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JAL客室乗務員解雇撤回裁判:「管財人が右と言ったら左と言わない裁判官」でよいのか(中)

201465      

融資行の関心を恣意的に曲解し、忖度した異常なまでに不公正な判決        

  今回の東京高裁判決のもう一つの特徴は、日本航空が主要行から新たな融資(リファイナス)を確実に受けるためには、「主要行に対し・・・人員圧縮策が確実に遂行されるという認識を与える」(判決文p.62。以下、数字はすべて判決文の該当ページ)必要があったという想定をもとに、整理解雇の必要性を金融機関との約束の履行という面から認めたという点である。判決文の中のこれに関係する箇所を引用しておきたい。(下線はすべて引用にあたって筆者が追加したもの)。

 「主要行は、本件更生計画に基づく人員削減計画の達成に特に強い関心をもっており、上記の条項に基づき、『人員圧縮』策の目途がつかない限り、利率、担保、返済期限等のリファイナスの条件に関する協議の前提が整っていないと主張して、これらの協議が進まない状況にあり、管財人は、毎月の主要行とのバンクミーティングにおいても、人員削減の進捗状況の報告を求められた。」(p.51

 「本件更生計画案が可決されるためには、投票期限である同月19日までに更生債権者らから法定の賛成票を得ることを要したが、その1週間前の同月12日の時点においても、法定多数の賛成票は得られていなかったこと、主要行は、本件更生計画によって、一般更生債権の多額の免除を余儀なくされることもあって、本件更生計画の基礎である本件新事業再生計画の完遂可能性を慎重に見極めており、本件更生計画案における人員削減計画について・・・・特に多大な関心を示していた・・・・」(p.64

 「・・・・以上の経緯及び上記証拠を総合すれば、本件更生計画案に対して、債権者らから法定多数を得るためには、上記の時期に上記方針の決定を公表して、管財人が確実に人員削減施策を実行して削減目標値を達成する決意であることを対外的に表明する必要があるとした管財人の経営判断には合理性があるものと認められる。
 したがって、管財人が平成221112日の時点において希望退職者が目標値に達しない場合には整理解雇も辞さないとの基本方針を決定して、同月15日にこれを正式に発表したことについても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものと認められる。」(p.64

 以上の判決文の中で注意が必要なのは、主要行が「人員削減」ないしは「人員圧縮計画」の達成に強い関心を持っていた、というくだりである。しかし、こうした指摘の原典といえる、更生会社日本航空と企業再生支援機構が2010(平成22)年1130日に主要5行と締結した「基本合意書」第7条を確かめると、リファイナンスの協議の前提条件として設けられた(3)項で、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、更生計画に記載されている対象事業者における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)及び更生計画策定後に具体化された生産性向上や購買改革等による持続的なコスト削減策等の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げ、同(4)項では、「本件リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、対象事業者の損益・財政状況の悪化により、対象事業者の更生計画の実現に重大な支障が生じていないこと」を挙げている。

 ここからもわかるように、人員削減はそれ自体(削減数の追求)が目的ではなく、コスト削減策の一部としての人件費削減の手段として位置づけられていたことは明らかである。

 これは更生会社に対する金融支援行の有するもともとの利害関心に照らしても至極当然のことである。なぜなら、支援行にとっての関心事は債権なり出資の確実な回収が唯一の関心事であり、この目的を実現する観点から、更生会社の財務の再建に寄与するコスト削減に関心を寄せるのであり、人員削減はコスト削減の一部である人件費の削減の手段であって、それ自体に支援行が関心を寄せるいわれはないのである。 
 かりに、支援行が融資なり出資なりの回収可能性を超えて、支援先の会社の人員削減に介入するとすれば、それは自らの利害が及ぶ範囲を超えた不当な干渉でありあり、整理解雇の必要性を判断するにあたって法的評価に値しないし、支援行の法益を超えたそのような関心を解雇必要性の根拠にするのは不当不公正な司法判断である
 ちなみに、コスト削減策の手段として人員削減をとらえると、更生計画で定められた更生会社日本航空は2010年度決算で計画値を260億円も超過する人件費削減を達成していた。この点から見て、人件費削減の手段としての人員削減を行う必要性はなかったのである。

 
矛盾と混迷を免れない人員削減自己目的論

こうした解釈を裏付ける資料を示しておきたい。それは、管財人代理・服部明人、同加藤慎、企業再生支援機構ディレクター・飯塚孝徳、企業再生支援機構マネジャー・オリバー・ボルツアーの連名で運航乗務員に宛てて作成された「現在の状況について」と題する文書の中の一節である。冒頭のまえがきから見て、この文書は会社が整理解雇を検討せざるをえない状況を運航乗務員に説明するために作成されたものと思われる。この文書は「現下の収支状況が計画を上回っているので人員削減は不要、と言えるか?」という問いを設け、これに対する答えを次のように記している(下線は筆者の追加)。

「・更生計画案にある利益目標の達成は最低条件に過ぎない。

 ・債権者や支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかである。

 ・事業規模に見合った人員規模とすることは、安定的に利益を上げる体制を構築するために必要不可欠の措置である

 ・再上場も視野に入れているが、投資家に優良な企業と認めてもらうためには、経営も社員も一丸となって少しでも計画値を上回り、累積損失を減らしていかなければならない。」

 

 こうした想定問答に続けて、この文書は債権放棄を求められている金融機関が日本航空のどこを注目しているかという視点から上記の説明を次のように解説している。

 

 「膨大な債権放棄を求められている債権者や、巨額の出資を予定している支援機構が注目しているのは、当社が今後も中長期的に継続して利益が出せる生産体制になったかどうかであり、更生計画案に記載された事業規模に合わせた人員削減は、そのための重要な要素となっています。」

 

 こうした説明は、管財人代理や企業再生支援機構の関係者が本件人員削減を、日本航空を安定的に利益を出せる生産体制にするための手段の一つと捉えていたことを裏付ける明白な証拠である。したがって、こうした管財人代理らの説明は、本件裁判で日本航空が繰り返した、人員削減は人件費削減のいかんとは独立した、それ自体を達成すべき目的だった、という主張の信憑性を根底から覆すものといってよい。」

 反証を無視して二次破綻回避論に固執

 東京高裁の判決の3つ目の特徴は、筆者が意見書で、原告団が準備書面で立証した二次破綻回避論を一切無視して、牽強付会に解雇必要性を正当化している点である。
 判決は本件整理解雇の必要性を論じた中で次のように述べている。

 「また、(控訴人らは)本件解雇の時点で、本件更生計画を上回る営業利益が確保され、自己資本比率も増大しているなど、事業を継続する上で財務安定性に何らの支障もなく、二次破綻の危険性を示す事実もなかったから、人員削減の必要性がない旨を主張し、本件解雇の当時、被控訴人の経営が財務的に安定しており、二次破綻の危険がなかったなどとする意見書(甲456113)の記載も存在する。
 しかし、本件解雇による人員削減の実行は、被控訴人の事業を維持更生するという会社更生法の目的にかんがみ、更生会社である被控訴人の本件更生計画の基礎をなす本件新事業再生計画に照らして、その内容及び時期において、合理性のあることが認められ、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められ、また、本件会社更生手続に基づき被控訴人の事業の維持更生を図るために不可欠なリファイナス契約を適時に締結して融資を得るためにも、管財人が上記の時期において本件解雇に係る人員削減を実行する必要性があるものと認められる点からしても、更生会社である被控訴人を存続させ、これを合理的に運営する上でやむを得ないものとして、その人員削減の必要性が認められるものであることは、前記1判示のとおりである。」(pp.8182

 私が一読して思うのは、「しかし」以下の判決文は、「しかし」の前の私の意見書他が示した立証・主張を退けるに足る論理的文章になっているのかということである。私が在職中、自分のゼミ生の卒業論文の草稿にこのような論旨不明の駄文があったら、書き直しを求めたのは確実である。
 結局、この判決文が言いたいことを縮めて言うと、
 1.裁判所で認可された更生計画で更生会社と破産管財人が記したことに裁判所は異議を差し挟まない
 2.管財人が必要とみなした人員削減(注:整理解雇という方法に特定されたわけではない)には合理性が認められる
ということに尽きる。

 しかし、こうした判断は、大竹たかし裁判長が法廷で読み上げた「判断の枠組み」の冒頭の事項――すなわち、会社更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件は適用される―――という前提と相容れない。なぜなら、更生手続き下の整理解雇にも解雇の4要件(解雇に高度な必要性があるか、解雇回避措置が十分に講じられたか、解雇対象者の人選基準は適正だったか、解雇に至るまで労使協議は尽くされたか)が適用されるというなら、解雇の必要性は更生計画に明記されていることを以て満たされているなどといって、裁判所の実質的判断を事実上停止することはあり得ないからである。

          うでまくらでうたたねするウメ
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