制度整備、原発再稼働、医療・介護制度、法人税減税、労働時間制度など、広い分野で戦後民主主義の転覆させる政治を強行しようとしているこの時期に、世論に強大な影響力を持つNHKがこれらの問題をどのように伝えるのかは、憲法体制の擁護、充実を願う私たちにとって死活の問題です。】

 そこで、NHKの報道番組の視聴動向と視聴者の番組評価の状況を調べた資料を探しますと、NHK放送文化研究所が刊行している『放送研究と調査』という月刊誌の去年の2月号に「テレビ番組に対する意識・評価の現況」というレポートが掲載されていました。NHK総合と民放5局の定時番組を対象に、関東1都6県の1,550人にアンケート調査をした結果の解説です。
 これを見ますと、「視聴経験率」が一番高かったのは過去3年間どの年度もNHKの夜7時のニュース(ニュース7)で5758%と断トツです。NHKの「首都圏ニュース845」が3位、「ニュースウオッチ9」が8位、「クローズアップ現代」が10位と続いています。(以下、上記配布資料の中の<資料1><資料2>を参照しながら発言)

 では、実際に見た番組に関する視聴者の印象・評価はどうだったでしょうか? 「正確な情報を迅速に伝えている」という項目で最も高い評価を得たのは「首都圏ニュース」で、「NHKニュース7」は68.6%で2位、3位は「ニュースウオッチ9」でした。やはり、一般の通念どおり、NHKは「正確な」報道という点で多くの視聴者から信頼を得ているといえそうです。
 しかし、問題は、NHKが伝えた「事実」とはどういう事実だったのかということです。政府が発表した「憲法解釈」や「骨太の方針」も発表された「事実」には違いありません。しかし、それを伝えるだけなら「政府広報」と同じです
 そうではなくて、時の政権の動きを自主自律の立場で取材し編集して、国民が主体的に参政権を行使できる判断のよりどころを提供するのがNHKに限らず、すべてのメディアの使命のはずです。
 また、「正確な」事実の報道という時、その裏側には「伝えられなかった事実」があることも忘れてはなりません。限られた放送時間のなかで、数ある一日の出来事のから何を選び、それぞれにどれだけの時間を当て、どのように伝えるのかは、ニュース番組の価値を左右する最も重要な点です。かりにも、その取捨選択が恣意的であったり、バイアスが働いていたりするなら、「正確な」報道はうわべのことで、実態は「問題隠し」「世論誘導」の報道と言わなければなりません。

NHK
はどのように国策放送へ傾斜しているか
 
そこで、私は今年の56月にNHKニュース7と新聞が主だった問題をどのように伝えたかを調べました。<資料1>はその結果をまとめたものです。これをもとに私が感じたNHKニュース7の報道の特徴を短い言葉でまとめますと、「政府広報」、「空気づくり」、「注目誘導」、「話題そらし」の4つに整理できました。
 一つ目の「政府広報」とはこういうことです。
 憲法解釈を閣議で変更して集団的自衛権の行使を容認するという安倍政権の動きについて、朝日、毎日のほか、多くの地方紙は、政府が示した解釈や集団的自衛権発動の新要件をそのまま伝えるだけでなく、「1972年の政府見解の曲解」とか「歯止めにならぬ新基準」と言った社説を掲載して鋭い疑問を投げかけました。また、朝日新聞は「安倍首相会見、5つの論点」という見出しで、安倍首相が会見で使った事例のレトリックを解明する大きな記事を掲載しました。
 ところが、ニュース7はどうかというと、自民・公明両党の協議の成り行き報道がほとんどです。また、政府見解についても「一定の歯止め」とか「これこれと明記されました」といった政府発表丸写しの報道です。そこには、独自の取材に基づいて政府が挙げた事例に現実味があるのか、安倍政権の憲法解釈がまっとうなのかどうかを主体的に検証し論評した報道は皆無といってよい状況です。これでは、自公両党さえ合意すれば、一時(いっとき)の政権の判断で憲法解釈を変更することも可能であるかのような土俵づくりにNHKが加担するのも同然ではないでしょうか?

 私が感じたニュース72番目の特徴は「空気づくり」です。この56月のニュース7では、東シナ海での中国とベトナムの船舶の衝突事件、日中両国の領空、領海付近での異常接近など日本周辺で一触即発の緊張状態が続いているといったニュースが連日、多くの時間を割いて報道されました。どれもニュース価値がないというわけではありませんが、その比重があまりに突出していないでしょうか?
 安倍政権は周辺有事を状況証拠にして、憲法改正の手続きをやっている余裕はないと言い募り、集団的自衛権行使容認の閣議決定を強行しようとしています。そのさなかに、NHKが周辺有事の切迫感を国民の意識に刷り込むような報道を繰り返すのは、集団的自衛権容認もやむなし、閣議での解釈改憲もやむなしの「空気づくり」をしているといって差し支えないと思います。

 ニュース73番目の特徴は「注目誘導」です。

時間がありませんので1つだけ挙げておきます。ニュース7が国会審議の模様を報道する時、質問者の映像も発言も伝えず、安倍首相や閣僚の答弁だけが映し出されるのが恒例のようになっています。質問を省いて答弁だけを伝えたのでは、答弁が的確かどうか、視聴者は判断できません。
 【安倍首相の諸外国訪問を伝えるニュースも念入りでした。G7の模様を伝えたニュースでは「『力による現状変更は許されない』という安倍首相の考えに各国首脳から合意をとりつけたのは外交的な成果だ」と同行記者は持ち上げました。読売新聞も「中国牽制で成果、日本、欧州への働きかけ奏功」と伝えました。しかし、毎日新聞は欧州首脳の関心事はロシアとの対話の模索にあり、「中国『包囲網』への関心薄く」と報道しました。東京新聞も安倍首相の「中国脅威論は空回り」と伝えました。】

 4つ目の特徴は「話題そらし」です。
 ニュース7はサッカーワールドカップまであと何日といった報道をほぼ毎日、流してきました。日本代表が初戦を戦った15日は18分をこれに充てました。といっても試合の模様を伝えたのは数分で大半は「日本、日本」とコールする声援の姿でした。これにもニュース価値がないとは言いませんが、これによって同じ日の昼のニュースでは伝えられた集団的自衛権をめぐる「シーレーンの掃海活動、与党討議の焦点に」というニュースは伝えられませんでした。「地方議員グループ、憲法解釈変更に反対」というニュースもカットされました。NHKは多くの国民が楽しみにしているから、といいます。私もニュース価値がないというつもりはありません。しかし、定時のニュース番組は娯楽番組ではありません。視聴者の好みとは別に、国民に伝えるべき現実を伝え、有権者として持つべき公共的関心を育むのが公共放送たるゆえんではないでしょうか?

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なお、翌22日の「朝日新聞」朝刊(大阪版?)が集会の模様を短い記事で報道した。
 「NHK会長らの罷免を求め集会」(2014622日、朝日新聞)
  http://sdaigo.cocolog-nifty.com/asahi_20140621kizi.pdf

 また、当日、集会の模様を取材したIWJが集会の模様を前半、後半に分けて動画で配信している。また、レーバーネット会員でもある永田浩三さん稿の集会の模様のレポートが同サイトに掲載されている。
 これらは「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」のHPに掲載されているので、ご覧いただけるとありがたい。
 
 http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/2014/06/621-934e.html

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TPPとプレTPP 交渉先取りする国内改革

2014614

「農業協同組合新聞」2014614日号の「クローズアップ農政」欄に標題のようなタイトルを付けた私のインタビュー記事が掲載された。すでに同紙のHPに記事の全文が掲載されているので、ここに転載する。下線は転載にあたって私が追加したもの。原サイトは次のとおり。
  http://www.jacom.or.jp/closeup/agri/2014/agri140611-24534.php

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【クローズアップ農政】TPPとプレTPP 交渉先取りする国内改革
 
           醍醐聡・東京大学名誉教授インタビュー

・主権の危機に賛同集まる

 
・自由競争は正義か?
 
・日豪EPAでなし崩し?
 
・国内改革先行に警戒
 
・為替条項、財界にも打撃
 
・「食」と「地域」守る

 TPP(環太平洋連携協定)交渉は最終局面を迎えているといわれる一方、交渉は長引くとの見方もある。一方で国内改革はTPPがめざす世界を先取りしたかのような急進的な改革が成長戦略の名のもとに進められようとしている。内外の状況をどうみるか、今後運動を広げる課題は何か。TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会呼びかけ人である醍醐聡・東京大学名誉教授に聞いた。

国のかたち」に危機感を
◆主権の危機に賛同集まる
――TPP交渉の問題点を改めてお聞かせください。
 大学教員の会は昨年3月に17人が呼びかけ人になって立ち上げ、最初に安倍首相あての交渉参加反対の申し入れ文書への賛同を全国に呼びかけました。これには900人近くの賛同がありましたが、いちばん多かった声はこの交渉に入っていくと日本の主権が損なわれてアメリカの属国のようになってしまうのではないかという危機感でした。
 それも意外なことに法律や経済が専門ではない文学、教育学、物理学など広い分野の大学教員から聞かれました。みなさん考えることは同じなんだと心強く思いましたが、その後の交渉参加以降、分野を問わず日本の主権が損なわれてしまうのではないかというTPP協定への本質的な懸念はずっと変わっていません。

◆自由競争は正義か?

 TPP協定は21世紀の標準的な貿易形態をめざすといいますが、これは自由貿易原理主義だと思います。自由に価格競争をすることがこれからの理想なんだという考え方が自明のように言われています。しかし、自明でもなんでもない。東大の伊東元重教授が保護主義で栄えた国はひとつもないとよく言いますが、これは経済学者として責任を持てる言説ではないと思います。
 とくに農業については、地理的、気候的条件に応じて当然、扱いに差異があり、どの国にも食料主権があってしかるべきです。その差異を調整するために各国がお互いに認め合ってきた手法のひとつが関税だと思います。それを取っ払うとは地理的条件を無視して価格至上の競争にさらすということです。こうしたTPPの発想は自由貿易原理主義と呼ぶにふさわしいと思いますが、経済学を専攻する者としてこんな乱暴な議論を放っておいていいのかという気持ちに駆られました。
 同時に憤りを感じるのは米国の身勝手さです。砂糖はしっかりと守る、これは米豪EPAで決着済みだ、とTPPには持ち込まず封印してしまう。ところが、日本の重要品目の関税は認めない。ずいぶんと傲慢な議論です。
 多くの賛同者の大学教員の根底にあるのは、この交渉の枠組みはそもそも不正義をはらんでいるという問題意識だと思います。自国の運営はその国の国民が決めるという互いの主権を尊重し合い、そのうえで貿易や文化で交流、親善を深めていくのが当たり前です。TPPが目指すのは各国国民の福祉の向上ではなく、国籍のない企業が活動しやすい貿易ルールを各国に押し広げることです。

◆日豪EPAでなし崩し?
――交渉の状況をどうお考えですか。
 4月の日豪EPA大筋合意によってTPP交渉はまずい方向へ転換してしまったのではないかと思います。
 この合意で日本政府は関税削減には応じても全面撤廃を避けさえすれば、国会決議に必ずしも反しないという解釈を始めた。これまで表向きはそんなことは言ってこなかったと思います。重要品目は「除外」、つまりそもそも交渉の対象から外すということだった。
 しかし、政府は国会で「除外とは交渉のなかで決まっていくものだ」と説明し出しました。ということは日本政府は確定的なスタンダードを持たずに交渉に臨んでいるということです。しかも日豪EPA合意では関税削減率はわずかなものではなくほぼ半分です。これでも国会決議の範囲内だとの説明は牽強付会というほかありません。
 こういう解釈を政府がし始めたことが、日米協議だけでなく、ニュージーランドとの乳製品、東南アジアから日本への米輸出の交渉にも影響を及ぼしかねない。非常に厳しい状況だと思います。
 この会を立ち上げてから地方の生産現場を訪ねましたが、どこの農協、農家のみなさんも安全、安心な農産物を供給しているのだという誇りを持っていることを肌で感じました。それだけに生産履歴がチェックされない外国産品が安さだけをメリットにして入ってくることに非常に危機感を持たれ、日豪EPA大筋合意のとき、たまたま滞在していた岩手県の地元紙は「セーフガードを付けて段階的に関税を引き下げるというと聞こえはいいが、われわれはじわじわと生殺しされるのと同然だ」という畜産農家の声を伝えていました。

◆国内改革先行に警戒
 実際、セーフガード(SG)が措置されたといいますが、数量基準では発動されるものの、価格の値下がりによる収入減ということに対しての補償はどこにもありません。しかも、米国は日本政府が頼みの綱にするセーフガードを認めたわけではないのです。

――農業以外の分野も重要です。交渉内容は秘密ですが、国のかたちやそれこそ主権に関わる問題も多い。状況をどう見ていますか。
 主権を揺るがす問題として、法律分野ではISD条項(投資家対国家紛争解決手続き)がそれであることは間違いないことであり、このような究極の包括的な主権侵害はTPP交渉の非常に大きな問題であることに変わりはありません。
 しかし国内的にはすでにTPP協定を先取りしたような主権が侵害されかねない事態が起きてきていることを問題にしなければならない状況だと思っています。

◆為替条項、財界にも打撃
 たとえば、食料自給率50%目標について、もう現実的なものに変えようといった声が上がってきている。それから医療費抑制政策として重視してきているジェネリック医薬品についても、政府のロードマップでは2018年3月までに60%まで普及率を引き上げるとしていた(現在は約26%)のに、むしろ下がっていくような特許権保護が行われようとしているのです。
 しかし、実はジェネリック医薬品が世界でいちばん普及しているのが米国で78%もの普及率です。自分の国がいちばん普及しているのに、諸外国が普及させようとすると待ったをかける。さらに患者の選択の自由の拡大をうたい文句に、効能の高い新薬を保険診療の外に置き、高い保険外診療を受けられない患者の選択の自由を狭める混合診療の拡大を規制改革会議が打ち出しています

 また、健康食品の機能性表示に関する規制を大幅に後退させる動きが進行しているのも重大です。「国ではなく企業が科学的根拠を評価したうえで、企業の責任において表示する」健康食品という分類を設ける動きは、営利企業の自己評価に国民の健康を委ねるに等しい無責任極まりない改悪です。

 最近では交渉は行き詰まり漂流も、という声もあります。しかし、TPP交渉が遠のいたから一安心かといえば、決してそうではなく、今お話したようなプレTPP、つまり、TPPがめざす世界を先取りしたような国内改革がいろいろな分野で起こっています。この点を見落としては、TPP反対運動は何だったのか、となりかねません。

 同時に経済界に発信したいのは、米国の国会議員が要求している為替条項です。今のところフロマンUSTR代表も表に出すのを控えているようですが、議会からいつ出てくるか分かりません。きっかけはアベノミクスで円安が進んだことですが、米国からみれば安い日本製品が入ってきて市場が奪われると非常に不満を募らせることになった。とくに政府と日銀がかなり密接な共同歩調をとっていますから、米国からすればかっこうの攻撃材料です。
 しかし、為替操作かどうかなど誰が何を基準に認定するのか、ということになります。結局、日本の製品と競合している業界の利益率がこれだけ下がり、日本製品のシェアが伸びるといった外形的な根拠があれば、これは為替操作の影響だと認定するということにするのでしょう。そう認定されたから関税を元に戻す、こういう条項をTPP協定に入れろというのが米国議員の要求です。

◆「食」と「地域」守る
 これを認めたら日本の金融政策の手足を縛られ、輸出産業は大きな打撃を被ることになります。経済界は総じてTPP推進の立場ですが、為替条項を見れば、経済主権が侵害される被害は経済界にも及ぶということを悟ってほしいと思います。
 TPPは農業だけの話ではないと言ってきましたが、私たちは改めて農業が「地域社会」と「食」に関わる問題だということを強調しなければなりません。農業の衰退が地域の衰退と重なるところは多い。「食」に関しては『毎日新聞』が5月19日に掲載した世論調査の結果に注目したいと思います。それによると、「畜産農家に打撃があっても安い農産物が輸入されることをよしとしますか」という質問に対して、「そうは思わない」が62%で「そう思う」(29%)の2倍以上でした。とくに女性は69%が「農家が打撃を受けるのはいいと思わない」と答えています。
 日豪EPAの合意内容が知らされるとやはり国産が打撃を受けることをよしとしない国民が非常に多くなっているということだと思います。そういう意味で「食」の視点が大事です。ここを起点に運動を粘り強く広げていきたいと考えています。

                                                             
2014.06.11

4月19日、松本市あがたの森公園で開催された「TPPに関する国会決議の実現を求める長野県民集会」であいさつ
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NHK監査委員会は籾井NHK会長、百田経営委員の定款等違反行為の差し止めを

2014年6月11日

 一つ前の記事で書いたように、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は6月6日、百田経営委員の罷免を求める申し入れをNHK経営委員会に提出した。その折、併せて、NHK監査委員会に対して、籾井NHK会長、百田経営委員の定款違反行為の差し止めを求める申し入れも提出した。
 このように、監査委員会に対して、「行為差し止め」を求めた根拠は、監査委員会の権限を定めた次のような放送法第46条にある(下線は筆者の追加)。

 放送法第46条(監査委員による役員の行為の差止め)
  「監査委員は、役員が協会の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によつて協会に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該役員に対し、当該行為をやめることを請求することができる。」  

 いうまでもなく、NHK経営委員は放送法第49条により、NHKの役員である。また、NHK定款第10条には役員の服務に関する準則を定めるとあり、「会長、副会長および理事の服務に関する準則」、「経営委員会委員の服務に関する準則」の各第5条には、NHKの役員はNHKの信用を失墜させる行為を禁じた規定が設けられている。
 したがって、特定の政党、個人、外国の人権と名誉、尊厳を貶める下品な暴言を吐いた百田尚樹氏の度重なる言動が「職務外」の行為であったとみなしても、職務内外を問わず適用される信用失墜行為(服務準則および定款違反行為)に当たることは免れない
 また、籾井会長の国際放送に関する発言も、以下の申し入れ文書に記載したとおり、放送法の関連条項に違反することは明らかである。
 さらに言えば、NHK会長、経営委員に、「会長としても発言」と「個人としての発言」の使い分け、職務の「内」と「外」の使い分けが野放図に許されるわけではない。

 いまや、2人がこうした暴言を繰り返すのをただの「口頭注意」で済ませ、毅然とした措置を講じない経営委員会の優柔不断な態度にも厳しい批判を向けなければならない
 と同時に、放送法第43条で「役員の職務の執行を監査する」権限を持ち、具体的に、放送法第46条で、法令・定款等に違反する場合、違反する「おそれ」がある場合に、そうした行為の差し止めを請求する権限を与えられている監査委員会が何らの対応も講じていないことを厳しく質す必要がある
 今回、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」がNHK監査委員会宛に表記のような申し入れをしたのは、こうした問題意識からである。
 以下は、申し入れの全文である。監査委員会には6月末日までに書面で回答をもらうよう、要請している。

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                                     2014年6月6日

 NHK監査委員会 御中

        籾井会長、百田経営委員の言動に関する申し入れ

                       NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                             共同代表 湯山哲守・醍醐 聰

 監査委員各位におかれましては日頃より、放送法が定めた重責を果たすため、尽力されていることと存じます。
 さて、籾井勝人NHK会長は本年1月25日の会長就任記者会見の場で数々の問題発言をしました。これについて、経営委員長あるいは経営委員会から3度も籾井会長に対して苦言、注意が申し渡されるという異例の事態となっています。
 とりわけ、籾井会長が国際放送においては「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と発言したのは、NHKが政府の要請に基づいて国際放送を行う場合でも、「放送法」第65条第2項によりNHKの番組編集の自由が確保されていることをまったく理解していないことを意味すると同時に、「各国の利害が対立する問題については、一方に偏ることなく、関係国の主張や国情、背景などを公平かつ客観的に伝える」と定めた「NHK放送ガイドライン」に明白に違反しています。
 また、安倍首相の靖国神社参拝について「総理の信念で行かれた。それをいい悪いという立場にない」とか、特定秘密保護法について、「政府が必要だと言う説明だから、様子を見るしかない」とか述べた籾井会長の発言は放送法ならびにNHK定款の全体を貫く放送の自主自律の立場を根底から覆すものです。

 籾井会長は、これらの発言は個人的見解であり、自分の考えを放送に反映させるつもりはないと断っています。しかし、会長就任会見で籾井氏は、「最終的には会長が決めるわけですから・・・・私の了解をとってもらわないと困る。NHKのガバナンスの問題ですから」と述べています。現に、4月30日の理事会で籾井会長は番組内容を検証した考査報告をめぐって議論が交わされた際、消費税率の引き上げで生活が苦しくなるという高齢者の声を伝えた街頭インタビューに口を挟み、そうした声を伝えるだけではニュースにならない、政府が検討している低所得者対策も個々の番組の中で伝えるべきだという持論に固執したと伝えられています。

 こうした経緯を踏まえれば、籾井会長は、NHKの番組は国際放送にとどまらず、国内放送でも、政府の政策をくみ取ったものであるべきだという意見の持ち主であると同時に、それを個人の見解に留めず、番組制作にまで浸透させる意図を持っていると考えざるを得ません。  こうした意図が今後も現実の行為として実行される可能性が高く、そうなれば、NHKは自主自律の立場で放送を行うという視聴者の信頼を著しく損なうことは明らかです。

 問題発言は籾井会長にとどまりません。本年1月22日、参議院議員会館講堂で開かれた「戦争反対!  女性大集合」に出席したNHK経営委員の長谷川三千子氏は、「私は安倍首相の応援団長です。このたび、NHKの経営委員にもなりました」と公言しました。

 NHK経営委員の百田尚樹氏も、さる2月3日、都内3か所で都知事候補の田母神俊雄の応援演説を行い、田母神氏以外の候補者を「人間のクズ」と罵倒しました。さらに、百田氏は本年5月3日の憲法記念日に改憲派が開いた集いに登壇し、「護憲派は大ばか者」と放言したほか、5月24日には自民党岐阜県連の定期大会に出席し、「軍隊は家に例えると、防犯用の鍵・・・・」と述べ、軍隊を持たない南太平洋の島しょ国バヌアツ、ナウルは「家に例えると、くそ貧乏長屋で、泥棒も入らない」などと暴言をほしいままにしました

 これら2人の経営委員の発言について、経営委員会は、経営委員も職務外の言動言論は自由という見解を繰り返し、問題視しない態度を取り続けています。しかし、百田氏の最後の発言について、浜田経営委員長は「もう少し慎重に発言した方が良かった」と苦言を呈し、上村達男経営委員長職務代行者も他国を「くそ貧乏長屋」に例えたことは「いささか品格を欠く」と批判的な見解を示しました。

 私たちは、NHKの役職者にも職務外の場では言論の自由が認められることは十分承知しています。しかし、政府首脳の場合がそうであるように、NHKの会長や経営委員が職務の内と外で公人、私人を使い分けることが通用するかどうかは、その地位、発言がなされた場面等の状況に照らして判断すべきであり、当事者の主観的意識だけで決まるものではありません。このことは、内閣総理大臣や閣僚の靖国神社参拝の例を見ても明らかです。  したがって、籾井会長、百田・長谷川両経営委員の上記のような言動を個人の言論の自由を盾に放免するのは不適切だと私たちは考えます。

 現に、経営委員長職務代行者の上村達男氏は、籾井会長が国際放送に関して「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と発言した点、特定秘密保護法の報道に関して「(成立したので)もう言ってもしょうがない。政府が必要だと言う説明だから、様子を見るしかない」と発言した点を挙げて、「私は〔こうした籾井会長の〕個人的見解そのものに『誤り』があると考える」と断言しています。その上で、上村氏は「こうした見解を持ち続けたまま会長職を続けることはできないはずだ」とまで述べています(「毎日新聞」2014年5月5日)。

 また、百歩譲って、百田氏の一連の言動が職務外のものだったことを考慮するとしても、同氏の上記のような品位と人権への配慮を欠く言動は「経営委員の服務に関する準則」に反するものです。なぜなら、「服務準則」の第5条で禁じられた信用失墜行為(NHKの名誉や信用を損なうような行為をしてはならないとする定め)は、人事院の指針を見てもわかるように、飲酒運転やセクハラ行為など、職務外の言動も含んでいるからです。
 実際、NHKでも1991年、キャスタ-を務めていた松平定知氏が、泥酔してタクシーの運転手を電話機で殴ったり足蹴りをしたりするなどの暴行を働いた責任を問われて「NHKモーニングワイド」を年度途中で降板するとともに局次長級エグゼクティブアナウンサーから部長級チーフアナウンサーに降格されました。  NHKの最高議決機関である経営委員会の委員が他国や他者を侮辱する暴言を吐いた行為がNHKの信用に及ぼす影響は、松平氏の暴行が及ぼした影響よりもはるかに広く、重いのは間違いありません。
 そこで、当会は貴委員会および委員に対し、以下の申し入れを行います。  

                     【申し入れ】

 放送法は第46条で、「監査委員は、役員が協会の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によつて協会に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該役員に対し、当該行為をやめることを請求することができる」と定めています。

1.籾井会長の放送法等からの逸脱行為の差し止め
 前記のような籾井会長の一連の発言は、放送法第46条が定めた「役員が協会の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によつて協会に著しい損害が生ずるおそれがあるとき」に十分に該当するとみなされます。
 そこで、当会は監査委員各位に対し、放送法第46条を発動して、籾井会長に対し、国策に沿った放送を行うとの言動ならびに指揮をやめることを請求するよう申し入れます。

2.百田経営委員の服務準則違反行為の差し止め
 百田経営委員の野卑で人権を冒涜する発言、政治的公平を蹂躙する言動は目に余るものがあります。特に、5月24日に自民党岐阜県連の定期大会に出席し、「軍隊は家に例えると、防犯用の鍵・・・・」と述べ、軍隊を持たない南太平洋の島しょ国バヌアツ、ナウルは「家に例えると、くそ貧乏長屋で、泥棒も入らない」などと暴言を吐いたことはNHKの国際的信用をも失墜させる行為であり、経営委員の服務準則に違反することは明白です。
 しかも同氏のこれまでの言動から考えて、こうした信用失墜行為が繰り返される蓋然性は極めて高いと考えられます。
 よって、当会は監査委員各位に対し、放送法第46条を発動して、百田経営委員に対し、NHKの信用を失墜させる言動を差し止める措置を講じられるよう申し入れます。
                                          以上

           コーヒー入り牛乳の出来上がりを待つわが家の姉妹犬
         (9年前の写真。姉犬<右>はもういない。)
Photo

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百田NHK経営委員に辞職勧告を:視聴者コミュニティ、経営委員会に申し入れ

201468

  私も共同代表の一人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は66日、NHK放送センタ-に出向き、2件の申し入れを提出した。
  *NHK経営委員会宛て「百田経営委員の辞職勧告の申し入れ」
 *NHK監査委員会宛て「籾井会長、百田経営委員の言動に関する申し入
  れ」
  この記事では経営委員会宛ての文書の全文を掲載し、併せて、6日の面会の折、この申し入れに関連して、応対した経営委員会事務局の菅沼明彦副部長と交わしたやりとり、ならびに同日、経営委員会宛てに提出した回答要望書の一部を抜粋して紹介しておきたい。(以下、下線およびマーカーはこの記事に転載するにあたって筆者が付けたもの)

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                         201466
 NHK経営委員会 委員各位

       百田経営委員の辞職勧告の申し入れ

             NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                  共同代表 醍醐 聰・湯山哲守

 さる524日、貴経営委員会の百田委員は、自民党岐阜県連の定期大会に出席し、「軍隊は家に例えると、防犯用の鍵であり、(軍隊を持つことは)しっかり鍵を付けようということ」と語った。さらに軍隊を持たない南太平洋の島しょ国バヌアツ、ナウルの国名を挙げ、「家に例えると、くそ貧乏長屋で、泥棒も入らない」などと両国をやゆする発言をしたと報道されました(時事通信 524日)。
 百田発言の重大な問題は、「軍隊をもって守る必要がないほど貧乏な国」としてバヌアツ共和国とナウル共和国をあげて蔑視し、かつ口汚く「くそ貧乏長屋に住んでいる」と両国の誇りを傷つけたことです。すでに同委員はさる2月の東京都知事選挙において特定の候補を党派的に応援し、対立候補全てを「人間のくず」と罵って顰蹙を買った「実績」があります。
 このように他人や他国を不当に貶める言動をし続ける百田経営委員は「日本放送協会の名誉や信用を損なうような行為をしてはならない」とした「経営委員の服務に関する準則」違反者として経営委員失格です。上記2つの「侮辱発言」を反省することもなく居直る姿勢からは、「経営委員会委員は、放送が公正、不偏不党な立場に立って国民文化の向上と健全な民主主義の発達に資するとともに、国民に最大の効用と福祉とをもたらすべき使命を負うものであることを自覚して、誠実にその職責を果たさなければならない。」(同準則2条、服務基準)という立場に立つことを期待することはできません。
 以上述べたことから、当会は貴委員会に次のことを申し入れるものです。

1.百田委員に対して、5月24日自民党岐阜県連定期大会におけるバヌアツ共和国、ナウル共和国に対する蔑視的発言の自己批判・謝罪を求めること。  


 
2.知事選挙での横暴な発言および上記両国に対する侮蔑的発言が、「経営委員の服務に関する準則」第5条、「信用失墜行為の禁止条項」に違反するものとして同委員に「辞職勧告」を行うこと。
                             以上

  --------------------------------------------------


〔補足1
 
面会の折の質疑~百田氏の委員会出欠状況をめぐって~

コ:事前に調査をお願いした百田委員の経営委員会への出欠の実績は?
経:昨年11月に就任以来、5月末まで15回の委員会があったが4回欠席。
コ:欠席理由は?
経:①就任後当初の11月の会合は元々の予定があったとのこと。②225日は海外出張、③311日は体調不良、④527日は仕事のため。
コ:仕事のためと言うが、委員には職務専念義務があるのではないか?その点で④はどのような仕事だったか監査委員会は確認したか?経営委委員の報酬は日当制ではないというが、報酬年額496万円を年間20数回の会合として一回当たりでみれば20万円を超え、他の政府審議会委員会などに比べて破格である。そんな待遇のなか、15回のうち4回欠席とはどういうことか?

〔補足2
経営委員会宛て回答要望書(抜粋)

 なお、最近、当会を含む団体が共同で貴委員会宛に回答要望付きで提出した質問書について、貴委員会は、会長、経営委員長などの国会での答弁、記者ブリーフィング、議事録等で明らかにしているとおりで、個別の質問への回答は控える旨の返答を繰り返しておられます。
 しかし、
1
.当会ほかの質問は、どれも、公表された会長、経営委員長などの国会での答弁、記者ブリーフィング、議事録等では明らかにされていない重要事項に関わるものです。

2.
貴委員会は本年212日付で「経営委員の言動についての経営委員会の見解」と題する文書を公表され、その中で、「経営委員会は、『経営委員会委員の服務に関する準則』をみずから定めており、経営委員はこの準則を遵守する義務を負っている。」「経営委員会において、経営委員一人ひとりが、この準則にのっとり、公共放送の使命と社会的責任を深く自覚するとともに、一定の節度をもって行動していくことを、あらためて申し合わせた。」と記されています。
 しかし、本日、当会が提出した申し入れ書で指摘したとおり、百田尚樹経営委員はその後も、他人や他団体、他国の尊厳を貶める品位のない言動を繰り返しています。
 今回の当会の申し入れは、こうした百田経営委員の「経営委員会委員の服務に関する準則」に明確に違反する行為について、貴委員会に自浄措置を求めるものですから、すでにどこかで説明済みといえるものではありません。


  どこまでも行きたい春の車椅子   武蔵野 竹とんぼ
 
  (「毎日新聞」2014525日 仲畑流万能川柳 より)
      

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない」裁判官でよいのか(下)

201465 

財務面から見て解雇の必要性はまったくなかった~筆者の立証~
 私は本件裁判で東京高裁に財務の面から見て本件整理解雇の必要性を反証する意見書を提出した。その中で、一審判決が解雇の必要性を認める拠り所にした「二次破綻回避論」を反証した箇所を抜粋しておきたい。

 「(JAL乗員と客室乗務員裁判の)ふたつの判決は、更生計画策定時の日本航空が直面していた財政状況を不動の前提にし、その後の日本航空の財政状況の変化を顧みることなく、『破綻的清算を回避するため』、あるいは『二度と沈むことがない船にするため』には整理解雇を実行する必要性があったと判断した点で共通している。また、そうした判断を導く過程で、「事業規模の縮小に見合った人員の縮小」というフレーズを多用し、人員削減を人件費削減の手段としてではなく、それ自体が更生計画の目的であったかのようにみなすことによって、更生計画の実行に伴って日本航空の財政状況が好転したからと言って、整理解雇の必要性はいささかも変化しないとみなす点でも、ふたつの判決は軌を一にしている。」

 「(このような)「危機回避型」整理解雇の必要性を判断するには、整理解雇当時の日本航空が、なお二次破綻の危険から脱していなかったとみる状況判断が妥当だったのかどうかが問われる。通常、企業の破綻は当座の資金繰りの行き詰まりが契機になることが多い。そのため、短期的な債務弁済能力が重視され、それを測る財務指標として伝統的に用いられてきた代表的な指標は「当座比率」(=当座資産÷流動負債)と流動比率(=流動資産÷流動負債)である。

 このうち、流動比率は短期間のうちに(金銭債務であれば1年以内に)決済期限が到来する流動負債に対する流動資産(現金預金のほか、短期間に換金できる金銭債権、製品・商品等)の倍数を表し、この比率が大きいほど短期的な支払い能力が安定していることを示す。一律に下限値があるわけではないが、19901月から20071月の間に倒産した138社をサンプルにしてデフォルト・リスクの予見にどのような財務比率が有効かを検証した桜井・村宮の研究によると、流動比率は100%が安全性の一応の判定値でこれを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している(桜井久勝・村宮克彦「倒産企業の財務比率の時系列特性」『国民経済雑誌』1966号、200712月、15ページ)。

 また、当座比率は、流動負債に対して短期的な決済手段に充て得る当座資産(現金預金、営業未収入金、受取手形、流動性の高い有価証券)をどの程度保有しているかを表すものである。これもどの程度なら安全かを一律にいえるわけではないが、この比率が1を超えていれば、会社が支払い不能に陥る危険性はなく、事業の存続に関して懸念すべき点はないことになる。上記桜井・村宮の実証論文は当座比率については50%が一応の判定値で、これを下回ると倒産に至る懸念が生じると指摘している。

 そこで、会社更生手続中の期間を挟む時期の日本航空の流動比率と当座比率の推移を全日空と対比すると次のとおりである。

 これを見ると、2008年度末から200912月当時の日本航空は流動比率が100%を下回り、当座比率も50%を下回る水準で、債務決済のための資金繰りが逼迫していた状況が窺える。しかし、整理解雇の時点に近接する2010年度末には当座比率は100%を超え、流動比率は150%を超える水準まで復調して、全日空を大きく上回る状況になっている。

 

1 日本航空と全日空の流動比率の推移(連結ベース:%) 

        2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末

JAL       100            75     61    161      157
ANA       86               89           104         105          119

(出所)両社の有価証券報告書、決算短信より算定

 

2 日本航空と全日空の当座比率の推移(連結ベース:%)
       2007年度末 08年度末 09.12.31 10年度末 11年度末
JAL        92               53 44    135          130
ANA     55         46            73        68         87
   
   
(出所)表1と同じ
 

 次に、損益計算項目から会社の財務的安定性を測る指標としてしばしば用いられるのが「インタレスト・カバレッジ・レシオ」(=(営業利益+受取利息・配当金)÷(支払利息・割引料))である。計算式から明らかなように、借入や増資等に頼らず、年々の営業利益と金融収益で年々の金融費用を支払い続けることができているかどうかを測る指標であり、これが1を超えていれば、事業を継続できる財務的安定性が備わっているとされている。

 この比率の推移を全日空と対比すると表3のとおりで、日本航空は2010年度には27.9と、全日空(3.65)の8倍近い値になっている。つまり、向こう28年分の利払いに必要なキャッシュをこの年度の営業活動から生み出したことになるのである。日本航空のインタレスト・カバレッジ・レシオがこれほど好転した主な理由は、会社更生の過程での債務整理を通じて有利子負債が9,210億円(200912月末時点)から4,818億円(20113月末時点)へと激減したことにある。

 
3 日本航空と全日空のインタレスト・カバレッジ・レシオの推移(連結ベース)
    2007年度    08年度 09年度    10年度 11年度
 JAL         4.87     (—)    *      27.9      18.9
 ANA        5.93          0.71      
(—)     3.65        5.08
   
(出所)表1と同じ。」

 「次に、中長期的な財務の安定性を評価する代表的な指標とされてきたのは、有利子負債償還年数と自己資本比率である。このうち、自己資本比率については、ここまでの行論で触れてきたので、ここでは有利子負債償還年数を取り挙げておきたい。

 ここでいう「有利子負債償還年数」とは有利子負債残高を営業活動によるキャッシュ・フローで除した数値のことで、現在の有利子負債を現在のプラスの営業収支尻で返済するのに要する年数を表す。当然ながら、この値が小さいほど短期のうちに有利子負債を完済できることを意味し、それだけ会社の中長期的な財務の安定性が高いことになる。

 そこで、日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移を調べると表6のとおりである。これを見ると、経営破綻直前期の日本航空の償還年数は28.8年と際立って高い水準だったが、整理解雇時点に近接した2010年度末の時点では5.6年と大幅に短縮され、全日空とほぼ同水準になっている。

 ちなみに、企業再生支援機構が2010119日に作成した「日本航空に対する支援決定について」と題する文書で、支援適合基準の一つとして有利子負債のキャッシュ・フロー倍率を挙げ、日本航空ではこれが3年後には2.2倍になり、機構が定めた10年以内という基準を満たすため、支援の基準を充足する、と記している。実際は約12ヶ月後の2010年度末で5.6倍、22ヶ月後の2011年度末時点で0.8倍となっている。この点からも、さらに自己資本比率が更生計画の目標値を超えるテンポで改善していた事実を併せて考慮しても、整理解雇当時の日本航空に、予防的解雇を実施しなければならないような経営破綻の予兆は全くなかったといえる。むしろ、この時点では、再上場の要件をほぼ満たすまでに財務状況は改善しつつあったといえる。

  
6 日本航空と全日空の有利子負債償還年数の推移(連結ベース)
          2007年度末   08年度末  09.12.31     10年度末   11年度末
JAL          6.2     28.8         (注1)      (注3)    0.8
ANA 4.6            
(注1)      (注2)          4.6           4.4
  (出所)表1と同じ
  (注1)は営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスのため、計算せず。
  (注2)は営業期間が9ヶ月、(注3)は営業期間が4ヶ月のため、他の年度との
    時系列の比較ができないので、計算せず。」

  営業費用の0.13%にすぎない人件費がJAL再生を左右するとみなす常軌を逸した判決
 結局、今回の東京高裁判決は、本件整理解雇の必要性はなかったとする被控訴人や筆者の意見書の立証事実について認否をせず、更生計画に書かれたこと、管財人が必要と判断したことには合理性があるという論法に尽きる。これでは、更生手続き下の解雇の不当性を求める労働者の訴えの利益は中身の審理以前に実質的に排除されているに等しい。これでは司法の独立も存在意味もないに等しい。
 判決は次のように述べている。
 
 「本件解雇について、被控訴人に巨額の債務超過と累積赤字があって高度の経営上の困難に陥っており、被控訴人が企業の事業を維持するためには、本件解雇に係る人員の削減が必要であって、被控訴人の合理的な運営上やむを得ないものと認められるのであるから、この観点から検討しても、その人員削減の必要性が認められるものと言うべきである。」

 本当にそうか?
 筆者は本件控訴審につき、東京高裁に提出した意見書の中で次のように立証・主張した。
 
 「乗員81名、客室乗務員84名を整理解雇することによって削減される人件費は約14.7億円だった。

  原告請求金額合計÷原告人数×1.3(法定福利)×0.7(新人事賃金制度による3割カット)=14.7億円

 この金額は、2009年度のJALグル-プの営業費用合計額の0.09%、2010年度の営業費用合計額の0.125%に過ぎない(乗員訴訟甲170/客乗訴訟甲1762ページ)。

 かりに会社が指摘するように、整理解雇による人件費削減の通年効果額を20億円と想定しても、それぞれの割合は0.123%、0.170%に過ぎない。

 つまり、整理解雇による費用削減効果を解雇時点の日本航空の財政状況に照らして見ると、営業費用合計額の0.1%台にすぎなかったのである。にもかかわらず、一審判決は、更生計画の実行がまだ緒についていない計画策定の時点の日本航空の財政状況を前提にして、人員削減による費用削減の必要性を――その時点でさえ人員削減の費用削減効果はデータに基づいて検証されていなかったのだが――云々したため、営業費用合計の0.10.2%を削減する程度の効果しかない整理解雇を実施しなければ、日本航空は、破綻的清算を免れなかったとか、再び沈む船になる恐れがあったとかのようにみなす常軌を失した判断に陥らざるを得なかったのである。

 本件整理解雇が事業再生に果たす財務的効果がこれほど僅少であった事実に鑑みると、かりに会社が主張し、一審判決が追認したような余剰人員が整理解雇の時点で存在したとしても、「余剰人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」(ナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件東京地判平成11129日、労働判例78235ページ以下。下線は筆者が追加)という判断がそっくり当てはまる。」

 本件控訴審を担当した大竹裁判長他、裁判官は筆者のこのような立証・主張をどのように受け止めたのだろうか? 整理解雇当時の日本航空の営業費用合計の0.10.2%にすぎなかった整理解雇者の合計人件費を削減しなければ、日本航空の事業を維持できなかったなどとなぜ言えるのか―――この問いに答えず、本件解雇はやむを得ないものだったなどと結論づけるのは常軌を逸した暴論である。

 整理解雇当時のJALに更生計画が掲げた人員削減目標に未達の状況があったかどうかの争点については、この記事の(上)で論じた。その争点は別としても、「人員の削減を解雇によって達成しようとしている経営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減について経営上の必要性が企業経営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たると言わざるを得ない」というナショナル・ウェストミンスター銀行解雇事件(東京地判平成11129日)の判決が本件JAL整理解雇の必要性を判断する上で貴重な先例になると私は考えており、このような指針を採用すれば客室乗務員解雇撤回訴訟も、今日行われる乗員解雇撤回訴訟も、解雇無効の判決以外、あり得ないのである。(完)

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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない裁判官」でよいのか(中)

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融資行の関心を恣意的に曲解し、忖度した異常なまでに不公正な判決        

  今回の東京高裁判決のもう一つの特徴は、日本航空が主要行から新たな融資(リファイナス)を確実に受けるためには、「主要行に対し・・・人員圧縮策が確実に遂行されるという認識を与える」(判決文p.62。以下、数字はすべて判決文の該当ページ)必要があったという想定をもとに、整理解雇の必要性を金融機関との約束の履行という面から認めたという点である。判決文の中のこれに関係する箇所を引用しておきたい。(下線はすべて引用にあたって筆者が追加したもの)。

 「主要行は、本件更生計画に基づく人員削減計画の達成に特に強い関心をもっており、上記の条項に基づき、『人員圧縮』策の目途がつかない限り、利率、担保、返済期限等のリファイナスの条件に関する協議の前提が整っていないと主張して、これらの協議が進まない状況にあり、管財人は、毎月の主要行とのバンクミーティングにおいても、人員削減の進捗状況の報告を求められた。」(p.51

 「本件更生計画案が可決されるためには、投票期限である同月19日までに更生債権者らから法定の賛成票を得ることを要したが、その1週間前の同月12日の時点においても、法定多数の賛成票は得られていなかったこと、主要行は、本件更生計画によって、一般更生債権の多額の免除を余儀なくされることもあって、本件更生計画の基礎である本件新事業再生計画の完遂可能性を慎重に見極めており、本件更生計画案における人員削減計画について・・・・特に多大な関心を示していた・・・・」(p.64

 「・・・・以上の経緯及び上記証拠を総合すれば、本件更生計画案に対して、債権者らから法定多数を得るためには、上記の時期に上記方針の決定を公表して、管財人が確実に人員削減施策を実行して削減目標値を達成する決意であることを対外的に表明する必要があるとした管財人の経営判断には合理性があるものと認められる。
 したがって、管財人が平成221112日の時点において希望退職者が目標値に達しない場合には整理解雇も辞さないとの基本方針を決定して、同月15日にこれを正式に発表したことについても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものと認められる。」(p.64

 以上の判決文の中で注意が必要なのは、主要行が「人員削減」ないしは「人員圧縮計画」の達成に強い関心を持っていた、というくだりである。しかし、こうした指摘の原典といえる、更生会社日本航空と企業再生支援機構が2010(平成22)年1130日に主要5行と締結した「基本合意書」第7条を確かめると、リファイナンスの協議の前提条件として設けられた(3)項で、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)及び更生計画策定後に具体化された生産性向上や購買改革等による持続的なコスト削減策等の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げ、同(4)項では、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、対象事業者の損益・財政状況の悪化により、対象事業者の更生計画の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げている。

 ここからもわかるように、人員削減はそれ自体(削減数の追求)が目的ではなく、コスト削減策の一部としての人件費削減の手段として位置づけられていたことは明らかである。

 これは更生会社に対する金融支援行の有するもともとの利害関心に照らしても至極当然のことである。なぜなら、支援行にとっての関心事は債権なり出資の確実な回収が唯一の関心事であり、この目的を実現する観点から、更生会社の財務の再建に寄与するコスト削減に関心を寄せるのであり、人員削減はコスト削減の一部である人件費の削減の手段であって、それ自体に支援行が関心を寄せるいわれはないのである。 
 かりに、支援行が融資なり出資なりの回収可能性を超えて、支援先の会社の人員削減に介入するとすれば、それは自らの利害が及ぶ範囲を超えた不当な干渉でありあり、整理解雇の必要性を判断するにあたって法的評価に値しないし、支援行の法益を超えたそのような関心を解雇必要性の根拠にするのは不当不公正な司法判断である
 ちなみに、コスト削減策の手段として人員削減をとらえると、更生計画で定められた更生会社日本航空は2010年度決算で計画値を260億円も超過する人件費削減を達成していた。この点から見て、人件費削減の手段としての人員削減を行う必要性はなかったのである。

 
矛盾と混迷を免れない人員削減自己目的論

こうした解釈を裏付ける資料を示しておきたい。それは、管財人代理・服部明人、同加藤慎、企業再生支援機構ディレクター・飯塚孝徳、企業再生支援機構マネジャー・オリバー・ボルツアーの連名で運航乗務員に宛てて作成された「現在の状況について」と題する文書の中の一節である。冒頭のまえがきから見て、この文書は会社が整理解雇を検討せざるをえない状況を運航乗務員に説明するために作成されたものと思われる。この文書は「現下の収支状況が計画を上回っているので人員削減は不要、と言えるか?」という問いを設け、これに対する答えを次のように記している(下線は筆者の追加)。

「・更生計画案にある利益目標の達成は最低条件に過ぎない。

 ・債権者や支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかである。

 ・事業規模に見合った人員規模とすることは、安定的に利益を上げる体制を構築するために必要不可欠の措置である

 ・再上場も視野に入れているが、投資家に優良な企業と認めてもらうためには、経営も社員も一丸となって少しでも計画値を上回り、累積損失を減らしていかなければならない。」

 

 こうした想定問答に続けて、この文書は債権放棄を求められている金融機関が日本航空のどこを注目しているかという視点から上記の説明を次のように解説している。

 

 「膨大な債権放棄を求められている債権者や、巨額の出資を予定している支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかであり、更生計画案に記載された事業規模に合わせた人員削減は、そのための重要な要素となっています。」

 

 こうした説明は、管財人代理や企業再生支援機構の関係者が本件人員削減を、日本航空を安定的に利益を出せる生産体制にするための手段の一つと捉えていたことを裏付ける明白な証拠である。したがって、こうした管財人代理らの説明は、本件裁判で日本航空が繰り返した、人員削減は人件費削減のいかんとは独立した、それ自体を達成すべき目的だった、という主張の信憑性を根底から覆すものといってよい。」

 反証を無視して二次破綻回避論に固執

 東京高裁の判決の3つ目の特徴は、筆者が意見書で、原告団が準備書面で立証した二次破綻回避論を一切無視して、牽強付会に解雇必要性を正当化している点である。
 判決は本件整理解雇の必要性を論じた中で次のように述べている。

 「また、(控訴人らは)本件解雇の時点で、本件更生計画を上回る営業利益が確保され、自己資本比率も増大しているなど、事業を継続する上で財務安定性に何らの支障もなく、二次破綻の危険性を示す事実もなかったから、人員削減の必要性がない旨を主張し、本件解雇の当時、被控訴人の経営が財務的に安定しており、二次破綻の危険がなかったなどとする意見書(甲456113)の記載も存在する。
 しかし、本件解雇による人員削減の実行は、被控訴人の事業を維持更生するという会社更生法の目的にかんがみ、更生会社である被控訴人の本件更生計画の基礎をなす本件新事業再生計画に照らして、その内容及び時期において、合理性のあることが認められ、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められ、また、本件会社更生手続に基づき被控訴人の事業の維持更生を図るために不可欠なリファイナス契約を適時に締結して融資を得るためにも、管財人が上記の時期において本件解雇に係る人員削減を実行する必要性があるものと認められる点からしても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められるものであることは、前記1判示のとおりである。」(pp.8182

 私が一読して思うのは、「しかし」以下の判決文は、「しかし」の前の私の意見書他が示した立証・主張を退けるに足る論理的文章になっているのかということである。私が在職中、自分のゼミ生の卒業論文の草稿にこのような論旨不明の駄文があったら、書き直しを求めたのは確実である。
 結局、この判決文が言いたいことを縮めて言うと、
 1.裁判所で認可された更生計画で更生会社と破産管財人が記したことに裁判所は異議を差し挟まない
 2.管財人が必要とみなした人員削減(注:整理解雇という方法に特定されたわけではない)には合理性が認められる
ということに尽きる。

 しかし、こうした判断は、大竹たかし裁判長が法廷で読み上げた「判断の枠組み」の冒頭の事項――すなわち、会社更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件は適用される―――という前提と相容れない。なぜなら、更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件(解雇に高度な必要性があるか、解雇回避措置が十分に講じられたか、解雇対象者の人選基準は適正だったか、解雇に至るまで労使協議は尽くされたか)が適用されるというなら、解雇の必要性は更生計画に明記されていることを以て満たされているなどといって、裁判所の実質的判断を事実上停止することはあり得ないからである。

          うでまくらでうたたねするウメ
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JAL客室乗務員解雇撤回裁判: 「管財人が右と言ったら左と言わない」裁判官でよいのか(上)

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判決を前に

 昨日は整理解雇撤回を求めるJAL客室乗務員の控訴審判決日だった。1320分ころ、東京高裁に到着すると詰めかけた支援団体の旗がなびき、開廷前の宣伝行動が始まろうとしていた。
 初夏の陽ざしがそそぐ高裁前、客乗原告団の表情は明るく、ともに裁判を進めてきたパイロット原告団が勢ぞろいする中、トランペットの演奏で宣伝行動が始まった。急きょ、私も宣伝カーに上がってひとことスピーチをと頼まれ、「利益あってのJAL再生という稲盛路線ではなく、空の安全と働く者の尊厳を携えるJAL再生のために勝訴を願い、判決を見守りたい」と訴えた。
 1420分頃から始まった傍聴券の抽選には定員40名に対し約380名が並んだ。あいにく私は外れたが原告団の計らいで101号法廷に入ることができた。
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 控訴棄却を告げ、そそくさと席を立った裁判官
 予定どおり、15時開廷。2分間のカメラ取りの後、東京高裁第5民事部の大竹たかし裁判長は、「本件控訴はいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする」という判決主文を読み上げた。その後、「控訴代理人(弁護団)から判決の要旨を読み上げてほしいという要望があったので」と断って、会社更生手続き下の整理解雇であっても解雇の正当性を判断するための4要件は適用される、会社の存続のために不可欠な融資を得るために必要不可欠な解雇であったかどうかなど、「判断の枠組み」を読み上げた後、「要旨を読み上げると長くなるので、のちほど渡す判決全文を読んでほしい」と言い終わるや立ち上がって後方のドアを開き、そそくさと退室した。
 法廷は一緒、静まりかえったが、思い直したかのように傍聴席からは、裁判官の背中に向かって抗議の声が飛んだ。この間、わずか5分足らずの出来事だった。

 350人が詰めかけた報告集会
 閉廷後、高裁前でしばらく抗議の宣伝行動。その後、虎の門スクエアに移動して判決報告集会が行われた。私が着いた時にはもう満席。通路に座り込む人もいた。弁護団が判決文を手に入れ、検討した後、記者会見を行った。それを待つ間、報告集会では傍聴者の感想が紹介された。
 待つこと約30分、記者会見を終えた原告代表と弁護士が会場に着き、弁護団から判決要旨の説明がされた。それによると、今日の東京高裁判決は東京地裁の1審判決よりさらに悪質、更生計画絶対論、管財人善玉論とのこと。
 弁護団の説明を参考にして、私も発言させてもらった。また、集会の途中で近くに着席しておられた弁護士から判決全文のコピーをもらったので、それを素読してもう一度、私が東京高裁に提出した意見書に関わる判決の箇所についてコメントをした上で、「今日の判決は『管財人が右と言ったら裁判官は左と言わない』と宣言したに等しい」と発言した。

集会の最後に客室乗務員原告団長・内田妙子さんのあいさつと決意表明があった。「このままでは引き下がれない、記者会見の場で最高裁へ上告すると表明した」とのこと。「これ以上、何を立証せよというのか」という内田さんの怒りを押し殺した言葉には、私も胸を締め付けられる思いがした。

 84名の解雇の傍らで稼働時間引き上げ、1年余後に650名を中途採用とは

帰宅して判決全文を精読すると、1審地裁判決との対比で高裁判決には次のような特徴があることがわかった。それは裁判の大きな争点の一つになっていた、「整理解雇当時、会社更生計画で定められた人員数4120名に達していたのかどうか」をめぐる立証の問題である。
 控訴人は独自の調査に基づき、整理解雇当時、4120名の目標数を下回る4042名になっていたから、本件解雇は更生計画に照らしても必要ないものだったと主張した。その根拠は、整理解雇が通告された2010年大みそかの翌年20111月~3月に一般退職等で218名だけ在籍者数が減少することを会社は知っていたはずだというもの。また、更生計画上の人員削減目標の到達期限だった20113月末時点で目標の達成状況を把握したなら、解雇をしなくても一般退職(自然減)で目標が達成された事実は歴然としたはずだからである。
 しかも、JAL84名の客室乗務員を整理解雇する一方で、翌2011年後からは1人当たりの稼働時間を約5時間増やすことで人手不足を乗り切ろうとした。2012年度にはさらに5時間、稼働時間を引き上げたが、それでも人手不足は足りず、解雇からわずか1年余りで650名もの中途採用を行ったのである(以上、2013912日、原告小栗純子さんの証言より)。
 こうした事実を直視すれば、84名の整理解雇が必要のないものであったこと、その1年余後に解雇者数の8倍もの中途採用を実施しながら、解雇者の復帰は一切、顧みられなかったところに、本件解雇の異常性、不条理を物語ると同時に、人員削減外の意図―――会社が辞めさせたい乗務員を会社更生に乗じて排除する意図―――があったことを窺わせるのである。

 
立証責任の主従を逆立ちさせた高裁判決
 ところが高裁判決は上記のような原告(控訴人)の立証から目をそらし、4042名と4120名の人員数の比較に多大の疑問があるという説明に多くの紙面を割いた。たとえば、原告が試算の途中で用いた平成23331日時点の人員計画数5,557名には管理職発令者数が含まれているのに対して、同年11日時点の在籍者数からは管理職発令者数が除かれているなどと指摘し、原告の試算の正確性に疑問を投げることに注力している。

 それなら、裁判官は、
 1.客室乗務員について、希望退職以外の一般退職者が何人であったか、その人数を差し引いたら整理解雇通告当時、客室乗務員の在籍者はいくらになっていたのかについて、正確な人数を知る立場にある会社になぜ質さないのか? 
 2. 整理解雇直後から在籍人員の稼働時間が引き上げられた(事実上の人手不足状態だった)という原告の主張についてなぜ事実の認否をしないのか?
 在籍人員数といい、各種事由による退職者数といい、それを正確に把握している(情報優位者)のは言うまでもなく会社である。この会社に対する立証責任を不問にして、情報劣位者の客室乗務員(原告)に過剰な立証責任を負わせる判決は不公正、不条理この上ないものである。

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